【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

祝賀会

トリーア王家の内乱集結から、すでに3ヶ月が経過している。その間、何もする事がなくボォーとして過ごせると思っていたが、そうではなかった。
タシアナからは新しい魔道具の設計思想についての話をされるし、シュトライトやナッセやモルトからは、書類の山が送られてくる。こんなこと書類の山になるのだったら、紙なんて作らせなければよかったと本気で思って、イスラ街に紙の製造を中止させようかと思った。そんな事も出来るわけもなく、書類の山を目の前にして、作業に勤しんでいる。
三ヶ月も過ぎてくると、ニグラは落ち着きを取り戻しているし、戦場となった街もだいぶ落ち着いてきている。多くの貴族を失ったとしても、元々が大国で貴族の数が増えていたので、これ幸いと新しく出来た貴族空白地を埋めるように新たな家が立ち上がっていく。
この三ヶ月間。僕の所に来る陳情もだいぶ様変わりしてきている。当初は、ギルドを通しての依頼が多かったが、最近では、貴族として園遊会に呼ばれたりしている。毎回誰を連れて行くのかで喧嘩にならないのが不思議な位すんなりと決まっていく、それはそれで嬉しいのだが、なんとなく釈然としない気持ちがあるのも確かだ。貴族からのお誘いも、商人からのお誘いも、嫁同伴だとそれほど辛くない。未だに、娘や女中を僕にあてがおうとする輩は出て来るが、嫁達が見事にブロックしてくれている。そして、最近は商売の話が多くなってきているのも嬉しい。素材をお願いされる事が多い。後は、僕の手を離れたと言っても、潰れた3伯爵の領地の利権がらみだ。全てを、ローザスとハーレイに押し付ける事に成功しているが、ギルド支部を全部の街に作った時点で利権としては、僕が最大の保有者になるのは間違いない。その為に、僕へのお誘いが増える傾向にある。
早く、マノーラ神殿に引っ込んでしまいたいと思っているが、まだまだできそうにない。貴族や商人との関係は良好になっている。オイゲン達もMOTEGI商会がトリーア王家最大の商会に発展していると言っていた。大きな街に支店を作って、そこに魔道具を卸すだけで使い切れないレインが入ってくると言っていた。それだけではなく、今までは歯牙にも掛けていなかった豪商が擦り寄ってくる上に、小さな商会が傘下に入る事を希望してきているのだと言っていた。あそこも嫁が優秀なので、それほど困っては居ないようだが・・・。
その間にも、アッシュから北方連合国ノーザン・コンドミニアムのパーティアックに逃げ込んだ、立花ウォルシャタ達の情報は逐一入ってきている。僕は優しい・・・ので、監獄でいつ拷問されるのかとビクビクしている3人に立花ウォルシャタ達の華麗なる成功を教えてあげる事にしている。勿論、映像珠のおまけ付きでだ。最初その情報に触れたときの3人は3人とも喜びの表情を浮かべた。しかし、この情報がここにある事や、映像珠の事などを考え始めると、絶望感を醸し出している。自分たちが、僕達に逐一見張られていた事を知ったのだ。そして、勝てると考えられる要素がなくなってきていると考えるに至ったようだ。
僕のニグラでの屋敷も無事完成した。完成したというのはすこし語弊がある。売りに出されていた、屋敷を幾つか買い取って、移動させたが正しい。完成までに時間がかかったのは、内装の調整や全ての屋敷を繋ぐ通路などの作成していたためだ。僕や眷属たちが行えばすぐにでも出来るだろうが、アデレードやローザスから、職人の仕事を奪わないで欲しいと懇願されて、レインをすこし多めに出して超特急で仕上げてもらった。仕上げが出来た後で魔改造はした。地下室の作成や、転移門トランスポートの設置を行って、いつものようにお堀を作成した。風呂施設だけは、自分で作らないと気がすまないので、自分たちが使う風呂と使用人たちが使う風呂を作成した。今僕が基本的に過ごしているのは、この新しいマノーラ邸の執務室だ。暫くの間は、モルトにもこっちに来てもらっている。マノーラ神殿はシュトライトに全部お願いしている。
今日も、陳情や園遊会のお誘いの書簡を処理している。
「リン様。そろそろ休憩なさっては?」「あぁエミール。そうだね。お茶を入れてくれると嬉しい。」「はい。わかりました。」
エミールが一旦部屋から出て使用人が待機している部屋に入っていったのが解る。何度も言っているけど、お茶位は使用人にやらせてあげようよ・・・っと。でも、エミールは頑なに自分の仕事だと言って譲らない。来客がある時には、ミルが居ればいいが居ない時には、エミールが僕の横に居る事になる。その時だけは、使用人達がお茶を出してくれる。そりゃぁエミールが入れたお茶が美味しいとは言ったけど・・・。
他愛もない事を考えていると、エミールが戻ってきた一人ではないようだ。
「リン様。アデレード姉がお話があるといらっしゃっています」「うん。いいよ。入ってもらって」
「リン。悪いわね。書類に埋もれている所・・・」
完全に笑っている。
「そう思うのなら半分位アデレードの執務室に送るぞ」「遠慮しておくわ。妾も妾でやる事が多くてな。」「あぁそうだな。すまん、トリーア王家とのやり取りを全部任せちゃった」「それはいいんだけど・・・違う。それで報告があるんだけどいいかな?」「うん。いいよ。」
アデレードからの報告というよりも、お願いに近かった。トリーア王家としては、僕達の功績が大きすぎるのだという。それに関しては、すでに陛下や宰相とも花咲いているので終わった気になっていたが、あとから出てきた文官や宮廷に居る者共から、僕を危険視する声があがっているのだと・・・。面倒この上ない事だが、しょうがないと諦めるしかない。その上で、アデレードの報告お願いは、祝勝会を開いて、そこに関係者を呼んで、僕にトリーア王家に対して二心がない事をわからせて欲しいという事だ。
「それは別にいいけど・・・どうやって証明するの?悪魔の証明にならない?」「あくまのしょうめい?」「あぁいい気にしないでくれ。それで、どうやるの?」「そうだな、兄上に忠誠を誓うのが簡単だけど、それだけだと疑う者はまだ居るだろうな。」「別にローザスに膝を折るくらいならいくらでもするけどさぁ・・・。」「まぁそうだな。」「いいよ。祝賀会でローザスとハーレイを上座に座らせて、膝を折るよ。その上で、出席者にお土産を持って帰ってもらうよ。」「お土産?」「うん。そうだね、ようするに僕の功績が大きすぎるっていう事を理由に、僕の領地を削りたいんでしょ?」「まぁそうだろうな。」「それなら、魔道具の詰め合わせやら、レインやら貴重な素材の詰め合わせを”ローザス”に婚姻祝いで送ろうか」「そうだな。でもやりすぎるなよ?」「えぇ・・・この際だから、裏ギルドに溜まっている素材を一斉に放出したかったんだけど・・・ダメかな?」「エミール。おぬしはその素材を知っているのか?」「あっはい。認識しています。」「そうか、どう思うのじゃ?」
エミールはアデレードの問いかけにすこしだけ困った顔をして
「市場は混乱すると思います。あそこにある素材は一つでも大金貨数枚分の価値があり、10年に一度でも出てくれば大騒ぎになるほどの物です。」「そんな事・・・」「あるんです。ホワイトドラゴンのウロコなんて物が数百枚ありますから、それが粗雑に棚に入れられているのを見た時には、何考えているのかと思ってしまいました。」「リンよ。贈り物はいいとして、品物の選別は、妾とエミールでするからな。おぬしやミルにまかせていると、余計な波風が立ちそうだからな。」「はい。はい。わかりました!」
祝賀会の準備もアデレードとエミールが中心になって行う事になった。準備の報告は逐次エミールから入ってくる。日取りが決まったのは、それから2週間後の事だった。ローザスの戴冠に関係した行事もあるので、日程はここしかないという感じで決められた。場所は、新しく作った僕のニグラでの邸宅になる。
のんびり出来る時間も少なくなってきそうな雰囲気だったが、僕は日々溜まる一方の書類を処理している。
祝賀会が明日開けれるという段階になって、アデレートとエミールがローザスへの祝いの品を持ってきた。同時に、”ファンとカルーネ”と”ウノテとアルマール”の両方に対する祝いの品も持ってきた。
ローザスには、レインは渡さないで、ミスリル鉱の鉱石を50kgとオリハルコンを10kg用意したと言っている。
「リンよ。妾は、初めて裏ギルドの倉庫に入ったが、絶対に関係者以外を入れるなよ?」「なんでよ。別にいいんじゃないの?」「馬鹿かおぬし・・・。兄上に渡せそうな物を探したが、無くて苦肉の策で、サラナ達にお願いして、鉱石を取ってきてもらったんだからな。」「えぇぇぇクジャタの肉とか美味しいよ?」「あぁそうだろうな。でも、クジャタなんて伝説上の生き物だぞ。そんな物の肉を渡せると・・・・まさかおぬし・・・。」
手を合わせて、頭を下げる。
「エミール・・・はいないか、イリメリ・・・もいないか・・・ミル・・・ではダメか・・・。」「酷いなアデレード。僕でも出来るよ。」「それじゃなんで止めなかった。」「僕に、リンを止められると思う?」「・・・ダメじゃ。遅かったのか?リンよ何をした。」「何って、料理の材料に渡しただけだよ。料理にされているからバレる事はないと思うよ・・・・。」「あ?まだ何かあるのか?」「いや、食材に出来そうな物をいろいろ渡しただけだから大丈夫だよ。せっかくだからおいしい物を食べて欲しいからね。」「・・・・まぁ・・・料理なら、ユニークスキルの鑑定でもない限りわからないだろうからな。」「うん。大丈夫だよ。」
ちょっとしたトラブルはあったが、無事料理も出来て、会場は揃った。ファンとカルーネにも、鉱石やタシアナ謹製の魔道具を渡す事になった。ウノテとアルマールには、レインとマノーラ神殿の朱雀街道の出発地点近くの商店の権利書を渡す事になった。喜んでくれると嬉しい。
今日は、このままニグラの屋敷で休む事になった。風呂に入って、寝室でくつろいでいると、アデレードが肌着だけの姿で現れた。
「リン。」「なに?」「すまんな。トリーア王国の事で振り回してしまって」「いいよ。全部終わったら、アデレードと一緒にいられるのは間違いないんでしょ?」「あぁ」「そう、全部が終わったら・・・皆で、大陸中を旅して回ろうよ。何年先になるかわからないけど、時間だけはありそうだからね。」「そうじゃな。それも楽しだな。妾一人で苦労しそうだけどな」「大丈夫でしょ。イリメリやエミール達もいるから・・・。」「・・・そうだな。それも楽しそうだな。」「うん。」
それから、明日の手順を確認しながら、二人で目を閉じた。
祝賀会当日は、朝から慌ただしかった。料理はすでに仕込み終わっているが、昼過ぎから客が集まり始めるという事で、眷属が護衛配置を終えた位から、商人を始め職人が集まりだしてきた。招待客は、多岐に渡っている。貴族には遠慮してもらった、そのかわりに、宮廷の文官を中心に関係している人たちを多く招いた。そもそも、そのための事でもあるが、その関係で商人や職人も多く招くことになった。
招待客の相手は、イリメリ達にお願いしている。僕は、応接室で来客の相手をしている。商人や職人が続々面会にやってくるのだ。
ギルドに登録している人は、マノーラ神殿への出店の話やマガラ神殿の地下三階への出店話とか、が多い。マノーラ神殿への出店は、モルトやシュトライトがまとめているから、それを見てからにしてもらって、マガラ神殿への出店に関しては、現地のギルドで聞いてもらえばまだまだ店舗には余裕があるから大丈夫だと伝えた。職人は、素材を求めている事が多かった。特殊な素材は別にして、マガラ神殿ないで流通可能な素材に関しては、在庫があるものは今日中に渡して、無いものは後日ギルドで受け取れるようにした。
そんな面談を繰り返していると、エミールが部屋に入ってきた。ローザスとフレットが到着したという事だ。
ローザスを迎えに出た。そのまま控室に案内した。「リン君。悪いな」「いいって。気にしなくても。」「マノーラ侯爵は私の腹心で二心ない事は私が保証するって言っても、なかなか納得しなくてな。」「気にするなよ。アデレードから言われているから事情は解っているから、今日開いたんだからな。」「ありがとう。そうだ、ハーレイも後から来る。」「わかった、ファンも来るよね?」「もちろんだ。嫌がっていたけど、命令で来るように言った。」「ありがとう!!」「何か、悪巧みをしているな。」「いやいや、ただカルーネとの話がまとまりそうだから、祝いの品を渡そうと思っているだけだよ。」「・・・・あぁそうかぁ逃げ道を塞ぐんだな。」「まぁな。貴族はいないけど、これだけの人の前で婚姻の祝いの品を渡されたら逃げられないだろう?」「あぁそうだな。でもいいのか?」「ん?」「カルーネ嬢の気持ちだよ」「そりゃぁ勿論だよ。先にそっちを確認してあるから安心していいよ。」「そうか、それなら見ものだな。」
ローザスと一通り話をしてから、会場となるホールに移動した。ホールには、すでに文官達もある程度揃っていた。初めて見る顔だらけだったが、まぁ大丈夫だろう。エミールやイリメリが横で名前を教えてくれるに違いない。僕が会場に入ると、挨拶が続いた。
一通りの挨拶が終わってから、ローザスとフレットと遅れてきたハーレイを会場に招き入れた。約束通りホールの上座に座ってもらって、僕はその前に跪いて、今日来てくれた事の礼を述べた。その後で、まだ内示されたばかりの事だが、ローザスとフレットの婚姻祝いの品を渡す事にした。
会場に鉱石を持ってきた時には、職人を中心にざわついていた。それもそうだろう。レインとかを渡すよりも手間もかかる。それで集めてきた物は特上品だからなおさらだ。職人だけではなく、商人も目の色を変えていた。
ハーレイにはすこしだけ珍しい素材と魔道具を進呈した。
警備の者と話をしていたファンが会場に入ってきたので、ローザスが悪ふざけをして、ファンを壇上に乗せて、僕からの祝いの品をプレゼントした。当初は意味がわからなかったらしいが、カルーネが顔を真赤に染めているのを見て、ローザスと僕の悪ふざけだと理解したようだ。何か文句をいいたそうにしていたが、ローザスだけではなく、その場に居たフレットが「しっかり言葉にしないと解らない事も多い」と言って背中を押していた。これで、あの二人も大丈夫だろう。
ひとしきり出来た所で、ウノテが会場に現れたといわれた僕を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「リン。俺なんかが来てよかったのか?」「大丈夫ですよ。ほら、周りを見ても今日は貴族は呼んでいませんし、ローザスとハーレイが居るだけですからね。」「おまえ馬鹿か?そのお二人だけで重大な事なんだぞ。」「そう言っても、それなら僕も侯爵なんですけど・・・。」「あぁそうだったな。おまえはなんかこうなる前から知っていたから平気なんだよ。」「・・・まぁいいですよ。それよりも、ウノテさんすこしこちらに来て下さい。」「なんだよ。俺。まだ料理食べていないんだぞ。」「大丈夫ですよ。料理はまだまだありますし、逃げませんよ。」「だってよ・・・まぁいいか、それよりなんだ。」「ウノテさん。僕に、何か隠していませんか?」「・・・・なんのことだよ。隠し事なんてしてないぞ。本当だぞ。」「へぇそうなんですか、アルマールから話を聴きましたよ。」「なっ・・・それは・・・。」「隠し事ではないんですね。」「あぁ隠していない。聞かれなかったからいわなかっただけだ。」「解りました。それなら、僕が今からすることも聞かれなかったからで許してくれますね。」
そう言って、着飾ったアルマールをサラナがエスコートしてきている。その後ろに、エミールとイリメリがついている。
「なっ!」「ウノテさん。婚姻おめでとございます。アルマールの事をお願いしますね。」「・・・おぉぉ任せろ!」
勢いもあるだろうけど、その場でそう言い切った。
「ローザス殿下もハーレイも証人ですよ。」「あぁ男に二言はない。アルマールを幸せにする。」
泣き出しそうなアルマールに、イリメリが何か言っている。
「そうだ、それじゃこれを、婚姻の祝いの品としますので、受け取って下さい。」
そう言って、エミールにもってこさせたレインと契約書を渡した。「おま・・これって、いいのか?」「あっはい。受け取って下さい。」「有難く頂戴する。」
それから、祝宴の主役は、”ローザスとフレット”と”ファンとカルーネ”と”ウノテとアルマール”という感じになっていった。
結局日付が変わる位まで騒いでいた事になる。最後には、ダーツ大会やビリヤード大会まで行われていた。商品は僕の方で用意した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品