【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

アドゥナ陥落

久しぶりに全員で寝たような気がした。隣に居るミルの髪の毛を救ってみた。あれだけ激しい戦闘をして、土埃や血を浴びても、髪の毛は伸ばし続けている。もしかしたら、ミルは僕が日本に居る時に言った言葉を覚えているのかもしれない。
「いいよ。リン。全部、リンの物だから・・。」
ミルは気がついて起きていたようだ。
「ミル。おはよう。」「うん。おはよう。」
全裸のミルは何も隠さないで僕に抱きついてくる。ミルと優しくキスを交わしてから起こす。皮切りにして皆が起き始める。抱きしめてキスをする。
服を着て、食堂に向かう。朝食の準備はもう出来ている。今日は、全員でアドゥナ街攻略に向かう事にしている。ローザスとハーレイにもその事は伝えてある。近日中に決着する事になる。
「リン。」「なに?」「ジェシカ達に、ホレイズ伯爵が殺された事は伝えていいよね?」「もちろんだよ。」「顛末を含めて話してあげて、近々アッシュに言ってかわら版には乗ると思うけど、その前に教えてほしいだろうからね。」「わかった。ありがとう。」「それで二人は、参戦するの?」「どうかな?ホレイズ伯爵が死んでしまったから参戦する意味は少ないと思うよ。」「了解。その辺りは、イリメリに任せるよ。」「わかった。」
それから、食後のお茶を飲みながら、今日からの動きの話をした。日の出までの時間も迫ってきているので、現場には転移で移動した。配置を完了した所で、拡声器で街中に呼びかけるように語りだした。
「蒙昧なる貴族諸君。あぁ浅学なお前たちでは、”蒙昧なる”の意味さえもわからないだろう。」一旦切って「状況判断さえ正確に出来ない貴族諸君。そして、そんな貴族に従う愚か者の守備隊の皆さん。おはよう。」隣で、ミルが笑いを堪えている。その後ろでは、エミールやアデレードが複雑な表情をしている。タシアナだけが忙しそうに眷属や職人に指示を出している様子がわかる。
「先日、ホレイズ伯爵は、己の無能と無慈悲な性格から、無残な最後を遂げた。同衾していた女性に腹を刺され脂肪でナイフが刺さらなかったのだろう、その後で首を切られて死亡した。」
(それって本当なの?)(どうだろう?首の傷しか見られなかったけど・・・。)(ハッタリじゃろ?)君達うるさいよ。そうだよ。首を切られているだけの死体だったけど、どうせ調べても居ないだろうし、腐敗も進んだだろうから、もう調べようがないだろうな。
「愚かなお前たちにも、状況が解るように説明してやろう。ホレイズ領の全ては私達が併合した。マシュホム領も全ての街と村が僕達に下った。そして、アドゥナ領も、この街を残して、全ては僕達の物となった。」
「嘘だ!」
「おや、そこにいらっしゃるのは、首魁たる、アドゥナ伯爵とマシュホム伯爵ではないでしょうか?」
「そうだ!おまえが、白髪の小僧ホワイトサノバビッチなのだな!」「そうだ、成り上がり者がそんな虚言を申しても意味が無いぞ!」
「虚言ですか?」
「それ以外に儂らの領地がおまえごとき小僧に奪われる訳が無い。」
「まぁいいでしょう。ホレイズ伯爵や小物だったが、アゾレム男爵はお元気ですか?あぁ他にも何人か男爵や子爵を捕えて居ますが、皆さんの名前を言っても意味がないでしょう。」
黙ってしまった。まだ出すのが早すぎたかな?
「ホレイズ領は、領民を苦しめて、大虐殺を行い。その為に、ヴェスタ街は4人を残して全滅してしまいました。ホレイズ伯爵の後継ぎは、その残忍で愚かな行為の責で、味方である守備隊に殺されました。貴殿達は、守備隊や領民に殺されないといいですね。私としても、アドゥナ伯爵とマシュホム伯爵とは生きて居てほしいですからね。内乱の責任を取って死んでもらわないと、下の者たちが迷惑してしまいますからね。」
「逆賊に与する守備隊の勇者達よ。僕達が欲しいのは、男爵や子爵や伯爵の首だけだ。守備隊の隊長や士官を無罪にするわけにはいかないが、侯爵家の名前で宣言する。降った守備隊の人間には恩赦が出るように口添えをする。貴殿達はここまでよく戦った。そして、よく我慢した。もう我慢しなくていい。暖かい食事と安心できる寝床を用意しよう。勇者諸君。僕達は君達を歓迎する。」
「騙されるな。そんな事を言って、投稿したら殺されるぞ。」「そうだ、そうだ、お前たちこそ、国益を無視して私腹を肥やしおって」「ギルドとかを使って一部の者たちを優遇しているだろ!ローザス殿下の名前を使って好き勝手やっているんだろう!」「テルメン家の名前まで利用して、おまえはどこまで言っても小僧ではないか!」「ヴァズレでやミヤナック。ウォードで負けたのに、何を偉そうに!」「そうだ、そうだ。侯爵などと言っているが、ローザス殿下を騙して得た地位だろう。本来、おまえなどが儂らと話す事自体烏滸がましい!!」「守備隊の隊長。儂らは、ヴァズレでもミヤナックでもウォードでも勝った。儂らに従っていれば、なんでもくれてやる。地位もレインもだ!」「あそこで囀る小僧を捕まえた者は、どんな身分でも儂の力で貴族にしてやろう。」「騙されるな。儂たちは負けてなんて居ない。正面から戦えば数は儂らの方が多いのだからな。」
(ねぇ僕達って負けたの?)(奴らがそう思っているだけじゃないの?)(ねぇアデレード。いつまでこれ続くと思う?)(さぁな。リンが楽しんでいるみたいだから、暫く続くんじゃないのか?)
うるさいな。もう終わるよ。
(リンの演説が終わったら、僕達が突っ込んでいって終わらせるでいいんだよね?リンの事を悪くいう奴が許せないんだけど・・・。)(ミル。貴女ね。私達も同じだけど、領民に被害が出ないようにって話を聞いていたでしょ?)(うん。だけど・・・。あそこで喚いている豚を殺せば終わりでしょ?)
やばい。身内にやばい奴がいた。可愛い見た目に騙されるが、ミルが突っ込んでいったら多分一瞬で終わる。それじゃ今後のローザスやハーレイが困る事になる。
「そこまで根拠がない自信を持っているのなら、僕達はここから半日程度街道を国境の街シャルムに向かった場所に陣を張る。そこまでの自信があるのなら、伯爵自ら守備隊を率いて来てください。根拠がない自信ごと砕いて差し上げます。3日だけ待ちます。それ以降は、街に無差別な攻撃を加えます。壁や門を破壊した魔法を街に向かって行使します。伯爵の正しい判断をお待ちしております。」
『タシアナ。拡声器。爆破して!』『了解』
四方八方から爆発音が響き渡る。貴族達が慌てふためく声が聞こえてくる。
『ミル。サリーカ。イリメリ。ルナ。フェム。アデレード。壁に魔法を放って!』『『『『了解』』』』
壁がいろんな場所で壊れていくのが解る。
『転移でカエサル達の陣まで移動。』『『『『了解』』』』
カエサル達が陣を張っている場所に移動して、一息つけた感じがした。相変わらず街は混乱しているらしい。継続して監視している眷属から情報が随時入ってくる。混乱に合わせて、ヒト型になれる眷属を、アドゥナ街に忍び込ませた。一定の領民は逃げ出して欲しいが、誰かが言い出さないと難しいだろうとは思ってる。その誰かを眷属にやらせるつもりでいる。カエサルからの報告では、500名程度の眷属が紛れ込むのに成功した様だ。今日の夜に200名。明日の夜に200名が逃げ出す事になっている。逃げ出した眷属は、僕隊の隊までの誘導も担当することになる。
すぐに攻めてくるかと思ったけど、そうはならなかった。内部で何が発生しているのかは、眷属からの報告で概ねつかめている。貴族や貴族のバカ息子達はすぐにでも出征して、僕に正義の鉄槌を食らわしたいらしい。一部の守備隊は、もう諦めているようで、逃げ出す算段をしだしているが、まだ大半の守備隊は、貴族に従うようで、諌めている。あれだけ自信満々に僕が言っている事から罠があるのではないかと主張している。それでひと当たりして罠を確かめようと言い出している。しかし、貴族たちは馬鹿にされたのが許せないようで、すぐにでもと思っているようだ。
アドゥナ伯爵の一声だ「すぐに攻めてくると思っているだろう。明日の夕方に街を出て、夜襲をかける。いいな。」
おぉすこしは考えたようだ。僕達の方が情報戦では一枚上手なようだ。相手が街を出てから準備をしても十分間に合うが、下準備だけはしておこう。まっすぐ来るだろう貴族連合に対して罠を作るのは容易だ。街道の左右に眷属たちを控えさせる。僕の陣は5,000だけにする。貴族連合が無秩序に突っ込んでくるのは分かっているので、こちらは少数の兵力で相手をかき混ぜる事にする。僕の所には、ミルとエミールに残ってもらう。マルティン。アスラ。イブン。ウナル。オカム。は、後方で眷属5万で陣を作ってもらう。それ以外は、左右に別れてもらう。イリメリとアデレードには、2万を預けて、戦闘が開始されたらアドゥナ街の占拠に向かってもらう。ルナとタシアナで右翼を、フェムとサリーカで左翼を、それぞれ2万で担当してもらう。
後はタイミングだけの話しになる。眷属の配置を行って、再度皆に集まってもらって、夕ご飯にする事にした。
夕ご飯を食べている最中も眷属から適時報告が上がってくる。
すっかり辺りが暗くなってから、さらに眷属からの報告が多くなってきている。予想通り、守備隊の中から100人とかの単位で抜け出しているという事だ。領民の中にも家族で抜け出したりしている者が出ている。あとは、親しくなった守備隊に連れられて逃げ出す家族も出ていると云うことだ。
近くを監視していた眷属と接触して、僕達への従属を希望する感じになっている。それらの守備隊や家族はひとまとめにして、マノーラ神殿に送る事にしている。受け入れは、ナッセとモルトとドラウとゴルドが行っている。守備隊の地位に応じて対応を買える事になっている。下っ端は一切の罪を問わない。隊長は、イスラ街に行ってもらう事にしたが、金貨1枚程度の罪にした。僕達との戦闘で捕まった場合には、金貨3枚にしているので、1/3だから妥当だと思うとアデレードの意見だ。
それでもまだ領民は解らないが、守備隊の1/10程度にもなっていない。案外しっかりまとめられているのかも知れないな。
陣の中で何もしないで過ごしている。タシアナと新しい魔道具の話をしたり、イリメリとマノーラ神殿の今後をすこし話をした。ミルとエミール達は、マガラ神殿に戻って迷宮ダンジョンに潜ってくるという事だ。
夕方になって、アドゥナ街から守備隊の半分以上が街を出たと報告が上がってきた。僕達も皆所定の位置に着いた。
夜の帳が降りてきた時、それは始まった。アドゥナの守備隊は、作戦も何もなく僕達に突っ込んできた。本陣が5,000程度だとは知らないのか、同士討ちを始める部隊も出始めた。ミルと僕は5,000をさらに小さく10の部隊に分けて、500づつで敵陣を縦横無尽に駆け巡った。戦場が混沌としてきた時に、
「伯爵が逃げたぞ!」「見捨てられた!」「子爵討ち死に」「逃げろ。もうだめだ。」
逃さないよ。勿論、僕達が戦場で適当に叫んでいる事の方がおおい。それでも、一度混乱し始めた大軍ほど脆いものはない。逃げ始める部隊やそれでも戦おうとする部隊が入り混じっている。夜襲は一つの選択肢てとしては良かったが、条件が揃っていなかった。夜襲を行うのなら、少人数で行うべきだった。大人数で着てしまったので、最初の部隊がどうなっているのか解らないまま後続部隊が突っ込んでくるという無秩序な状態になってしまった。指揮系統の圧迫にも耐えられなかった。指示を出すべき子爵や男爵が一目散に逃げ始めて、隊長達が個別の判断をし始めた事が混乱に拍車をかけた。
「逃げ道が塞がれた!待ち伏せだ!」
当然、街道に潜めていた部隊が姿を現した。手に松明や光の魔法で陣を夜の中に表した。マルティン達も前進させて、戦場一体を囲んでいるのが分かる状況になった。
500をひきいていたミルが戻ってきた「リン。どうも、捕まえた男爵達に話を聞くと、アドゥナ伯爵や子爵達はアドゥナ街に残っているようだよ。」「そうか、本人達は出てきていないんだね。」
ルナが一人の豚を連れてきた「リン。このヒト語を話す豚が、マシュホムだと言っているけどどうする?」「そう?って、ルナ。面識あるんだよね?」「うん。そうだけど、こんな豚には知り合いは居ないからね。」
眷属に首を持たれて引きづられている姿は伯爵には見えない。それに、もう意識を手放しているようだ。片足がなくなっている事から誰かが跳ね飛ばしたのだろう。
「まぁ死刑になるのは確実だけど、足位は治してあげよう。後は、ハーレイとローザスに任そう。」「了解。」
続々と子爵や男爵の捕縛報告が上がってくる。袋のネズミだと言えばそうだけど、キュウソ猫を噛むになっても困るので、もう大物が居ない事から、包囲網の一部を解いた。そこから逃げ出す為にも決死の覚悟が居るのは間違いはないが、逃げ道が確保出来たと思って、そこに守備隊が殺到し始めた。もちろん罠が仕掛けられている。タシアナと試しに作っていた転移装置だ。その魔法陣に入った者を片っ端から、特定の場所に飛ばすようになっている。飛ばし先はマガラ神殿の地下二階に飛ばしている。全員は飛ばせていないが7割以上は転移に成功している。
殲滅作業をしている時に、イリメリから報告が入った『リン。貴族連合の守備隊の隊長から、降伏したい旨の連絡が入ったよ。』『アデレードと話をしてうまく処理して』『了解。隊長が、アドゥナ伯爵を捕縛して引き渡したいと言ってきている。』『そう。他には何か条件は?』『隊長自らは死刑でもいいが、家族と部下には寛大な処置をお願いすると言っている。』『それも受諾してあげて、その代わり隊長自ら、伯爵を連れてハーレイとローザスの前に出る事が条件だって伝えて。』『了解』
『リンよ。隊長は受諾したぞ。』『うん。ありがとう。アデレードは、そのまま二人を連れて、ハーレイとローザスの所に移動して、こっちからも、ルナがマシュホムを連れて行く。』『わかった。』
「ルナ。悪いけど、その豚を連れて行って。」「りょうかい。」
『イリメリ。アドゥナ街の治安を最優先にして、それがまとまったら、ナナに連絡して、ギルド支部と転移門トランスポートの設置をお願い。』『了解。』
「リン。これで終わりなの?」「うん。後始末して終わりだね。」「そう・・・やっと、下準備が終わったんだね。」「そうだね。」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品