【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

宰相への圧力

アゾレムの番頭につけている眷属から連絡が来た。明日アロイに到着するようだ。偽造したミスリル鉱石とアゾレム領主からの書簡を携えてやってくると言う。タイミングよく明日には宰相から紹介された商人がメルナに到着する事になっている。
今日と明日は、メルナの屋敷で過ごす事にする。ゴットケープ島の屋敷で朝食を摂ってから、マガラ神殿の地下三階に向う。ナナが旅立ってから数日経っているが、混乱もなくスムーズに業務が行われているようだ。受付に話を聞いたら、やはり近隣での魔物の討伐依頼は減ってきていると言う事だ。その代わり、素材収集の依頼や技術支援の依頼が増えてきているのだと言う。素材も武器防具の素材ではなく、建材や飾り付けの素材が多くて、食材や治療薬の依頼も増えてきていると言う事だ。魔物が減ったからなのか、マガラ神殿周辺ではないのだが、他方のギルドでは盗賊討伐や誘拐事案などの調査が出る事があると言う。魔物が減って治安が良くなるかと思ったが、魔物が棲家にしていた所に、喰えなくなった農民が難民化したりして徒党を組んで商隊を襲うようになってしまったようだ。セーフティーネットがない世界だからしょうがないと言えばそれまでだが・・・なんとかしないと、つまらない出費が多くなってしまう。
ギルドから出て、地下三階を散策しながら、フレットが居る商店に向う久しぶりに見た人が正面から歩いてきた「お久しぶりです。ウノテさん。」「おぉリン。久しぶりだな。サラナとウーレンは元気にしているか?」「えぇ僕はまだ会っていませんが、マヤと一緒に街づくりをしてくれていますよ。」「そうか、そうか、ちょうど良かった。いま、ギルドに行ったらアッシュさんが居ないって言われて、報告をどうしようかと思っていた所なんだよ。」「報告?」「あぁそうか、俺な。商人をやりつつ、アッシュさんにお願いされて、地方の噂話しや状況を定期的に報告しているんだよ。」「へぇそうなんですね。」「あぁアッシュさんには、リンに報告があがっているって言われているんだけどな。今度、お前の国にアッシュさんが行っちゃうだろ?」「えぇそうなります。」「それで、俺も、正式にアッシュさんの部下になって、お前に仕えようかと思ってな。」「そうだったんですか?歓迎しますよ。アッシュから、近々将来有望な者を紹介しますって言われていたけど、ウノテさんだったんですね。」「他にも何人か声かけているみたいだけどな。」「へぇそうだったんですね。」「あぁそうそう。面白い噂話しがあるぞ。」「なんですか?」「あぁアッシュさんには文章で渡しているから、後であがってくるとは思うけど、情報は新鮮な内にって言うからな。」「まったくその通りですね」「あぁそうだよな。それでな。俺が聞いた話だと、宰相が貴族連中に伝達して、奴隷や領民を少しづつ都合つけさせて、北方連合国ノーザン・コンドミニアム近くの新しく出来る街に送っているそうなんだけどな。その条件が、支度金で銀貨2枚。現地に着いたら、さらに銀貨1枚を支給すると言う感じでな。申込みが殺到しているって話なんだよ。」「へぇどのくらいの人数が集まりそうなんですか?」「俺が聞いた所だと、全体で500~700位じゃないかと思うんだよ。子爵家や伯爵家の領地ではパシリカに向かわせる子供の旅費が捻出できなくて、その話に飛びついたって裏事情がありそうなんだよな」「あぁそうか、男爵家や准男爵家は僕の所に頭下げて、マガラ神殿を使わせて欲しいと言ってきているんですよ。」「へぇそうなのか?」「はい。」「お前はどうしたんだ?」「許可しましたよ。断る理由はないですからね」「へぇ~。噂の中にもそれが入っていてな。マノーラ侯爵がマガラ神殿を通ってパシリカに行く子供に10,000ギルドレインを追加してくれるって話も入っていたな」「・・・そのギルドレインって何なんですか?」「え”お前たちがいい出した事じゃないのか?」「ひ。僕達は知りませんよ。エミール知ってる?」「いえ....」「ミルは?」「知ってるよ。GRって略されて書かれているんだけどね。最近、マガラ神殿の地下三階やフードコートでは、RGでしか取引しない店とかも出てきて、通常のレインと区分けする為に、ギルドのレインって事で、ギルドレイン。略してGRって呼ばれているんだよ。」「へぇ初耳だな。」「そりゃぁリンは買い物なんてしないだろうからね。」「そういやぁそうだ。」「それでリン。10,000GRを子供に渡すって言うのは本当なのか?」「はい。本当ですよ。ついでに言うと、パシリカに向う子供と引率してきた貴族や親は格安か無料でマガラ神殿の宿屋を使う事ができますよ。」「ほぉ~そうなのか。その話は他で話ていいのか?」「問題ないですよ。ギルド上層部には通達していますし、大丈夫ですよ」「そりゃぁ嬉しいな。情報もギブアンドテイクでな、こっちも旬な情報を相手に提供しないと話してくれないからな。商売と同じで、信頼第一だからな。」「そういう事なら、もう少し情報を流しますよ。」「本当か?そりゃぁ嬉しいな。侯爵自らの情報だからな。」「そうですね。僕が島を攻略したのは周知の事だと思うのですが」「あぁそうだな」「それで、島にはマガラ神殿と同じような施設が全部で13個ありましてね」「へぇそうなのか。」「えぇ島以外に僕が管理した神殿がマガラ神殿以外に7箇所あるんですよ」「え?島以外に?そんな話は出てきてないぞ」「えぇそうですね。ギルドでも知っているのは上層部だけですからね。」「いいのか?」「問題ないですよ。後1~2ヶ月もしたら公表しますからね」「そりゃぁいい情報だ。」「はい。その神殿がある場所がまた良くてですね」「そうなのか?」「えぇ一箇所は言えないのですが南方連合国サウスワード・コンドミニアムヴェスタ王国フランクール王国マカ王国ラグプール王国ラグラン王国なんですよ」「え?お前それって....」「えぇマガラ神殿と同じように、転移門トランスポートが使えますから、それらの国の辺境にですが、一瞬で移動する事ができます。」「すごいなそりゃぁそんな事が本当なら、商売が一変するぞ」「そうなんですけど、一つだけ条件があるんですよ」「なんだ?話してもいいのか?」「えぇ問題ないですよ。どうせ、公表する事ですからね。」「ほぉ」「神殿と神殿を直接結ぶことはできないんです。だから、島に各神殿から転移門トランスポートが集まっている場所を作ってそこで各地に移動するって事になるんです」「・・・そうなると、ヴェスタ王国に移動しようと思ったら、一度マガラ神殿から島に移動して、そこからヴェスタ王家の神殿に移動して、そこから各地に移動するって感じなのか?」「はい。そうなります。少々手間ですが便利になると思いますよ」「・・・・便利とか言うレベルじゃないな。うまくしたら、ニグラからヴェスタの王城まで1日かそこらで行けるって事なんだろう?」「そうなりますね。」「俺もだけど商人が大喜びだな。」「でも、相手の商人もこっちに来ますからね。競争は激化するかもしれませんよ」「あぁそうだな。でも、それはニグラでも同じだからな。」「・・・・。」「ありがとうな。リン。この情報と交換ならかなりの情報あ拾えそうだ。」「そうなのですか?それは、よかった。そうだ、できたら、さっきの宰相の伝達に関しての情報の詳細が解ったら教えて下さいね。」「おぉ任せろ!」
「ねぇリン。いいの?」「ん?いいんだよ。あくまで噂話しとして流してくれるからね。」「へぇそうなんだね。」「うん。だから、多少事実と違っていたとしても問題にはならないし受けてもそのまま丸呑みしないで裏取りはするだろうからね」
ウノテさんと別れてから少し歩いて、フレットが居る商店の二階に上がった。アルマールやカルーネが試作品を売ったりしている場所で、サラナとウーレンも試験的にここに野菜を卸して様子を見ていた。
「フレット。居る?」
奥から返事が聞こえた。「なんだ?リン君。ミルも一緒なんだね。」「ん?そうだよ。」「なんか、最近、リン君とミルの一緒に行動している事が多いなって思ってね。」「うん。それは当然だよ。僕とリンは相思相愛だからね」「はいはい。それで、リン君今日は何?」「うん。前に話したんだけど、ゴットケープ島に教会を誘致したいんだけど、少し急ぎでやりたいんだけどいいかな?」「どうしたの急に?」「うん。今年パシリカの子が居るんだけど、その子達が、ゴットケープ島でパシリカを受けたいって事なんだよね」「そういう事ね?教会はもうできているんだよね?」「うん。そんなに立派な物じゃないけど、幾つか作って有るよ」
なぜか、フレットがミルを見た。ミルは首を横に振っているが見なかった事にしよう。
「そんなに立派な物じゃないけど教会があるのなら、誘致は出来ると思うけど、主神とかはどうするの?」「うん。それを相談したかったんだよ。」「どういう事?」「うん。テルメン王家では、マノーラ神を主神にして、エリフォス神とアドラステーア神を祀ろうと思っているんだよ。」「教典とかはどうするの?」「その辺りの相談をしたいんだよ。」「・・・・そうだね。以前に、マヤに言われたんだけどね。正確には、マヤじゃなくて、アルセイドにって言うのが正しいのかな。アルセイドが言うには、今この世界の教会は、神ではなく、ニンフを神として崇めてしまっているって言っているんだよ。確かに、私の実家の教会でも、ナパイヤが主神になっているからね」「ナパイヤ良かったね。貴女を神として崇めているんだって?」「へ?ミルの加護しているのがナパイヤなの?」「そうだよ。ナパイヤ出てきていいよ。」「はじめまして、コンラートの少女よ。僕がナパイヤだよ」「ね、フレット。僕のナパイヤ可愛いでしょ?」「・・・ミル。それ絶対に、私の父さんや教会関係者の前でやらないでね。卒倒すること間違いないからね」「えぇそうなの?こんなに可愛いのに?」「うん。可愛いのは認めるけど、止めてね。私も貴女の事を知らなかったら殴るか卒倒するかのどちらかだと思うからね。」「わかった。抱きしめるだけにしておく。」「・・・・。まぁいいよ」「それでフレット。ニンフだとまずいの?」「うん。実際の神はマノーラ神で有ったり、エリフォス神やアドラだったりするんだよね?」「そうだね。」「だったら、既存の教会とは一線を引いた、新しい神として教会を新設するつもりでいいと思うよ。そこで、テルメン王家がマノーラ神からパシリカを代行するみたいな形にすれば文句は出ないと思うよ」「へぇそうなんだ。それならそれで楽になるからいいんだけどね。でも、既存の教会と喧嘩するつもりはないから、誘致だけは勧めたいな。頼んでいい?」「えぇいいわよ。父さんに話しておくよ。3つの教会もこっちで選んでいいの?」「うん。お願い。もし教会が足りないようなら、その時には言ってね。作るからね。後、各神殿への司祭の派遣をお願いね。」「はいはい。仕事ばっかり増えているように思えるけど....どうなんだろう」「フレットはまだいいよ。今、イリメリ達はもっと過酷な無茶振りを受けているよ。」「そうなの?」「うん。僕はみんなから免除されて、リンの護衛をしているんだけどね。イリメリ達は、大量の魔物に名付けをしている最中だよ。」「名付け?」「うん。リンの眷属になりたいって言ってきた魔物にね。」「へぇどのくらい?」「僕が聞いた限りでは、20万を少し切る位?だよね。エミール。」「いえ、ミル様。フレットさん。昨日の段階で、約215,000体です。」「だって、バカみたいでしょ?」「・・・・。それが全部リン君の眷属になるの?」「うん。そうみたい。」「終わったら、教えてね。リン君のステータス確認しに行くからね。」「了解。連絡するよ。僕も興味あるからね」「確実に、怖いもの見たさだけどね。」「あぁそうそうそれわかる。」「二人共、戻ってきてくれるかな?」「ん。あぁそうそう、教会はOKだよ。話をしておくからね。近々、教会関係者を連れて島に行くね。」「了解。それじゃ、僕達は三柱の神々を祀る様に国教を定めるよ」「それがいいよ。あとは権威付けとかは自ずと出てくると思うけど、神とニンフの話は、ニンフ自らが教会関係者に話をする機会を作れば、氷解すると思うからね。」「わかった、ありがとう。」
商店を出て、メルナの屋敷に向かった。今日と明日はこちらで生活する旨を伝えてあった為か、現在管理をしている夫婦が出迎えてくれた。そのまま執務室にはいる。取り立てて用事が有るわけではないのだが、なんとなく落ち着くのはこの部屋だ。ミルやエミールやウィンザーもかってが解っている屋敷でのす、各々で過ごすようだ。エミールとウィンザーは、料理の練習をすると言っていた。執務室でいろいろ来ている書簡に目を通していると、ミルが執務室にやってきた。「リン。そんなに頑張らなくてもいいよ。僕も居るし、イリメリ達も心配するよ」「うん。大丈夫だよ。僕は、こっちの世界を良くしたいんだよ・・・・。違うね。僕の、僕達の都合よくしたいって思っているんだよ」「・・・・それは解っているよ。でも、力技でもなんとかなると思うよ。」「そうだね。でも、ううん。違うんだよ。ミル。今、無茶を通すと本当に、無茶をするときにより苦労するからね。だったら、土台はしっかりと作っておきたいんだよ。」「リン。」「うん。大丈夫だよ。ミル。無理はしても無茶をするつもりはないからね」「うん。約束だよ。」「解った。約束するよ」「うん。それで難しい顔してどうしたの?」「あぁ宰相に貼り付けて居る眷属からの連絡が来てね、今回宰相に紹介された商隊の中に、宰相自ら変装して混じっているようなんだよ・・・。」「それが何か困るの?」「困らないから困るって感じかな・・・。」「リン、ゴメン言っている事が解らない。イリメリに来てもらう?」「ううん。ミルに聞いて欲しい。」「私でいいの?」「ミルがいい。」「解った。それで何が困らなくて、何が困るの?」
ミルがわからなければ、多分この考えは間違っているのかもしれない。
「うん。商人から報告が上がるのを想定して居たから、来る事自体には問題はないんだよ」「そうだよね。その場ではっきりするんだから、これ以上の場面はないよね?」「そうなんだ。だから、それは困っていないんだよ。困っているのは時間的に厳しくなりそうだって事なんだよね」「時間的?」「うん。それに、番頭の身柄を僕が抑える事が出来るかどうかとか微妙な状況になりそうなんだよ・・・。」「あぁそうだね。宰相がいきなり正体を明かしたら...あれ?ちょっと待ってね」「ん?どうしたの?」「うん。ちょっとアデレードに確認する。」
「アデレード?」「・・・うん。やっぱりそうだよ。」「え?何が?」「リン。勘違いしているよ。確かに、宰相は貴族を沢山抱えているから、意見を通しやすい立場には有るけど、王国の制度上は、侯爵の方が上だよ。」「あぁぁぁそうかぁ僕は侯爵だったんだ。姻戚関係にあるから、僕は宰相よりも上の階位だったんだ。」「うん。だから、番頭を宰相が預かる事は拒否出来るって、後でアデレードもこっちに来てくれるって。」「ミル。ありがとう。」「いえいえ。それで時間的な問題って?」「うん。できれば、宰相に知られる前に、番頭を捕えて、守備隊を捕えておきたかったんだよ。」「なんで?」「うん。勿論、僕の配下にするためだよ。」「しちゃえばいいんじゃない?」「宰相に顔見られているんだよ。問題じゃないの?」「それこそ、大丈夫だよ。リン。宰相は一日に何人もの陳情を受けたり、人に有ったりするんだよ」「そうだろうね」「その一人一人を覚えてなんていないよ。覚えているフリがうまいだけだよ」「そうなの?」「うん。これは、日本に居た時のパパの話なんだけどね。政治家が挨拶するときに、最初に愛想よくして相手から情報を引き出しつつ思い出すようにしているんだって」「へぇ・・。」「どうしたの?」「いや、ミルが父親の事をパパって呼んでいるかと思うと少し新鮮でね」「なっ・・・たまたまよ。そうたまたま。」「うん。そういう事にしておくよ」
そうか、確かに言われればそうかもしれない。覚えていったらきりがないだろうし、二度目に会うことも少ないだろうからな。
「ねぇ。リン。」「あぁゴメン。ゴメン。言われればそうだね。そうなると、アゾレムに対する事は保留にしても良さそうだな」「どういう事?」「アゾレムの領主には、逃げ出してもらわないと困るからね。」「そうなの?」「うん。そうなんだよ。」
「リン様。よろしいでしょうか?」「ん?ローザス達が着いたの?」「・・・・・はい。」「そうか、食堂か遊技場で待っていてもらって・・・・ん?ローザス。それに、ファンとハーレイも」「すまん。リン。止めたんだが....この馬鹿が止まらなくてな。」「まぁいいよ。入ってきたらどう?」「あぁそうする。」「ね。だから言ったんだよ。ハーレイとファンは考えすぎだって、リン君はそんな事では驚かないよ」「おまえな。最低限の礼儀って物があるだろう。」「大丈夫だよ。礼儀以上に、僕とリン君は深くつながっているからね。」「はぁ....。」「ハーレイ。なんか、ローザスが徐々にひどくなっていると思うけど、トリーア王国は大丈夫なの?そんなのが皇太子で?」「そんなんとはひどいな。君の義兄なんだけどな」「すまん。リン。遠慮しなくなってきただけでな。こいつがこんな態度に出られるのも、ミヤナック家かここしかないんでな。」「まぁいいよ。それで、ファンまで一緒にどうしたの?」「護衛ですよ。マノーラ侯。」「そういやぁそうだった。最近、勝手に一人で来て、食事したり、ゲームで遊んだり、プール遊んでいたから忘れていたよ。」「・・・おまえなぁやっぱりだな。」「リン君。内緒にしておいてよ。君に会いに行きにくくなってしまうじゃないか?」「ローザス様。マノーラ侯は、殿下の部下ではなく、別家のご当主なのですよ。お控え下さい」「やだなぁファン。リン君は、たしかに侯爵で別家のご当主だけど、その前に、僕の親友で兄弟なんだよ。どこに遠慮する必要があるんだ。」「もういいよ。それに、メルナの屋敷も海岸街の屋敷も眷属が居るけど、ローザスを敵とみなしていないから危害を加えるような事はないから大丈夫だよ。」「ほらね。」「侯爵。そう言われましても・・・・」「うん。絶対に大丈夫だとは言わないけど、僕の屋敷に来ている時位は、ファンさんもくつろいでよね。」「はぁ・・・。」「そうだ、ミル。」「ん?何?」「エミールとウィンザーがお茶の支度していると思うんだけど、それが終わったら、ファンを島の迷宮ダンジョンに案内してあげて」「ん。いいけど、ファンさんどうする?」「・・・殿下、本当によろしいのですか?」「いいよ。今日は、ここに泊まって、明日の楽しいショーを見学する予定だから、行ってきていいよ。ハーレイもいいよね?」「あぁここなら滅多な事にはならないだろうからな。」「解りました。ミルさん。お願い出来ますか?」「うん。装備品はそれでいいの?」「はい。」「ねぇリン。ファンさんにも試してもらっていい?」「そうだね。ファンさんなら実力的にも問題ないし、大丈夫だと思うよ。ファンが問題なければ、売り出そうってカルーネとタシアナに言っておいて。」「了解。」「リン君。何やら面白そうな話をしているけど....何かな?」
やはり、ローザスが興味をしめした。今、僕達が使っている武器・防具は、カルーネとタシアナの合作で魔法的な効果を出す為の仕組みが付与されている。具体的に言えば、魔珠を装着できるようになっている物だ。少しずつ表には出している。それの実地テストをミルが行っては居たが、規格外の為にテストにならないと言う側面がある。特に、魔法消費量や属性外の魔法を使った時の影響などが解らないと言う結果になってしまっている。これは、僕達では誰が使っても同じ結果になってしまっている。ファンなら的確な情報をくれるだろうし、ファンが使えないなら、もう諦める方がいいかもしれない。
「って感じで、ステータス不可視の魔珠と同じような感じで、武器や防具にも属性を付与したり、緊急用の魔法をセットする事が出来るようにしたんだよ」「「「・・・・・」」」「え?驚くこと?魔珠については知っているよね?」「そうだけどな。それを武器や防具に付けて...となるとな。」「だって、折角持つなら高性能な方がいいでしょ?」「・・・・あぁこういう奴だった。久しぶりに思い出した」「えぇなんかおかしくない?」「「おかしくない」」「それで、マノーラ侯。それはどんな事が出来るのですか?」「それこそ、いろいろだよ。ファンは使わないようだけど、盾に属性魔珠をつければ、その属性魔法の影響が緩和されたり、弱い魔法だと弾いたり、吸収してしまったりだよ」「え?本当ですか?」「うん。後、魔物によっては、弱点となる属性が有ったりするよね。」「えぇそうですね。」「そのときに、武器に属性を付与すると、多分だけど中程度の魔法と同程度の威力にまで引き上げるし、魔法攻撃しか効かない魔物にも攻撃が通りやすくなったりするよ」「え”?それは...」「ファン。すぐにミル嬢と行って試してきてくれ。問題がなければ、王国軍で正式採用する。」「リン。それは大量資産出来るのか?」「どうなんだろう。ミル。なんか聞いてない?」「マノーラ神殿で大量生産の準備はできているって話だよ。」「だって、大丈夫だよ。」「よし、ファン。さっさと行って確かめてきてくれ。」「かしこまりました。ミルさん。お願いします」
丁度タイミングをはかっていたかのように、エミールとウィンザーが軽食と飲み物を持って入ってきた。エミールだけを残して、ミルとファンとウィンザーが部屋から出ていった。どこに行くのか行っていなかったけど、無理な所には行かないだろう。
盛大に横道にそれてしまったが、本題にはいる事にする。
「ハーレイ。それで、投資額の合計は出たの?」「あぁ買い取った物を含めた合計でいいんだよな?」「うん。」
ハーレイは、数字が書かれた羊皮紙を渡してきた。そこには、僕とローザスとハーレイが今までの出したレインの合計と、商人や村々や貴族から買い取ったレインと額面のレインが書かれていた。
「へぇ残念。白金貨までは行かなかったんだね。」「あぁそうだな。それでも、かなりのレインになるぞ」
そこには、大金貨79枚と金貨が数十枚と書かれていた。確かに大きなレインでは有るけど、白金貨一枚程度はいくと思っていたから少し以外だった。比率を気にしているのかな?
「アッシュからの報告が入っていると思うけど、多分、子爵や伯爵が投資したレイン以外はほぼ全て回収できたと思うぞ」「そうなの?」「あぁ書類を精査しているけど、全部に宰相かアゾレムの捺印がされているから間違いないと思うぞ」「え”?アゾレムの捺印もあったの?」「あぁそれがどうした?」「だって、それって、アゾレムが宰相に黙って資金を集めたって事の証拠になるでしょ?」「・・・あぁそうだな。」「どのくらいかは...わからないよね」「すまん。調べておく。」「いいよ。多分、それほど大きな額じゃないと思うからね」「教会関係者の名前もちらほら出ていたぞ。」「へぇそうなんだ。それはどっち側で?」「どっち側とは?」「騙す方?騙される方?」「両方だな。」「そうなんだ。教会筋も切り崩しができそうだね」「あぁそれは今やっている。」「ん?・・あぁニノサ文章だね。」「あぁそうだ。長らく預かっていたが、やっと使い所が出てきたんだよ」「うん。別に気にしなくてよかったんだけどね。」「そう言われてもな。でも、これで王国も少しは風通しがよくなるかも知れないからな」「ローザス。粛清したりするの?」「今、ハーレイと相談しているんだけどな....。なかなか決められなくてな。」「そうなんだ」「ん。リン君は粛清に反対なのか?」「ううん。違うよ。違うけど....」「どうした、歯切れが悪いな」「だって、僕が話て方向性がそれになったら....」「誰もおまえに責任を取らせるなんて思わないぞ」「ううん。それも違うんだよ。僕は、トリーア王家とは離れてしまう人間なんだよ。その人間が話すのは内政干渉になったりしないのかな?って思ってね。」「リン様。今更かと....思います。」「そうだね。エミール嬢の言う通り今更だね。」「そうなのかな?僕の中では、アゾレムや宰相に関わる事は、単なる個人的な復讐だと思っているんだよね。でも、教会や瑣末な貴族には、そんな気分になれないからね。」「あぁそういう事だったんだな。わかった。リン君。」「ん?」「君の意見を聞かせてくれ。これは、ニノサの息子である君に聞きたい事なんだ。」「・・・・解ったそういう事なら僕の考えを話すね。」
粛清には基本賛成だけど、ローザス自らが行う事は反対である。反対の理由は、ローザスの統治が粛清から始まってしまうのは良くないと思うからで、宰相はそのままの地位にして、教会筋や貴族への粛清を行えばよい。宰相に捲土重来のチャンスがあると思わせる位が丁度いいと思える事を話した。その上で、反対派に一気に蜂起させて、集まってもらう。その旗印は、宰相では都合が悪い。事を話した。
「リン様。なんで宰相だと都合が悪いのですか?」「最終局面になったときに、旗印は味方から殺されるか、敵に投降するかのどちらかになってしまうからね。」「それではまずいのですか?」「うん。エミールも考えてみて、ローザスに敵対したら、殺されてしまうと思ったらどうする?」「敵対しない事を選びます。」「それは、ローザスを知っているからだよね」「・・・・はい。」「みんな。ローザスが怖いと思ってしまうと思うんだよ」「そうですね。」「それも、宰相の様な人間でも殺されると思ったら、怖くて何も言えなくなってしまうだろう?」「はい。でも、それでいいのでは?」「うん。ある一面ではね。でも、ローザスが死んだら・・・って考える奴が出てくると思わない?」「そうですね。怖いのはローザス様だけって思えたら、そう考えるでしょう。」「ある一定の安全は確保出来るとは思うけど...危険な事は避けたほうがいいでしょ」「そうですね」「だから、宰相は最終的には殺さないで罷免して、ローザスの配下にする事が望ましいんだよ」「それがわからないのです。なぜですか?」「僕もそれが気になっている。奴が唯々諾々として従うとは思えないから余計にね。」「それも一つの考えだけど、宰相は多分、ローザスの配下にはいる事を承諾すると思うよ。」「リン君。なんで?そう思うの?」「宰相が優秀だからだよ。」「優秀?それは認めるけど、リン君はその優秀な宰相に簡単に勝てるような事を言っているよね。」「うん。宰相は優秀だけど、周りがそれを支えきれていないからね。それに、宰相は完全な権力主義の権化ではないと思うよ。」「ほぉ?なぜ、そう思う。もし、彼が権力だけを欲しているのなら、僕の事も、オイゲンの事も拒否していると思うからね」「あぁそうか....」「でも、リン。それは、レインに目がくらんでって事はないのか?」「う~ん。それはないとは言わないけど、小さいと思う。」「なぜ?」「だって、もしそうなら、宰相位の地位にあるんだよ。それこそ、マガラ渓谷の利権を自分の物するのも容易だったと思うんだよね。それに、ニノサ文章にも宰相が自分でレインを集めている様な印象はなかったからね。」「あぁ確かに....。」「まぁ宰相のことはこのさい瑣末な事で、ローザスに反対派が存在しているのは確かな事だよね?」「あぁそうだな。」「反対派が居る事自体は悪い事じゃないと思う」「それは解っている。だから、ある程度を粛清して風通しを良くしようと思っているんだ。」「そこだよ。ローザス。反対派を全員処罰しないのなら、やらない方がいい。でも、やらないと同じだし、粛清しすぎると国が回らなくなるって感じなんだろう?」「あぁそうだな。」「ここから僕の考えなんだけどね。」「あぁ」「粛清は最終的に寝返った連中にやらせればいい。ローザスやハーレイが自ら手を汚す事はない。」「そんな事出来るのか?」「うん。僕は、その役目こそ宰相にふさわしい罰だと思っている。」「確かにな。そんな事が出来れば一番いいだろうな」「でも、そんな事出来るのか?」「どうだろうね。まずは、教会関係者や伯爵や子爵と言った連中が粛清されると言う噂に乗って、何かの行動を起こしてくれるといいんだけどね」「・・・」「まぁそうなるように仕向ける事は出来るだろうけど、今はそれは置いておくとして....」「なぁリン。」「何?ハーレイ。」「ニノサ文章って公開してもいいのか?」「いいよ。別に隠しておく意味もないからね」「そうか、それなら、行動を起こさせる位なら出来ると思うぞ」「どういう事だ?ハーレイ。」「あぁローザスがって事ではなくてな。ミヤナック家の次期当主が、文章を利用して、政敵を粛清しようとしているなんて筋書きならどうだ?それに、俺の嫁は、ローザスの妹で、マノーラ家に嫁ぐアデレードの姉になる。その人脈を使って、ミヤナック家が重職を独占しようとしているって話なら筋が通らないか?」「通るけど、そうすると、ハーレイだけじゃなくて、ミヤナック家が悪者になるよ」「別にかまわない。それで、ローザスが綺麗な状態でいられるのならな。」「ハーレイ。君は...。」「うん。それが出来るのなら、文章の利用じゃなくて、ハーレイがローザスを言いように使っているって方がいいと思うよ。」「なぜだ?」「ん?そのほうが、宰相や貴族から見た時に、ハーレイを敵として認定し易いし、ローザスに弓引くのは、王家に対しての背信行為に思えてしまうけど、ハーレイやミヤナック家なら、『奸臣を討つ』って名目も立ちやすいからね。」「あぁそうだな。」「まってよ、リン君。それじゃミヤナック家が矢面に立つ事にならないか?僕の為に」「うるさい。ローザスは黙れ、今は、俺とリンが話している。」「そうだね。ローザスの言う通りだけど、ハーレイはそのくらいの覚悟があるんだよね?」「あぁある。一番の心配事だった、ルナも今ではこの大陸で一番安全な所に居る。そして、義弟が僕達を守ってくれるだろうからな。」「そうだね。片手間で良ければ、ハーレイの事もミヤナック家の事も領地の事も守ってあげるよ。」「そりゃぁ心強いな。それでどうする?」
「噂を流す。」「噂?」「あぁローザス。暫く、国の仕事って何かやった?」「・・・・・。」「・・・・・。」「あっサボっていたね。」「いや、サボっていたわけじゃないんだよ。タイミングが合わなかっただけだよ。他に面白い事、、、違う、やらなければならない事が多かったからね。そうそう、そうなんだよ。」
焦るローザスを横目で見ながら「丁度いい。ローザスは実は勤勉で真面目だったんだけど、ミヤナック家に軟禁状態にされて、本来やるべき執務を放棄させられて、その執務を今では、ハーレイが勝手に代行しているって噂はどう?」「あぁ実際に、こいつはミヤナック家やリンの所に入り浸っているのは有名だからな。執務も僕がかなりの部分を代行しているのも本当だからな」「あっそれなら丁度いいんじゃない。」「あぁそうだな。」「ミヤナック家のハーレイとリン=フリークスが、ローザスを傀儡の様に扱っているって貴族社会に噂を流せばいいね」「・・・そうだな。そこまではいい。その後は?」「その後は、簡単だよ。アゾレムの採掘がうまく行っていないのも、ミヤナック家やウォード家だけが転移門トランスポートの恩恵を受けて儲かっているのも、全部リン=フリークスとハーレイの二人に責任がある。強いては、自分たちが儲かっていないのも教会の中で地位がまずくなってきているのも、全部あの二人のせいだって意識を誘導すればいい。」「そんなにうまくいくかな?」「8:2位だと思うよ。成功の方が大きい数字だけどね。」「そうなのか?」「うん。人は追いつけられると、信じたい事を信じるからね。それに、全部が嘘ではないから余計に信じてしまうと思うよ」「そうだな。特に、アゾレムや辺境伯とかは信じてしまうだろうな。」「うん。アゾレムは置いておくとして、そうなったら、頼るのは誰って事になるよね?」「あぁそうだな。」「宰相は、たしかに強大な力を持っているかも知れないけど、王家がバックにあった時の権力だからね。」「・・・。」「それに、宰相には固有の武力がないからね」「・・・そうか、それじゃどこに集まるんだ?」「ウォルシャタの所だと思うよ。奴は、僕とローザスの懐刀のファンに勝ったと言う実績もあるからね。」「え”あぁ御前会議の後の模擬戦。そこまで考えていたのか?」「ん。偶然だよ。」
「・・・でも、リン様。相手が一箇所に集まって力をつけたら怖くないですか?」「そうだね。だから、一箇所に集まる前に叩くんだよ。」「でも、罪状が何か無いとダメなんじゃないのですか?」「その辺りあどうなの?ハーレイ?」「あぁなんとかなると思う。」「・・・そうか、そこでローザスを使うんだね。」「感がいいな。」「??」「ローザスの名前で、『ハーレイやリン=フリークスの軍門に下れ。』って皇太子令を出すんだね。」「そうだな。」「あぁそれまでに、参加しそうな貴族や教会関係者や豪商なんかの名前を調べる必要は有るだろうけどな。」「うんうん。それは、大丈夫だと思うよ。アッシュがその辺りの事をやっておいてくれたからね。」「そうか、それなら、後は噂を広めるだけだな。」「うん。それでもそんなに難しくないだろうね。」「あぁそうだな。」「二人だけで解ってないで説明してよ。」「ローザス。おまえな。」「だって、二人だけだよ分かっているのは?」「そうか?」「エミール。どう?」「・・・。皇太子令がどの程度の拘束力を持つのか知りませんが、噂が流れている状態で、ハーレイ様がローザス様の名前を使って何かをやろうとしていると思われるだけで、反対派は集会を開くなり、集まろうとすると思います。その前後で、皇太子令を出して、参加貴族や豪商や教会関係者を捕まえる素振りをすれば、暴発する人たちがでてきても不思議じゃないと思います。」「うん。それで?」「はい。皇太子令がでた状態での暴発だから、捕縛の正当性を主張できます。貴族たちが集まろうとしている所を捕まえて行けば、いいだけです。」「そうだね。でも、僕は、ある程度は逃して、ウォルシャタと合流させるつもりだよ。」「何でですか?」「奴等の選択肢を減らすためだよ。」「奴等は、貴族や豪商と言うお荷物を背負う事になるんだよ。多分、合流した奴等は、ウォルシャタに敬意を払いつつ、自分が上に立とうとするでしょう。」「そうですね」「そうなったら、奴等は合流してきた貴族を捕えて、僕達に引き渡しをするか、殺すか、仲間にするのか、無視するのか、こちらが用意出来る選択肢の中から行動を選ぶ必要がある。」「・・・・」「法的に見て、捕縛して僕達に引き渡すのが正しいし、それをやられると、それ以上手が打てなくなってしまう。」「・・・」「次に、殺されてしまったら、公敵としてウォルシャタ達を断罪出来る。仲間にされても同じだね。治安を見出し無闇に混乱させるのがウォルシャタ達だと言うことが出来る。無視されたら、その時には、逃げ出した奴等に力を貸して、ウォルシャタ達と対峙させればいい。そして、僕達は手を汚すこと無く、汚物を処理する事が出来る。って感じだね。」「・・・・。大丈夫でしょうか?」「やってみる価値はあると思うよ。自分達の懐が痛むわけでもないからね。あいつらが一箇所にまとまって抵抗するのならそれでもいいよ。そうしたら、街道と言う街道を防いで、餓死させればいいだけだからね。」
エミールに説明する形にはなってしまったが、ハーレイとローザスと今後の戦略を考える事になった。皇太子令を消す事が出来るのは、陛下の勅命だけだと言う話しで、そこそこの権限と意味を持つ事になると言うことだ。
後は、明日のアゾレムからの使者の話を簡単に説明して、明日に備える事になった。僕は、執務室に残って書類に目を通す作業を継続する。ハーレイとローザスも、客室に向かっていった。

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