【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 オイゲン=フンメル・エストタールの覚醒

オイゲン=フンメル・エストタール。俺の名前だ。
今、パシリカの順番を待っているが、どこかの貴族のぼっちゃんが居るらしくて、遅々として進まない。村から来たが、村の隊列からは逸れてしまった。パシリカを受けて、ジョブを授かったら、村から出て探索者にでもなるつもりだ。商隊の賄い婦をしている母親の事が気がかりにならないと言えば嘘になるが、自分の事を考えろと言われて村を出た。そして、見事に村の隊列から逸れてしまった。最終目的地も解っているし、問題は無いだろうと勝手に隊列を離れたのが間違いだった。そして、俺が村では目立たない存在だって言うのは更に問題だ。多分、村の隊列でも俺が居ないのに誰も気がついていないだろう。
それにしても本当に遅いな。そんなに時間が掛かるとは聞いていなかったんだけどな。明日出直すか?いやダメだな。宿に泊まるなんてもったいない。今は、レインを無駄に出来ない。しょうがない。待っていればいずれ順番が来るだろう。
どのくらい待っただろうか?無情にも、今日は終了と言うアナウンスがされた。俺が待っていた時間を返して欲しい。何処かで宿を探そうと帰ろうとしたら、守衛らしき人が何を配っていた。持って宿屋に行くと、レインなしで泊まれるらしい。数に限りがあるとかいっているので、急いで貰いに行った。幸いな事に、俺はもらえる事が出来た。
門からほど近い宿屋に入った。一人部屋なら空いていると言う事だったので、ここで一泊する事にする。店主に守衛から貰った物を見せたら、歓迎された。食事はつかないと言われたので、しょうがないので、正面にある『夜の蝶』と言う食事処でご飯を食べてさっさと寝る事にした。明日は、早めに出て、さっさとパシリカを受けて、今後の事を考える事にする。『夜の蝶』で食事をしていると、俺と同じ位の男が超絶に可愛い女の子を連れて店の奥から出てきた。それも一人ではなく数名連れている。聞こえてきた話を総合すると、一人は妹の様だ。青い髪で黒目の美女と銀髪だろうか、長い髪の女の子も可愛い。燃えるような赤い髪の毛の女の子がすごく印象的だ。あんな可愛い子と知り合いになれるなんていいなと思いながら出された物を食べて宿に戻った。さっきの男も同じ宿のようだ。妹と一緒の部屋で休んでいるようだった。
今日は、昨日のような事が無いように、朝早くから宗教都市ドムフライホーフに向かった。人は少ないようだったが、昨日『夜の蝶』で見かけた赤い髪の女の子ともう一人が出口の辺りに居る。誰か知り合いがパシリカを受けているのかな?俺には関係ないか....。昨日が嘘のように、今日はスムーズに流れていく、俺の番が来て、中に入った。そこには、球体が置かれていて、それに触れる事で、真命を得て、ジョブが解放される。緊張しながら、球体に手を触れる。
何のことも無い。部屋から出ようとした瞬間にそれが襲ってきた。身体の中が何か支配されそうになる。立っていられない位の不快感。膝を付いたが、立ち上がって、隣の部屋に移動する事が出来た。そして、全てを思い出した、俺は『茂手木義徳』異世界に転生された。昨日まで考えていた事が根本から崩れていく。俺は、この世界で生き残る。そして、できれば勝ち組に属す。生き返らなくてはならない。母親を一人残していくわけにには行かない。こちらの母親もあちらの母親も絶対に幸せにする。その為にも、見極めなければならない。多分、神崎と立花の二つの軸での戦いになるだろう。人数が21名。神崎が女子全員をまとめる事が出来れば、10対10の人数的には互角になる。それに、俺が立花に協力したとしても、使い走りがいいところで、勝った所で生き返られる保証はない。弱体化している時に介入できれば逆だが、その場合には、神崎に殺される可能性もある。そう考えると、両者の対決が激化する前に、神埼に合流して協力体制を作れるのがいいだろう。この世界は異世界としても未熟だし、いろいろやれそうな事もある。
さて、倦怠感もなくなってきたし、部屋から出る事にした。一人の男が寄ってきて俺に触れた。しまった....気がついた時には遅かった「おい。居たぞ。茂手木だ」
加藤恵一。立花の取巻きで間違いない。「・・・」「ほら、茂手木。こっちでもよろしくな。俺たちといれば、生き返られるかも知れないからな。」「他には?」「あ、立花や山崎も一緒だぞ。」
立花も山崎ももう一緒なのか....絶望的だな。「立花君達は?」「あぁ立花は、貴族の跡取りでな。俺らは、そこで一緒に居る事にしたんだ。この世界がどうなろうと俺たちには関係ないから好き勝手できるのは最高だよな。茂手木もそう思うだろう?」「君達は、これからどうするの?」「細田がいろいろ考えているけどな。まずは、金を集めて、立花をさっさと貴族にしてしまおうって話だ。邪魔な奴等を先に片付けようと、こうしてパシリカを受けに来たやつを探して確認している所だ。」「そうなんだ。すごいね。神崎君や女の子達は見つかったの?」「いや。まだみたいだな。今、山崎が一人心当たりがあるとか言って探しに言っているけどな。なんでも、名前がリンだって言うんだから、あのウスノロみたいだろう。な。オイゲン=フンメル。」「あぁそうだね」
そうか、女子達はまだ見つかっていないのなら、まだ可能性はあるな。それに、リンって神崎凛の名前そのモノじゃないか?加藤に連れられて、山崎との待ち合わせ場所だと言う所で待っている。
ダメだこいつらは神埼達を殺せば終わりだと思っている。多分、パシリカ後すぐに捕まえられれば、その目が出てくるだろうけど、少しでも時間がたてば無理だろう。「おっ山崎だ。おぉい。山崎。ウスノロだったか?」それに、こいつらは馬鹿なのか?日本名をこんなに大声で話している。
「お。加藤。そいつは?」「あぁ茂手木くんだよ。山崎がどうしても探して欲しいって言っていたからな。見つけて連れてきた。ん?不思議そうな顔だな。あぁお前バレてないと思ったのか?お前のスキルは山崎に見られていたんだよ。」「!!」「あいつは、鑑定持ちでお前隠していたつもりだろうけど、ゲートを潜る前にバレたんだよ。」「・・・。」
「加藤。これで、細田が言っていた事ができるな。」「あぁ投資詐欺だろ?あいつも悪いよな。」投資詐欺?「馬鹿、詐欺って言うなよ。その為に、茂手木くんのスキル『鉱物発見』が欲しかったんだからな。」「あぁそうだな。あぁそれで、ウスノロだったのか?」「いや、違った。一般ピーポーだったよ。スキルもたいした事なかったよ。女の方も妹みたいだし違ったよ。」「そうか、あいつらどこに居るんだ?パシリカってここでしか受けられないんだろう?」「あぁそういう話だな。」「他の国もなのか?」「さぁそれは知らんが大陸中の人間が集まるとか言ってたからそうじゃないのか?」「それにしても、あの妹いい女だったな。俺の物にしたいな。」「ばか、お前はこっちでもそうやって問題起こすなよ。まだ立花が領主になっていないんだからな。」「なってから愉しめばいいさ。あいつら、立花の所の領民らしいからな」「あぁ確か、アゾレムだったよな。父親が引退しなきゃならない様な状況にするんだろう?」「そんな事を言っていたな。案外早く決着が付くんじゃないのか?」「あぁそうだな。13歳で男爵家当主だからな。」
歩きながら、頭のわるい話をしている。次の角を曲がった所で、後ろに入って、路地に逃げ込む。路地に逃げ込んだら、成功するか解らないが、影移動を行う。これで逃げられなければ、また違う方法を考える。影移動がどんな物なのか試していないが、できる。俺ならできる。二人が何やら話しながら角を曲がった。
今だ!後ろを売り向いてダッシュで逃げる。日本に居た時の身体と違って、この身体は鍛えられている。この世界では標準的なんだろうけど...。
「なっ。おい茂手木が逃げた」「加藤。そこの路地に入った。追え。」
二人が追ってくると、路地はそれほど入り組んでは居ないが影はある。一瞬でもいい。奴等から視線を外せれば...。角がある。曲がって、袋小路だ。でも、影がある。【影移動】影の中に入れた。
山崎と加藤が追ってきた。「なっどこに行った?確かに、こっちに曲がったよな?」「あぁ曲がった。ちぇっ影移動ってそういうスキルなのか。」「どうした、山崎。」「あぁ茂手木の奴が持っていた、スキルで、影移動って言うのが有ったんだが、気にしないで居たんだけど、影の中に入れるスキルなのかもしれない」
(はい。当たりです。でも、もう何も出来ないだろう?)
「それなら、この辺りに茂手木が潜んでいるって事なのか?」「多分な。」「そうか、それなら、俺の魔法で辺り一面の建物を吹き飛ばしたり、影を消すような火を作れば出てくるんじゃないんか?」「そうだな....やってみるか?吹き飛ばすのは目立ちすぎるし、面倒な事になるから、火を灯して影を作ろう。」
(おいおい。いつまでもそこに居ると思っているのか?)(探していてね。俺は逃げる。)
どこをどう歩いたのか解らない。影の中は音は聞こえるが、外の様子を見る事が出来ない。身体の一部だけを出そうと思っても、全部出てしまう。山崎や加藤の話では、立花達はアゾレムに集まることになりそうだ。奴等は暫くはニグラで神崎達を探す事になるだろう。ニグラに居たらたしかに、神崎や女子達と合流できるかも知れない。でも、危険が伴うもう少し現実的な力をつけてから戻ってきてもいいだろうし、それに情報も欲しい。探求者になるのは少し待って、まずは里に戻ろう。アゾレムとか言っていたな。たしか、マガラ渓谷の片側をアゾレムが支配していると言う事になっている。影移動を駆使しながら行くしか無いだろうな。商隊にくっついていくのは、アゾレムを出てからの方がいいだろう。武器だけは用意しておいたほうがいいだろうな。大体の道は覚えているけど、スマホもないし、20日以上かけているからな。途中馬車を使った事を考えると、1ヶ月位は考えていたほうがいいだろうな。まずは、マガラ渓谷越えが一つ目の難関なんだろうな。
城門に向うと、丁度アロイの街に向う商隊とウォード領に向う商隊が居た。俺の里は、ウォード領にあるから幸先がいい。商隊に近づこうとしたら、商隊の前で一人の男が近くに来る奴で同じくらいの年齢の奴を触って確認しているのが解る。立花の所の誰かだろう。どうする?街道にでるまで、影の中で移動して、適当な所で現れて、商隊についていく事を許可して貰ったほうがいいだろう。まずは商隊に近づかない事には何も始まらない。商隊ではなく、ニグラから出ていく人間の影に潜って一緒に外に連れ出してもらう。外で待機して、商隊が通るのを待つ。これが一番可能性がありそうだ。
早速、荷馬車を引いている男の影に入った。そのまま城門の外に出てスラム街の方向に進んでいく。慌てて影から出る。
後は、さっきの商隊が出てくるのを待っていればいい。なんとか、ニグラから脱出は出来た。これから、ウォード領まで行って、母さんに会ってから次の行動を考えよう。

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