【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 ラーロ宿屋

最初は、アゾレムからアロイまで護衛の仕事で少し話しただけだった。どこにでも居る小僧だと思った。次に会った時には、いっぱしの男の顔になっていた。そして、繰り出される異常とも言えるスキルや眷属たち。何も言えないまま、流れに乗った。
あの時は、アロイの街はおかしかった、”何が?”というわけではない。空気感がおかしかったと言うべきなんだろうか?何度も通った。宿屋の場所も建物もしっかりと確保して、やっと溜まったレインを持って、顔役の所に行った、そこで言われたのが、次から税が値上がりすると言う事だ。アゾレム領主が領内に魔物が出て来る頻度が上がっている為に、守備隊の費用がかさんでいる。その為に、アロイの税も値上げするといいだした言う事だ。明日から営業開始で馴染みの客も居なければ、定宿にしてくれる護衛もまだ見つかっていない。こんなんでやっていけるのか不安が押し寄せてきた。
開店はしたものの、最初の客が来る前に問題が先に来た。ベイラが、アゾレム領主の息子の食客だと言う人間に見初められて、連れて行かれそうになった。その場は、アスタさんが対応してくれて事なきを得たが、それから、1週間待つと言う通知を、ウォルシャタの名前で通告してきた。娘を差し出すか、店を諦めるかと言う事だ。勿論、娘の方が大事だ。確かに、店をやるのは俺をカミさんの夢だったが、そんな物よりも娘の方が大事に決まっている。
気にするなとは言ったが、ベイラが自分が我慢すればとか言い出す前に、覚悟を決めなければ親じゃないよな。アスタさんにも事情を説明しに行って、店を閉める事を告げに行った。
明日にはアロイを出て、一時ニグラに行く事にした。落ち着いたら連絡するとだけ言っておいた。
まだ娘が気にしていたが、しっかり3人で話をして決めた事だ。手付金を払った後だからもったいないと言えばもったいないがそれはしょうがない。建物も支払いは終わっている。残していけば、少し位の時間稼ぎにはなるだろう。そう思っていた。
そこに、護衛した時に知り合った、リンがやってきた。なんでも、ギルドなる組織を立ち上げる事になって、宿屋の主人を探していると行ってきた。場所は、ニグラの職人街と商店街の境だと言う。一等地じゃないか?!何か騙されているんじゃないのかと思ったが、リンは、アスタさんとの旧知の中だったようだ。どのみち、逃げるのは一緒だからと思って、話を聞いたら、今から移動しますというと、転移魔法を使いやがった。こんな伝説級の魔法を軽々しく使うなとは思ったが、なんにせよ。娘の安全が保証されたのは嬉しかった。それに、スライム・・・・だと思うが、あれが、一気に宿屋を飲み込んで、アロイにあったままニグラに移動させちまった。もう笑うしかない状況だ。
これで、営業して下さいって言われても、準備も何も出来てないと思ったら、あいつ休業補償とかいい出して、いきなり移動してきて、必要な物も有るでしょうと言い出して、レインをおいていきやがった。足りますか?だと、営業準備をして下さいと言われた。それに、まだ完全にはオープンはしていないらしいが、マガラ渓谷の下にあったマガラ神殿なる物を開放して使っていく事になったと言う。難しい事を言っていたが、よくわからない。俺は家族が安全ならそれでいいと思っていた。宿屋の名前もそのまま使いたかったが、カミさんから、どこかで娘の事がバレても困ると言う事で、『ラーロ宿屋』にした。ギルドと言う組織については、理解出来た。リンの同僚と言う女の子から説明を受けた。そして、宿屋はこれから来る冒険者相手に商売をすれば良いと言う事だ。実質的に、リンをオーナにして俺は雇われ店長にしてもらった。移動や賃金だけでもでっかい借りが出来ているんだからな。それを返し終わるまではと思っていたが、あいつとんでもない物を作りやがった。そりゃぁ風呂があればいいなとは思ったし、言ったよ。でも限界って物が有るだろう?誰がこんなにでかくてすごい物を作れって言った!リンも同僚の女の子達から散々文句を言われていた。
でも、内容はすごくいいのは間違いないし、細部までこだわりが解る。家の宿屋からも職人街からもギルドからも繋がる通路が出来ていて、でも、受付は一箇所でできるようになっている。男性/女性で入り口を分けてあるのに、一箇所で受付ができるのは嬉しい。それに、中のロッカーがすごい。魔道具を使っているとの話だったが、魔力を認識して閉めた本人にしかあかない仕組みになっている。子供で魔力がない場合には使えないが、そのために鍵を付けられるようになっている物もある。風呂場もいいが、屋上の施設がいい。軽食と飲み物を出す施設を作ってある。そこで、風呂に入りながら食事と飲み物を楽しめる。俺も使ってみたが、この風呂は間違いなく一級品だと思える。リンは、この風呂施設まるまるを俺に使って儲けてくれと言ってきた。イリメリ嬢とフェム嬢と話をして、料金を決めた。
ギルド登録者は、銅貨15枚の1,500レインギルド登録者で宿屋に宿泊者は、銅貨5枚の500レイン未登録者は、2,500レインとなっている。宿泊者の値段は、アロイの街でお湯とタオルのセットを出す時と同じ値段にして欲しいと言う事だ。この値段設定なら俺なら間違いなく、ギルドに登録してから風呂を使う事にする。ギルド側としては、それが狙いだと言う。
風呂の掃除も基本的には、ギルドの職員がしてくれるが、カミさんが自分も手伝う言って、一緒に風呂掃除をするようになった。宿屋の仕事と大変だろうと聞いたら、職員が手伝ってくれる上に、これだけの施設を任せてくれているのだから、苦にはならないと言う返事だ。それは確かにそうだな。これだけの風呂は多分王家の屋敷でもないかも知れん。いや、多分無いと思う。
娘のベイラも、店を手伝いながら、ギルドがやっている勉強会に参加している。リンはどこまで先を見ているのかわからなくなってきた。アスタさんもギルドに参加する事が決まったらしいし、ギルドマスタと呼ばれる人は、俺から見たら雲の上の人だった、双刃のナッセだ。最初分からなかったが、話をしたら本人だと笑ってくれた。
そして、お忍びなのか、この国の皇太子も来ている。ミヤナック家の後継が来ているだけでびっくりしたが、それほどの組織なんだと思える。
最後に、とんでもない爆弾が有った。今まで気楽に接していた。リンが実は侯爵だって事を聞かされた。本人が今まで通りでかまわないと言っているから、呼び方を変えていないが、不遜とか言われないか少しだけ心配になってしまった。
カミさんと娘とも話をしたが、本人がそういうんじゃいいと思うよと言う事だ。
俺の宿屋も正式にオープンした。最初は客が来なかったが、今では商人が宿に泊まって風呂にはいるようになっている。風呂は大盛況だ。最初は、少し高めの値段設定だとは思ったが、一度入ると病みつきになるようだ。屋上の飲食店も結構な売上になっている。正直な話、アロイでもう駄目かと思った宿屋がここまで成功と言ってもいい感じになっている。リンのおかげだと心の底から感謝しながら言う事ができる。
「あんた。タシアナ嬢が来ているよ。お願いがあるって?」「おぉよ。今行く。」
珍しいな。タシアナ嬢だけで来る事なんてなかったからな。イリメリ嬢やフェム嬢なら.....それにしても、リンの野郎。アデレード殿下だけじゃなくて、かわいい子がこんなに沢山、羨ましい奴だな。
「どうした?珍しいな。一人か?」「えぇ少しラーロさんにお願いというか、お聞きしたい事がありまして」「なんでぇ」「はい。今度、ギルドで”銀行”を始める事になりまして、ラーロ宿屋さんに一番最初の加盟店になって欲しくて着ました」「あぁいいよ!」「え”まだ説明をしていませんが....いいのですか?」「あぁいいぜ。リンの野郎が考えた事だろう?問題ない。なんでも言ってくれ。」「あっありがとうございます。でも、これは、私とイリメリとフェムが考えてやろうと思った事でして....。」「それでもいいぜ。ギルドには世話になりっぱなしだからな。それでどうすればいいんだい!」「はい。正式には、もう少し後になりますが、今までのレインのやり取りを極力なくしたいと思っています」「・・・?」「あぁギルドカードを持っている人で、ギルドにレインを預けている人は、加盟店ならギルドカードで買物ができると言う感じにしようと思っています。」「お!そうすると、例えば、俺がギルドカードを持って、銀貨1枚をギルドにあずけてあれば、ギルドカードで10,000レイン分の買物ができるのか?」「簡単に言ってしまえばそういう事です。銅貨や賤貨を何枚も持ち歩いたりしないで済むようにしたいと思っていまして....」「あぁそうだな。それだけでも大分楽になるな」「はい。特に、ラーロさんのお風呂の屋上で食事をする時に、銅貨や賤貨をロッカーまで取りに行くのが面倒だと言う話を聞きますので、ギルドカードで清算できれば、すごく楽になると思います」「あぁそうだな。それで、俺は何をすればいいんだ?」「あっはい。この魔道具を置かせて下さい。それで、ギルドカードで支払いをしてくれる人が現れた時に、金額を”こうして”入力して、ギルドカードをかざしてもらえば、レインが足りていれば、”チャリン”と音がします。足りていなければ、赤く光って、現在の残高がここに表示されます。」「おぉそうか、これなら俺でもできそうだ。」「はい。何か不都合がありましたら教えてください。調整します。」「そうだな。タシアナ嬢。ここの数字を入力する所だけど、俺ん所はもう決まった額になっているから、一個押すだけで出来たら嬉しいな。ボタンに一泊/一泊食事付き/一人部屋/一人部屋食事付き・とかな。回数押せば、増えていくともっといいな」「あ。そんなに難しくないので、そうしてみますね。お風呂の方も同じ感じでいいですよね。」「そうだな。少し、カミさんと相談するが、屋上の”かふぇ”もわかりやすいようにしようって事を言っていたから、料理は一律いくらみたいな感じにしてみるは。」「はい。それなら、計算が得意じゃない子でも店番できるようになりますね。」「あぁそうだな。」「解りました。ありがとうございます。改良してからまたお持ちします。」「いや。いいって。世話になりっぱなしだからな。少し位は返さないとな」「あっ忘れていた。もう一つ」「お。なんだ?」「魔道具にたまった、レインなのですが、特定のギルドカードに振り込める事で、使えるようになります。」「あん?」「えぇと、お客さんがギルドカードで支払った場合には、レインは魔道具の中に溜まっていくと思って下さい。」「あぁ」「それで、溜まったレインは、そうですね。ラーロさんのギルドカードを差し込む事で、全額ラーロさんのギルドカードに貯まる仕組みです。」「そうか、それで、俺は、またそれを他の店で使ったりできるわけだな」「はい。そうです。それで、銀貨や銅貨が必要になる事もあると思います。その時には、お手数ですが、ギルドまで着て頂ければ、硬貨を用意致します。」「ぉ!そうなのか?その魔道具に差し入れるギルドカードは、一枚だけなのか?」「いえ。そういうわけではありません」「そうか、そうすると、俺とカミさんのギルドカードを登録しておくって事もできるのか?」「はい。あまり枚数が多いと無理ですが、二枚程度なら大丈夫です。」「それなら、うちは俺とカミさんのギルドカードの登録をお願いしたい。買物行くのはカミさんだから、カミさんのギルドカードの方がいいだろうからな。」「解りました。マガラ神殿の地下三階のショップなら全部ギルドカードが使えるようになるので、買物には便利だと思います。」「そうか、重い銅貨を何枚も持ち歩かなくていいんだな。」「はい。そうなります。」「そりゃぁ便利だ。例えば、家のベイラにもギルドカード持たせて、カミさんのカードから500レインだけ娘のギルドカードにいれるなんて事もできるのか?」「はい。出来ますが、今のところ、ギルドにしか無いです。」「そうか、何か固定のレインでいいけど出来たら嬉しいな。娘への買物を頼む時に便利だからな。」「そうですね。ラーロさんの所は宿屋ですし、お風呂でも子供に少しだけレインを渡して好きに屋上で食べさせる親が居ても不思議じゃないですからね。」「そうだな。意外と今でも多いからな。子供に銅貨10枚位渡して子供は屋上で自分は下でサウナを楽しむとかな。」「そうなんですか、それなら必要ですね。一回利用で500レインとかなら簡単にできそうです。」「お。それができると、ますます、銅貨や賤貨を持ち歩かなくて済むな。いろいろ言ってしまって悪いな。」「いえ、意見を貰えて助かりました。それでは、調整してお持ちします。その時に、改めて使い方を説明します。」「あぁ解った。よろしくな」「はい。それでは失礼します。」
リンも大概だとは思っていたが、周りの子も異常なんだよな。ギルドを使って、支配しようとしているとしか思えない。さっきのギルドカードの機能だけでもたいした物だ。何か抜けが有るかもしれないが、護衛を長年してきたから解るが、金貨や銀貨を持ち運ぶだけで護衛を雇う商人も多い。それがなくなるかも知れないというのはすごく大きい。確かに、地方ではまだまだ出来ない街が多いだろうが、それも時間が解決してくれるのだろう。この優位性を考えない領主がいたとしたらそいつはボンクラ意外の何者でもない。そのうち、ギルドカードでの取引しか出来ない商隊が出てきても不思議じゃない。襲われた時でもギルドカードを盗まれた場合でも、多分保証してくれるのだろう。ギルドカード自体は、認証機能が付いていて、本人意外が使えなくなっている。それだけでもすごいのに、”銀行”と言ったか?その機能が付いたら、もう手放せなくなる。地下三階での買物はギルドカードだけ持っていけばいいことになる。
あいつらは何を目指しているんだ?

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