【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 その頃ミトナル=セラミレラは

リン君。マヤちゃん無事で居て。アロイの街を出て、ポルタの村に向かっている。ナナさんに話をしてなるべく早く到着する方法を聞いたら、馬を貸してくれた。前の世界で馬に乗った事がなかったが、一日目は苦戦したが二日目以降は困らない位には乗れている。徒歩でどんなに急いでも、7日間の行程が3日に短縮される。今日で行程の半分位を過ぎた所だろう。予定通りなら、そろそろ領主の街が見えてくるのだろう。本当なら、領主の街に入って情報収集をしたい所だが、まずはポルタの街に行こう。急いだので追い越しているかもしれないが、それでも一度リン君の育った所は見ておきたい。
馬での移動は早くていいが、けして楽ではない。技量の問題かもしれないが疲れが溜まってしまう。そして、一人で移動しているので、休む時が困ってしまう。一日目は偶然通りかかった商隊に混ぜてもらった、今日はどうしたらいいか考えている。領主の街に入って、宿を借りると言う方法もある。領主の街を避けて、別の村に行く事も考えたが、距離的な事で断念した。考えていたら、領主の街が見えてきた。辺りも暗くなってきているので、今日は宿を探す事にした。領主の街でも、ニグラの証明書は有効だった。旅をしていると伝えて、どこまで行くのかと聞かれたので、国境の街の名前を答えておいた。門番をしていた人間に宿がないか聞いたら、すぐに入れる宿はいくつかあるが、安全を取るのなら、街の中央にある宿屋が良いだろうと言われたので、その宿屋に向かった。部屋は空いていたので、お金を払って中に入った。入ってすぐに食事をお願いして、食事後に部屋に入って寝る事にした。
部屋に入ってベッドに横になったら寝られる位には疲れている。もしかしたらリン君に会えるかもしれない。そうしたら、私が隠している事を全部話す。嫌われるかもしれない。もしかしたら、殺されるかもしれない。でも、全部を打ち明ける。そう決めている。その為に一人で来たのだから....”リン君に話さないほうがいい”とまだ考えるときもある。ニグラで立花達の話を聞いた時に覚悟を決めたはず、でも、今の関係を壊したくない。ぬるま湯に使っているみたいでモヤモヤするが心地よくも有る。リン君がこの世界に残ると言ったのが私には解った。私も出来る事なら、リン君とこの世界に残りたい。
明日は早くに宿を出よう。領主も立花も帰ってこないだろうけど、転生者に会うのは”まだ"避けたい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿では朝食はないと言われたので、何か食べる物を買って、先を急ぐことにした。朝市に来てみたが、びっくりするくらい活気がない。ニグラでも出身の里でも、もっと活気があった。
「おばちゃん。これ何?」芋を蒸して丸めたような物が売っていた。
「あんた。よそ者か?」「うん。昨日始めてこの待ちに来たの」「それじゃしょうがないね。これは、コレルっていうんだよ。芋を蒸してから丸めて、串に挿して片面を炙ったものだよ。この辺りじゃよく食べられているよ」「へぇ一本頂戴」「50レインだよ。」「へぇ安いんだね。それじゃ100レイン払うから二本頂戴。」「あいよ。熱いから気をつけるんだよ。」
おばちゃんから二本受け取った。
「あっつ!」コレルはアツアツだ。感覚で言えば、じゃがいもとさつまいもの中間位の甘さで、これで衣を付けて上げたらコロッケモドキができそうだな。ギルドでも日本食を再現しようとしているけど、食材が足りないって言っていたな。
「ほら、熱いって言っただろう。」「そういえば、おぼちゃん。ここの朝市っていつもこんな感じなの?」「あぁ....昔はもっと活気が有ったんだよ」「へぇそうなんだ」「あぁここの領主が、なんとかっていう貴族に渡すんだと言って税を重くしたり、若い奴等を連れて魔物狩りに行ったりして、段々と寂しくなってしまったんだよ」「そうなんだね。」「それに、領主の息子が、街の娘を手当たり次第に欲しがってね。」「あぁそれで若い人が少ないんだね」「あんたも可愛いから気をつけなよ。さっさとこの領内から出たほうがいいよ」「そうさせてもらうよ。おばちゃんありがとう。」「なぁにいいって。機会があったらまた来なよ。わたしゃ死ぬまでここで屋台をやっているからな」「うん。今度は仲間と来るよ!!」
立花はこっちの世界でも変わらないんだな。パシリカ前で記憶が無くても下衆は下衆って事か...。そういえば、皆に話を聞いていても、パシリカ前に何か困ったって話はないし、地球に居た時の願望に近い形になっている人が多い。もしかしたら、アドラが行っていた事ってそういう事なのか?そうなると、リン君が予想している事が一番しっくり来る。だから、リン君は無事で居て。
宿を出る時に、ポルタ村までの距離を聞いておいた。知っているが情報に齟齬があると困ってしまう。簡単な行き方も教えてくれた。馬を使えば、1日程度で付くことが出来るらしい。
馬を引いて城門を出ようとした時に、守衛に止められた。出ていく時に止められるのは珍し、何かバレたか?そう思ったが、違っていた。
「おい。どこに行く?」「今から、国境の街まで行こうと思っています。途中、パシリカの時に知り合った人がポルタ村と言う所に居ると言う事なので、寄っていこうと思っています。」「そうか....。先日、ポルタ村のハズレで魔物の集団が目撃されてな。今、守備隊が討伐に出ているから注意しろよ。」「え”そうなのですか?」「あぁ安全に行きたければ、守備隊が帰ってくる予定の5日後に出る事を勧めるぞ」「ありがとうございます。少し急ぐ旅ですので、ご忠告を心に刻んで気をつけながら行くことにします。」「そうか・・・。気をつけるんだぞ」「はい。ありがとうございます。その魔物が出たというのは、具体的にはどの辺りなのですか?」「なんと言ったかな・・・ポルタの外れに住んでいる家族の家の近くだと言っていたな。ウォルシャタ様の従者になった者がニグラから急遽知らせてくれたんだったな。」「・・・・。ありがとうございます。そのあたりには近づかないようにします。」
守衛に礼を告げて、馬に飛び乗った。立花!リン君実家を標的にしたな。それとも、リン君の目撃情報でも出たのか?それは日数的に無理がある。地球と違って情報伝達速度が遅い世界だし、誰かが何らかのスキルに目覚めたんだとしたら、宮廷で自慢しているだろう。そういう話も聞かないから、原始的な方法での伝達に頼っているんだと思う。そうなると、居る居ないではなく、何か隠している物があってそれを探しに守備隊を動かしたのか?何人?あの口ぶりだとかなりの人数が動いているように思える。
まずは、リン君の無事を確認する。できれば、リン君と合流する。それが出来なければ、立花達が何をしようとしているのか情報を収集する。それも出来なければ、ギルド本部に急いで戻る。
やることは変わらない。まずは、リン君を探す。
ポルタ村に向けて馬を走らせる。半日程度経った頃だろうか?村が一つ見えてきたが、聞いていた感じと違う。村を通り過ぎようとした時に、前方に隊列を組んだ守備隊と思われる人間たちが居た。ざぁっと見た感じだと400人程度だろうか?そのまま村に入っていくようだった。守衛も居ない柵だけがあるよくある村だ。村の中央に広場の様な場所があり、そこに守備隊は駐屯するようだ。私は村に1軒だけある商店で食料を補充する事にした。
「おっちゃん。日持ちする物を銅貨3枚位適当に頂戴。」「・・・すまん。何もないんだ?」「ん?何も?」「あぁ守備隊が全部持っていってしまったんだよ」「そうかぁそれじゃしょうがないな。でも、おっちゃんは儲かったんじゃないの?」「・・・1レインにもなってないよ。」吐き捨てるように、おっちゃんは言った。「え”」「(守備隊の隊長を務めている奴が、偉そうに、魔物を倒してやったんだから、店の物を全部よこせ。文句があるならウォルシャタ様が聞くって言ってな)」「なんだそりゃぁ」「(だから、すまん。何にもなんだ。あんたも早く立ち去った方がいい。面倒な事になる前にな)」「解った。ありがとう」
「おい。お前。」「・・・・」無視して歩く。「お前だよ。そこの女。止まれ!」「私の事ですか?」「そうだ、お前だ。いい馬持っているな。俺が使ってやるから献上しろ?」「献上?言葉の意味を解って使っているの?」「あ”良いんだよ。その馬をよこせ。それと、お前も俺の女にしてやるから一緒に来い。」腕を引っ張られる。【鑑定】名前:マルビン=オットー(1)真命:川島茂ジョブ:長槍使い体力:210魔力:30腕力:530敏捷性:270魅力:10スキル:隠蔽,鑑定,長槍武技(1)ユニークスキル:麻痺攻撃,麻痺半減
川島?こいつ?鑑定持ちだから、リン君の捜索に回されたってところだろうか、無い知恵絞っていろいろ考えているな。でも、こっちはリン君の隠蔽で隠している。鑑定が有っても見破れない様になっている。それに、今の私のスペックなら、今の川島なら勝てる。事実スキルを含めて私のほうが上だ。
「お前何者なんだ?」驚愕の表情が浮かんでいる。一瞬手を離したすきに、距離を取った
「ただの旅行者よ。今から国境の町に行くの、邪魔しないで...」離れたすきに馬に飛び乗って、距離を稼いだ。そのまま、村の外に出て森の中に逃げた。
この辺りの森は浅いためか、それほど高位の魔物は出てこない。最大でもワーウルフだという事だ。群れで襲われたら対処は難しいと思うが、数匹の集団なら対処出来る。そのくらいの鍛錬はしてきている。森の中を尾行が居ないことを確認しながら進んでいく。何回か、魔物に遭遇したが簡単に倒している。暫く進むと街道に出た。街道を、先程の村の方向に進んでいる一隊が居た。多分領主の守備隊の残りだろう。届くかわからなかったが、ウィスパーの魔法を使ってみた。魔法が成功して、守備隊からの声が聞こえてきた。
「オットーの野郎。いい気になって、ウォルシャタ様にうまく取り入って守備隊の隊長になって」「お前いい加減にしろよ。今日だって、お前のせいで周辺警備なんて役割になっているんだからな。本当なら村での宴に参加していたんだぞ」「うるせいよ。あんな湿気たやろうと一緒に居ても楽しくない。俺は、周辺警護の方が良かったな」「強がって....まぁそうだな。オットーの奴。村から食料や女を無理矢理出させたらしいぞ。」「はぁ馬鹿じゃないのか?今回の件だって、魔物の群れとか行って、これだけの人数動かしたのもあいつなんだろう?」「おぉそう言っていたな。」「それで言ってみれば、魔物なんてスライムが一匹いただけで、あいつそのスライムに逃げられてんだぞ。」「はぁそうだったのか?」「あぁそれで、防御結界が張ってあって中に入れないからだとか言い出して、魔法師に結界を無理矢理破らせて、中にあった民家を破壊しただけだぞ」「あっ。民家って、テルメン夫妻の家だろ?」「あぁそうそう。」「あいつ何してるんだ?」「そもそも、それが目的だったみたいだしな」「なんだって?」「だってよ。家壊して、残骸から何か探していたけど、結局見つからないみたいだったけど、魔物もこれで寄り付かないとかカッコつけて籠に乗って帰っていったからな。」「はぁあの餓鬼なに勘違いしているんだ?」「さぁな。俺にはわからんけど、この任務が終わったら、俺はニグラにでも行くわ。」「あぁそうだな。領主や息子の下で働くのも馬鹿らしくなってきたからな」
守備隊の男たちはその後も、立花や川島の悪口を言い合っていた。ニグラに行けば何か仕事があるのかと思っているらしい。こういう人間の受け皿にもビルドは役立つかもしれない。心配なのは、リン君だ。家を破壊されたと言っていた。誰も居なかったと言うことだが、気にはなる。リン君達と帰ったと言われる。マヤちゃんの友達にも話を聞きたい。少し急ぐことにした。夜は馬を走らせるのには向かないが、街道を全力の8割位の速度で急がせた。
街道を行くと、また集落が見えてきて、話に聞いていた。ポルタ村の様だ。載っていた馬から降りて、柵に近づく。この村も守衛が居ないようだ。暗くなりかけていたが、幸いな事に人を見つける事が出来た。見つけた人に、今年パシリカを受けて最近里に帰ってきた女の子が居ないか聞いてみた。
「私は、セラミレラといいます。ニグラで助けて貰った人がポルタ村に帰ると聞きました。国境の町に行く用事が出来て、近くまで来たので挨拶しによりました。」
話を聞いてくれたのは、この村に住んでいる人だった、パシリカでニグラに向かったがまだ帰ってこない息子をこうして待っているんだと言う事だった。帰ってきたのは、まだ女の子二人だけだと言う事だ。名前は、ウーレンとサラナと言う。間違いありません。その二人です。会いたいので家を教えてくれとお願いしたら....。
「教えてあげるのも良いんだけど、会うのは無理だとおもうよ?」「どうしてですか?」「あぁ・・・。三日前までは元気にしていたんだけどな。」「何か有ったのですか?」「朝にな二人が旧水車に行くのを見たものが居るけど、帰ってきてから、二人が何か怯えるようになってしまってな」「・・・」「よほど怖かったんだろう。二人で抱き合って離れないんだよ。二人の家族は困ってしまった少ししたら落ち着くだろうって事で、二人だけで村の真ん中の家に居るんだけどな」「誰が言っても何を言ってもダメなんだよ」「そうなんですか....ひと目お会いしてダメなら諦めます。居場所を教えていただけませんか?」「あぁ隠しても居ないし、問題ないよ」そう言って、手で指差した所には、小さな家が1軒立っていた。周りの家が食事の支度でもしているのだろう、明かりが漏れているのに、明かりもなく誰か居るとは思えない感じだ。
家に近づいて、ドアをノックする。
『っヒ』と誰かが怯える声がした。意を決して家の中に入った。部屋は暗かった。生活魔法のトーチを使った。二人の少女が部屋の隅で抱き合っている。そして、何かにおびえている。
「大丈夫。私は何もしません。少しお話を聞かせてほしいだけです」「「・・・・」」「ほら、武器も置きました。大丈夫です。」「「・・・・」」「何が有ったのか教えてください。」「「・・・ごめんなさい。ゴメンなさい。殺さないで、許して、許して、マヤ・・・」」「!!」「「許して・・・。」」「マヤ。マヤって言ったの?彼女に何をしたの?」「「!!!」」「ねぇ教えて、リン君はどこに居るの?」「「あがqgh5b」」「ねぇ教えて」「「ゴメンなさい。ゴメンなさい。」」「解った。許してあげる。だから教えて、何があったの?」「「許してくれるの?私(達)を許されるの?」」「うん。大丈夫だよ。だから、何が有ったのか話をして」「うん...。」
彼女たちが語ったのは、自分達は騙された。だから許して欲しい。墓守もしっかりやる、だから家族を殺さないで欲しいという懇願が7割でなかなか話が進まない。重要な事が幾つか解った。山崎エスタールに脅されて、マヤとリンをマガラ渓谷に落とす事になった事。そして、一昨日マヤに呼び出された場所で殺されそうになった。リン君らしき人物が出てきて、墓守をするのなら許すと言われた事....そのことから解る事がある。
マヤちゃんは本当に死んでしまった。でも、リン君は生きている。生きてこの村に来て実行犯に復讐したのだという事。私が知っているリン君ではないかもしれない。でも、リン君は最後には二人を許した。許そうとした。
二人を部屋に残して、リン君が二人を殺害しようとした水車に向かった。戦いの後というよりも、なにか大きな物が落ちたんかと思われるくぼみが有るだけだ。本当に蹂躙という言葉が相応しい。私が知っているリン君のステータスではこんな事は出来ない。何か新しい力に目覚めたのかもしれない。このさきに、リン君の生家があると言う事だ。ゆっくりとした足取りで進む。何か変わった事がないのかと思って進む。
何かが動いた「だれ!?」

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