【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 鵜木和葉

この部屋とも今日で最後。明日から、またあの街に戻る事になる。自分の意思で戻る事にした。私の事は誰も知らないはずだけど、それでも何が起こるか解らない。
両親は、2年前に車の事故を起こして、他人を巻き込んで死んだ。両親にある程度の資産があった事や巻き込んだ相手が新聞記者だった事もあり、かなりマスコミで騒がれた。私の事も一部週刊誌が写真入りで取り上げていた。親の遺産は、全部私に相続されたが、叔父が管理すると言う事になった。正直どうでもいい話だ。叔父は善人ではないが悪人にもなりきれなかった人のようで、遺産を自分で管理すると言いながら、大学卒業までは面倒を見ると言ってくれた。叔父の家が好きになれなかった私はそれを辞退して、遺産の権利の中で少しの現金と”あの街”の家だけ残して叔父に譲渡した。法律的な事は、事故の処理を行った叔父の会社から来た弁護士が全部やってくれた。そして、少しの現金を持って、母方の祖父母が住む街に引っ越した。その街で中学卒業まで過ごしていた。無事、祖父母の家から近い高校に受かって、1ヶ月が過ぎた頃。祖父が農作業中に倒れてそのまま帰らぬ人になってしまった。それから、祖母と暮らしていたが、祖母も49日が終わって少し落ち着いた時に、同じように農作業中に倒れてそのまま帰ってこなかった。一人残された私は誰も頼る事がなくなってしまって、帰りたくはなかったが、両親と過ごした街に帰る事にした。幸いな事に家から近い高校に編入する事が出来た。祖父母に引き取られた時に、養子申請して名字を変えた事で、私が人殺しの娘だと思う人は居なかった。最初は家に住もうかと思ったが思い出が強烈過ぎて、家に入れなかった。両親との思い出が頭をよぎってしまって平常心で居られる自信がなかった。それに、家に戻ると知った叔父が文句を言ってきた。面倒になってしまって、叔父に生家を売ることにした。二束三文にしかならなかったが、祖父母が残してくれた貯金と併せて、慎ましく生活すれば大学卒業位までは生活出来る金銭にはなっていた。新しい住処になるマンションの手続きをしている時に、祖父母の葬儀を取り仕切ってくれた住職から連絡が来て、祖父母が生前相談していた弁護士が来て話をしたいと言われた。勿論、問題ないと伝えて、街まで来てもらう事になった。待ち合わせ場所で待っていると、女性が私に声かけてきた「鵜木さんですか?」
そうですと伝えると、弁護士は名刺を渡して来て、上野美和と名乗った。気楽に美和と呼んで欲しいと言われた。そして、立ち話も疲れてしまうから、喫茶店にでも行きましょうと言われて、駅前の喫茶店『いつものところ』に入った。美和さんもこの街の出身で、学生の頃よくここを使っていたと笑ってくれた。少し安心出来る笑顔だ。注文した物が来て、一息つけた時に「いきなり本題で申し訳ないのだけど、鵜木和葉さんで間違いないですよね?」「はい。」「何か証明出来る物はありますか?」そう言われて少し考えた。こういうときには免許とかになるだろうけど、免許はないしパスポートも持っていない。保険証では写真がない。「あっ学生証でいいですか?」「えぇ問題ないですよ。本人確認が出来れば良いですからね。」昨日貰った学生証を見せた。美和さんはにっこり笑って「ありがとう。和葉さんで間違いないようです。鵜木ご夫婦と養子縁組したのは覚えていますか?」「はい。」「あぁ大丈夫ですよ。事情は知っていますからそこの説明は必要ないですよ」「あっはい」「鵜木ご夫婦の遺言書を預かっています。」「え”遺言書?」「はい。既に一通は処理していると思われますが、それ以外にも遺言がありまして、貴方に確認してもらう為に来ました。」「・・・・。」「なんの事かわかりませんよね?」うなずく。そして、美和さんが手に持っている物を見つめている。確かに、祖父の字で私の名前がかかれている。
「私は、この遺言書以外にもご夫婦にある事を依頼されて居ました。それについての報告を貴方にしなければなりません。でも、それはご夫婦の意思ではありますが、貴方にはそれを拒否する権利もあります。どうしますか?」変わった依頼を受けているんだと思って、最初に気になった事を聞いた「美和さんは、祖父母とはどういう関係なんですか?なんか、すごく親身になってくれているようにも思えるのですけど.....。」「そうですね。昔お世話になっただけでは納得できませんか?」「・・・・・(コクン)。」「そうですよね。あっ鵜木さんが昔先生をやっていたのは知っていますよね?」「っはい」「その時の教え子だと思って下さい。そして、ご夫妻のおかげで私は幼馴染と言ってもいい男性を失わずに済んだ。」「そうなんですか.....。」「私の話は、今度ゆっくり話すとして、和葉さんの気持ちはどうなんですか?」「教えてください。何も失う物はありませんから話して下さい。」「わかりました。」
そう言って、美和さんは、祖父母が依頼していた事を話し始めた。娘夫婦が起こした事故の詳細を調べると言う途方もない事だった。そして、被害者家族の事情や現在どうしているのかを調べると言う事だった。なんでそんな事をさせたのかわからなかった。被害者家族に関しては、すぐに調べる事が出来て、祖父母に伝えたとの事だった。私も知らなかったが、被害者は、夫婦と子供2人の家族で、子供の一人は事故当時既に亡くなっていた。夫婦二人を亡くして、子供一人が残されて、私と同じように祖父母に預けられて生活していて、私よりも一年早く祖父母がなくなってしまって、一人になってしまって生まれ故郷の街に帰ってきていると言う事だった。そして、被害者家族の事をしった祖父母は見舞金として毎月10万を相手の祖父母に送っていたとの事だった。美和さんが窓口になって、相手に届けていたとの事だった。口座に入れていくだけの作業で一切手をつけられていない預金が出来上がっただけだったらしい、被疑者の祖父母がなくなって、それを知った遺族が、美和さんを呼び出して、通帳を渡して、返して欲しいと言われたそうだ。「謝罪は受け取った。自分一人になってしまったが、もう大丈夫だから、このお金は残された加害者家族に使って欲しい」と言われて、祖父母にそのまま伝えた。祖父母は、その預金を使って事故の真相を調べて欲しいと言われた。”酒が飲めない”娘婿が飲酒運転するはずがないと言うのが根拠だった。でも、父の会社の人の話や立ち寄った店の話で酒を飲んでいるのは間違いないと言う事で、飲酒運転の上での事故と処理されていた。
美和さんが来た理由は、中間報告をする事と、このまま調査を続行するのか?それを聞きに来たとの事だった。金銭的な問題もあるから、きっちりと説明してから、私に判断して欲しいとの事だった。2~3日は考える時間が欲しいと伝えると、美和さんはにっこり笑って、勿論。中間報告と祖父母からの手紙と遺言を渡してくれた。
遺言には、勝手に被疑者家族の支援をした事への詫びと寂しい思いをさせた事への懺悔が書かれていた。そして、好きに生きて欲しいと言う言葉が書かれていた。そして、好きな人と結婚して幸せになって欲しいと綴っていた。”加害者への懺悔は自分たちでする。和葉は自分の事を考えて幸せになって”と閉められていた。
遺産の目録を見た。祖父母はかなりの資産家だったようだ。山を3つ保有してそれぞれの産物の権利を持っていた。信託していた資産もある。ただの農家だと思っていたが、自分達で使わない土地を貸している所もある。某スーパの土地も祖父母の持ち物だと言う事が書かれてた。大きすぎてよくわからない。これは、今度美和さんと会うときに相談すればいい。
中間報告も読む事にした。可愛い丸文字で書かれた文章が続く、美和さんの文字なんだろうか?雰囲気は出来る女性だけど、こんな可愛らしい文字を書くんだと思って読み進める。事故が発生した時に、車からアルコール臭がしたと報告が上がっていたが、当初は父親/母親からはアルコールが検出されなかったとされていたらしい、しかし、警察が調べていると、直前に合っていた人がさそった店でお酒を飲んでいたと証言した事から、よっぱらい運転の可能性ありとなって、事故を通報した運送会社の社員の証言から蛇行運転していたと言う話もあり、ブレーキ痕がないことは酔っ払って寝てしまったのではないかと言われている。当初警察では事件の可能性もあると調べていたが、証言が出てきた事から、酔っ払い運転の上ハンドル操作を誤っての事故と結論づけた。不可解な点も多いとされていた。これらの事は今後調べる事になると書かれていた。最後のページに、被害者家族の名前がかかれていた神崎進(死去)神崎鈴(死去)神崎凛神崎悠(死去)被害者の名前は勿論知っていた。子供が居る事も知っていた。でも、名前に触れるのは初めてだった。両親が起こした事故の被害者を知るのが怖かった。ニュースや雑誌も見ないようにしていた。祖父母に引き取られてからは、余計にニュースや雑誌には触れないで居た。
名前を見た『神崎凛』。そして、当時の私に向けられたわけではない笑顔の写真と現在の何もかも諦めた目をしている写真。それを見た時に、涙が溢れてきた。小学4年の時に、クラスに馴染めないで虐められていた私を助けてくれた男子の名前が『凛』だった。同じ苗字が多い地域だから、忘れていた。『神崎凛』だ。私は、その男子のおかげで徐々に女子の友達が出来て、小学5年に上がる頃には嫌がらせもいじめもなくなっていた。密かに憧れていた。幼い恋心と言ってもいい。凛君には幼馴染の女の子が隣に居て、羨ましいとさえ思っていた。その凛君の両親を私の両親が奪ってしまった。取り返しのつかない事をしてしまった。中間報告には、現在の凛君の事が載っていた。そう、私が週明けに編入する高校名が書かれていた。
私は幼い頃に憧れた人と再開する。被害者家族と加害者家族と言う立場で.....。
それでも、私は真相を知りたい。両親が本当にお酒を飲んで事故を起こしたのなら、凛君の前で死んで詫びよう。そうじゃなかったら、凛君に知られる前に私の責任においてなんとかしよう。
この書類は、スキャンしてメモリに保存しておこう。盗まれないように....。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品