【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

フィーア迷宮.攻略前

--- ヒルデガルド Side ---フィーア迷宮に向かっている最中に、私達は攻撃を受けた。アルノルト様が、先方の長と話をしているが、どうやら、”王国の問題”に起因しているようだ。
最初は、討伐隊だと思ったようだが、この陣容を見れば、それが違うことに、すぐに気がついたようだ。集落の中央にある建物の中で、話をしているのだが、こちらの話は聞いてくれるようだ。
フィーア迷宮は、神殿跡地の様になっているようだ。ゴーレムが守っていると言うことだが、スペック次第では苦労するとは思うが、ゴーレムだけならそれほど苦労する事は無いだろう。数で来るのなら、数で押せばいい。多分、アルノルト様もそうお考えなのだろう。
今、長と場所の話をしている。この集落が、王国から逃げ出した者たちの集落だとしたら、私は彼らに合わせる顔がない。お兄様やお祖父様が何かをやったわけではないと思いたい。しかし、関係がまったくないわけではないのだろう。
それにしても、こんな集落があるとは・・・それに、もう代々ここに住んでいるようにさえも思える。実際、生活の基盤がここには出来上がっている。その上で、諜報活動もしているようだ。確かに、この集落の性質を考えれば、情報は必要なのだろう。隠れ里と言うには、王都に近い。この辺りは、たしかに軍も守備隊も商隊も、街道から外れない行程を、考えるので、この集落が発見されなかったのだろう。
「ヒルダ。ナーテ。フルール。ついでに、エステルも、問題なければ、フィーア迷宮に向かおうと思うけど、いいか?」「はい」「了解」「主様」
「フルール。覚えているよ。階層を降りてから、準備をする」
アルノルト様は、まだこの集落の人たちを信頼はしていないようだ。諜報活動を、主な収入源にしている奴らに、情報商売となる事を教えたくないのだろう。
私達は、フィーア迷宮に向かった。
「侯爵閣下!侯爵閣下!」
後ろから、キースリングと名乗っている長が追いかけてきた。
「なんだ?」「申し訳ない。一つ教えてください」「あ?」
あっ機嫌が悪くなっている。
「アルノルト様。私達は、席を外しましょうか?」「いや、いい。いいよな?キースリング殿?」「え・・・あっはい。構いません」「それで?」
問題があると言えば、アルノルト様も私達に席を外すように言ったのだろうが、キースリングは、アルノルト様が機嫌を悪くしたのを察してしまったのだろう、気にするなという方が無理だが、気にしないほうがいい。助言する立場には、無いので、話に耳を傾ける。
「侯爵閣下。迷宮ダンジョンを攻略するとおっしゃっていましたが、たしかノース街と同じようになさるつもりなのでしょうか?」「キースリング殿。言っている意味が解らない。何を聞きたい?」「・・・はい。ノース街も、聞いた所では、迷宮ダンジョンを攻略して、侯爵閣下が街として作られたと聞いています。規模の違いはあろうかとは思いますが、迷宮ダンジョンを中心として街を作られるのでしょうか?」「そういう事なら、考えていない。ただ、迷宮ダンジョンが生き返って、魔物が出てきたりしたら、冒険者を派遣しなければならない、その冒険者目当てに宿屋が出来たりして、自然と街になるかもしれない。それを止めるつもりはない」「そうですか・・・侯爵閣下。その街なのですが、儂らに任せていただくわけには行きませんか?」「どういう事だ?」
キースリングが語ったのは、ノース街に出入りしている商人に、集落の者が混じっており、ノース街の事を集落で話していた。そして、先程まで話していた人物が、ノース街の実質的な支配者で、一緒に居る私が妻である事を知っていた。
その者が、集落の若い連中と一緒にあらわれて、ノース街へ恭順してはどうかと提案してきた。そして、即刻の決議の結果、50:50になってしまった。その時に、若者が思い出したかのように、迷宮ダンジョンを攻略して作られた街が、ノース街なら、同じように、街を迷宮ダンジョンの場所に作られてしまうと、この集落の存在もバレてしまう。それならば、交渉して、その街を集落に預けてもらえれば・・・。
そう考えて行動していたようだ
私としては、それは、”あり”でないかと思っている。どうせ、勝手に街が出来るのなら、諜報活動を行っている”部族”を一つ手に入れる事になる。今後の事を考えると、アルノルト様が自由に出来る、諜報部隊が出来るのは好ましい。
「そうだな。どうせ・・・あっそうだ、フルール。どうする?」「ん?あっそういう事なら、神殿の跡地なのだろう?妾達が望む場所ではないと思うから、主殿の好きにしていいと思うぞ」「そうか、ヒルダは?」「そうね。キースリング殿。私の事もご存知のようだから、自己紹介は致しませんが、少しお伺いしてもいいでしょうか?」「はい。なんでしょうか?侯爵夫人」
やはり、知っているようなので、話を続ける事にする。
「集落の皆さんの総意だと考えていいのかしら?」「・・・反対意見もあろうかと思いますが、その者は出ていく事になります」
それは、それで、問題にはならないだろう。総意だと言われたら、嘘っぽいが、本当の事を言っているし、好感が持てる。どうせ、アルノルト様の事だから、情報はオープンにされてしまうのだろう。集落の彼らが諜報活動をしているという事は伏せられるだろうけど、彼らの事を迎い入れる宣言されるはずだ。
「そうですか、キースリング殿、嫌な言い方になりますが、アルノルト様は、王家から、迷宮ダンジョンと周辺の権利をもらっています。そこに、街を作って預けてくれとは、すごく都合がいい事をおっしゃいますが、貴方たちは対価で何を支払われますか?」「ヒルダ!」「侯爵夫人のおっしゃっている事は当然の事だと思っています。私達には、侯爵にお渡しできる物は、私達しかございません」
やはり、彼らが望んでいるのは、アルノルト様の傘下に入る事だ。それなら交渉が・・・
「ヒルダ。キースリング殿も、少し待ってくれ。まず、キースリング殿。フィーア迷宮の周りに街を作るのは了承した。そこに住むのなら、勝手にすればいい。その上で、何か俺の為に仕事をしてくれるのなら、喜んで向かい入れよう。俺から提供出来るのは、街一式と、街全体を覆う結界位だ」「アルノルト様!」「侯爵閣下!」
テーブルで話をしていた場所に、いきなり割り込んできて、全部を決めてしまわれた。
「キースリング殿。ノース=ライムバッハ家に仕えてくれるのなら、俺の為の、諜報活動をしてもらう事になるが、それでいいのか?」
ド直球。キースリングが、こちらを見て苦笑している。気がついているのだろう。頭を軽く下げる。
「侯爵閣下。よろしければ、儂らの力を御身の為にお使い下さい」「わかった、まずは、フィーア迷宮を攻略してからの話しになるが、ノース街に来たことがあるのなら、結界やゲートの事は勿論しっているよな?」「はい。問題ありません」「迷宮ダンジョンの事はどこまで知っている?」「??」「わかった、それでは、迷宮ダンジョンの事は、攻略後に説明する。移住を考える者を選別しておいてくれ、暫くは、集落との往復になるかもしれないからな」「かしこまりました」
「うん。そうだ、キースリング殿達の事の説明が面倒だな・・・ヒルダ。どうしたらいいと思う?」「え?あっ何も言わなくていいと思いますよ。コンラートには報告しておいたほうがいいと思いますが、アルノルト様がおっしゃっているのは、クリス姉様やお兄様への事ですよね?」「あっ・・・そうだよ」
何か、間があった。考えが至ったのだろう。こういう所は、素直なのだろう。
「はい。貴族から追われた者が、集落を作っているのは、珍しい事ではありません。その者たちが流れ着いたと、何か言われた時には、説明すればいいと思います。お兄様もクリス姉様も、それ以上は突っ込んでこないと思います」「そうか、わかった。キースリング殿もそれでいいよな?」「はい。儂は、侯爵閣下に委ねます」
あっ・・・何か考えている。どうせろくでもないことなのはわかっているが・・・
「そうか、それなら、キースリング殿。俺の事は、侯爵閣下と呼ばないで欲しい。アルノルトでいい」「え?そんなわけには・・・侯爵閣下なのですから・・・」
どちらが常識人かという比較なら、キースリングに軍配が上がるだろう。
「そうか、俺は、貴殿の事を、トビアス殿と呼びたいが、それでも駄目か?」「儂の事は、トビアスと呼び捨てにしてくだされ、侯爵閣下」「・・・う~ん。今は、それでいいが、俺に使えるのなら、アルノルトと呼んでもらうからな」
なんで、アルノルト様がそこにこだわるのか解らないが、侯爵や家名で呼ばれるのを好んでいない事は、殆どの者が理解している。それでも、やはり侯爵と呼ばなければならない事が多いのも事実だ。
「侯爵夫人」「え?あっそうか、なんでしょうか?」
そういわれて、誰の事か解らなかった。侯爵夫人などの呼ばれる事が殆ど無い。これからは、増えるのだろうけど・・・なれないと駄目だな。アルノルト様の事を言えなくなってしまう
「侯爵夫人からも・・・」「無理です。ごめんなさい」
こればっかりは、無理だと悟ってもらおう。それにしても、急に”仕える”事になった理由を知りたい。集落から出てきて、駆け寄った時には、すでに考えがまとまっていたのだろう。
「トビアス様。私からもう一つお聞きしてもよろしいですか?」「侯爵夫人。私に様など付けないで下さい。示しが着きません。貴方様は、侯爵閣下がいらっしゃらない時に、儂たちに命令を出す立場なのですから!」「それならば、私の事は、ヒルダと呼んで下さい」「出来ません。侯爵夫人」
あっ結構頑固なのかも知れないけど、今までに居ないタイプだし、アルノルト様の側に仕えてもらうには貴重な人なのかもしれない。
「そうですか・・・それで、聞きたい事ですが、”なぜ急に、仕える方向に考えたの”ですか?」「そう思われてもしょうがありませんよね。幾つかあるのですが・・・。侯爵閣下・・・いえ、アルノルト・フォン・ノース=ライムバッハ様が作られた、ノース街が素晴らしかった事や、新たに発令された、税制度も、領民へのサービスや、この度の内乱での、民草の事を考えてくれていた行動です。私だけの考えだと思っていたことが、これからの集落を担っていく、若者が同じ意見だったのです。これを逃したら、儂たちは何のために、生きてきたのかわからなくなってしまう。女衆からも言われて、慌てて後を追いかけてきたのです」
まだ語っていない事もあるだろうが、ナーテの方を見てから、フルールを見て、最後にエステルを見る。エステルは笑って、OKとサインを送ってくれた。人間的に問題はないのだろう。
「わかりました。アルノルト様。もうこの件は、アルノルト様の好きにして下さい。私も、ナーテもフルールもエステルも同じ気持ちです」
--- アルノルト Side ---急な展開だったが、皆が認めてくれた上に、フィーア迷宮の住民が決まった。収支のバランスは、今後の課題だったが、これで一歩前進した事になる。信頼できるか解らないが、街を任せる位なら大丈夫だろう。駄目なら、迷宮の機能を使えば、どうとでも出来る。街を作るのは、ノース街の時を作ったときのようにすればいいだろう。規模もそれほど大きくする必要はないし、今の様に隠れ家的な街でもよいかも知れない。
まだ、フィーア迷宮を確認していないが、街道から離れていれば、わざわざ道を作って人を呼び込む必要は無いだろう。結界でエルブンガルドの様にしておけばいいのかも知れない。このあたりは、街が出来てから、トビアスと話をすれば、いいのだろう。
「そうだ、トビアス!」「はい。なんでしょうか?」「トビアス達の様に、王家や貴族から離れて、集落を作っている一族は知らないか?」「え・・・そうですね。好意的な者達は少ないのですが、いくつかの集落を知っています」「そうか、もし、トビアス達が問題なければ、その者たちにも声をかけておいてくれ。あと、好意的じゃない奴らには、刺客を送りつけるから、場所を教えてくれ」「はっかしこまりました」
「ん?いいのか?」「え?何がですか?」「いや、かなり無茶な事を言っていると思っているのだけど?」「いえ、好意的な者たちに、声をかけて、先方が望めば、街につれてきていいのですよね?」「ん。そのつもりだけど・・・」「喜んで来ると思います」「そうか?それなら、本当に来たら、教えてくれ、長にだけでも会っておきたい」「かしこまりました。それで、刺客を送る連中なのですが、野盗化したりする者以上に、帝国や共和国に情報を流している奴らも居ます。そいつらを先につぶしておく必要があると思います」「え?あっそんな奴らが居るのか?」「はい。儂たちは、それでも比較的緩やかに逃げ出した者たちが多いが、貴族連中に追われるように逃げ出した奴らには、貴族に強い恨みを持っていて、情報を得て売り渡している連中も少なくありません」「そうか、わかった、フィーア迷宮の攻略をしてくるから、その間にまとめておいてくれると嬉しい」「かしこまりました」
うん。ユリウス陛下への土産が出来た。フィーア迷宮の階層に入った所で、一度ノース街に戻ってから、休憩して、攻略に入って・・・攻略後に、王都に一度戻って、クリスとユリウスに話してくるか!

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