【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

ユリウス陛下

--- クリスティーナ Side ---偽王達から、王城を取り戻して、いろいろな方法脅しで、ライムバッハ侯爵を、王都に縛り付ける事に成功していた。
今の王都には、住民を支えるだけの生産力はない。ノース街に頼らざるをえない。生産力というだけではなく、破壊された街並みを修繕したり、遺体の処理をしたり、人手も資材も必要になってしまう。残っている商人を頼ってもいいが、単純に借金になってしまう。ノース街からなら、交渉で王家が持っている物を渡すなどの交渉の余地がある。あと、領主のライムバッハ侯爵が独自の価値観を発揮すれば、王家では必要ない物との取引で済んでしまう可能性さえある。
ゴーレムを借り受ける事に寄って、かなりのスピードで王都の復興はされている。取り壊しになった貴族の屋敷を、そのまま宿屋に使うなどの方法も提案されたが、ユリウス陛下が却下して、全て取り壊す様に命じられた。そこに、ノース街の技術者を招いて、区画整理された、住宅街を建築する事になった。改易されなかった貴族達も、屋敷を手放して、領内に戻る事になる。ライムバッハ侯爵のゲート魔法を設置する条件になっている。貴族も、わざわざ王都の屋敷を維持するよりも、自分の領を運営しながら、王都に報告に来る方が楽なのだ。今までは、それを行うために、どちらかに代官をおいて、連絡させる事になっていたが、ほぼノータイムで移動出来る事から、維持する必要性がなくなったのだ。
これから、ライムバッハ侯爵に会って、最終的な調整を行う事になっている。
約束している部屋に入る「あれ?ヒルダだけなの?」「クリス姉様。ごめんなさい」「ヒルダ。どうしたの?ライムバッハ侯爵様は?」「・・・・これを・・・」
ヒルダが渡してきたのは、委任状とクリスあての書状だった。委任状は、ヒルダに全てを任せるという物だ。
もう一枚は、王都への支援を始め、問題なく行う事が書かれていた。食糧支援に関しては、貸付の形にはなるが、難民が半年暮らせるだけの物資を融通してくれる事が書かれている。それ以外にも、ゴーレムの貸出に関しては、料金は必要ない旨が書かれている。他にも、今回決めなければならないと思っていた事が、提案ベースとして書かれているが、問題ないレベルでまとめられている。
「ヒルダ。これは、ライムバッハ侯爵が?」「はい。クリス姉様。それから、別途、これらを履行するにあたって、二つ絶対に承諾して欲しい事があるそうです」「なんでしょうか?」「一つ目は、”俺の事を、侯爵と呼ぶな”だそうです。公の場では、しょうがないとするが、それ以外の場所で、侯爵と呼べば王都への優遇処置は全て打ち切ると言っていました」「・・・あの人は・・・まぁ良いでしょう。私とユリウス様だけでいいのですよね?」「それは明言されていませんが、そう考えるのが妥当だと思います」「わかりました。了承しましょう」「ありがとうございます。それで、もう一つなのですが、私が来ているのも、これが大きな問題だと思ったからです」「・・・それは?」「クリス姉様。王都には、子供を通わせる学校はありませんよね?」「まさか・・・」「はいそうです。成人前の子供を、ノース街で預かって、学校に行かせる事が条件になります」「・・・それは、親や子供自由意志でよいのかしら?」「いえ、義務教育・・・・です。その為に、財源が必要なら、ノース街から提供するし、働き手が必要ならゴーレムを貸し出すと言っています」「・・・ノース街のメリットは?」「子供が居れば、親が移動でお金を落としますし、子供もお金を使います。それに、ノース街で教育を受けて、優秀な子供をノース街で抱え込む事も出来ます」「・・・そうね。でも、メリットとしては少ないと思うのだけれど・・・」「・・・そうですね。これは、アルノルト様が言っているわけではなくて、私が勝手に思っている事ですが・・・」
ヒルダは、そこで用意されている飲み物を一口含んでから
「子供の死亡率・・・を下げるのが目的だと思います」「死亡率?」「はい。クリス姉様。王国の・・・それも、地方領や開拓村の子供の死亡率は知っていますか?」「・・・ごめんなさい」「そうですよね。私も、アルノルト様から聞いて驚きました」「・・・」「戸籍・・が無いので、正確な数字ではないと言っていましたが、5人に1人は、6歳前に死んでしまいます。そして、残りの4人のうち半数の2人は奴隷になったり、行方不明になったりしています。5人の子供が居て、成人になっているのは、2人程度という事になります」「・・・」
まぁ確かに、王都や辺境伯の街などでは、もう少し多いとは思うが、その位なのだろう。でも、それは、仕方がない事で・・・。
「クリス姉様。一報、王都や貴族の街では、スラム街などがある場合はわかりませんが、それ以外では、ほぼ全員が成人になります」「・・・」「この違いは、わかりますか?」「・・・」「そうですよね。いろいろ有ると思います。それに最終的には、”仕方がない事”で終わらせているのでは無いのでしょうか?」「・・・ヒルダ・・・それは・・・」「大丈夫です。アルノルト様も、私も、その件で、ユリウス陛下やクリス姉様を責めようとは思っていません。”仕方がない”と思って当然だと考えています」
そうなのだ、”仕方がない”事ですまされる問題ではないのは解っているが、結果として、”仕方がない”事で済ませてしまうしか無い。実質的に、どうしたら良いのかなんて解らない。死亡理由もいろいろあるのだから、その一つ一つを取り除くなんて事は不可能ではないのだろうか?
「クリス姉様。一つ、教えてください。”学校”の知り合いで、卒業までに死者は出ましたか?」「・・・」
そうだ、辺境の村から来ていた物もいた。演習で死にかけた者も居たが・・・。
「ほぼ居なかったと思います。それは、なぜだと思いますか?」「・・・なぜ?」「はい。そんなに難しい事ではありません。食事が改善されたからです。確かに、寮での食事は、王国貴族が食べるような物ではありませんが、開拓村での食事に比べれば、栄養の面だけでも優れています。ただ、それだけで、死亡率が下げられる可能性があるのです」「・・・でも、それでは、ノース街の負担が増えるだけじゃないの?」
そう、たしかに、学校を運営して、子供に食事と教育を与える事は有意義な事だろう。それが出来ないから、貴族や裕福な子供だけが学校に通っているのだ
「クリス姉様。それこそ、ノース街のノース街たる所以です。ノース迷宮をお忘れですよ?」「迷宮?」「はい。迷宮の低階層に、魔物ではなく、動物が湧き出すように出来るのです。そうしたら、食料の調達が出来るようになります。それに、ノース大森林もあります。そこから、森のめぐみの採取を行う事も出来ます」「あっそれで、食料は大丈夫と言っているのね?」「そうですね。それに、低位の冒険者には、迷宮の下層部は戦いにくいし、稼げないので、その者達への救済処置として、低階層は食肉に適した動物や魔物が出る事になります」
「そう・・・ますます、ノース街に、冒険者が集まるということね」「えぇそうですね。でも、ノース街には直接来られないので、必ず王都を経由して貰う事にしています。それも変える事は出来ますが、アルノルト様の決定で、ゲートの基準点スタート地点は王都にすべきだと言われています」「それはなぜ?ノース街が中心になったほうが、栄えるのではなくて?」「・・・私もそう言ったのですが、”面倒”の一言で却下されました。それに、王都が栄えないと、駄目だろうという事です。各領主へのゲートは、王城の中に置いて限られた者しか使えなくしているのですが、金さえ払えば、移動できる物として、各ギルドに配置する事にしてありますよね?」「そうですね。王城の物は、領主と従者と家族だけが使えるように言っています。それ以外の者が利用する時には、申請が必要になります」「えぇそれで、ゲートカードが必要になってきています」「そうですね。ギルドの方は、マナベ商会が、貸主となる形になっていると聞いています」「はい。通る人数で課金する仕組みにしたようです」「え?そうなの?」「はい」
それだと・・・一人が馬車をひいて、大荷物を移動しても、一人分で大丈夫という事にならないのか?
「金額は?」「ギルドから、マナベ商会に支払われる金額は、一人、銅貨1枚になっています。ギルドが利用者に、いくら請求するのかは、マナベ商会からは子弟しないと言っていました」「え?それでは、ギルドに寄って金額が違うの?」「そうなります」「それでいいの?」「”問題ない”と言っていました。それから、移動する時には、ギルドカードの提示を徹底しているので、履歴が残るようになっていると言っていました」「履歴?」「はい。例えば、お兄様が、クリス姉様の目を盗んで、ヘーゲルヒ街に行って、戻ってきたら、それが後日解ってしまうという事です」「・・・何を、言っているのか・・・でも、状況は解りました。子供の件は、陛下に確認してから返事でよいかしら?」「問題ないですわ。クリス姉様」
ヒルダが座席から立ち上がって、一礼してから、部屋を出て行く。これだけの事を決めたのに、多くは、ノース街というか・・・アルノルト・フォン・ノース・ライムバッハ侯爵の考えを知る為の時間だった。
少しだけ憂鬱な気持ちのまま、陛下の所に赴く。今の時間なら、宰相と会談をしているのだろう。改易された二つの辺境伯領と、依子になっていた貴族たちの処遇について決めなければならないのだ。アルノルト様が早々に報奨を受け取ってくれた事は嬉しい誤算だった。固辞されたら、後々まで火種として残ってしまったかもしれない。その点だけは、感謝している。
結局、アルノルト様は、侯爵を受けてくださった。その上で、王国にある迷宮ダンジョンだと思われる遺跡の探索許可と、生き返った場合の所有権を主張した。それ以外に、王都を守るように作られた、城塞街の所有を認める事になった。これに寄って、王城を囲むように、ライムバッハ侯爵領となる事が決定した。今、その領に城塞街間とノース街を繋ぐ大きな壁の建築が開始されている。全長数百・・・いや、もしかしたら、数千キロにもなるかも知れない。城壁を作っているのだ。そして、設計段階で見させてもらったが、城壁の中をゴーレム馬車が高速で移動できるようになっていて、途切れないように、結界が設置出来るようになっている。あと、なになら、テディとアルノルト様が話をして、いろいろな仕組みが入っているのは間違い無いようだ。
ゲート魔法が実用化されるに従って、城塞街の意味合いが変わってきている。今までは交易上必要な物であったが、ゲートでの移動が一般的になりつつある状態では、城塞街を通る必然性が低くなる。その為に、アルノルト様が、街を求めた理由が解らなかったが、王城を守る砦としての役割を持たせる事になるようだ。
「クリス!」「あっ申し訳ありません。陛下。それで、ライムバッハ侯爵からの提案は以上です」「わかった。宰相。どう思う?」
ユリウス様に、アルノルト様からの提案を渡した。それと、清書させた二つの条件も合わせて、渡してある。
宰相は、最初渋い顔をされていたが、何か意図を感じ取ったのだろう、少しだけ安堵の表情を浮かべている。オブザーバとして、呼ばれていた、ヘーゲルヒ辺境伯も、アルノルト様からの提案書を眺めて、問題なしとおっしゃっている。
ユリウス様が、宰相とヘーゲルヒ辺境伯を従えるように、なっているのはいい傾向だと思う。私やアルノルト様の様な若輩者だけでは、どうしても、どこかに、綻びが出てしまう。それを、上手く塞いでくれている。
ユリウス様が、宰相はともかく、ヘーゲルヒ辺境伯をお側に置く人事を発動した時には、皆が驚いた。唯一、それに対して、最初から賛成だったのが、アルノルト様だけなのだ。
それから、ユリウス様と宰相と辺境伯で、アルノルト様からの提案をベースにした、法案を作ると言っていた。私は、一礼してから部屋を出た。
昨晩の話になるが、ユリウス様から言われたのだ「クリス。俺の后となるのは、もう少し後だが、だからこそ、これからは、国政に関わるような場には出ないようにして欲しい」「・・・解りました。こうして、二人っきりの時にはかまわないのですよね?」「当然だ。ただ、宰相や辺境伯が居る所で、意見するのは辞めて欲しい」「・・・わかりました」
この提案自体は、まっとうな事なので、問題はない。問題は、この入れ知恵を誰がしたのかという事だ。私には、一人しか心当たりがない
「ユリウス様。ライムバッハ侯爵からですか?」「なんのことだ?アルに言われたからじゃないぞ」
解りやすい。でも、本来なら、私が言わなくてはならなかった事なのに・・・。
こんな事があったので、私は早々に部屋から出ていった。
私は、数日後に迫った、ユリウス陛下の”戴冠の儀”の最終調整の為に、神殿に向かう。戴冠後に、婚姻の儀も同時に行う事になっている。

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