【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

行動開始

--- ギルベルト Side ---昨日から、アルが言い出した作戦が始まった。初日こそ、反応がなかったが、今日から本当の作戦が始まる。
まずは、捕虜たちが一箇所に集められる。その時に、意図的に”奴隷”や”女性”は、排除される。また、商人の丁稚をやっている子供も外された。選別された事も解らないで、自分たちの正義を喚き散らしている。
今になって調べてみると、男爵家や騎士職にある様な者まで、捕虜になっている腹が減って、自らが街の外に出て、捕虜になった者や、アルの部隊が少数なのを見て、勝てると思って、仕掛けた愚か者まで居る。
ヘーゲルヒ辺境伯が、今晩、奴らのところに忍び込む事になっている。それを阻止できない愚か者が、俺だという事になっている。最初は、アルが阻止できない上に、逃げられてしまう、愚か者を演じると言っていたが、俺がやる事にした。これに関しては、アル以外の者から、満場一致で許可された。
アルは、別に気にしないと言っていたが、それでは困るのだ。俺の名声なんて・・・正直いらない。商売での名声なら欲しいが、戦闘経験や従軍経験での名声など邪魔にしかならない。それなら、俺が不名誉や役割を演じるほうが、いいに決まっている。俺が、辺境伯の侵入を防げなかった事や捕虜の脱走を防げなかった事で、アルから罰を受ける事も決まっている。
それが、アルが出してきた条件だ。その罰は、後方支援に回される事になる。具体的には、コンラートと入れ替わる事になる。今、コンラートが行っているのは、ヘーゲルヒ街や領内から、討伐軍に対してのフォローをしている事になっている。それを、俺が引き受ける事になる。ノース街からの要請で、コンラートを帰して欲しいという事だ。それで、俺が後方に下がる事になるが、ただ下がるよりも、ミスをしたので・・・と、いう形にしたほうが、俺が動きやすいだろうと、ヘーゲルヒ辺境伯が進言してくれたようだ。
もうすぐ、食事を運んでくる給仕にまぎれて、辺境伯が、捕虜達のところに行く。その後で、俺達は、戦勝気分に浸って、少し離れた天幕で、辺境伯を交えて、酒盛りをする事になっている。
「ギルベルト様。給仕が来ました」「解った、怪しい奴が紛れていないか、しっかり調べてから通せ」「はっ」
盛大なる茶番が始まった。知っている部下たちと知らない部下たちが居る。商人あがりの連中は、知らない。辺境伯の部下たちは、形だけで、辺境伯がアルに従っていると思い込んでいるので、こういう時にはすごくやりやすい。
「どうした?」「いえ、昨日よりも人数が多かったようですし、食事の量も多いように思えました」
こいつは、ヘーゲルヒ街の商人の三男で、修行に出ていたのを、拾ってきた。俺よりも二つしただが、学校には行かないで、商人のところで修行をしていた。なかなか、頭の回転も早い上に、観察力もある。こういう奴が上に行けない様では商人の世界も駄目になっていくだけだろう。
「そうか、それはいい。俺が、後で聞いておく。ありがとうな。これからも、何か気になったら教えてくれ」「はい!!」
俺がマナベ商会を盛り立てていると本気で思っているようだ。正直な事を言えば、マナベ商会は、誰が仕切っても、儲かるのではないかと思えてしまう。それも、あくどい事を一切しないでも、大商人の仲間入りは間違いない。そんな事は、外では言えない。こいつみたいに、マナベ商会を俺が切り盛りして、ここまで大きくしたと本気で思っている奴らも多い。夢を壊すわけにも行かないので、説明したりしていないが、そのうち教えてやらないと駄目だろうな。本当にすごいのは、アルの発想力である事を・・・。
「ギルベルト様」「どうした、給仕が終わって、持っていった酒精・・が余ったという事で、もらってしまいましたが、良かったですか?」「・・・まぁもらってしまった物はしょうがないよな。今日は、捕虜も敵勢力も静かだろう、いいぞ、せっかくだから、皆でもらった物で休憩するか?」「え?いいのですか?」「あぁ構わないぞ」
天幕に持っていく。順番に天幕に入ってくる。
俺が天幕に入ったところで、ヘーゲルヒ辺境伯がタイミングよく入ってきた
「シュロート殿?」「なんでしょう」「日頃からお疲れでしょう。今日は。私達が、捕虜たちを見ています。シュロート殿達は、お休み下さい」「え?いいのですか?」「構いませんよ。私達は、何かするわけではありませんからね」「・・・そうですか、それではお願いします」「わかりました」
予定調和とはいえ、儀式は必要だろう。俺と、辺境伯が、見張り業務を交代した事になる。捕虜たちを辺境伯が逃した後で、辺境伯は、自分の天幕に戻る。そして、俺の部下の一人が、捕虜が居ない事に気がついて、騒ぎ出す。
騒ぎを聞いて、駆けつけてきたアルが、俺を叱責する。そして、俺を後方に下がらせる事になる。
そして、この情報は、捕虜達の中でスパイ活動をしている者を伝わって、王都に流れる事になる。
ここまでする必要は無いかと思うが、アルとしては、俺がヘーゲルヒに戻った後で、やりにくい環境に置かれるのは避けたいらしい。
さぁ王城の皆さんや、捕虜の皆さんが、こちらのタクトで踊ってくれるのか楽しみになってきた。
--- ギード Side ---アルノルトの作戦を聞いて、どこまで出来るか解らない。王城を守っていた軍なら、この程度の流言のやり取りなら看破出来るかも知れない。
罠と解っても、この作戦のいやらしいところは、止める事が出来ない事だ。兵士たちは、もう誰と戦っているのかわからない状況になっているのだろうし、”飢え”との闘いにもなっている様だ。
アルノルトが、カルラ嬢に内情を探ってきて欲しいと言っていた。第一報が来たので、一緒に見る事になった。今、西門と東門と中央は、アルノルトの魔法で行き来が楽に出来るようになっている。
それを見ていて、あまりの酷さに吐き気がしてきた。状況は、すでに臨界点を越えているように思える。だが、王城にはまだまだ食べ物や飲み物を大量に出ていて、豚が消費を続けている。女もどこから連れてきたのか解らないが、豚に献上されている。
アルノルトが携帯電話で確認をしている『クリス。少し聞きたいけど、今大丈夫?ユリウスが近くに居るのなら、別の機会にするよ?』
本当に、一言余計だと思うが、それが関係を悪くしない者だから、問題は無いのだろう。
『へぇそう。それじゃ、別に、俺らの包囲網の隙間を』
何かしら秘密があるのだろう
『あぁそうか、犯罪者か・・・貴族に逆らって、貴族の屋敷に捕えられていた人たちまでは流石に救えなかったのか・・・』
そうか、それを忘れていた。貴族たちは、自分に逆らった奴らで、法で裁けないような人間たちを、自分の屋敷にとらえておく牢屋を持っている奴らが少なくない。そこに捕えられていた、女達を、豚に貢いでいるのか
『うん。わかった。その計算だと、食料が尽きるまで、1ヶ月位かかってしまうよ?』
地下倉庫か?それとも、王城にある兵站用の食料も食い荒らすつもりか?
『了解。詳細な場所とか、”馬鹿でも、ユリウスでも、解る食料庫までの地図”とか書けない?』
本当に、なんで、この人達は・・・これで賦形剤にならないのだから、不思議な関係だよな。
『えぇユリウスでも解る地図は無理?それは、しょうがない。馬鹿でも解る地図で我慢するよ。』
は?クリスが、それを言うのか?ユリウス殿下が段々可哀想に思えてきた。
『うん。どうしたらいい?』
書いてくれる事は書いてくれるようだ
『わかった。それじゃ、2時間後に行くよ。うん。そうそう!それじゃね』
電話を切った「クリスが言うには、地下や守備隊の食料庫から、出ているのでないかと予測できる。て、事で、偽王が一人で食べているとしたら、数年位持ちそうだし、王城に居る高官や貴族だけで食べたとしても、数ヶ月位はかかるだろうという話だよ」「それで?」「あぁ地図を書いてもらって、王城の上からばらまく!」「え?」「腹減っている兵隊がこっそりの忍び込めるような情報を渡してあげようと思っただけだよ。いい考えだろう?」
それから、時間をかけて、じっくりと城内の様子を見てみる。やはり、王城の中は警備が厳重だが、忍び込めないほどではない。こうして、忍び込んで映像が流れてきている。
予想通り、王城の中に居る奴らは、比較的食事には困っていないようだ。城壁を守っている部隊の一般兵がつらそうにしている。一日一度の食事と水だけで過ごしている。正確には、生きているというレベルだ。
そこに、アルの流言が紛れ込む。流言には違いないが、他がやるなら俺達もっと思ってもしょうがない事だろう。
2時間後に、一旦席を外した、アルは数分で戻ってきて、大量の紙を持ってきていた。そこには、王城の地下倉庫への入口と入るための方法が書かれていた。後は、守備隊が溜め込んでいる食料の位置も書かれている。
「アルノルト。これをどうするのだ?」「ん?ばらまく?」「そこを疑問形で言われても困るのだけどな」「いや、各城壁で、配ってももらってくれないだろう?」「当たり前だ」「だったら、ばらまくしかないと思うのだけど?」「そうだな・・・だから、どうやってばらまくつもりだ?」「ん?それは、簡単・・・ナーテ!」
外で聞き耳を立てていたのだろう。恥ずかしそうに、頭をかきながら、ナーテが部屋に入ってきた。「ん?何?にいちゃん」「うん。ごめんな。もう少し、暗くなったら、この紙を西と東と北の、城壁にばらまいてきて欲しい」「りょうかい。適当でいいの?」「あぁそれでいいよ」「わかった」
紙の束を、受け取って、ナーテは部屋から出ていった。
予定調和の茶番劇も終わって、予定通り、俺達は邪魔な捕虜を全部処分出来た。女や奴隷達は、ギルに連れられて、ヘーゲルヒ街に行く事になっている。
ここまでは、予定通りだ。そうなると、明日には、少し動きが有るのだろう。
今日は、時間も遅くなったらから、解散して寝ることになった。ハンスに酒を誘われたが、明日に残ると困るので、自体して自分の陣に戻った。陣では、城壁兵に向けて、情報提供が続いている。普通なら、どれが本当なのか考えるのだろうけど、一つも本当の事が入っていないなんて、しったら、城壁の中で頑張っている奴らはどう思うのだろう。
--- カルラ Side ---王都や王城の監視を言われてから、アル様に、貸し出されたゴーレムを使って、潜入調査をしている。正直な話、楽すぎる。
「カルラ」「はい」「潜入も今晩まででいいからね」「・・・・解りました」
アル様の包囲作戦が始まって、1週間が経過した。逃げていった捕虜が、王城に入った時には、一時的に、アル様は陣を30分後方に下げられた。でも、翌日には、更に前進した位置に陣地を構築した。
アル様の身を案じた方々から、お叱りを受けたが、どうする事もできなかった。その代わり、アル様に”借り”だと言ってもらえた。そちらのほうが大きい。陣地も、ゴーレムを前面に並べているので、よほどの馬鹿か勇者でも無い限り、打って出るとは言えないようだ。それでも、弓矢が飛んでくるかと思ったが、一本の矢も飛んでこない。
西門と東門に居る両者からは、夜になると、5-10人単位で、抜け出してきて、保護や恭順を示す兵士が増え始めている。戦力差は完全に逆転してしまっているだろう。
それでも、アル様はまだ突撃命令を出さないでいる。
10日目の朝を迎える時に、「カルラ。今日は、忙しくなるよ」「え?」「ほら、あれ!」
王城の辺りから煙が出ている。炊事をしているような煙ではないのは、すぐにわかる。多分、食料庫を襲った集団が火を放ったのかもしれない。もしかしたら・・・
「貴族たちが、自分たちを守る為に、火を付けたのだろうね。自分たちは、王城の地下の食料があると思っているからね」「え?」「ん?」「いえ、実際に、食料は”有る”のですよね?」「ううん。ないよ?」「え?どうやって?」「簡単だよ。ナーテのゴーレム隊を最近見ていなかったでしょ?」「・・・そう言えば・・・」「ゴーレム達は、食料庫の占拠・・・破壊かな。入口の・・・を、しているからね」「え?どうやって?」「カルラも、王城に潜入したよね?」「えぇゴーレムがですけど・・・」「あれと同じだよ。クリスが作った地図を参考に、ゴーレムを移動させる。場所が確定できたら、ゲートの魔法陣を向こうにも展開する。それで、ゲートを繋げておしまい。あとは、部屋から出て、入口を壊して終わりだね」「・・・そんな・・・」「ん?そうしたら、必然的に、軍の備品の食料を貴族達が欲しがるだろうね。でも、軍としても必死で抵抗するだろうね」「あっ・・・それで、貴族が・・・」「そう、彼らは、悲しいくらいに自己の事しか考えないからね」
「・・・それでどうされますか?」「うん。カルラ。少し危険だけど、頼めるかな?」「はい。畏まりました」
橋を落とす。多分、それほど抵抗には会わないだろう。それでも、やはり用心しておく必要は有るのだろう。
「アル様は?」「陛下をお迎えに行ってくる」
ユリウス殿下とクリスティーネ様を連れて、王城に凱旋するのだろう。
アル様に一礼して、部屋から出て、同僚と話をして、内部に潜入している者にも、作戦の決行を伝えた。

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