【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

それぞれの思い

--- ヒルデガルド Side ---「クリス姉様。いえ、クリスティーネ様」「ヒルデガルド様」「宰相が来られたのです。なぜ、お会いになりませんのですか?ユリウス皇太子も・・・・です」「ヒルデガルド様。貴女は・・・・」「私は、ライムバッハ子爵夫人です。クリスティーネ様」「そうでした。子爵夫人。宰相は、どこに居られるのですか?」「子爵邸で、ゴーラム隊に護衛をさせています」「ありがとうございます。陛下・・を連れて必ず向かいます」「お願いします」
宰相が、昨日、ライムバッハ子爵の街。王都の北側に位置して、大森林にある街。ノース街に、ヴィリバルト・フォン・ロットナー子爵と共に、逃げ延びてこられた。ユリアンネやラウラ達から聞いていた話が、全て事実である事や、お祖父様やお父様だけではなく、王宮に居た者の殆どが、殺されてしまった事を告げられた。
宰相は、私に告げられる範囲での話をしてくれた。それだけで十分だった。お父様が亡くなった事。お祖父様が、最後は殺されてしまった事。そして、豚は、王家を乗っ取った気になっている事。
宰相が到着してから、数時間後に、王都に居る豚と猿から、ライムバッハ子爵宛の書類が届いた。形式だけは、正しいが、王家の書類を示す。印がなければ、封も違う。正式に、アーベントロートを名乗る事が出来るような物ではない。
内容は・・・宰相の名を詐称する人物を差し出せ。不当に、得た地位と領地を、王家に返還せよ。婚姻は、王家が認めた物ではない、ヒルデガルド・フォン・アーベントロートの正式な夫は、ミョィルデリン国王である。
そんな内容が一方的に告げられていた。
アルノルト様・・・どうしたら・・・・いいのですか?
--- ユリウス Side ---宰相が逃げてきた。それは、想定していた事だ。
俺もヒルダもクリスも・・・。宰相から、告げられた言葉が、俺の決心を鈍らせる。
”ミョィルデリンが、陛下を弑逆した。その上で、皇太子・フォイルゲン辺境伯・モルトケ子爵は、私を逃がすために、バルリング辺境伯の私兵と戦い。命を落としました。私が、ロットナー子爵と命永らえて、ノース街に来たのは、ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート陛下とクリスティーネ・フォン・アーベントロート王妃にその事を告げなければならなかったからです”
それだけ告げて、宰相は、床に倒れ込んでしまった。俺の事を陛下と呼び、クリスを王妃と呼んだ・・・。
陛下が崩御されて、オヤジが死んだ。クリスの父親も死ぬだろう事は解っていた。モルトケ男爵・・・子爵にオヤジがして、儀礼をしたのだろう。
ロットナーも男爵だったはずだ。それが、子爵と呼ばれている事から、何が行われたのかは想像できる。
そして、俺の手元には、クリスから渡された、”玉璽”が有る。
爺さん・・・・オヤジ・・・。俺がアーベントロートを背負うのか?その前に、イレーネに、どう説明したらいいのだ?
アル・・・おれは、どうしたらいい?
--- クリスティーネ Side ---宰相が逃げてきたようだ。想定していたが、やはり、お父様は宰相を、逃がす事を選んだようだ。
同時くらいに、王都に居たフォイルゲン家の者達も、ノース街に逃げてきた。どうやら、難民やノース街への移住は、皇太子様とお父様が行っていたようだ。その為に、フォイルゲン家の王都にあった屋敷は、すでに売ってしまったし、資金も殆どなくなってしまったと報告を受けた。跡取りは、弟がなる事になっているので、領地の心配はしなくて大丈夫だと言われていた。実際に、領地からは問題が発生していないと連絡を受けている。
難民やノース街への移住を望む者の対応は、コンラートとヨハナとフルールが行っている。シュトライトとエードルフは、城壁の警護を行っている。
王都からの難民だけではなく、獣人達の移住も平行して行われている。これらは、ユリアンネ達が交代で行ってくれている。後は、アルノルト様が連れてきた、エルフ族が率先して対応してくれている。
ノース街では、私やユリウス様は、客人扱いになっている。それは、しょうがない事だと思うが、何か出来る事が・・・有るのではないかと思って、ヒルデガルド様を探していた。
”宰相に会わないのか?”
そう言われた。避けているわけではない。ユリウス様も、宰相から伝えられた事を、事実として飲み込んでいらっしゃる。私も同じだ・・・しかし、”文句を言いたくなっている”勝手に決めて、勝手に死んでしまった、父様や皇太子さま。その”ツケ”を私達に払わせるつもりなのだと・・・。
宰相を避けているわけ・・・では、ないと思っている。でも、ヒルデガルド様から見たら、避けているように思えたのかも知れない。
私は、王妃になる。そして、ユリウス様は、陛下と呼ばれる立場になる。その前に、大きな置き土産を片付けなければならない。宰相の話を聞くのは当然だとしても、それは、後日でも大丈夫なはずだ。ユリウス様には、覚悟を決めてもらう事からも、必要なことだろうが、私はそれに従うだけだ。
しかし、今、私に出来る事がある。ユリウス様の為にも、ヒルデガルド様の為にも、そして、迷惑を被っている多くの臣民の為に・・・。「誰か」「はっ」
父様から頂いた力を使う事にする。
「王都を守る砦の様子を見てきて、もし、ユリウス陛下に敵対する様なら、早急に対応を考える」「・・・御領地はよろしいのですか?」「えぇそっちは、弟や残っている者でなんとかするでしょう」「かしこまりました」
影達は、すでに、近くには居ないようだ。特殊能力持ちだとは聞いているが、それがどのような能力なのかは聞いていない。今度の為にも、能力の把握は必要になってきそうだ。
アルノルト様。私達は、間違っていないですよね?
--- コンラート Side ---「コンラート殿!これは、ここでいいのですか?」「あっ宿屋の資料ですか?最新版なら、私の所にお願いします。それから、商店の方はどうですか?」「商店は、ギルベルト殿が仕切っています」「わかりました」
「コンラート!」「あぁシュトライト殿・・・どうされましたか?」「あぁ俺は、今日は非番だからな。お前の手伝いをしようと思って来た」「それは、嬉しいのですが、お休みの時には、休んで下さい」「そう言われてもな」「確かに、ヒルダ奥様が必死にやっておられるのを見てしまうと・・・」「そう思うよな・・・。それで、何か手伝える事はあるか?」
少し考える。頼みたい事は、沢山あるが、アルノルト様から、必ず3日仕事したら、1日は休めと言われている。私達としては、”休んでいる暇など無い”と、いいたい所だが、それでも、アルノルト様は、”必ず”休めと言われた。
「シュトライト殿。申し訳ないが、休んで下さい。そうしないと、私が明日休めません。私達の為だと言われるのなら、休んで下さい」「・・・そうだな。わかった。玄武門から出て、森の中を散策している。何かあったら呼びに来てくれ」「わかりました」
これは、休まないな。森の中に入っていって、訓練をするのだろう。相手に困らない森だからな。アルノルト様の名前を出して、訓練を申し込めば、獣人達は喜んで相手をするだろう。それに、シュトライトやエードルフは、アルノルト様と獣人達とも交流している。疑われる事なく、訓練が出来る環境になっているのだろう
それから、難民の受け入れの為の予算を策定した。最終的には、ヒルデガルド奥様に見てもらう必要はあるが、見てもらう事が前提でも、手抜きはできない。それと並行して行われている移民の対応や、迷宮ダンジョンへの要求をまとめないとならない。
私の仕事自体は、何かを決定したり動かしたりする事ではない。それは、各現場の責任者が行っている。私は、その担当者への陳情や情報を、正確にまとめて、渡す事だ。
本来なら、領主がやる仕事だが、アルノルト様は、どこまで行っても現場の人だ。瑣末な事は、私が行えばよい。全体的な方向性を示してくれれば、後は、それに従って動かすだけだ。その時には、現場に出ているアルノルト様に、しっかり、きっちり、仕事をしてもらう。それでいいと思っている。
迷宮ダンジョンへの要望は、主に素材の調整が大きい。私も、この仕事に携わるまで、迷宮ダンジョンという存在がある事は知っていたが、ある程度自由になるものだとは知らなかった。もちろん、完全に自由になる事ではないらしいが、方向性を決める事が出来る。そして、それは、秘匿されるべき内容だ。知っているのも、私を含めて、数名だけだ。今回は、難民が増えた事もあるので、低階層を訓練用に改装する事になった。それらのアイディアをまとめて、テディ殿に連絡すれば、出来る範囲で調整してくれる事になっている。
商人からは、街中を走っている、ゴーレム馬車の本数を増やして欲しいという事だ。これも、テディ殿に相談する事になる。自動運転の仕組みは、アルノルト様が作られているので、組み込むだけの状態にはなっているが、”線屋"と言っていたが、ゴーレム馬車の動く時間や止まる時間の調整やらを行う必要があるらしく、簡単には増やすことができないようだ。要望は、要望として伝えておいて、後は調整する事になる。
宿屋は、概ね問題ないようだ。用意していた、50個の建物の半分位が埋まっている。なるべくすぐに商売を始められるようにと、言われていたので、その様に準備を進めていたが、やはり足りない物が出てきたようで、ギルベルト殿に依頼して、調達してきてもらっている。そして、この部分が、このライムバッハ子爵家。ノース街の一番の秘匿事項になっている部分だが、迷宮ダンジョンを使って、ライムバッハ領にあるウーレンフート迷宮と共和国のブラント迷宮とマラブール迷宮に移動する事が出来る。アルノルト様が、ゲートという方法で繋いでいる。今、そこを使えるのは、アルノルト様とヒルデガルド奥様。ナーテ殿。フルール殿とエステル殿。テディ殿。それと、私とギルベルト殿だけなのだ。クリスティーネ様とユリウス殿下はご存じない。私は、ヨハナにも話していない。しかし、このゲートがあるおかげで、物資の調達が楽にできているのだ。王都の様子ははっきりとしないが、北門が封鎖されているのは間違いなさそうだ。
物資が入らなければ、泣きついてくるだろうと思っているのかも知れない。確かに、北門を封鎖されてしまうと、困る事はこまるが、致命的な問題ではない。
まず、森の恵みがある。アルノルト様は、当初から、自給自足が出来るようにと、農地の改革も行っていらして、作物も徐々にできている。そして、迷宮ダンジョンの中には、水辺の階層を用意して、養殖なるものにも取り組んでおられる。人が増えた事で、労働力も賄えるようになってくるだろう。極めつけは、ゲートを使って、別の街に抜けての買い付けを行っている事だ。ギルベルト様とナーテ殿とフルール殿が行く事が多いが、ゴーレム馬車で大量に運ぶことも出来る上に、小さな物なら、皆さんが持っているステータス袋の中に入れて運んでしまえる。インチキのような方法で、物資を集めてきているのだ。そして、資金がどこから出ているのかというと、アルノルト様が持っていらっしゃる、商人ギルド/冒険者ギルド/職人ギルド/魔術師ギルドの預金から使っているのだ。これも、アルノルト様の許可を貰っているが、資金力がすごい。特に、商人ギルドで持っていた資金は、ヘーゲルヒ辺境伯が年間に使う予算の10~15倍近い金額が入っていた。それ以外の、ギルドも、子爵家が持っているような資金力ではない。それだけではなく、困ったら売ってしまって構わないと、言われている。アルノルト様が作られた、武具や魔道具やアーティファクトがある。その上、ゴーレムの販売も行い始めている。ヒルデガルド様は、控えめな数字をおっしゃっていたが、王都民が全員難民化したとしても、ライムバッハ子爵家だけで、10年程度は余裕で養っていける。しかし、それを3ヶ月と区切ったのは、そのくらい経てば、現実を見てくれるのではないかという思いからだ。
ドアがノックされた。見ていた資料から、目線を外して、開けたドアから入ってきた人物を見た「シュトライト殿?たしか、玄武門を散策していたのではなかったのですか?」「あぁそのつもりで、玄武門を抜けた所で、この人たちと、遭遇してな。なんでも、コンラートに話があるという事だ」
そこには、亜人・・・エルフ族以外のようだが・・・の、方々が居た。代表して、妖精族になるのだろうか、ドライアドが一歩前に出た「アルノルト様の代理人をされている、コンラート殿にお願いがあって来ました」「あっ私の事は、コンラートとお呼び下さい。それで、貴女は?」
多分、女性だろうと思っているが、正直解らない。「申し遅れました。私は、ドライアドの族長をしています。カリダードといいます」「カリダード殿。他の皆さんも、どうぞお入り下さい。ヨハナ。皆さんに、何か飲み物を持ってきて下さい」「かしこまりました」
皆が部屋に入って、シュトライトがドアを閉めた。「カリダード殿。それで、”お願い”とは?」
少し、身構えてしまう。アルノルト様が居ない時に、私を訪ねてくる理由が解らない。その上、多分族長クラスばかりなのだろう。何か、改善要求だとは思うが、話を聞いて、ヒルデガルド奥様に相談しないとならないかも知れないな
「はい。コンラート殿。いきなりの訪問で、申し訳ないのですが・・・」
ドライアドが、皆を見回して、皆が頷いている。統一した要求がなにかあるのだろうカリダード殿が語るまで待つのがいいだろう。
「”お願い”というのは、私達部族を始め、ノース森に住む者達も、街の発展に寄与したい。何か出来る事がないか、相談させて欲しい」「え?」「ん?」
詳しく話を聞くと、ノース森に住んでいる方々は、王国の民ではない。だが、本人たちは、王国ではなく、”アルノルト・フォン・ライムバッハ"の従っている思いがあり、そのアルノルト様が手がけている街を助けるのは、当然の事だと思っているらしい。そして、今、アルノルト様が出ていらっしゃる。王国も何やら大変な事になっている。自分たちも、受けた恩を返す時だ。何かできないか相談したい。
そういう流れで考えていたようだ。
流石に、すぐには思いつかないので、今まで通りにはしてもらう事になった。そして、困った事があったら相談する事や、できれば果物や薬草などの、森の恵みを、少し多めに買い取らせて欲しい事をお願いした。
アルノルト様。これでいいのでしょうか?

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