【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

偽王

--- カルラ Side ---「カルラ。無事か?」
アルノルト様が、私に駆け寄ってくれた。嬉しいが、僕のような者に気楽に・・・言ってもダメなのだろうな。だから、アルノルト様の周りには、人が集まるのだろう。
「はい。大丈夫です。アル・・・ノルト様も大丈夫ですか?」「カルラ。いいよ。アルで、俺もその方が嬉しい」「・・・はい。アル様も、大丈夫だったのでしょうか?」「あぁ大丈夫だ。そうだ!カルラ。そこの偉そうにしている、エルフが、ザシャの兄貴で、ロルフ。エルフ族で一番、素直じゃなくて、一番信頼出来る奴だ」「・・・」「・・・」「それで、ロルフ。カルラだ」「え?それだけ?」「ん?他にも必要か?」
微妙な空気が流れる。
暫く歩いていると、大きな木の下で、エルフ族が固まっている。近くまで歩くと、ロルフ殿が片膝をついて、臣下の礼をとった。僕は、アル様がどうするのかを見ていたが、普段通りだ。一歩下がって、アル様の後ろに控えるようにした。
「ライムバッハ殿。今は、子爵になられたのじゃったな?」「まぁ・・・そうですね」「・・・ライムバッハ殿。結界の修復は可能なのか?」「どうだろう。今までの様な、迷路を伴うような結界では、今回の様なケースを防ぐのは難しい」
アル様が、何やら説明を始めた。エルブンガルドを守っていた結界の欠点をあげている。話している内容の、7割位、”この人。頭おかしいの?”と、いう内容だ。正直、”ドン引き”している。
「ライムバッハ子爵。いや、アルノルト様。説明は解りました。それで修復は可能じゃろか?」「・・・可能ですが・・・」
何、聞いていたのだって顔になっている。
「多分、結界の魔道具を、再起動すれば、今までと同じように使えるはずです。しかし、今回の用に、大量の魔物を一度に結界にぶつけられると・・・結界は破られてしまいます。」「では、どうしたら、ええのかえ?」「・・・はぁ迷路を諦めるのが、一番簡単な方法です」「それは・・・」「あと、この地を諦めると言うこともあります」「・・・それは・・・ライムバッハ子爵の領地に遷る・・・と、いう事かえ?」「えぇ先程、おっしゃったように、私は、子爵になって、領地を貰っています。そこに、この森よりも、大きな森があります。そこに居を移す事もできます。そこならば、結界だけじゃなくて、かなり安全な状況にする事が可能です」
「おばば!俺は、アルノルト・フォン・ライムバッハの案に賛成だ!」
ロルフがいきなり大声で叫んだ。
「ロルフ。しかし、ここには、神木が・・・」「アルビーナ!神木は大事だが、俺は、それよりもエルフ族の未来を・・・考えたい。ダメか?おばば!」
二人の視線が、おばばに集まる。「二人の気持ちは解るつもりじゃ。そこでのぉアルノルト殿。何か、妥協案はないかえ?」
え?まさかの丸投げ?それでいいの?
アル様は、息を吐き出すようにしてから「はぁまぁそうですね。あぁぁぁぁ!!!!しまったぁぁぁぁ!!!!」「アル様!」「アルノルト殿?」「アルノルト・フォン・ライムバッハ。何があった!」「どうした!!」
場が騒然となる。「あぁすみません。こちらの事です。気にしないでください。」
「それでですね。お二人の意見の前に、お聞きしたい。他の氏家はどうされましたか?」「滅んだ。いや、違うな、連絡がつかないが、正確な言い方だな」「そうか・・・ドワーフは?」「お前の話があってから、山の洞窟に引きこもっている」「無事だと考えていいのか?」「解らない。確認に走らせているが、その者が無事なのかもわからない」「そうか・・・ロルフ。アルビーナ殿。最終的には、エルフ族で決めてほしいが、俺としては、皆にノースの森に来てほしい。ただ、この神木が気になるという気持ちもわかる。だから、この神木を中心に、3重に結界を張って守った上で、”守り家”を設置してはどうかと思う。幸いな事に、ヘーゲルヒ街には、俺の商会や、エルフの商会がある。そこが交代で見れば、大きな負担にはならないのではないか?」
アル様の提案が一番のような気がするが、実際に決めるのは、エルフ族だ。
エルフ族で話し合うようだ。「カルラ!」「はい」「少し手伝ってほしい事があるけど、いい?」「なんでしょうか?」「うん。ロルフじゃわからないか・・・アルビーナ殿」「はいなんでしょう?」「とりあえず、現状の結界を修復しておきたいけど、問題はある?」「いえ、大丈夫ですが、私が、なんどかやり直していますが、なにか文字が出て進みません」「そう?なら、俺が見てもいい?」「是非お願いします」「このカルラも連れて行っていい?」「えぇ問題ありません」「ありがとう。場所は、わかっているから、勝手に行っていいよね?」
アルビーナ殿が後ろを振り向いた。その目線は、”おばば”と呼ばれていた長老のエルフが、頷いていた「問題ないです」「ありがとう。行くよ。カルラ!」
そう言って、アル様は、私を抱えて、軽く屈伸して、飛び上がった。どこに居るのか把握が難しいが、神木と言われた、木のどこかだろう。部屋のような場所に入った。
魔道具・・・アル様がよくいじっている物と同型の魔道具が置かれている。それを持ち上げて、何かいじっている。僕は、アル様に言われた物を、後ろの棚や、別の部屋にある同型の魔道具を持ってきて、アル様に渡していた。
正直、何をしているのかわからないが、何やら呪文のような物を唱え始めているようにも感じられる。よく聞こえないが、ブツブツ言って、手元の紙になにか走り書きのような、何かがのたうった様な物を書いている。あれで、意味が解るのだとしたら、暗号なのだろうか?アル様の他には、僕しかしないのに、暗号を書く意味があるのだろうか?
「よし。こんなもんかな?カルラ」「はい」「ロルフに、”これ"を、渡して来て、一応、結界は直したけど、今のままだと、さっきと同じだから、少し改良するって伝えて」「はい。渡せばわかりますか?」「あぁ多分。わからなければ、聞きに来るだろう」
アル様から渡された紙を持って部屋を出た。そういえば、どうやって地上まで降りればいい?そう思ったが、部屋から出たところで、ロルフ殿が立っていた。
「あの・・・これ?」
ロルフ殿が渡された紙を見てからため息をついた。
「あぁ・・・相変わらず、嫌な奴だな。わかった、それから、この先にある幹に釣らされている鐘を、二回鳴らせば”カゴ”が降りてくる。それに乗れば、地上まで降りられるはずだ。アルノルト・フォン・ライムバッハに付き合うと、食事も睡眠も取れないから、適度に、降りてきて休め」「あっはい。ありがとうございます」「そうじゃないな。お前とあいつは、この街を救ってくれたのだからな。礼を言う。エルフ族の、危機を救ってくれた事を感謝する」「・・・いえ、僕は、いえ、私は、アルノルト様に言われた事をやっただけです」「そうか、わかった。明日には、方針を決める事になる。決まったら、相談させてほしいと、部屋に篭っている、愚か者に、伝えておいてほしい」「・・・はい。解りました」
部屋に戻って、アル様がやっている事を後ろから眺めている。何か、アーティファクトを取り出して、いろいろしているのはわかる。何かしているのはわかるが、それが、何をしているのかは一切解らない。
きっと、僕では解らない事だけど、すごく楽しい事なのだろう。だって、戦っているときのような、顔ではなく、本当に楽しそうにしている。それを後ろから眺めているだけで、僕もなんだか楽しい気持ちになってしまう。
--- カールハインツ Side ---「おい。宰相は大丈夫か?」「わからん。お前が解らない事を、俺に聞くな。俺がわかるはずがない」「それも、そうだな」「それよりも、豚と猿は?」「豚は、玉座にでも座って、ご満悦じゃないのか?猿は、今頃必死だろうな。宰相に逃げられたりしたら、豚が玉座に座っても、後ろ盾が得られないからな。それに、もしかしたら、今頃気がついているのかもな」「そうだな、宰相か俺が生き残れば、勝ちなのだろう・・・あぁそうだな。猿の嘆く姿が見られないのは残念だけどな」「できれば、二人とも生き残って、ノース街にたどり着くのが理想だけどな」「そうだろうけど、豚はともかく、猿と馬は、そのくらいの事はわかるだろう?」「あぁだから必死なのだろうな」「なぁ俺なら、俺の身代わりや宰相の身代わりを用意して、殺すけどな」「そうだな。俺でもそうする。でも、宰相かお前が持ち出した、玉璽がないと話にならないからな」「あぁそうか、玉璽があったな」「今頃、クリスティーネ辺りが怒っているかもしれないな」「そうだな。ユリウスとうまくやっているようで、安心した」「当たり前だ。俺の娘だぞ」「だから、心配したのだけどな」「どういう意味だ!」「そういう意味だ!」
さて、この抜け道も、豚は知っているだろうからな。猿は知らないかもしれないけどな。出口付近で捉えるか?追わせるか?豚は、何も考えていないだろうけど、猿辺りなら、俺が死んでくれる方が嬉しいだろうな。誰が一番の貧乏くじを引くか・・・。ライムバッハの小僧だろうな。ヒルデガルドだけではなく、他にも荷物を背負っていそうだからな。
「おい。お迎えのようだぞ」「そのようだな」「おいおい。問答無用かよ」「ここいらが、最後のようだな。どうする?」「そうだな。辱めを受けるのは、ちと勘弁願いたいな」
懐から、魔道具を一つ取り出す「それは?」「周りを火の海にする魔道具だ。まぁ自爆用だな」「それはいい。カール」「なんだよ」「楽しかった」「そうだな。意外と楽しかった。でも・・・」「あぁそうだな。娘達に、厄介事を押し付ける事になってしまったな」「あぁ文句は、ヴァルハラで聞くか」「そうだな」「なんだよ」「いや、お前、ヴァルハラに行けるつもりなのか?」「当然だろう。精霊神に迎えに来てもらうつもりだぞ」「そりゃぁいい。それなら、俺も一緒に連れて行ってもらって、先に行っているライムバッハの野郎に迎えにこさせるか」「そりゃぁ無理だ。あいつは、ヴァルハラにはいないからな」「そりゃぁそうだな」
二人で笑い合いながら、魔道具に魔力を流して、突起を押下した。魔道具から、カウントダウンの音が流れる。
あぁ楽しかった。楽しかったのだろう。いい人生だったな。ユリウス・・・ヒルデガルド・・・。お前たちは・・・好きに・・・いきろ・・・。
--- バルリング Side ---「それは本当ですか?」「はい。宰相閣下」「奴らは、通路に火を放って、自爆いたしました」「遺体の検分はしたのですか?」「・・・いえ、あまりにもひどくて、確認できる物ではありませんでした」「何をやっている。しっかり、確認してきなさい」
「宰相。良いではないか。逃げられないと悟って、自爆したのだろう。それよりも、これからどうしたらいい?」「陛下。まずは、王都に居る貴族を呼びつけましょう。来ない者には、兵を差し向けましょう」「うん。うん。それで?」「内外に、陛下が、前国王の意思をついで、玉座に座った事を好評いたしましょう」「わかった。それで、カールハインツの娘の、ヒルデガルドを、余の嫁に差し出すように、ライムバッハに言えばいいのだな」
この豚は、本当に現状が理解できているのか?玉座に座ったから、王として認められるわけではないのがわからないのか?王都には、まだまだ反対する貴族が居る。貴族だけではない。それらを排除しなければならない。宰相とロットナーを取り逃がしたのが大きな問題だ。玉璽も見つかっていない。皇太子が持っていったと思ったが・・・違ったようだ。そうなると、宰相かロットナーが持って、ユリウス殿下に渡されたら、ひっくり返させられてしまう。玉座に座って、いい気になっている豚は、王は自分のほうがふさわしいと思っているようだが、正統性を言い出したら、さっきの儀式が成り立ってしまっている限り、ユリウス陛下の誕生という事になってしまう。そうなる前に、王都を把握して、貴族連中をまとめる必要がある。ヘーゲルヒ辺境伯には、再三手紙を送っているが、色よい返事がない。よほど、息子殿の事が来てしまっているようだ。そうだ、それを突けば、ライムバッハへの憎悪に切り替える事ができないか?
「宰相!」「はい。陛下?何か?」「あっ余は眠くなった。先に休むぞ」「わかりました。おい、だれか、陛下の元の屋敷から、女を連れてこい。いないようなら、街で陛下が気に入りそうな女を連れてまいれ。陛下のお相手ができるのだ、喜んで娘を差し出すだろう」「うん。うん。領民。これから、王国全部の娘を、余が面倒を見ないとならないな」「そうでございます。陛下」「よい。よい。宰相。それが、余の役目だ」「はい。お願いいたします」
豚は、玉座から降りて、奥に引っ込んでいった。はぁ頭が痛い。命令した部下は、俺の部下だからいいが、これが、陛下の命令だと言って、街から女をさらってきたら、それだけで暴動が起こる。これもどうにかしないとならない問題だな。
30分後。また問題が発生した。先程、走らせた部下が帰ってきて、元の王弟の屋敷は、火を放った時に、女を預けたところが、賊に襲われて、女を奪われてしまったようだ。それだけではなく、街の中から、女と子供がいなくなっているという報告が上がってきた。街の中に残っているのは、貴族の関係者や軍の関係者だけで、王都民を見かける事ができないと言われた。
そんな馬鹿な事がある分けがないと、思って、街に出てみたが、王弟に擦り寄っていた商人や、冒険者といった者は見受けられるが、そうではない者達は、すでに誰もいなくなってしまっていた。
数時間で避難できるような場所・・・ノース街か!「おい。ノース街は調べたのか?」「それが・・・」「どうした?」「はい。ご存知だと思うのですが、あの街に行くには、北門から出て、街道を進むしかありません」「あぁそうだな」「その街道なのですが、結界が張ってあります。その結界を通るには、特殊な魔道具が必要になります」「聞いている。商人なら持っているのだろう?そいつらから接収して、突破すればよかろう?」「・・・・それができないのです」「だから、なぜだ!」「はい。通過の為の基準が引き上げられていて、魔道具に登録している、者しか通過できなくなっています」「なに?」「はい。ですので、魔道具を奪っても、我々では通過できないのです」
これを見越していたのか・・・いつからなのか?
「子供は?子供は、どうしている、魔力がないだろう?」「・・・いえ、説明では、子供にも微力な魔力があり、それを登録しているのだと話していました」「そんな高価な魔道具を・・・王都民に配っていたのか?」「そのようです。ライムバッハ家から万が一の時に使うように言われていたようです」「・・・王都に残っているのは?」「わかりません。フォイルゲンとライムバッハとヘーゲルヒの寄り子になっている貴族の屋敷は、蛻の空でした」
ヘーゲルヒも裏切ったのか?でも、まだ貴族の過半数は残っているはずだ。まだ勝ち目はある。商人や領民もいないのなら、儂の領地から呼び寄せればいい。そうだ、邪魔者がいなくなったと考えればいい。ノース街というできたばかりの街もどれほどの物かわからん。北門を守っていれば、奴らも身動きができないだろう。
そうだ、閉じ込めたと考えればいい。ライムバッハの小僧も、ノースに逃げ込んだ奴らも、北門を塞がれたら、何もできまい。

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