【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

皇太子

-- 皇太子 Side --オヤジも・・・。まぁいい。それは人であるからには、しょうがない。今、ユリウスがついている。俺を飛ばして、ユリウスに指名してくれれば一番簡単な事なのだけどな。それとも、アルノルトを指名してくれたら、もっと楽ができそうだ。
「カールハインツ様。今、良からぬ事を考えませんでしたか?」「・・・お前・・・。まぁいい。叔父上に会いに行くか」「はい。かしこまりました。マイマスター」
俺は、影の一人を連れて、王弟が逗留している部屋に急いだ。
「これは、皇太子。慌てて、どうされましたか?」「いや、なに、叔父上に会えるかと思うと、嬉しくなってしまって。申し訳ない」「ハハハ。それは嬉しいですな。私なぞに、次期国王が何の御用でしょうか?それとも、兄上に何かありましたか?」
俺は、目の前で喋っている豚が苦手だ。自分では賢いつもりなのだろうが、舌まで油で犯されているかのような、ねっとりした喋り方が、昔から嫌いだ。火で炙ってしまいたくなる。この豚・・・豚に失礼だな。目の前に座って、クチャクチャ何かを喰っている汚らしい奴は、俺の娘を、自分の子供の嫁に、よこせと行ってきた事がある。今でも諦めていないらしい。30後半になって、まだ独身のこいつの息子に、ヒルデガルドを嫁がせるつもりは、俺には一切ない。メリットも無い。父親としても、皇太子としても、拒否した。そのバカ息子が、そのことで、ライムバッハ子爵に嫌がらせをしようとしていたらしいが、息子と婚約者がいち早く察知して、阻止していた。二人に話を聞いたら、実行されていたら、ライムバッハ子爵に、もしそのことがバレたら、王都が”灰燼に帰す”ダメージを喰らっても不思議ではないと、話していた。
何か、まだ喋っているようだが、あいにく、俺は”豚語”を理解する事ができない。それに、俺の今日の役目は、息子の婚約者から連絡があるまで、この豚を"この場所"に、留めておくことだ。俺が座って、にこやかに笑っている限り、豚はここから出ていくわけには行かない。身分的には、俺の上だからだ、本来なら、こういう役は、エルマールの役なのだが・・・勝手に・・・先に逝きやがった、今頃天上から楽しく見ているのだろう。ホルストが、誰かもう一人連れてくると言っていたが、間に合ったのだろうか?オヤジの状態から考えても、そんなに長くないだろう。子爵以上の家で・・・。いや、それは考えても意味がない。
「皇太子も、あんな小僧に肩入れしなくても良かったでしょうに・・・」「小僧とは?ライムバッハ子爵の事ですか?」「えぇそうですね。子爵になんて、あんな小僧にもったいない。それに、王家直属というではないですか!」「違いますよ。王弟殿下。ライムバッハ子爵は、ユリウスの配下になるのです。そして、ユリウスは、正式には”まだ”貴族ではありませんからね。それに、どこの誰が裏で糸を紡いだのか、わかりませんが、ライムバッハ辺境伯は力を落としてしまいましたからね。バランスを取るにも丁度よいでしょ?」「まぁそうじゃな。そのくらいの事をしてやらんと、ライムバッハ辺境伯も浮かばれないな。ハハハ」
反吐が出る。俺は、この豚がエルマールを殺したと言っても驚かない。踊ったのは、ルットマン家という事になっているが、回って考えれば、こいつが、欲しがったからじゃないのか?こう言ってはおかしいが、目の前に座っている豚は、貴族や民衆からの評判はそれほど悪くない。領地を持っていないので、圧政をするわけではない。好色だが、度が過ぎているわけではない。それに巨体ゆえに目立つ。王都の街中で、気まぐれに飲み屋に入っては、その場に居る民衆に奢ったリしている。貴族からも、欲しいと言われた物に関しては、誰かが止めるまで与えようとする。ヘーゲルヒが、王弟に囁いたと言われていたのが、ライムバッハ領で独占的になっていた、共和国との交易を、ヘーゲルヒ領にも分けて欲しいという物だ。それを、目の前の豚は、なんの工作もなく、御前会議で、ライムバッハ・・・エルマールにぶつけたのだ。勿論拒否する。当然だ。何の見返りもなく、そんな事が出来るわけがない。この豚は、拒否されるとは思っていなかったのか、激怒する。そして、御前会議で、エルマールを糾弾する。それに、ヘーゲルヒや王弟を言いように使っている奴らが乗っかったのだ。結局、陛下の執り成しで、その場は収まったのだが、この時点で王弟派閥VS皇太子派閥(俺とエルマールとホルスト)だ。
「聞いているのか?」「勿論ですよ。叔父上の武勇伝はいつ聞いても、ためになりますからな。この前の、王都で困っていた少女を助けてやった事など、吟遊詩人に歌わせたい程ですな」「おぉおぉぉそちもそう思うか?」「もちろんです。殿下」
はぁ頭痛い。ころんだ少女を助け起こそうとして、逃げられた話が、どうやったら、武勇伝になるのか教えて欲しい。吟遊詩人も10秒で終わってしまう話を、どう脚色するのだろう。それは、それで楽しそうだな。寄生虫の様に、王家に擦り寄る、吟遊詩人の全員に作らせても面白そうだ。
胸ポケットに入れていた、携帯電話が2回バイブした。終わったという知らせだ。残念な事に、俺が国王になる事が決定してしまったようだ。
--- クリスティーネ Side ---昨日の夜。陛下がお倒れになったと緊急な知らせがユリウス様に入った。私とユリウス様は、すぐに王宮に来るように言われた。着の身着のまま、二人で参内すると、宰相とお父様と皇太子様が、陛下の寝所にいらした。
宰相がゆっくりと話し始めた「陛下のご命令で、知らせたのは、ここに居る者だけだ」「宰相。それは、どういう事だ!」「陛下からのご命令です」「・・・だから、どういう事だと聞いている」
皇太子の声が段々と荒くなっていく。「カール。少し、少し落ち着け」父が、皇太子を諭すように語りかける
「・・・すまん」「それで、宰相。陛下のご容態は?」「良くはない」
「宰相。集められたからには、何かお話があるのだろう。違うか?」「ユリウス殿下。”私”ではなく、陛下が皆様にお話があるそうです」
暫くの間。沈黙が流れる。「カール」「はっ御前に」
陛下が、目を覚まされたようだ「お前の声は、響くな。もう少し静かにできんのか?」「申し訳ない」「よい。宰相。揃っているか?」「・・・・」
「そうか、無理か・・・」「いえ、子爵以上の者でよければ・・・」「だめじゃ。信頼出来る者でなければならん。それに、ホルストの寄り子ではダメなのだろう?」「はい。そういう決まりになっております」
っ!皆気がついたようだ。陛下は、遺言で一番大事なことをお告げになるのだという事が・・・。そして、もう長くない事も悟っていらっしゃる。
宰相か軍関係者で爵位を持たぬ者1名以上子爵以上の貴族2名以上王族1名以上継承の可能性がある者は、立ち会えない。
この条件を満たしている場合に、宣言された人物が後継者指名となる。
「カール。お前は部屋からでろ」「はっ」「陛下!しかし、まだ・・・」「わかっている。宰相。ホルスト。そち達には迷惑をかけるな」「陛下・・・」
「ユリウス」「はい。陛下」「お前は自由にしなさい」「解りました。この場に居させてもらいます。」「わたくしも、ユリウス様と一緒に居させて下さい」「あぁ好きにしなさい。お主達が次世代を担うのだからな。そうだ、もう一人居たよな。カールの娘を娶る・・・アルノルトとか言ったか?エルマールの息子が・・・」「・・・」「エルマールには、すまない事をした。あそこまで愚かとは思わなんだ」「陛下。今、それを言われると・・・」「そうだな。皆。今の言葉は忘れてくれ」
皆が頭を下げる。実際問題として、今この場に来られる子爵以上の者で、お父様の寄り子でない者は、私が思い出す限りは・・・いない。絶望的な状況に違いはない。陛下がこのまま・・・そんな事になったら、明日の御前会議は、確実に荒れる。ヘーゲルヒ辺境伯は、アルノルト様のおかげでおとなしくなった。明日の会議も欠席すると通達が来ている。その代わり、重しが無くなった、ヘーゲルヒ辺境伯の寄り子達が騒いでいる。同じく、他の二つの辺境伯も何かを狙っているのは間違いない。そして、陛下の状態には箝口令が引かれているだろうが、噂話しはすぐに王都を駆け巡るだろう。王弟殿下に与する者達が、王弟殿下に良からぬ事を吹き込んでしまうと、それはそれで問題だ。皇太子なら、それが判っていらっしゃって、王弟殿下の所に赴いてくれるだろう。少なくても、陛下の話が終わるまでは、王弟殿下が誰とも合わないように、してくださるだろう。
私の携帯電話がなった。皆に失礼しますと言って、部屋から出ようとしたが、お父様が構わないからでなさいと言ってくれた。宰相も頷いたので、この場で出る事にした。今、携帯電話を持っている者から考えれば、当然の配慮だろう。廊下に出て、誰かに見られる方が問題なのだろう。
『クリスティーネ嬢か?』『はい。皇太子様?』『あぁ悪い。言い忘れていた事があった。ホルストやユリウスは、陛下の話があるだろうから、すまないとは思ったが、クルスティーネ嬢に電話した』『いえ、構いません。少し驚いただけです。それでご用件は?』『あぁ俺は、今から、叔父上に会いに行く。先触れも出した。そこで、そっちの話が終わって、俺に決まったら、携帯を2回鳴らして切ってくれ。違ったら、俺が出るまで鳴らしてくれ』『・・・解りました。皇太子様以外の名前が出るとは思えませんが、事情は解りました』『頼む。最悪の場合は、俺は、その時に目の前に居る奴と、刺し違えるつもりでいる』『・・・それは、私だけの心に仕舞っておきます』『すまん。そうしてくれるとありがたい』『解りました。でも、義父様。絶対に無茶だけはしないで下さい』『そうだな。まだ孫の顔も見ていないしな。もう一人の俺の息子になった方は、暫くは無理そうなのだろう?』『・・・そうですわね。後、数年は無理だと思います。少なくても、婚姻するまでは・・・』『わかった。わかった。俺も孫を抱いて、嫌がるユリウスの前で、孫を可愛がりたいからな』『そうですわね。電話の件。了解しました』『たのむな』『はい』
電話を切った「クリス。オヤジか?」「はい。私の義父様ですわ」「そうか・・・」
「クリスティーネ。カールハインツ様は?」「はい。王弟殿下の所に行くとおっしゃっていました」「そうか、ありがたいな」「そうですね」
ドアがノックされて、宰相が呼ばれた。廊下で何か話していたが、数分後に戻ってきた
「宰相。どうであった?」「駄目です。皆、明日の昼頃の到着予定に、なっています」「当然だな・・・」
ユリウス様の携帯が鳴った「アルだ!」
アルノルト様のことを忘れていた。いや、正確には、忘れていたわけではない。私の中では、ライムバッハ辺境伯は、カール様が継いでいらっしゃる。アルノルト様は、代理でしか無く、代理では、今回の役目は務まらないのだ。
「宰相。アルノルトは、先日、ライムバッハ子爵となったが、誰の寄り子にもなっていないと思うが間違いないか?」
そうだ!アルノルト様なら・・・。でも・・・。
「大丈夫です。子爵以上である事が条件です。ライムバッハ子爵なら資格を有しておられます」「わかった。電話に出る」「ユリウス殿下。しかし、陛下の事は告げてはなりません。お解りですよね?」「あぁ勿論だ」
『あぁ悪い。アル。少し立て込んでいていな』『・・・』『そうか、明日の朝には付けるのだな?』
それでは遅い可能性がある。できれば、すぐにでも着て欲しい。でも、それを告げるわけには行かない。
『アル。何言っている。コンラートでは、ダメだ。お前が御前会議に出ろ。特に、今回だけは、お前が出ないとならない。コンラートを連れてきてもいいが、必ずお前が出席しろ。ノース街の報告は、お前が必ずしろ!』
アルノルト様なら、そうするだろう。会議が嫌いなわけではない。下らない、足の引っ張り合いが嫌いなだけなのだ。未だに、ノース街の利権をよこせと言ってくる貴族が居る。アルノルト様のことを軽く見ている連中が直接行動に出ているので、潰しやすいが、これで、王弟殿下が絡んできたら面倒な事になりかねない。それに、ヒルデガルド様の事もある。ノースの発展を、面白く思っていない貴族の方が、多いのも事実だと思う。お父様の所にも、苦情に近い話が来ているとおっしゃっていた。
『いいな。アル。絶対に来いよ。それから、”南門ではなく、北門から入ってくれ”いいな。北門だからな!!』
ユリウス様。アルノルト様が、気がついてくれるか、ヒルデガルド様に聞いてくれれば・・・。アルノルト様なら、間に合ってくれる。そんな淡い期待でしか無いけど、今の私達には、その細い一本の可能性でも、手繰り寄せたいと願ってしまう。
10分がすぎ、30分がすぎ、1時間が過ぎた。長い長い、本当に、長い1時間が過ぎた。後どのくらい、この時間の中に身を置けばいいのだろう。
それから、時間感覚が麻痺したのは確実だ。「ユリウス様!!!アルノルト様が、ヒルデガルド様と・・・」「すぐに連れてきてくれ。いや、俺が行く!」
陛下のお言葉を聞いて、私達は部屋の外に出た。そして、以来されていた通りに、二回携帯電話を鳴らした。

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