【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

帰郷

「よし行くか!」
マラブール迷宮には、2週間近く滞在した。報告に行った者達を待っていたという理由もあるが、この迷宮は"美味しい”のが一番の理由だ。低階層は、さほどではないが、10階層以降がとにかく訓練にいい。あいかわらずの思考ルーチンだったが、10階層以降で産まれる魔物に関して、思考ルーチンを変える事ができた。低階層に関しては、変えようと思っても上手く反映できなかった。
思考ルーチンが、"一番近くに居る奴を攻撃せよ"となっていたので、変えられないか試してみた。"魔法が使える魔物は、相手の一番体力がある奴を攻撃せよ。魔力がなくなったら、一番近い者を攻撃せよ""体力がある魔物は、相手で一番体力がない奴を攻撃せよ。"こんな感じで書き換えてみた。思考ルーチンを変えた事で、訓練に丁度良くなってきた。
訓練だけではなく、マラブール迷宮の魔物の多くは、魔核を落とすのだ。ブラント迷宮と何か設定で違いがあるか、探ってみたが、違いが解らないが、魔核が入手出来るのは嬉しい誤算だ。解らない事は、調べるための情報収集を行えばよい。そういう事で、11階層から戦ってもらっている。それで解った事だが、食事がなければ、魔物が産まれる迷宮では、5階層降りるのが精一杯だという事だ。大兵力で兵站部隊を大量に抱え込んで攻め込めば、違うだろうが、それでも大兵力を維持したまま責めるのは現実的ではないだろう。
マラブール迷宮も攻略が難しい事だけ確認した。後は、魔力の減りが、他の迷宮に比べて早かったので、その調整を行っていた。最初の間は、迷宮ダンジョンの修復がある事や、魔物が生まれている為だと思っていた。それが一段落したら、たしかに減る速度は遅くなったが、それでも他の2つと比べると早すぎる。他の2つが魔力の供給源である冒険者が入り込んでいる事を差し引いても大きいのだ。その問題を解決しないと、安心して戻る事ができない。AS君が魔力を喰らいすぎている事が解った。わかったからと行って止める事はできない。AS君は、そのまま使い続けるが、それ以外の端末やディスプレイなどは止める事にした。そして、住めるようにしていた魔道具なんかも全部はずした。4人でPTを組んで、迷宮の調整という名前の訓練に出ていて、残りで、魔道具を外したり、端末を外したりしていた。ドライバなんて物はなかったので、魔法で、貰ってきたミスリルを加工して作った。多分、世界一贅沢な使い方をしたドライバなのだろう。
昨日、これらの作業が終わった。結局、AS/4○○以外の端末は全部必要ない事がわかったので、取り外して持っていくことにした。数台は、ライムバッハ領にある迷宮ダンジョンに設置する事にした、あの98だけでは心もとない。今まで動いていて、問題になっていないからいいが、壊れたりしたら困ってしまう。それに、98は俺が欲しい。俺の青春だと言っても過言ではない。どこかのタイミングで邸宅を作った時に、98を家に配置したいと思っている。
「行くのはいいのですが、お兄様。ユリウス様やクリス様にはご連絡をしているのですか?」「あっ忘れていた。まぁ大丈夫だろう。今からしておくよ。」「はぁ・・・まぁいいですけど、移動に時間がそれほどかからない事もお教えしておかないと、何を言われるかわかりませんわよ。」「そうだったな。連絡だけでも入れておくか・・・。」
ユリアンネの指摘はもっともだ。迷宮ダンジョン間の移動は、ゲートで出来る事が確認できている。迷宮の街ウーレンフートまで移動してから、ライムバッハまで行くとしても、多分1週間もかからない。ウーレンフート迷宮で、作業を行ったとしても、そのくらいで大丈夫だろう。
携帯電話を取り出して、ユリウスに連絡する。「ユリウスか?」「アルか?」「よかった、持っていてくれたのだな。」「あぁクリスやイーヴォにも言われたからな。それよりどうした?」「あぁ少し早いけど、報告や土産物を渡すために、ライムバッハ領に戻ろうと考えていてな。」「そうか、それで、アルは今何処に居る?」「どこに居るって説明しにくいな。共和国の首都アヴェラヴィルから1週間位の所にある。マラブール迷宮の地下だ。」「え?今、マラブールって言ったか?」「あぁユリウス知っているのか?」「・・・おまえな。知らないのは、おまえだけじゃないのか?マラブールって言えば、共和国の中で、次の首相に一番近い男と言われている人物だぞ。」「へぇあの人が?」「え?おまえ、会ったのか?」「あぁこの迷宮の探索も、お願いされたからだからな。」「ほぉ詳しく話を聞きたいな。」「だろうと思って、一旦帰る事にした。それに、少し相談もあるしな。」「わかった。共和国の首都からだと、2ヶ月位か?近くになったら先触れをだしてくれよな。皆揃っていないと不便だろう?」「あぁ忘れていた。それでな。移動がすごく楽になる方法が有ってな。」「へぇ」「それでな。ユリウス。1週間位で帰られそうなのだ。ウーレンフートに着いたらまた連絡する。」「なっ1週間だと?おまえ、本当に今本当に共和国なのだよな?」「あぁ証拠は無いけどな。まぁいい。それらの話もあるから、会った時にまとめて説明する。」「わかった。ウーレンフートに着いたら連絡よこせよ。クリスとザシャとディアナには伝えておく。」「わかった。頼む。」
ユリウスとの通話を切ってから、辺りを見ると皆が揃っていた。”ほらやっぱり”って顔をしているのが半分、”俺ならしょうがない”って顔をしているのが残りの半分。誰がどんな顔なのかは置いておくとしよう。それよりも、まずは、ブラント迷宮に移動する事にした。魔力の増加量が、常に満タンになっている状況なのだ。収支のバランスという意味でも、ブラント迷宮の調整を行いたい。
ゲートで移動して、ナーテとルトとラウラは、地上に行きたいという事だったので、地上部にゲートを繋いだ。アンとカウラにも移動してもらって、ゲートを作る場所の確保を行っておいてくれるように頼んだ。今は、まだいいが今後の事を考えると、地上に出るための場所は必要になってくる。ウーレンフートは、階層主から戻ってくる場所が固定されているので、そこにゲートを繋げばいいが、ブラント迷宮はそうなっていない。ついでだから、地上に戻るだけのゲートをある程度作成しておく事にした。冒険者に死なれると、魔力獲得の意味からでは美味しいが、目覚めも悪いから、なるべくなら安全にしておきたい。5階層毎に下に降りる階段の近くに地上に出るゲートを配置した。説明はしていないので、誰かが気がつくまで、危ない罠の様に思われているのだろう。
携帯電話が鳴り出す。外に出る、ナーテに持たせた物だ。念話が通じなかったときの為に持たせたのだ
「ナーテ。用事は終わったのか?」「うん。もう迷宮で小部屋に入った所」「そうか、ナーテも管理者になっているから、ゲートが作られるはずだよ」「わかった。ゲートで、にいちゃんの所に戻るね」「あぁ待っている。」
程なくして、外に出ていたナーテ達も戻ってきた。今日は、ブラント迷宮で休む事にしたので、ナーテとラウラで食料の調達をしてきてもらった。ナーテは、墓参りに行ってきたようだ。
外の様子は、まださほど変わっては居ないが人が増えている印象はあると話していた。村に仮住まいする者も出てきたと話していた。
マラブール迷宮から持ち出した端末は全部で18台。3台を設置した。オーナ権限は書き換えてあったので、ブラント迷宮に参加させる事で、迷宮端末の一部として動き出したようだ。
迷宮毎に魔力の収支が変わるのも面倒なので、なんとかならないかと思って居る。
今日は、それを試す事にしている。
ネットワークでは、お互いが繋がっている。でも、それはネットワーク層での事。魔力は、多分、ネットワーク層ではなく、物理層での接続が必要になるように思える。
繋げ方もなんとなく考えている。ゲートを使えばいいように思えているのだ。ゲートは"転移"ではなく、”空間移動”だと推測している。ある地点と地点の距離を短くする事にある。という事は、門の形にしたゲートを小さくして、空間を繋げる事で、物理層の接続にはならないのか?そのまま、マラブール迷宮とブラント迷宮でケーブルを繋げてしまってもいい。
まずは、空間を繋げる所からやってみる。これらは、テディもやったことがないと話していた。フランケンシュタイン博士もやっていないようだ。空間を繋げるのはそれほど難しくなった、ドアがないゲートを作成するだけでよい。場所と大きさの問題があったので、なんどか調整しながら作ってみた。丁度、腕一本が通り抜けられるような感じで作る事ができた。
その状態で暫く様子を見てみたが、魔力が同期している印象はない。マラブール迷宮の魔力は減り続けている。
次はケーブルを繋げてみる。所謂ネットワークケーブルだ。さて、ここで少し考えてしまった。hub-to-hub で繋げばいいのか?それとも、ルータを噛まして繋いだほうがいいのかだ。考えてみたが、今手元にルータになるような物は....有った。
早速、ラックサーバから、小型サーバを取り外す。やはりだ。これは、NICの口が二つあった。これなら、ルータの役目を持たせる事が出来る。設定が個別で出来るのか解らない。そもそも、魔力って”何”層を伝わって居るのか解らない。でも、なんとなくできそうな気がしている。
まずは、ラックに着いていた小型サーバを全部外す。ケーブルは沢山見つかっている。その中にリバースケーブルも見つかっている。それを使って、ブラント迷宮とマラブール迷宮の間を敷設した。一台を、マラブール迷宮において、接続を行った。マラブール迷宮の方の小型サーバのもう一つは、そのままHUBに接続した。
両方の端末の火を入れて、起動確認を行う。まずは、マラブール迷宮の方を確認する。ブラント迷宮の小型サーバは、まだHUBに接続していない。端末を起動して、見つかっているキーボードを接続して、ディスプレイを接続して確認した。
小型サーバの起動後に、接続確認を行う。上手く、マラブール迷宮への接続ができている。これで端末は、迷宮ダンジョンに設置することで、機能が統合される事がわかった。
次に、ブラント迷宮に戻って、確認を行う。もう一人居れば、この作業も楽にできるだろうが、今は俺しかいないのでしょうがない。俺がやるしか無い。
ブラント迷宮の小型サーバの火を入れる。キーボードやディスプレイを繋げて確認を行う。"未所属”となっている。やはり起動した場所ではなく、繋がっているHUBが影響しているのだろう。マラブール迷宮の小型サーバの認識はできていないようだ。
一つ思い出して、管理画面を起動する。やはりNICがアクティブになっていなかった。アクティブにする前に、ブラント迷宮のHUBに接続してみる。接続後に、ブラント迷宮に参加した様だ。
マラブール迷宮の小型サーバのNICもアクティブにしていないから、今こちらをアクティブにしてもいきなり繋がることは無いだろう。問題があればすぐに”殺せる”様にしてから、NICをアクティブにした。
何なら動作を始めたようだ。NICのプロパティを見てみると、動作し始めた事が確認できた。後は、流すプロトコルを絞れれば最高なのだけど・・・。パケットモニターなんてないし・・・。何か方法がないかと思って、管理ルールを眺めていたら、サービスなる物が存在していた。サービスを眺めていたら、”Routing and Remote Access”なるサービスが”停止”状態になっていた。サービスをスタートする。俺の記憶に間違いがなければ、これはルーティングの為のサービスだ。"route"コマンドも使えるはずだ。起動後に、"route"を実行する。HELP が出るが、まだ英語のままの様だ。全部は、こちらに適用していないのだろう。一部のパラメータは変化している。その説明を読むと、俺が求めていた機能そのものだ。
この機能を使えば、二台のルータ同士を繋げるのではなく、ブラントを全体のGWにする事もできそうだ。近くにあった紙に走り書きで設計を書きつける。全体的なネットワーク構築と似ている。拠点にどこまでの権限をもたせるのかで考え方が変わってくる。再分配も可能だろう。どこを拠点にするか決まった段階で、拠点設計をやり直せば良いだろう。
やはり、実際に動かしながら考えないと解らない事が多いよな。
「アル様」「ん?ラウラどうした?」「お休みにならないのですか?」「ん?もう、そんな時間なのか?」「はい。ナーテとヒルダ様はすでにお休みになっています。」「そうか・・・」
熱中しすぎたようだ。マラブール迷宮に設置した小型サーバを撤収してから、休む事にしよう。いや、切りがいいところまでやっておこう。忘れないように・・・・。

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