【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

迷宮攻略・前篇

ライムバッハの街を出て、街道を少しだけ早めの速度で進んで、4日目。ウーレンフートの街が見えてきた。
”迷宮の街”と言われる通り、迷宮ダンジョンが存在している。ゆえに冒険者も多く滞在している。死と隣り合わせだが、一攫千金も夢ではない。アーティファクトを発見すれば、それで一生遊んで暮らせるだけの金を得る事も可能なのだ。
「そう言えば、ルトとナーテは、冒険者登録は終わっているよな?」「ご主人様。終わらせてあります。パーティになろうとしつこい人もいましたが、ナーテと組むことと、丁寧にお話したら、解っていただきましたわ」「にいちゃん。おいらも終わっている。でも、ルトのは”お話”ではなかったと思うぞ。」「そうなのか?」「うん。ルトが、冒険者の肩に手を置いたら、うずくまって怯えていたし、話をした雰囲気はなかったと思うぞ」「ナーテ。それこそ、"乙女の秘密”ですよ。」
なんとなく、ルトがヒルダやアンから悪い影響を受けているようにしか思えない。
ナーテ。男同士。仲良くしような!
街に入る為の検閲所がある。冒険者が多い為の処置だと聞いている。実際には、迷宮ダンジョンは、街の中にはないので入る必要はないが、習わしとして、迷宮ダンジョンに入る時には、ウーレンフートの冒険者ギルドに申請をする事になっている。人数と予定の提出を義務付けているのだ。父が領主になってから始めた事らしいが、予定を入れておくとメリットがある。未帰還の場合に、探索隊が組織される。その為に、入場料を徴集しているのだ。
検閲所で、身分を示す物として、冒険者ギルドの身分証とマナベ商会の者である証明を提示する。8名全員が商会に登録しているのだ。ちなみに、ナーテと一緒にいた子供も全員商会の従業員になっている。所謂、節税対策だ。税金を徴収する立場のクリスが進めてきた。
検閲所は驚くほどスムーズに通過できた。守衛に、宿屋の位置を聞いてから、街の中に入った。まずは、街の中の宿屋に向かう。今日、一泊してから、明日冒険者ギルドに行く事にしている。
街の広さは、王都やライムバッハの街と、比べると小さいが活気がある。迷宮ダンジョン目当ての冒険者や、冒険者目当ての商売人が多数詰めかけているためだと思われる。それだけ、迷宮ダンジョンは”資源”として優秀なのだ。特に、このウーレンフートの迷宮ダンジョンは、鉱石の採取も出来るので、低階層でも十分な稼ぎが期待できる。冒険者ギルドにも、そういった依頼が多数寄せられていると聞いた。
しかし、今のところ10階層までしか到達した記憶がない。戦力的な問題もあると言われているが一番の問題は食料がなくなってしまう事にある。大人数で攻め込んでも、結局は狭い道が多いので、一度に攻撃出来るのは3人が、限界になってしまう。モンスターハウスや階層主が居る部屋でも2PT16名が限界らしい。その為に、冒険者ギルドでは、1PTで挑むよりは、3PT24名のユニオンで挑むことを推奨している。10階層の階層主は、ミノタウルスだという事だ。
これは、カールとユリウスに挨拶に来た街の代官が説明してくれた事だ。
冒険者ギルドで詳しい説明を聞けば、もう少し具体的な事が解ってくると思う。
宿屋は、比較的高めの宿にした。女の子もいるので、安宿ではなく、しっかりした宿にしたためだ。今回も3人部屋にしたが、正直怪しいと思っている。どうせ、ヒト型になるのだから、最初から部屋を取っておけばいいとも思った。今回は、一泊だけして、馬車と馬を預ける事になるので、一部屋で十分だろうという事になった。
すでに時間は夕方に差し掛かろうかという時間だったが、俺とユリアンネとナーテで、武器/防具を揃えに行く事にした。ルトとラウラで、食料を取り敢えず20日分買ってきてもらう事にした。携帯食を中心にだ。そして、残りの、アンネリーゼ。カウラ。ヒルダ。にも、食料を買ってくるように言ってある。本命はルト達だがダミーで3日分程度を買ってくるように言ってある。冒険者ギルドには、20日と正直に探索期間を申告するつもりだが、8名全員が冒険者ではなく、ナーテとヒルダはポータ役として連れて行くように見せるためだ。
明日から、暫くは迷宮ダンジョンに入る事を皆と確認した。前衛としては、俺とルト。二番目を、アンとユリアンネとヒルダ。三番目をナーテ。最後をラウラとカウラ。と、いう布陣で行く事になる。聞いている話だと、1~3層では、魔物は出てこない。虫系や小動物系が少し出てくるだけという事だ。
4~6層では、獣と魔物が混じってくるという話だ。階層主が初めて出てくるのが、10階層となっている。それまでは、階層主は存在していない”らしい”。この辺りも、冒険者ギルドで聞けばよい。
何にせよ。今日は早く寝る事にする。見せ食料以外は、ステータス袋に格納している。予備の武器や防具も分けて収納している。これだけ贅沢なパーティはそんなにいないだろう。
遅くならない様にさっさと寝る事にした。実際、旅の疲れもあって、すぐに落ちてしまった。


今日は、普通に目が覚めた。起こされるわけでもなく、本当に普通に起きた。いつの間には誰かが横で寝ている事はあったが、これはいつもの事だと諦める事にした。少なくても、裸で寝たり、抱きつかれて身動きが取れない状態ではない。最低でもこれからも、こうであって欲しいと思えてくる。
皆を起こして、食堂に向かう。馬と馬車は、長めに1ヶ月分の手間賃を先払いしておく。冒険者ではよくある事なのだろう。宿側も手慣れた感じで手続きをしてくれた。
まずは、皆で商人ギルドに移動した。この街は、人の往来が多いので、各種ギルドの支部が充実している。商人ギルドでは、路銀を一時的に全部預ける事にしている。冒険中になにか有っても困るので、必要最低限のお金だけを残して、残りは一時的に預ける様にした。冒険者ギルドで預けなかったのは、預けるところを他の冒険者に見せないほうがいいだろうという配慮からだ。
商人ギルドで手続きを終えてから、冒険者ギルドに向かった。一応、各自の武器や防具の最終確認を行った。
俺は、刀をメインに使う。ルトは、剣を腰から下げている。一通りの心得はあるという事だ。アンは刺突武器を持っている。ヒルダとユリアンネは、弓と杖を思っている。ナーテは、短剣とナイフを持っている。ラウラは、弓と剣を持っている。カウラは、短剣を二本両手に持って戦うスタイルだ。
前衛職が多いが、基本的に、全員が、属性魔法を使えるので、そのまま後衛職にもなれる陣容だ。防具は、革製の物を着込んでいる。防御力よりも、魔法の使いやすさや動きやすさを考慮した。ヒルダが盾役をやりたいと言っていたが、体型の問題で今のところは後衛職をやらせる事にしている。
確認が終わったので、冒険者ギルドに入った。受付で、パーティ申請を行って、皆がパーティとなるように登録を行って、迷宮ダンジョンに付いての簡単な説明を聞いた。今まで聞いていた事で間違いはなかったが、注意点として幾つか補足された。
他のPTが戦闘している時には、むやみに乱入しない。ダンジョンでは部屋になっている所があるが、部屋に他のPTが居る時には入らない。
冒険者同士のいざこざが起こっても基本的には、冒険者ギルドは介入しないが、トレイン行為や悪質だと判断される行為に関しては、冒険者資格の剥奪の上奴隷にされてしまう。そんな説明を聞いた。
すべてに同意出来る場合だけ、入り口の受付で、”入場料1人大銀貨一枚”を払う。戻ってきたら、銀貨5枚が返却される。入場料1人辺り5,000ワトという事になる。これが高いと見るかやすいと見るかは考え方次第だろう。銅鉱石や銀鉱石が見つかれば、簡単に元が取れるだろう。
後、やはりダンジョンの中に出てくる。アンデッド/魔物/獣に関しては、意識という物が感じられないと説明された。どこで産まれているのかもわからない状況だと言っている。
階層主も倒されれば、早ければ1時間後に遅くても半日後には復活していると言っていた。
一通りの説明を受けたので、そのまま依頼がはってある掲示板に向かった。常時討伐は、街の外に限られているようだ。迷宮ダンジョンでの討伐は報酬にはならない。ドロップアイテムの、昨日段階の買い取り表があるので、一応貰っておくことにした。その他に、常時収集依頼が出ているのでその品物は覚えておく事にした。
俺達は、何か目的があって潜るわけじゃなくて、自分たちの力がどの程度なのかと、連携訓練の為に、迷宮ダンジョンに潜る事にしている。
冒険者ギルドでは、残念ながら今回も定番のイベントは発生しない。奇異な目で見られている感じはしているが・・・・。考えてみれば、それは当然だろう。ナーテは男の子だけど、男は俺だけで、他が全部女性。それも結構可愛い子が揃っている。それに、ルトの一部は圧倒的な勝ち組になっている。注目されない方が不思議だ。
受付のお姉さんがルトの一部を見て舌打ちしたのを俺は聞き逃さなかったが、表情に出さない事には成功したと思っている。
そんな受付のお姉さんからの話も終わって、パーティ登録を済ませ。迷宮ダンジョンに、20日近く潜るつもりである事を宣言した。食料もすでに用意してある事も合わせて宣言してある。何か、いいたそうな雰囲気だったが、俺達が”手順”を守った事で、何も言わないようだ。こういう時に、変に何かをいうよりも、定形の手順がある場合には、それに則ったほうがは暗視が進みやすい。変に特権意識を振りかざすと、話しは通るかも知れないが、現場を敵に回してしまう。そうならないためにも守るべき事は守った方がいい。
冒険者ギルドでの手続きを終えて、迷宮ダンジョンに向かう。街外れにあると言われたので、案内に従って歩く事にした。
道の両脇には、宿屋や武器屋。防具屋。食堂から食材を売る店まで、必要だと思われる物。すべてが揃っている。本当に無いのは、”秩序”だという感じだ。
迷宮ダンジョンの入口には、数名が並んで待っていた。俺達も列に並んだ。
10分ほどで俺達の番になって、冒険者ギルドで申請した旨を伝えた。カードを提示したら、そのままOKが出て、中に入れた。
決めていた順番で隊列を組んで進んでいく。
何度か曲がった所で「アル様。」「ラウラ。どうした?」「入口を過ぎた辺りから、後を着けている者達がいます。どういたしますか?」「アル兄ィ。ラウラ姉と僕で行ってくるかにゃ?」
新人をいじめる奴らか?逆かも知れない。もう少し様子を見るのが正解か?
「ラウラ。入口からすぐなのか?」「はい。」「そうにゃ。」「わかった。それなら、暫く警戒しておいてくれ。」「はい。」「解ったにゃ」
「って事だけど、ヒルダどう思う?」「どちらかだと思うけど、なんとなく、新人を守る為って感じじゃないかな?」「どうしてそう思う。」「ラウラとカウラの言っている事が正しければ、入口からすぐって受付から見えちゃう位置だから、怪しい奴ならそんな事をしないと思うよ。アルノルト様もそう思っているのでしょ」「あぁそうだな。ここまで、ほぼ一本道だったし、最初からだから、監視の意味が強いと思っているよ」「アル。監視って?」
「あぁ・・・。大きな組織の火消し作業の時によくやった事だけど、新人や修羅場の経験が浅い奴って息抜きが上手くできなくて、精神がおかしくなっていく」「・・・う・・・うん。なんとなくわかる。」「その時に、新人だけでどっかに行く時に、”とっさに”って事が、よくあるから、そうならないように、ベテランがそれと気が付かれないように、後をつけたりするのだよ」「へぇそうなの?」「あぁ気が付かれちゃうと、”信用されていない”とか”心配させた”とか言って更に落ち込むから絶対に気取られない様にしないとならない。最高難易度のミッションなのだよ。」「それと今の状況が、似ていると・・・。」「修羅場じゃないけど、ここって命のやり取りが普通に発生する場所だろ?」「そうね。」「そうなった時に、新人が急に逃げ出して、小動物位ならいいけど、魔物や大型の獣をトレイン状態で他の新人や経験の浅い冒険者に繋げたらどうなる?」「あっそうか・・・。」「うん。俺達を守るってよりも、迷宮ダンジョンの秩序を守るという意味が強いと思うぞ。もし、俺達が逃げ出した場合でも、大抵崩壊した時には、来た道を逃げるだろう?ストーキングしていれば、最初に逃げてくる俺達と会う事になるからな。ベテランがそうして新人の”監視”をしている・・・じゃ、ないのかな?もしかしたら、冒険者ではなく、領主の命令の守備隊かもしれないけどな」
「にいちゃん。すげぇ!」「そうか!」「うん。言っている事の半分以上わからなかったけど、にいちゃんって、すごく考えているのだな」「勿論だ!」
「ナーテ。ご主人様は、皆を守る為に考えているのですよ。ナーテも今はできなくても、出来るようにならないと、ご主人様の横には立てませんよ」「うん!ルト。おいら頑張る!」
「アルノルト様。性格が悪いのは、変わらないのですね。」「ヒルダ。どういう事?お兄様が何かしたの?」「ユリアンネ。貴女は気が付かなかったの?さっきの話。アルノルト様はわざと止まって、後ろから来ている人たちに聞かせたのですよ。」「あっそうなのですか?お兄様。」
ならない口笛を吹きながら
「さぁてね。どっちでもいいだろう?俺達のやる事は変わらないのだからな。」
1階層と2階層は地図を見ながら最短コースで踏破した。3階層で一旦休憩を取る事にした。部屋が連続で有って、両方とも空いている場所がないか探して、見つけた場所で休む事にした。
「アル兄ィ」「どうした?」「さっきの人たち帰っていったにゃ」「そうか、何か話していた?」「うん。『バレているようだし、大丈夫だろう。引き上げる。』って話していたにゃ」「そうか・・・。」
やはり"監視”だったようだね。実は、ユリウスやルステオ辺りが手を回したのではないかとも疑っていたが、それはなかったようだ。
さて、3階層もまだ人が多いから、さくっと飛ばして、階層を降りていく事にしよう。

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