もしも一つだけ願いが適うなら【上】

モブタツ

プロローグ

  蝉の鳴き声が路地に鳴り響く夏の日。今日は記録的な猛暑の日らしい。道路のコンクリートが蜃気楼でブルブルと震えるように見える灼熱の中、俺は手首に赤いブレスレットを付けながら、足取り軽く歩いていた。
  宮原 忍。専門学校に入学してから一年と四ヶ月が経った。最初は緊張していたが、今ではすっかり慣れ、毎日通うのが楽しみになっているくらいになっていた。
「しーのぶ君!おっはよ!」
  後ろから勢いよくぶつかり、挨拶をして来る。
彼女は薮田先輩。帰り道が同じだったことからだんだん仲が良くなり、偶然にも同じ美術サークルに入っていた先輩だ。今では行きも帰りも一緒に歩くのが日課になっている。
「薮田先輩。おはようございます」
「もう!カタイよ、か!た!い!」
「先輩ですから。友達みたいな扱いはできません」
  薮田先輩は「もう!」と言いながら俺の顔を見つめて来る。
「な、何ですか」
「『お姉ちゃん』でもいいよ?」
「何言ってるんですか…」
  俺の前に立っていた薮田先輩の体を前に向け、背中を両手で弱めに押す。
「ほら、早くしないと学校遅刻しますよ…!」
「もう!いつからそんなに冷たい子になっちゃったの〜!」
「そんな、昔から俺のことを見て来たみたいに言わないでくださいよ!」
  正面から見た薮田先輩の顔は、なんだか懐かしいような、安心感があったような気がした。

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