ネトゲ戦車長がガチの戦車乗りになるみたいです。

亀太郎

戦車大暴走

三十分程森を駆け抜け、村の近くについた。
「ふぅ……初めての操縦だったけど何とかなるもんだな。そうだろ?」
肇は呑気そうにミーニャに話しかける。
「……しばらく乗りたくないわ。」
青い顔をしてミーニャが答える。
「……それでさ、これどうする?村に置いとくわけにもいかないし。」
「村長と話してくるわ。ちょっと待ってて貰える?」
と、ミーニャが言って走っていった。
しばらくすると、青い顔をしてミーニャが帰ってきた。
「……誰もいないわ。子供たちもどこにいるのか分からない。それに……武器が何も無いのよ。」
「何かあったのかな……」
肇が言いかけたその時、村の近くで火柱が上がった。
「あれは……魔法ね。でも、この村で炎特性が使えるのは私以外いないはず…」
なぁ、と肇が声をかける。
「こいつで見に行かないか?こいつは金属製だから多少の攻撃なら何とかなるだろう。」
肇はポルシェティーガーに手を置きながら言う。
「……そうね、もう乗りたくないけどしょうがないわね。」
ミーニャが渋々キューポラに手をかける。
それと同時にエンジンスタート。車体がゆっくりと、しかし徐々に加速する。
車内にも振動が伝わってくる。そして、ふたりが目にしたのは……
戦争だった。恐らく猫族と見られる男達と、その5倍はいるであろう人間。
「な、何で人間がここに……」
ミーニャの顔が青ざめる。その間にも多くの猫族が弓矢や剣、魔法などによって倒れてゆく。
車内に張り詰めた空気が立ち込める中、
「ミーニャ。」
肇が呼びかけるとビクリと体を震わせてミーニャが操縦席を見る。
「しっかり捕まってろ。」
急加速。エンジンの振動と音がより一段と大きくなる。そして、57tもの鋼鉄の塊が35㌔で突っ込んでゆく。

一方その頃、人間側では混乱の極みであった。
「な、何だありゃ!!」
「こっちに向かってくるぞ!!」
「ひっ……バ……バケモノめ!!!」
隊列を組んでいた兵士達は混乱を極め、敗走する者、怯えてしゃがむ者、戦車に攻撃する者などに分かれた。
「弓を放て!!」
弓が戦車に向かって飛んでくるが、そんなものは通用しない。
「ゆ……弓が効かない……だと……」
「魔法を使え!!奴をやき尽くしてしまえ!!」
隊長と思わしき男が攻撃を指示する。
「攻撃術式、ファイヤーボール!!!」
勇敢な魔導師たちが戦車に向かってファイヤーボールを撃つ。およそ20発の火の玉が、戦車に当たる。膨大な土煙が周囲を多い尽くし、戦車が見えなくなった。
「や……やったか……」
誰とでもなく呟く。しかし、土煙をかき分けてポルシェティーガーが突き進む。
「たっ……退却ぅ!!!」
兵士達がバラバラに逃げる。しかし、そんな都合のいいわけがない。
「今だ!!全員攻撃を仕掛けろ!!」
猫族の指揮官が叫ぶ。瞬間、矢の嵐が敵を襲った。
それはまさに、地獄というに相応しかった。
目の前には猛スピードで突っ込んでくる正体不明の物体、上からは弓と矢の嵐。もはや勝算などなく、圧倒的な蹂躙にただ怯えるしかなかった。
しばらくの後、猫族の近くに戦車を止めた。
彼らは明らかに警戒し、中には弓に矢を番えていつでも打てるようにしている者もいた。
カチリという音とともにハッチが開く。
「……みんな…大丈夫?」
頭だけ外に出してミーニャが尋ねる。
猫族に動揺が広がる。そして、操縦席のハッチを開けて、肇が顔を覗かせた。
「皆さん、お怪我はないですか?敵は撤退していきました。安心してください。」
全員がポカンと口を開けて肇を見ていたが、
指揮官らしき男が
「お前は何者だ!?ミーニャをこっちに渡せ!!そうすれば命は助けてやる!!」
と、罵声を浴びせた。肝心のミーニャは一瞬ポカンとしてから、クスクスと笑いを堪え始めた。その様子が泣いているように見えたのであろう。猫族が殺気立ち、肇を射殺そうとしている。
「お……落ち着いてください。僕はただ……」
「ただ何だ!?早く解放しろ!!!命が惜しくないのか!?」
指揮官が肇に被せて来るので、一向に話が進まない。そんな事が10回ほど続き、肇もイライラし始めた。
「だーかーらー!!!僕は味方だって!!それに、ミーシャに居候させてもらってるんだよ!!!変なことする意味が無いし、逆に感謝しかねぇよ!!!」
大声で肇が叫ぶと、ようやく話を聞いてくれることになった。しかし、
「ほう、つまり貴様はミーニャの家に居候している浮浪者だと?」
「誰が浮浪者だ。僕は…」
ミーニャが割って入る。
「レオポルド、彼は私の従兄弟よ。」
「「は?」」
肇とレオポルドが同時に声を出す。
その後、色々とあったものの、従兄弟ということで落ち着いた。そして、一旦村に戻って村長のところに行くことになった。
道すがら、レオポルドに話しかけられた。
「なぁ、おまえの名前はなんて言うんだ?」
「僕?僕はくろが……ハジメ。」
本名を名乗ると面倒くさいことになると直感した肇は呼び方を変ることにした。
「ほぉ、ハジメって言うのか。……さっきはすまなかったな。」
「いや、いいんだ。あの状況で攻撃しなかっただけでもすごいと思うよ。」
肇が言うと、レオポルドは少し照れていた。
二人の間に差し込む光は、とても眩しかった。

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