エルフに転生したんだけどこんなはずじゃなかった〜エルフ集落から追い出されたのでロリババアと異世界でぶらり旅〜

ニムル

第4話 テンプレ以前に自身の力すら未把握で

 正直男としての尊厳をすべて剥奪された上に、美少女と罵声を浴びせられる悲しい世界生活の幕が開くかと思っていたのだが、そん事は無かったようで森の奥のリッツァの家でのんびりと暮らしている。

 こちらの世界に来てから1ヶ月。

 サイのライノを足にして、今までリッツァの行くことの出来なかったという少し遠い場所まで薬草を取りに行くようになり、必然的に僕もリッツァについて行って薬草をとっては家に帰るという生活を繰り返していた。

 ちなみに僕が彼女に対してさん付けしなくなるまでには3週間ほどかかった。リッツァの本気によって、さんを付けたら思い切りビンタをされるという躾のような方法でやっとさん付けを解消したのがつい1週間と少し前くらい。

「さて、今日も以前の20倍くらいの薬草は取れたの! やっぱり必要なのは人員と足じゃったか、よし、よくやったぞカノン! えらいのぉ!」

 そう言って僕の頭をわちゃわちゃと撫で回してくるリッツァ。生前は女子と話すどころか近づくことさえ恐怖していた僕には色んな意味で気恥しいというか、緊張するような状況だ。

『リッツァ、イチャコラはいいので早く香音さんを私にバックしてくれ! 今日の分の魔法の講義がまだ終わってないんだよ』

「むー、おぬし、いらんところで真面目じゃのう、サトー」

『余計なお世話だピザ娘』

「誰がぴっつぁか、おぬし、わしを愚弄しておるのか! わし、仮にもグランドエルフじゃぞ!」

『もう今までの量の倍以上手に入れたんだったらもういいだろ?』

 いつも通り、僕とどちらが一緒に活動するか(?)を決める話し合い、というか喧嘩が始まり、僕とライノはこれは長くなりそうだねと短く言葉を交わして、2人に気づかれないうちにライノに跨って家へと先に帰った。

 毎日同じことになってるけど、そろそろどうにかならないのかなぁ……




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 家に帰ると、何人かの人影が玄関の前にたって何かを叫んでいた。

「マーガル! 早く出てこい、マーガル!」

 大声で叫ぶ声の主たちが、ライノの足音に気づいてかこちらを振り返る。集まっている集団はみんなエルフのようで、老齢から乳幼児まで、男女合わせて数十人が玄関に押し寄せていた。

 こちらに気がついた一人の女性がライノを見て「神獣!?」と驚いた顔をしたが、その横にいた槍を持った勝気な雰囲気の女性がその女性にすぐに下がってろと指示を出したので、驚いていた女性はすぐに人の波へと消えていった。

「さて、お前か? マーガルの家に居候しだした出どころ不明のグランドってやつは」

「え、えと、どちら様です?」

 困惑してそんなことくらいしか返せない僕に、女性は手に持った槍をこちらに向けて、「済まないが、勝手な移住はルール違反なんだよ、この島の。だから今回の件はうちの村が責任をもってお前を天に祀ることで話がついたのさ」

「えーと、それってどういう?」

「私との決闘で、死んでもらう」

「え、ちょ、ま!?」

 思わず界隈用語が出てしまった。

 え、なにそれ、僕に死ねと……いや、死にたくて死んだわけじゃないし、理想持って転生したのに理想と違いすぎたことは悲しいと思っているけれど、痛い思いをして死ぬなんて嫌だ。

 なんだかんだで痛いのが1番嫌いだし。殴る蹴るとか断固拒否してたし、転ばされないように常に足元を見て生活していたこの僕が自ら危ないところに進んで飛び込むと?

「嫌だ! 逃げるよ、ライノ!」

『相分かった』

 急いでライノを後方に急発進させて逃げる。

 あんな危なさそうな人達になんて関わってられない! くそ、異世界生活始まって1ヶ月で危機到来か! スローライフ系だと思ってたのに!

「逃がすかよォ!」

 ライノのスピードに迫る勢いで後ろを追いかけてきた槍の女性が大きな声で叫ぶ。

『主よ、空を飛ぶか?』

「え、飛べるの?」

『もちろんだ』

「じゃあよろしく!?」

『しっかり捕まっていてくれ』

 ライノの言葉通りにしっかりとライノの体に捕まり、振り落とされないように重心をできる限り下に下げる。

 本当にそれでいいのかはわからないけど、捕まってさえいればあとはライノが何とかしてくれそうなので、黙っていうことを聞くことにした。

『飛ぶぞ』

 そう言うと、ふわっと体が浮いた感覚に一瞬なったかと思うと、リッツァ曰く一本一本が50メートルを超えるという木々を軽々と上回る高度を、原理不明のまま走行し始める。

『これで良いか、主よ』

「う、うん、ありがとう」

 ちょっと酔いそうになったのだが、この体の三半規管が思いの外強かったのか、ものすごく気持ち悪くて動けない、みたいな状況だけは避けることが出来た。

 それにしても、これは、色々と万能すぎませんかね、この神獣。

 佐藤さんはライノのことをまだ僕が男だとわかる前からお供につけてたみたいだけど、こればっかりは本当にいい買い物をしたと思ってる。まぁ買ったわけじゃないんだけど。

「オラァ、降りてこいやぁ!」

 声につられて下を見てみると、紐のついた槍を地面からこちらに何度も放ってくる先程の女性の姿が目に入る。

 うわ、空中戦もなれてるのかな、ライノの回避性能がなければ確実に突き刺さって落下ルートだよ……

「おぬし、こんなところで何をしておる」

「!?」

 突然の声掛けに驚いて後ろを見ると、今まで誰も座っていなかったはずの僕の後にリッツァが座り込んでいた。

「全く、どこで暇を潰しているかと思えば……レーホンも来ておったか、ということは島の掟を破ったことがバレたか? いや、掟から外れた身のわしにわざわざ掟の強制に来る馬鹿などおるまい、おぬしの件じゃろうな」

「そうなんですよ、なんか言われたんですよぅ! なんなんですか、ルール違反とか言われたんですけど!?」

 焦って、でも少し安心してリッツァにそう言うと、リッツァは、

「まぁ、焦るな、少し待て。わしが一応奴らと話をつけてくるから、おぬしは私の後ろについて、サトーにこの間教えて貰った護身用の魔法と体術をいつでも使えるように頭の中で反芻しておくと良いぞ!」

 と、言った。

「それ一大事になる可能性があるってことじゃ!?」

 とにかく大丈夫だと何度も言うリッツァに仕方なく従い、僕は急いでライノを家の方向へとかけ戻らせて、玄関の前で地面へと下ろした。

「さて、久しぶりじゃなぁ、我が同胞たちよ」

 意味深な笑みを浮かべて彼らのことを見るリッツァに周りのエルフたちが固まる中、後ろにいた槍持の女性だけが、その目に確かな怒りを宿していたことに、僕はこの時気づくことが出来なかった。

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