草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第20章 ただいま 6

「だから、私は待つことにしました」
「え?」
「雄介のその体質が治るまで、私は待ちます。今のままでは、私は恋愛対象としても認識されていないようですから、まずはそれからです」
 なんだかどこかで聞いたような事を言っている織姫に、雄介はため息交じりに言う。
「いつ治るかもわかんないのに、待ち続けられるのか? 正直別な良い人が現れると思うが……」
「多分現れないです。私は貴方が私を嫌わない限り、大好きですから」
 あったばかりの頃は、自分の事を散々言っていたのに、なぜこうなってしまったのだろう。 そんな事を考えながら、雄介は顔を隠すように頭に手を当てる雄介。 真っすぐに自分に気持ちを打ち明ける織姫が、なんだか優子に似ていると思いながら、雄介はため息を吐いた。
「はぁ……なら好きにしたらいい……俺もこの体質は治したいと思ってるしな……」
「あ、確かもう触っちゃいけないんですよね?」
「あぁ、多分いまの状態でお前に触られたら、即気絶する」
 雄介は手のひらを織姫の目の前に突き出し、絶対に触るなとアピールする。 そんなアピールをされた織姫は、頬を膨らませて文句を言う。
「うぅ……病室では手を握れたのに……」
「なんで唸るんだよ……」
「だって……こんなに近くにいるのに……」
「頬を膨らませるな、仕方無いだろ……」
 ベッドの上で頬を膨らませ続ける織姫。 雄介はそんな織姫を見て、少しほっとする。
「でも、お前が俺の部屋に来るなんてな、前は部屋の外でも嫌がってた癖に……」
「そんな体にしたのは、雄介じゃない……」
「その言い方、外で絶対するなよ」
 織姫は雄介をからかい笑みを浮かべる。 そんな時だった、雄介は織姫の目から涙が流れ出るのを見た。
「お、おい、お前……」
「あ、あれ? お、おかしいな……なんで……泣いて……」
 織姫から溢れ出る涙は、どんどん大きくなり、大粒の物になっていく。 雄介はなぜ、織姫が涙を流しているのかがわからず、一人でアタフタしてしまう。
「すいません……うれしくて………いつもの雄介で……いつもの……優しい……」
「織姫……」
 織姫はただうれしかった。 いつもの記憶が戻り、いつもの雄介に戻り、前のようにこうして話せることが、どうしようもなく、嬉しかった。 だから、安心し、糸が切れたように涙が目から溢れて止まらなかった。 雄介はそんな織姫を見て再び気が付く。
「……ごめん、織姫。もう俺は、どこにも行かねーよ」
 自分が居なくなり、悲しんでくれる人がいる。 忘れてはいけない、雄介はそう思っていた。 自分がどれだけ織姫に迷惑をかけ、どれだけ心配させてしまったのかを……。 雄介は、椅子から立ち上がり、泣いている織姫の頭を撫でる。 やはり拒絶反応が出た。 頭がクラクラし、吐き気が雄介を襲う。 しかし、雄介はやめなかった。
「ゆ、雄介……大丈夫?」
「あぁ…正直きつい……でも、お前はもっと辛かったんだろ?」
 どんどん雄介の顔を青くなっていき、織姫はそんな雄介を心配そうに見つめていた。
「それに……こうでもしないと……治んねーしな……もう無理……」
「きゃー!! ゆ、雄介? 雄介?」
 雄介はそのままベッドに倒れてしまった。 織姫は慌てて雄介に声をかけるが、雄介は気絶してしまい、うーうー唸っている。 そんなところに、ドタバタと階段を駆け上がり、雄介の部屋のドアを開けて誰かが部屋に入って来た。
「どうかしましたか、お嬢さ……ま?」
 入って来たのは、倉前だった。 倉前が見た光景は、雄介がベッドでうつ伏せに倒れ、織姫がそんな雄介の上から覆いかぶさっている状態だ。 倉前はコホンと一つ息を付くと、ポケットから四角い袋を出し、織姫に手渡した。
「ゴムはつけて下さい、それでは」
 そういうと、倉前はすぐさま部屋を後にした。 残された織姫は、渡された物を見ながら「なんだったのだろう?」と思いながら、首を傾げる。
「ち……ちがう……」
 かろうじて意識のあった雄介は、苦しそうな声でそういいながら、再び意識を失った。
「あぁ……まだ無理はしない方が良いかもな」
「そうですね、また倒れられても困りますし……」
 雄介は少しして意識を取り戻した。 起きて早々に、織姫が雄介に倉前さんから手渡された物を見せて「これって何に使うんですか?」と質問され、雄介はため息を付き、それを受け取ってごみ箱に捨てた。
「はぁ……あの人もいい人なんだがな……」
「あれは何に使うんですか?」
「自分で調べてくれ……俺が説明すると、いろいろ面倒だ」
 段々体力を回復させてきた雄介は、立ち上がって大きく伸びをする。
「一階に行こうぜ、今日は飯食って行けよ。久しぶりに俺も作るから」
「え! 雄介って料理できるの?」
「あれ? 言ってなかったか?」
 雄介の料理が出来るという発言に、織姫は驚きを隠せなかった。
「うぅ~……私よりも女子力高い……」
「女子じゃ無いっての……まぁ、少し前まで引きこもってたお嬢さんじゃ、料理は出来ねーだろうな」
「うっ! 痛いです……なんだか心がとっても痛いです……」
 図星をつかれ、織姫は胸を押さえてうずくまる。
「まぁ、女子力なんて、料理だけじゃないだろ? ちゃんと化粧して、御洒落もしてるお前は、別に女子力低くないだろ?」
「え………そうですか? じゃあ、今日の私は可愛いで……」
「さて、久しぶりに腕が鳴るな」
「なんでこういう時だけ聞いてないんですか!!」
 雄介は織姫の話を最後まで聞くことなく、部屋を出て行ってしまった。 残された織姫は、雄介の部屋で一人、悲しく雄介への不満を叫んでいた。 

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