草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第17章 帰宅と登校2

「えぇ、寝る時も一つのベッドに二人で毎晩くっ付いて寝て居たわ」
「……」
「雄介、気づいていると思うけど、嘘よ……」
「はい、なんかそんな気がしました」
 段々と里奈との接し方に慣れて来ていた雄介。 一人で話を続ける里奈を残し、三人は家の中に入っていく。
「お、お邪魔します」
「違うわよ、雄介」
「え…?」
 先に家に入った紗子に言われる雄介。 しかし、何が違うのか雄介にはわからない。 そんな雄介を見かねてか、玄が雄介に笑顔で言った。
「ここは雄介の家なんだよ。だから帰って来た時に言うことが他にあるだろ?」
「あ……た、ただいま…」
「「お帰り、雄介」」
 雄介は変な感じがしていた。 全然知らない家のはずなのに、なんだか懐かしい感じがして、どこか安心した。
「雄介の部屋は二階だったのよ」
「そうなんですか?」
 雄介は紗子に手招きをされ二階への階段を上がり、紗子の後をついて行く。
「ここよ、部屋は貴方が居なくなってから一切触ってないから、少し埃っぽいかも」
「ここが……」
 記憶を無くす前の自分の部屋。 雄介は自分を知ることが出来る一番の手がかりが、この部屋にあると思うとなんだかドキドキした。 紗子が部屋のドアを開けて雄介に中を見せる。 きっちりと整頓されており、散らかっている様子はない。
「片付いてますね……」
 雄介はそう言いながら、足を部屋の中に進めキョロキョロと部屋の中を見回す。
「雄介は綺麗好きだったから、直ぐに散らかしちゃう私達にとっては、いつも掃除をしてくれて助かっていたわ」
「そうなんですか………ん? これは何ですか?」
「それは……」
 雄介は机の上の写真を指さし、紗子に尋ねる。 机の上には二つの写真が飾られている。 一つは紗子達、今村家の全員と一緒に写っているもの。 そしてもう一つは、雄介が本当の家族と映っている写真。
「この写真は……自分の元の家族ですか?」
「……えぇ、そうよ」
 紗子はそれ以上何も言わなかった。 言えなかったのだ、急に元の家族の話をしても雄介を混乱させるだけだと思ったからだ。
「これが……うっ!」
「どうしたの?! 雄介!」
 雄介は突然頭を押さえて苦しみ出す。 そんな雄介を見た紗子は気が気ではない、慌てて雄介の元に駆け寄る。
「痛い……頭が…割れる……あ……」
「雄介! 雄介!」
 雄介はそのまま紗子にもたれ掛かるようにして倒れる。 紗子は涙を浮かべて雄介のな目を呼ぶ。



 真っ暗で何もない世界だった。 どこまで行っても真っ暗で、自分がどこにいるかさえもわからない。
「ここは……」
 雄介はそんな世界に一人立ち尽くしていた。 周りには何もなく、ただ真っ暗で静かだった。
『よ、俺』
「誰だ!」
 振り返るが誰も居ない、声はするが人影すら見えない。 それ耳かと思ったが、違うらしい。
『おまえ……俺の代わりになってくれよ……俺はもう……戻れない』
「何を言って…」
『俺はあいつらに合わせる顔が無い……元々居なくなる覚悟だったんだ、後悔はないさ』
 声は言葉を続ける。 雄介は声の主を探して辺りを見回すが、誰も居ない。 一体誰が自分に語りかけているのか、雄介はそんなこの状況が、不気味だった。
「誰なんだ! ここは一体!」
『頼むぜ、お前の方があいつらと居るにはふさわしい。こんな……俺みたいな化け物と違って……』
「だから誰なんだ! 教えてくれ!」
 雄介は必死に問いかける。 しかし、声は何も答えない。
『お前はそのまま、普通に生活を送ってくれ、そうしていれば、自然に俺は消える』
「消える? なんのことだよ……」
 雄介は訳が分からなかった。 声の主が何を言いたいかも、何を伝えようとしているのかも、全く分からなかった。
『じゃあな、そろそろ紗子さんが心配で倒れそうだ。戻ってやってくれ』
「待ってくれ! なんで紗子さんを知ってる!」
 雄介は必死に語りかける。 しかし、声はどんどん遠くなっていく。
『……じゃあな、俺』
「! ま、まさか……俺?!」
 声がどんどん遠くなり、声が完全に消える瞬間、雄介は確かに見た。 自分の前方を歩いて行く、もう一人の自分の姿を……。



「……すけ! ……ゆう……すけ!」
 誰かが自分を呼んでいる。 雄介はいつの間にかベットに寝かされており、目を覚ますと紗子が涙を浮かべて自分を呼んでいた。
「雄介! 大丈夫??」
「……自分は一体……」
「急に倒れてびっくりしたわよ! 大丈夫?」
「はい……あれは一体……」
 頭を押さえる雄介、頭痛は消えており、痛みは無い。 あの声は何が言いたかったのか、あれは一体何だったのか、雄介は気になっていた。
「大丈夫? やっぱりまだ体が……」
「いえ、きっと疲れてしまったんですよ。大丈夫ですから…」
 雄介は紗子に笑顔でそう告げると、体を起こす。 紗子はとりあえず大丈夫そうな雄介を見て安心する。
「あんまり無理しないでね……退院したばかりなんだから、何なら少し寝てても良いわよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、ちょっと横にならせてもらいます」
 紗子は雄介の部屋を後にした。 部屋に一人残った雄介は、あの不思議な体験を思い出していた。
「一体何だったんだ……消えるって……」
 声の主の言葉を思い出す。 そして最後に見た、自分とうり二つの人影の姿。 一体何を伝えたかったのだろうか、それとも雄介自身のただの夢なのだろうか……。
「はぁ……俺は、本当に俺なのか……」
 自分の体を見ながらそんな疑問を抱く雄介。 なんだか別人の体に入って生活をしている気分だった。 視線を傾けると、そこには俺の物らしいものが部屋に置いてあるが、なんで買ったのかもなんで持っているかも一切思い出せない。
「上手くやっていけるのかな……」
 これからの生活に心配しか感じない雄介。 ベッドから立ち上がり、部屋を物色し始める。
「自分の部屋なんだし……大丈夫だよな?」
 他人の部屋を家探ししている気分になり、なんだか悪い事をしている気分になる雄介。
「アルバム……か」
 雄介はクローゼットの中から一冊のアルバムを見つけた。 表紙には今から5年ほど前の年号と日付が書いてあり、中は綺麗に整理されていた。

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