草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第16章 新たなる朝10

「あ、あの……大丈夫ですか?」
 雄介は急に泣き出した慎を心配し、声を掛ける。 慎は涙を拭き、顔を上げて雄介の目を真っすぐに見つめる。
「悪い、急にすまなかったな……」
「いや、自分は大丈夫ですけど……」
 慎はいつもの調子を取り戻し、軽い感じで雄介に接し始める。 そうした方が、雄介も接しやすいと思ったからだ。
「悪いんだが、俺は以前の雄介と同じ調子で話させてもらうぜ、慣れ慣れしいと思われるかもしんないけど、俺はこっちの方が良いんだ」
「それは良いけど、俺は本当に何も覚えてないから、君に以前のように接する事は出来ないよ?」
「いいさ……今は、生きてただけで……俺は十分だ」
 慎は雄介を見てそういう。 一週間、雄介に関する情報が無く、もう会えないかと思っていたのが、今は目の前に居る。 記憶は無いが、慎にはそれで十分だった。
「なぁ、何時退院なんだ?」
「えっと、確か後三日って先生は言ってたかな? そうしたら、とりあえず自分の家に帰る事になるんだけど、俺にとっては他人の家としか思えないよ」
「そうか、学校はどうするんだ?」
「あぁ、それは……」
 雄介と慎は病室で談笑を始める。 慎は久しぶりに雄介と話すことが出来てうれしかった。 話は弾み、慎は雄介に自分との関係や、どんな事をして毎日を過ごしていたのかを伝える。 その頃、談話室に残ったメンバーも動きだしていた。
「ここまで来たんですし、こんなところで立ち止まるのはもったいないです! 私は行きます! 雄介さんに会いたいですもん!」
 凛が談話室の面々に向かって宣言し立ち上がる。 それを聞いた沙月も立ち上がり、雄介の病室に向かう。
「まぁ、どんな状態なのか、見てみるだけでも来た意味はあるわ」
 次に慌てて立ち上がったのは、堀内と江波だった。
「俺も行くぜ! あいつの為に補習必死で終わらせたんだからな!」
「私も行くわ、今村に助けてもらったお礼言いたいし!」
 そう言ってゾロゾロと雄介の部屋を目指す面々。 渡辺も立ち上がり、病室に向かおうとする中で、一人一歩も動こうとしないのが居た。 優子だった。
「いかないの?」
 渡辺は優子に尋ねる。 優子は悲しそうな表情で静かに言葉を発した。
「……会うのが怖くて」
「……」
 渡辺は優子の言葉に何も答えない。 優子の側に行き、渡辺は座ったまま動こうとしない優子に一言だけ言う。
「そんなんで、雄介の事を好きだった気持ちは無くなるの?」
「……」
 渡辺は何も言わない優子を放って病室に向かう。 石崎も後から先に行った面々を追いかける。 優子は一人、談話室に残った。
「……私だって会いたいよ……でも……」
 優子は怖かった。 自分を忘れてしまった雄介と会うのが。 最近では結構仲良くなれたのに、今の雄介は何も覚えていない。 そんな雄介と会うのが、優子は怖かった。
「……雄介」
 会いたいけど、会うのが怖い、そんな矛盾が優子悩ませる。 一方雄介の元に向かった6名は病室の前につき、ノックをしてドアを開けようとしていた。
「し、失礼します……」
「お、やっと来たか…雄介、こいつらがお前の友人。まぁ、色々と個性的な奴らだがな……」
「「「お前に言われたくねぇよ!」」」
 慎の言葉に反論する一同。 病室にやってきた一同は、雄介のベットを囲むようにして集まり始める。
「本当に覚えていないんですか?」
「ごめんなさい……まったく覚えていないんです」
 凛の質問に、雄介は気まずそうに答える。 最初に行われたのは、この場にいる全員と雄介の関係の確認だった。 それぞれ、雄介とどんな風に学校生活を送っていたのか、どんな関係なのかを話していく。
「皆さん、俺とは仲良くしてくれていたんですね」
「なんだか、今村からこういう事言われると気持ち悪いな……」
「いつもはもっと違う感じだから違和感ね……」
 いつもの雄介との違いに戸惑う堀内と江波。
「まぁ、あまり無理はするな、学校も安心して来い、バックアップはしっかりしてやるから」
 石崎は雄介を見ながら教師らしい言葉を掛ける。 そんな石崎の姿に、堀内は思わず口を大きく開けて驚く。
「先生が先生してる……」
「ほぉ~、堀内…そんなに俺と補習がしたいか?」
「あ! しまった!」
「しまったじゃねーよ」
 石崎はそう言うと、堀内の頭を拳でぐりぐりして攻撃し始める。
「痛い! 痛いって先生~!!」
「少しは俺を教師として見やがれ。まったく……」
 楽しそうに悪い笑顔を浮かべる石崎。 そんな堀内と石崎のコントのような会話に、病室は笑いで包まれる。 雄介も思わず口元を緩めて、笑顔になる。
「早く学校来いよ……お前は覚えてないかもしれないけど、お前を心配してる奴って結構いるんだぜ?」
 そう言って慎は、クラス全員で書いた寄せ書きと千羽鶴を見せる。 雄介はそれを見せられても何も実感がわかなかったが、記憶を失う前の自分が嫌われていなかった事に安心感を覚えた。
「うん……そうするよ」
 雄介はお見舞いを受け取りながら優しい表情でそういう。 その後は、もう時間も遅いという事で、直ぐに皆は病室を後にした。 順に一人づつ病室を出て行き、一人、また一人と帰っていった。 最後まで残っていた慎が凛と共に帰っていったのが、ちょうど19時になる位の時間だった。
「……友達か……」
 一人になった病室で雄介は一言呟き、貰った寄せ書きを眺める。 これを見た記憶を失っていない自分は、一体何を思うのだろうか? 雄介はそんな事を考えながら、色紙を見ていた。
「流石にもう来ないだろ…」
 雄介は流石にもうお見舞いは来ないだろうと思い、寝巻を着替え始めた。 丁度着替えを終えた頃だろうか、病室をノックする音が聞こえ、雄介は声を上げて答えた。
(晩飯か? それにしては早いな……)
 最初、雄介は晩御飯をもってきてくれたナースさんかと思ったが、そうでは無かった。 ゆっくりと病室のドアは開き、ノックをした本人が姿を現した。
「雄介……」
 ドアを開けて入ってきたのは、優子だった。

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