草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第16章 新たなる朝6

 徹と倉前が病室を後にしてから数分。 またしても雄介の病室のドアをノックする者が居た。
「どうぞ」
 雄介がドアに向かってそう言うと、ゆっくり扉が開いた。 しかし、誰も入って来ない。 雄介は不振に思い扉の影をベットから身を乗り出して確認する。
「ど……どうも……」
 ドアの陰から顔だけ出してそう言ったのは、織姫だった。 顔を赤くしながら、ドアに隠れて入って来ない。 雄介は織姫を見て、また変なのが来た……。と思いながら、中に入るように促す。
「あの……中に入ったらどうでしょうか?」
「……やっぱり……覚えてないんですね……」
 織姫は沈んだ表情でボソッとそう言うと、病室に入りベッドの近くの椅子に座った。
「すいません、聞いているとは思いますが、自分は記憶が無くて……だから貴方の事もわからないんです……」
 雄介は沈んだ表情の織姫にそう告げる。 織姫は俯いたまま何も話さない。 雄介はどうしたもんかと困ってしまい、何か話さねばと話題を探す。
「えっと……自分は貴方とどんな関係だったんでしょうか?」
「関係……ですか?」
 とりあえず雄介は、織姫との関係を尋ねる。 友人なのか、それともそれ以上の存在なのか、今の雄介にとっては織姫の情報が全く無いのだ。 どんな関係かを聞いてから出ないと、話を進める事は出来ないと雄介は思っていた。
「……そうですね。私と雄介は知り合ったのは、本当に最近です」
「それは友人としてという認識で良いでしょうか?」
「はい、そうです……」
 織姫は雄介に、二人の出会った経緯や自分の名前。そして、自分が先ほど来た徹の娘である事を打ち明ける。
「……そうだったんですか、貴方があの人娘さん……」
「はい、雄介に出会う前は家から一歩も出られませんでした……」
 少し明るい表情になりつつある織姫だが、やっぱり表情は暗い。 自分はこの子とどれだけ仲が良かったのだろうか、どんな感情を抱いていたのだろうか、そんな事を考えながら再度織姫を見る。
「あの……突然失礼かもしれませんが、お綺麗ですね……」
「えぇ!! い、いきなりなんですか!」
 言われた織姫は耳まで顔を真っ赤にして雄介に尋ねる。 雄介は純粋に思った事を口にしていた。 綺麗なブロンドの髪、整った容姿、白い肌。 なぜ自分はこんなにも魅力的な美少女と友人でいられたのか、雄介は凄く不思議だった。
「すいません、そう思いまして。自分は、記憶を無くす前は酷い女性恐怖症だったと聞きます。そんな自分が、なんで女性と……しかもこんなに綺麗な貴方と関りを持ち続けたのか不思議で……」
 雄介は検査を受ける段階で、自分が元は女性に対して拒否反応を起こす体質である、女性恐怖症である事を知らされていた。 しかし、今の雄介にその症状は出ていない。 奥澤の話では、記憶にあった女性への恐怖や憎しみの思い出が、雄介の体に防衛本能を働かせて、そのような症状を出していたのではないかと言う。 女性への記憶もすっかり消えてしまった今、防衛本能を働かせていた記憶が消えたため、防衛本能も働かないのではないのか、という結論で落ち着いたらしい。
「えっと……それじゃあ、今のあなたは女性に触れる事が出来るのですか?」
「そうですね、自分にとっては不思議な事ではないのですが、自分の両親がひどく驚いていました」
「そうですか……あの…一つお願いをして良いでしょうか?」
「はい?」
 織姫は顔をまたしても赤く染めながら、雄介に何か言おうとモジモジしていた。 雄介は何を頼まれるのか、織姫の言葉を持っていた。
「……手を握っても良いですか?」
「えっと……別に良いですけど……」
 雄介は意味が分からず、とりあえず自分の左手を織姫に差し出す。 織姫は恐る恐る雄介の手に触れて、強く雄介の手を握った。 織姫の手は雄介より一回り以上も小さく、柔らかくてひんやりとしていた。
「……私は、貴方のおかげで男性が多少怖くなくなり、こうして最近は外出もできるようになりました……」
「あ、あの……」
 織姫は涙を流しながら言葉を続ける。 雄介は織姫がなぜ泣いているのか分からず困惑していた。
「貴方が毎日……来てくれたから……私と友達になってくれたから……今の私はここに居ます……」
「………」
 雄介は織姫の言葉を静かに聞いていた。 織姫の真剣な話に釘を刺す事が、今の雄介には出来なかった。
「そして、命も救ってくれた……私の大事な人と私の命を………感謝してもしきれない……」
 織姫は涙を拭き、顔を上げて雄介の顔を真っすぐ見る。 雄介は織姫のそんな仕草に少しドキッとしつつも、静かに話を聞いていた。
「初めてです……こんなに愛おしく思う異性は……ずっと一緒に居たいと思う男性は……」
「えっと……」
「私は、貴方をお慕いしていました。その気持ちは、記憶が無い今のあなたでも変わりません」
 雄介は突然の織姫の告白に、顔を赤く染める。 織姫の手を握る力が強くなる。 織姫は真剣な表情で、雄介から目を離さない。
「じ、自分は……記憶が無いので、貴方のその思いに今は答えられません……」
「はい……わかっています。でも、今度またあなたがムチャをした時に、私はもう後悔したくないんです……だから、言える時に言います」
 織姫は雄介の手を両手で包むように握り、その手を額に持ってきて、願うように雄介に言う。
「私は、記憶が無くても……どんな体でも……あなたが大好きです。だから……早く戻ってきてください。私はずっと待っています……」
 雄介は分からなかった。 話で織姫と雄介の関係やこれまでの出来事は聞いたが、なぜここまで織姫は自分を思っているのか、雄介は分からなかった。 自分は記憶を無くす前に一体何をしたのか、ますます気になった。
「……すいません、そろそろ行きます。それでは……」
「あ! ちょっと!!」
 織姫は雄介の手を離し、すぐさま病室を後にする。 雄介からちらっと見えた織姫の顔はリンゴのように真っ赤だった。
「……俺は、あの子の事、どう思っていたんだろう……」
 左手にはまだわずかに、織姫の温もりが残っている。 自分をあんなに思ってくれる子が居た事に、雄介は驚いていた。 熱くなった顔を隠すように、雄介は布団を被って眠りに落ちる。

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コメント

  • ペンギン

    症状が治って良かった?のかな...?

    1
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