草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第15章 文化祭の開始7

 メイド喫茶の視線は一気にメイド姿の織姫に向けられる。 織姫は視線に耐えられなかったのか、すぐに今日つから出て、ドアの陰に隠れてしまう。
「あぁ~、やっぱ恥ずかしいかな?」
 織姫を連れて来た女子生徒が、ドアの陰に隠れた織姫を心配そうに除く。 雄介と倉前さんは、心配になり織姫の元に向かう。
「おい、大丈夫か織姫?」
「お嬢様、あまり無理はなさらずに……」
 二人で織姫の体を心配する。 織姫は顔を青くしながら、ドアの陰に隠れていた。
「だ…大丈夫です……」
 織姫は、青い顔のまま教室に戻ろうとする。倉前はそんな織姫を支えながら一緒に教室に入る。 そこに、江波が何やら笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「フッフッフ……どうやら私の出番のようね!」
「どうしたんだ江波?」
「今村、織姫ちゃんの事は私に任せなさい!」
「何か策でもあんのか?」
「任せなさい! あんたは心配せずに、自分の仕事してなさい」
 そう言って、江波は織姫の元に向かい、接客を教え始める。 雄介は心配しつつも、江波に織姫を任せ、バックヤードに戻って、自分の仕事をする。 倉前は、継続して接客を行い、そのおかげもあって、外には客の列が出来つつあった。
「なかなか、忙しくなってきたな」
「そうだな、俺ももう外には出られねーよ」
 バックヤード担当の雄介は、接客に浸かれた慎と共に雑談をしながら、作業をしていた。
「お前は女性客の相手をしろよ」
「客のほとんどが男なんだよ、俺の出る時じゃないし、今は女子とあの二人が頑張ってるだろ?」
「まぁ、そうだが……織姫は大丈夫なのか?」
 雄介はコップに飲み物を注ぎつつ、慎に店の状況を確認する。 慎はスマホを弄りながら、チラリと店の様子を見て、雄介に報告する。
「あー、大丈夫そうだぞ、注文取ってる」
「マジか! ちょっと見せろ!」
「勝手に見ればいいだろ…って! 俺に注文押し付けるな!」
 雄介は慎に注文票を押し付け、織姫の様子をバックヤードからうかがう。 慎の言う通り、織姫はたどたどしい感じではあったが、しっかり男性相手に接客をしている。
「……あいつ、頑張ってるな」
 雄介はそんな織姫の様子をバックヤードから見守る。 よく見ると、織姫には常に江波が一緒について接客をしている。 雄介はそんな二人の姿を見て安心し、バックヤードの作業に戻った。
「おい! さっさと手伝え雄介! 俺はこういうの駄目なんだよ!」
「お前……パフェは順番に材料を盛り付けるだけなんだが……」
「ほっとけ!」
 織姫と倉前さんのおかげで、メイド喫茶は大盛況となり、初日分はすべて売り切れとなり、まだ15時だというのに、閉店となってしまった。 学園祭は18時までなので、3時間も余ってしまい雄介たちは、今日の売り上げを計算していた。
「まさか完売するとはな……」
「マジで織姫ちゃん女神……」
「俺は倉前さんが良いな~、あの猫耳が……」
 クラスの男性陣は、クラスの女性陣と話をする倉前と織姫を遠目で見ながら、そんな話をする。 そんな中、あとかたずけをした雄介は、織姫と倉前の元に向かう。
「倉前さん、織姫、今日はありがとう」
「いえいえ、お気になさらないでください。私もお嬢様も楽しかったですから」
 倉前は雄介に笑顔でそう告げる。 一方の織姫は、疲れたような表情を雄介に向ける。 慣れない事の連続で疲れてしまったのだろう、雄介はそう思いながら織姫に優しく声を掛ける。
「疲れたか?」
「……はい、でも…」
「ん?」
「楽しかったです」
 織姫はそれまでの疲れ切った表情を笑顔に変えて、雄介に言う。 その様子を見ていたクラスの女子は、口々に雄介に言ってくる。
「今村~、この子可愛い~、このクラスに転入とか出来ないの~?」
「そうよー、私も織姫ちゃん気に入っちゃったわ~」
 雄介は、そんな事を俺に言うなよ…、と思いつつも、雄介自身もそうであれば、織姫にとっても良いのだろうと考えていた。 クラスの男子はともかく、大半の女子に馴染んでいるし、織姫も打ち解けた様子でいた。
「今村様、少しよろしいですか?」
「はい?」
 雄介は倉前に言われるままに廊下に出て行く。織姫も一緒についてきて、人の通りの少ない階段の踊り場で三人で話をする。
「どうしたんですか?」
「まず、はじめに、今日は本当にありがとうございました」
 倉前は雄介に対して深々とお辞儀をして礼を言う。 織姫もそれに続いて頭を下げ、その様子を見た雄介は、慌てて頭を上げるように言う。
「いえいえ、そんな大した事してないですから……」
「そんな事はありません。雄介は私の為に色々と手を尽くしてくれました。私は感謝してもしきれないです」
 織姫は雄介に対し、頬を赤く染めながら言う。 雄介はそんな織姫の姿を見ながら、「成長したなぁ~」と親のような気分になりながら、しみじみ思う。
「一番は、お前が頑張ったからだよ。俺はただ手助けをしただけだ」
 雄介はそう言いながら、自分の事を考える。 結局自分は何も変わらないのに、織姫はどんどん前に進んで行き、すごい奴だと思いながら、何も変わらない自分を恥じていた。
(何も変わらないのは俺だけか……)
「そこで、雄介様にお話ししておきたい事があります」
「なんでしょうか?」
 倉前と織姫は雄介に向かって真剣な表情を向ける。 口を開いたのは織姫だった。
「私、学校に通ってみようと思います…」
 雄介は驚いたが、織姫の決意に雄介は素直に応援する事にした。
「がんばれよ。お前ならすぐ学校になれるよ」
「うん…」
 織姫は更に顔を赤く染めながら、雄介に応える。
「んで、学校はここに通うのか?」
「はい、そうしようと思っています」
「そうか、ならあいつら喜ぶな……」
「また迷惑を掛けるかもしれないけど、よろしくね」
 織姫はメイド服姿で雄介に笑顔でそういう。 雄介はそんな織姫を見ながら思う、自分はきっと織姫と学校に通う事が出来ないだろう。そんな事を考えながら、織姫に何と言ったものかと考える。
「……あぁ、そう……だな」
 結局雄介は歯切れ悪く、織姫にそう言い。そのまま視線をそらした。 その後、織姫と倉前は学校を後にしていった。 雄介の中には、また嘘をついてしまった罪悪感が残っていた。

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