草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第12章 後編14 草食系とお嬢様

 抵抗しながら雄介は里奈にある事をつぶやく。
「今日は一緒に寝ましょう……」
「!?」
 言われた里奈は驚きのあまり、雄介の腕の拘束を解き、顔を真っ赤にしてたじろぐ。雄介はそのすきに里奈から離れる。
「え…ユ…ユウ君? い…一体どうしたの? そりゃあ、うれしいけど……あ、っていうかそれなら早くお風呂入って来なきゃね! じゃあ。ベットで待っててね!!」
 里奈はそういって階段を駆け下りて行った。残された雄介は、とりあえず危機を脱した事に安堵し、一階に降りて晩御飯を作り始める。
「夜はソファーで寝よう…」
 料理をしながらそう考える雄介。里奈はベットに入るとすぐに眠ってしまう。雄介はそれを利用し、今日は雄介のベットで里奈が雄介を待つ間に眠ってもらい。雄介自身は安全策でソファーで眠ろうという考えだ。
「まぁ、最近里奈さんとなかなか時間取れなかったしな……」
 最近の事を申し訳なく思う雄介だが、流石に兄弟でのキスは色々とまずい。今度違った形でお詫びをしようと決めた。 夜は雄介の思惑通り、飯を食べ終えて里奈はすぐさま雄介に「部屋で待ってるから…」と言って二階の雄介の部屋に向かっていった。雄介は「お風呂から上がったらいきます」と言い、そのままリビングでテレビを見て、里奈が寝たであろう時間に自分も一階のソファーで眠った。
「まぁ、明日なんか言われるんだろうな……」
 明日の朝の里奈の事を考えながら、雄介は眠りに落ちていく。


 紗子が帰ってから既に一週間が経過した。雄介はいつも通りの学校生活を送りながら、毎日のように織姫に会い、夜にはゲーム内のチャット機能で会話をしたりしていた。 そして、今日もまた織姫の家に来ていた。もう既に織姫の部屋の前には椅子がセッティングされており、いつものように雄介はその椅子に座って、織姫とドア越しの会話をしていた。
「…それで、この前一緒にパーティー組んだ時なんですけど!」
「あぁ、二日前のイベント戦か?」
 いつも通りのゲームの話。最近では、織姫はあまり雄介に対して毒を吐かないようになっていた。雄介もただ純粋にゲームの話をしに来ている感覚でいた。
「最近は随分我が家にきますね。そんなに暇なんですか?」
「引きこもりに言われたかねーよ。まぁ……あれだ、なんもやる事無いしな…」
 雄介は嘘をついた。実際は最近加山や慎、沙月などから放課後に遊びに誘われるのだが、雄介はずっと断って、織姫の元に来ていた。今日も加山からしつこく何をしているのか聞かれ、振り切るのが大変だった雄介。
「お、もうこんな時間か、じゃあ俺は帰るは……って言ってもどうせまた夜中にゲームで会うか」
「はい、今日のイベントボスは夜に出現するんですから、必ずインしてくださいね! まぁ、結果的に私が貴方のお手伝いをするだけになるんでしょうけど」
 顔は見えなかったが、雄介はドアの向こうでドヤ顔する織姫が容易に想像できた。
「へいへい、んじゃな~」
 雄介は織姫の部屋の前を後にする。最近では倉前さんは雄介に付き添わなくなっていた。いつもで迎えはするが、雄介が織姫と話す際は仕事に戻り、雄介が帰宅するときに顔を出しにやってくる。 本日もそんな感じで、玄関先で倉前さんが待っていた。
「本日はもうお帰りですか?」
「はい、なんかすいません。毎日毎日……」
「そんな事はありません。最近お嬢様は明るくなりました」
「そうですか? 俺は会ったころとあまり変わらない気が……」
 首を傾げて疑問に思う雄介。雄介の知る限りでは、あったころと比べて別に変った感じはしなかった。
「いえ、最近は雄介様のお話ばかりするんですよ、お嬢様」
 きっと、俺のゲームの腕が下手でからかってんだろうな。などと雄介は考えつつ苦笑いを浮かべる。織姫はゲームがうまい、知識もそうだが、操作も上手く、雄介は「流石引きこもりだなぁ…」なんて思ったりもしていた。
「まぁ、それでもまだ直接会って話は出来てないんですけどね……」
「私はもうそろそろだと思っていますよ、お嬢さんは……」
 言いかけた倉前さんが口を閉じ続きは何も言わなかった。だが、代わりに笑顔で雄介にこう言ってきた。
「お嬢様とこれからも仲良くしてあげてください」
 雄介は言いかけた言葉が気になったが、そこまで詮索はせずに、倉前さんの言葉に返答する。
「はい、わかりました。じゃあ、自分はこれで」
 雄介は屋敷を出て、いつも通りの帰路につく。屋敷に残った倉前さんは一人、織姫の元に向かった。
「お嬢様、よろしいでしょか?」
「どうかしましたか?」
 織姫の返答が帰って来る。すると、倉前さんはドアを開けて部屋の中に入っていった。中には、引きこもりであるにも関わらず、きちんとした清潔な服を着て机に向かってゲームをする少女、織姫が一人いた。
「今日も楽しそうでしたね」
「そうでしたか? それはきっと好きな話題の話だったからです。それで要件はなんでしょうか?」
 ゲームを一時停止し、倉前さんの方を向く織姫。倉前さんは笑顔のまま、彼女に告げる。
「そろそろ、直接お会いしてみても、良いのではないでしょうか?」
「え……、それは……」
 突然の申し出に戸惑う織姫。そこに倉前さんは追い打ちをかけていく。
「あの方は大丈夫です。お嬢様を裏切るような真似は致しません。あとは、お嬢様の勇気次第です」
 織姫は考えるようにして黙ってしまった。そして__
「倉前さん……私は……」
 口を開く織姫。倉前さんは優しく微笑みながら言葉を待った。
「……無理よ……」
 俯き、苦しそうにいう織姫。倉前さんはそんな彼女の側に行き、そっと抱きしめる。そして耳元でささやく。
「そうね……でも、あの人なら大丈夫……」
「…………」
 何も応えない織姫。長い長い沈黙が、部屋の中を支配し、聞こえてくるのはパソコンの音だけ。倉前さんは織姫を抱きしめたままだった。

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