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甘え上手な彼女

Joker0808

♯35




「おい……おい!」

「え……あぁ、優一か……どうした?」

「どうしたじゃねぇ!! 指から血があふれてんぞ!!」

「え……あぁ、なんか指が暖かいと思った……」

「馬鹿野郎! 早く押さえろ!! おい! 誰かハンカチとか持ってねーか!」

 高志は屋上から戻り、作業をしていた。
 しかし、ぼーっとしていたせいか、指を切ってしまった。
 本人は血が垂れているなんて気がつかず、横を通り掛かった優一が異変に気がつき、高志の指を押さえたのだ。

「何やってんだよ、危ねーだろ?!」

「あぁ……わりい……」

「どうかしたか? なんかぼーっとしてるみてーだけど……」

「……いや……なんでもねーよ」

 高志は優一に笑顔で答える。
 そんな高志の笑顔に、優一は違和感を覚える。

「疲れてるのか? それとも、何か嫌な事でもあったか?」

「大丈夫だって。ほら、早く進めないと、準備終わらないぜ?」

「……まぁ、お前が大丈夫なら良いけどよ…」

 優一はそう言って、高志に絆創膏を渡して自分の作業に戻っていった。
 高志は指に出来た切り傷を見ながら思う。 
 あの屋上での出来事は、現実だったのだろうか?
 紗弥は、自分に嘘をついていたのだろうか?
 ようやく自分の気持ちがわかっただけに、高志はあの光景を思い出す度に、胸がちくりと痛んだ。

「おーい、男子! そっちはどんな感じ?」

「なんだ、御門か」

「なんだとは何よ! 女子の方は大体終わったわ、何か手伝うことはある?」

「いや、こっちも皆頑張ってくれてるからな、別に何もないな」

「そう。じゃあ、私たちは……って八重君!? 何してるの!」

「ん? お、おい高志!! 今度は腕から血が垂れてんぞ!!」

「え? あぁ……ホントだ」

 高志はまたしてもぼーっとして、切り傷を作ってしまった。
 話しをしていた優一と由美華は驚き、高志の元に近づいて、傷口を押さえる。

「おい、本当にどうした? お前らしくないぞ?」

「いや、ちょっと手を滑らせただけだ……」

「手を滑らせて、こんなに深く傷が付く?! しかも気がつかなかったって、八重君何かあったの?」

 由美華に言われ、高志はまたしても思い出してしまった。
 あの嫌な光景を……。

「高志? どうしたの、その怪我?! 血まみれじゃない!!」

「!! ……紗弥」

 由美華の声を聞いてやってきたのだろう、紗弥はやってくるなり、血まみれの高志に視線を向け、心配そうな表情で近づいてきた。
 いつもの高志なら、紗弥に笑顔で「大丈夫だよ」と言って、安心させるところなのだが、あの光景を思い出し、高志は紗弥から離れるように立ち上がり、傷口を押さえながら逃げるように教室を後にする。

「保健室に行ってくる……」

「あ、あぁ……行ってこいよ。今日の作業は終わりだからよ」

「あ、じゃあ紗弥、付いて行ってあげたら? どうせ心配でしょ?」

 由美華の提案に、高志は三人に背を向けて答える。

「いや、大丈夫……三人とも先に帰ってくれ……」

 高志はそれだけ言い残すと、保健室に一人で歩いて行った。

「高志! 本当に大丈夫?!」

 後ろから、紗弥の不安そうな声が聞こえてきた。
 高志はその言葉に立ち止まり、無理矢理に笑顔をを作り、彼女に言う。

「大丈夫」

 高志はその一言だけを言い残し、保健室に向かった。
 紗弥はその笑顔を見ても、安心することが出来なかった。
 逆に、紗弥はなんだか嫌な予感がした。
 どんどん離れて行く高志を見て、なんだかすごく不安になった。
 このまま高志が、自分の元から離れて行ってしまうような気がした。

(追いかけなくちゃ!)

 紗弥はそう思って、高志の後を追った。

「あ、宮岡さん」

「せ、先生。何か用ですか?」

「えぇ、ちょっとお願いがあるんだけど、今良いかしら?」

 紗弥は世界史の先生に捕まってしまった。
 先生の話しを聞いている間も、高志はどんどん離れて行く。

「すいません、急いでいるので」

「あら、ごめんなさい、じゃあ他の人にお願いするわ」

「失礼します」

 紗弥はそう言って先生に頭を下げ、高志を追う。
 しかし、高志の姿は既に何処にも無かった。
 目的地はわかっているので、紗弥は保険室に急いだ。
 追いかけなければ、何かとんでも無いことになる予感がした。

「失礼します!」

「おや? どうかしたのかい?」

「先生、さっき男子生徒が来ませんでしたか?!」

「あぁ、来たよ。でも絆創膏をあげたらすぐに帰っちゃったよ」

「そう……ですか……」

 保険室の男性教師は、紗弥に笑顔で答える。
 紗弥は先生の話を聞きくと、保健室を後にした。

「……これでいいの?」

「はい、ありがとうございます」

 紗弥が保険室を後にした後、高志はベッドのカーテンから姿を現した。
 高志は先生にお礼を言うと、近くの椅子に座って傷を先生に見せる。

「急に来て、隠れさせてくれ、なんていうから、何事かと思ったよ……彼女と喧嘩でもしたのかい?」

「いえ……ただ、今は会いたく無くて…」

「それを喧嘩って言うんじゃないのかな?」

 先生は高志の腕の傷を見ながら答える。

「随分ざっくりいったんだねぇ、痛くなかったのかい?」

「……それ以上に、なんか色々気になっちゃって…」

「なるほど、深い傷を負ったのは心の方だったって事か……」

 先生は高志に笑みを浮かべながら話す。
 そんな先生に、高志はおもわず尋ねる。

「先生は……浮気とかされたことありますか?」

「君は彼女に浮気されたのかい?」

「………確定ではありませんが……」

「ハハハ、そうかい、そりゃあ災難だったね」

「笑い事じゃ無いですよ……」

「ごめんごめん、浮気か~……僕はそう言う経験は無いよ」

「そうですか……」

「でも、一つ言えるとしたら……ちゃんと話しをしないと、わからないよね」

「………そうですよね」

「現実から目を背けたい気持ちもわかるけど、彼女とちゃんと話しをしないと、解決しないよ?」

「わかっては……いるんですが……」

「まぁ、そりゃあ聞きづらいよね」

「はい……」

 聞いて、もしも高志の予想通りの答えが返ってきたらと思うと、高志は恐かった。

「もうすぐ文化祭だし、そのときにでも聞いてみたらどうだい?」

「……そうですね、聞かないと始まりませんもんね」

「そうそう……はい、完成」

 話している間に、処置は終わっていた。

「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」

「頑張ってね、応援してるからさ」

「はい」

 高志は先生にお礼を言い、保険室を後にした。
 鞄を取りに教室に戻ると、そこには紗弥が一人で待っていた。

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