甘え上手な彼女

Joker0808

♯26




 優一が告白を受けた次の日、珍しく高志と紗弥は屋上で二人きりでは無かった。
 屋上には、いつもは居ないはずの優一と由美華が居た。

「っと言うわけで……デートすることになった訳だが」

「どういう訳だよ……」

 優一は購買で買ってきたパンを口に入れながら、三人に言う。
 高志はそんな優一に視線を向けながら、肩を落とす。

「だから、なんか試しにデートすることになっちまったんだよ! それで、こうやってバカップルのお二人に、デートコースのアドバイスとかを貰おうとだな……」

「バカップルって、俺と紗弥の事か? 生憎だが、お前に出来るアドバイスなんてねーよ」

「おい! お前の相談には乗ってやっただろ! 俺の相談にも乗れ!」

「そう言われてもなぁ……」

 そう言いながら、高志は紗弥の方を見る。
 紗弥は食べ物を飲み込み、高志の方を向いて話す。

「私は高志が一緒なら何処でも良いかな?」

「こんな感じで、俺も紗弥と一緒なら神社でも楽しいんで……」

「悪い、バカップルのお前らに相談した俺が馬鹿だったわ…」

「その通りだと思うが、なんかむかつくな」

 優一は溜息を吐きながら、パンにかじりつく。
 いつもは食堂派の優一だが、今日は高志達に合わせて購買のパンにした。

「んじゃあ、女子代表で連れてきた御門の意見も聞こうか」

「なんでそんな上から目線なのかしら?」

「まぁ、いいじゃねーか……おかげで宮岡と飯が食えるんだから」

「う……そ、そうね……」

 由美華を誘ったのは、優一だった。
 カップル二人に優一だけでは混ざりづらく、最近良く話す由美華を誘ったのだった。
 誘われた由美華も、久しぶりの紗弥との食事とあって、上機嫌だった。

「デート……映画とかは?」

「あぁ、なるほどな、それなら無理に会話をする必要もないしな…」

 由美華の提案は優一に好感触だった。

「俺と紗弥の初デートも映画だったな」

「そうね、なかなか高志が手を握ってくれないんだもん、私から握ったのを覚えてるわ」

「いや、結構男からしたら勇気いるんだよ?」

 初デートの話しに、華を咲かせる高志と紗弥。
 優一も映画なら、話しの話題作りも出来て、なかなか良いのではないかと思っていた。

「有りだな、でその後は?」

「ウインドウショッピングとかはどうかしら?」

 この提案を出したのは紗弥だった。
 映画館の近くには、大きなショッピングモールもあるため、暇つぶしやデートのコースには丁度良かった。

「なるほどな…飽きたら、どっか店に入ってお茶でもすれば良いしな」

「そうなったら、完全に俺と紗弥のデートコースだな」

「マジか……なんかそれは嫌だな」

「おい、どういう意味だ」

 急にテンションを下げる優一に、高志は少し強めにそう言う。
 しかし、それ以外の案も中々浮かばず、結局は誠実と紗弥のデートコースを参考にする事になった。

「で、なんでデートなんて事になったんだよ?」

「いや、今日の朝、お互いを知る為に、まずは出かけようって言われて、半ば強引に約束を……」

「意外だな、あの子そんなに積極的なのか…」

「ちなみに私とどっちが可愛い?」

 紗弥は高志の顔を見ながら、突然質問してくる。
 高志は紗弥の顔を見て、小さな声で答える。

「……紗弥」

「ありがと」

「けっ! リア充が! 滅びろ!」

「那須君、それは貴方も滅びる事になるわよ…」

 いちゃつく高志と紗弥。
 そんな高志と紗弥に恨みの視線と滅びを願う優一。
 そして、そんな優一に呆れた様子で突っ込む由美華。

「はぁ……紗弥、本当に八重君にべったりね…」

「そうかしら?」

「そうよ……おかげで私とは全く遊んでくれないし……」

「そうかしら?」

「そうよ! 全く誘ってくれないし! お昼も別だし! 帰るのも別! 私がどれだけ寂しかったか……」

 紗弥に向かって泣く真似をする由美華。
 そんな由美華を見て、高志は優一に尋ねる。

「ちなみにお前は?」

「高志なんて死ねば良いと思ってた」

「あぁ、なんか知ってたわ…」

 高志は優一との会話を早急に終了し、紗弥に向かって言う。

「なぁ、紗弥。友達も大切にな?」

「そうね……ごめんね由美華、高志と付き合ったばっかりで、由美華と遊べなくて……今度、二人で買い物行こ?」

「う~、紗弥ぁ~、なんで彼氏なんて作るのぉ~? 紗弥は私のなのに~」

「私は高志の物なんだけど?」

「紗弥は物じゃなないと思うんだが?」

 由美華は紗弥に抱きつき離れない。
 よほど寂しかったのだろう、しっかり掴んで離そうとしない。
 
「なぁ、昼くらい二人じゃなくて、御門さんも呼んであげたら良いんじゃないか?」

「高志が良いなら、私は何も言わないわよ。由美華、そうする?」

「する! ありがとう紗弥~、大好きだよぉ~」

(それは、友達としてだよな?)

 仲良しムードの三人のなかで、優一だけは由美華にそんな疑問を持っていた。
 そうこうしている間に、あっという間にお昼休みは過ぎていった。







 休日の昼前、高志は着替えを済ませ、出かける用意をしていた。
 紗弥とデートという訳でもなく、今日は高志個人の用事で駅前に向かう予定が
あったのだ。

「にゃ~」

「ん? 行ってくるなぁ~チャコの爪研ぎ用の木、買ってくるから」

「にゃ……」

「流石にあの柱は無残だからな…」

 チャコは爪研ぎ用の段ボールを早々に壊してしまった。
 消耗品でしょうがないと思っていた高志だったが、代わりをすぐに買わなかったのが悪かった。
 チャコはリビングの部屋の柱で代わりに爪研ぎをしてしまい、柱は無残な姿に変わってしまった。
 今日は、二度とそんな事にならないようにと、爪研ぎ用の木を買いに、高志は駅前のペットショップに向かった。

「意外に種類あるんだなぁ……」

 ペットショップで無事目的の物を買い、高志は店を後にした。
 後は帰るだけだと思いながら、駅に向かおうとした瞬間、高志は見慣れた人物を駅前で見かけた。

「ん? 優一?」

 優一が芹那と一緒に歩いているところを見つけた。
 あちらは高志に気がついて居ない様子で、二人でショッピングモールの方向に向かって歩いていた。

「あぁ、確か今日か……デート」

 そう言えば今日が、優一と芹那のデートの日だったなと高志は思い出し、納得する。
 そんな二人を見て、高志はなぜか二人の様子が気になってしまい、気がつくと二人の跡をつけはじめていた。

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