甘え上手な彼女

Joker0808

♯16




 あっという間に時間は過ぎ、現在の時刻は夕方の五時。
 高志と紗弥は、帰りの電車に乗って、家に帰宅する途中だった。

「今日は楽しかったよ」

 電車に乗り、高志の隣に座った紗弥が笑顔で言う。
 自分はちゃんとデートが出来ていただろうか?
 そんな事を帰宅途中に振り返っていたが、紗弥の顔を見て、そんな心配が無いことを知る。
「なら良かったよ」

 安心したような柔らかい表情で、高志は紗弥に言う。
 すると、紗弥は映画館でしてきたように、高志の肩に頭を乗せ、寄りかかってきた。
 一日歩いたのだから、疲れたのだろう。
 高志はそう思い、紗弥に何も言わずに肩を貸した。
 少しして、紗弥は眠ってしまい、高志はそんな紗弥を見て笑みを浮かべていた。
 しかし、すぐに周囲の視線に気がつく。
 電車に乗っている人(男)が、鋭い視線を高志に向けていた。

「………」

(この視線にも慣れなきゃな……)

 隣で寝息を立てる紗弥を他所に、高志はそう思う。
 スマホを弄って、視線から気をそらし、高志は目的の駅に早く着いて欲しいと願った。

「紗弥、紗弥」

「ん? ……ごめん、寝てた……」

 駅に到着し、高志は紗弥を起こした。
 まだ寝ぼけている紗弥の手を引き、高志は電車を降りて駅のホームにあるベンチに紗弥を座らせる。

「そろそろ目覚ましたか?」

「うん、ちょっと疲れちゃって、早く帰ろっか」

 紗弥が完全に目を覚まし、高志と紗弥は再び帰り道を歩き始めた。
 高志は、紗弥を送って行こうと、紗弥の家に向かって足取りを進めたが、何故か紗弥がそれを拒んだ。

「え? 良いのか、送って行かなくて?」

「うん、て言うか……来ない方が良いかも……」

 何故か目を反らし、気まずそうな表情で話す紗弥。
 紗弥の家までは後数分、住宅外だし心配は無いが、高志は何故、今日は自分が家に来るのを拒むのかが気になった。

「まぁ、それならここで分かれるけど……ほんとにどうしたの?」

「えっと……そのうち教えるけど……今はちょっと……あ、嫌いになったとかじゃないから!」

 歯切れ悪く言う紗弥に、高志はそれ以上何も聞こうとは思わなかった。
 隠したい事もあるだろうと思い、高志は笑みを浮かべて紗弥に言う。

「わかってるよ、じゃあまたね」

「うん……最後に……」

 紗弥はそう言うと、顔を赤くしながら高志に向かって両手を広げる。
 
「ぎゅってして……」

「……えっと……ご近所で噂になったら大変では?」

「今は誰も居ないから……お願い」

「うっ……だから、その表情は卑怯だ……」

 高志は紗弥の上目遣いでのお願いに負け、紗弥を抱きしめようと近づく。
 しかし、誰も居ないと思われた周囲に、一人の人影があった。
 人影は、紗弥と高志を見つけると、二人の方に向かって全力でダッシュしてきた。

「紗弥ぁぁぁぁぁ!」

「「?!」」

 紗弥の名前を叫びながら、全速力でダッシュしてくる人影を発見し、紗弥と高志は驚いて離れる。
 そして、その人物の正体に気がついたらしい紗弥は、肩を落として溜息を吐き、呟く。

「パパ……」

「パパ!?」

 まさかの紗弥の父親の登場に、高志は驚く。
 紗弥の父は二人の前にやってくると、呼吸を整え高志に言う。

「貴様かぁ! うちの娘をたぶらかすクソ野郎はぁ!!!」

「えぇ……」

 初対面から、紗弥の父親の高志に対する好感度は最悪だった。
 ダンディーな感じの顔つきに、年相応のお洒落な服装。
 母親も美人だったが、父親も男前だなと高志は感じつつも、この状況をどうしたら良いか、わからずにいた。
 すると、さきほどまで落胆した様子だった紗弥が、父親に向かって口を開く。

「パパ! なんでここに居るのよ!」

「さやたん! なんでこんな奴と買い物なんかに! 買い物なんか、パパがどこでも好きなところに連れて行ってあげるのに!!」

「え? 紗弥…たん?」

 他の家の事情にあまり口を挟む気は無い高志だったが、流石に父親が娘をそう呼ぶのはまずいのでは無いかと思う高志。
 
「その呼び方やめてって行ってるでしょ! はぁ……これだから、今朝はお父さんが寝ているうちに家を出たのに……」

 なんとなく、今朝の出来事と紗弥の言っていた言葉の意味を理解し始める高志。
 恐らく、紗弥の父親は、紗弥を溺愛しているのであろう、彼氏なんか家につれて来た日には恐らく追い返す勢いなほどに。
 だから、紗弥は高志と父親を合わせないように、休日の今日はあまり高志を家に近づけたくなかったのだろう。

「貴様ぁぁぁぁ!! うちのエンジェルを一日中好き放題しやがって!! 許さん! 許さんぞ!!」

「お、お父さん…落ち着いて下さい!」

「誰がお父さんだ! 貴様にそう言われる覚えはない!!」

 紗弥の父親の怒りが、高志に向いた丁度その頃__。

「えい」

「ぐへっ! ……」

「もう、貴方ったら、何をやってるのかと思えば……高志君、大丈夫?」

「あ、紗弥のお母さん…」

 やってきたのは、紗弥の母親だった。
 右手にはフライパンを持っており、そのフライパンで紗弥の父親の頭を叩いた様子だった。 紗弥の父親は道路に倒れ、そのまま気絶した様子だった。

「全く、うちの人は未だに子離れ出来なくて困っちゃうわ~」

「だ、大丈夫なんですか……これ?」

「心配しなくても大丈夫よ、いつもの事だから」

(いつもって……)

 助けてくれたのはありがたかったが、フライパンを持って笑顔で話す紗弥の母親に、高志は少し恐怖を覚えた。

「じゃあ、私はこの人連れて行くから、紗弥と高志君はお別れ済ませてから来なさい」

 そう言って紗弥の母親は、紗弥の父親を引きずって家に帰って言った。
 残された高志と紗弥は気まずい空気になってしまった。

「ごめんね……高志…」

「さ、紗弥が謝る事じゃないだろ?」

「……うちのパパ、あんな感じで面倒臭いのよ……」

「う、うん……なんとなくわかった」

 少しの沈黙、高志はなんと声を掛けて良いかわからなかった。
 紗弥は俯き、寂しそうな表情を浮かべながら、高志に向けて口を開いた。

「……パパがあんなだから、合わせたくなかったの……嫌われるの……嫌だったから……」

 さっきまで笑顔だった紗弥の表情が曇る。
 高志はそんな紗弥を見て、笑顔を向ける。

「まぁ、びっくりしたけど……紗弥が悪いわけじゃないし……それに、こんなことぐらいで嫌いにならないから」

「……ホント?」

「うん、それに……今日は楽しかったし……また紗弥と出かけたいから……」

 頬を赤く染めながら高志は紗弥に言う。
 紗弥は高志の言葉を聞き、無言で高志に抱きつく。

「……ありがと」

「あ、あぁ…気にすんなって……」

 力一杯抱きしめられ、高志もドキドキしながら、ぎこちなく紗弥の体を抱きしめる。
 高志は、こうやってちゃんと紗弥を抱きしめるのは、初めてだった。
 

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