甘え上手な彼女

Joker0808

♯14

 映画の内容は、大金持ちのヒロインが貧乏な男性に好意を寄せると言う話しだった。
 最初は金持ちと貧乏という、正反対の二人は、金の使い方の事で度々衝突する。
 金遣いの荒いヒロインに、貧乏な男性が金の有り難みを教えて行き、次第にヒロインは金の有り難みを知っていき、次第に一生懸命な男性に好意を持って行くというストーリーだ。
 話題の映画だけあって、中々に面白く、高志はすっかり見入ってしまった。

『俺じゃあ、君を幸せに出来ない……』

『なんでよ! 私は貴方の事が!』

『君と僕じゃ……住む世界が違いすぎるんだ……』

 物語り終盤、ヒロインが男性に告白して、振られるシーンで、高志はなんだかこの話し、どことなく自分と紗弥に似ているなと高志は感じた。
 学年一の美少女と、モブと言われても不思議では無い、普通の男子生徒。
 まるで自分と紗弥のようだと思ってしまった高志は、ふと横の紗弥を見る。
 すると、紗弥も高志の方を見ており、目が合った。

「………」

 数秒、高志と紗弥は見つめ合う。
 その後、紗弥は前に向き直り、映画の続きを見始める。
 なんだったのだろう?
 なんで目が合ったのか、高志は不思議に思いながらスクリーンに目を移す。
 すると、紗弥が高志の肩に寄りかかり、手を握ってきた。

「!?……」

 一瞬驚いたが、高志はこういうこともあるかもと、内心想像していた。
 腕を組んでいた事と比べれば、暗がりな分まだ羞恥心が少ない。
 
(いつもと違う香りだな……)

 高志はいつもと違う紗弥の香りに気がつきながら、映画の続きを見ていた。
 物語はクライマックス、身分違いを気にする男性に、ヒロインが再び告白するシーンだった。

『周りなんか言わせておけば良いでしょ! 私知ってるのよ! 貴方が私の為に……』

 大会社のイケメン社長との縁談が決まろうとしていたヒロイン。
 そんな時、ヒロインは知ってしまった。
 男性が、イケメン社長に泣きながらヒロインを幸せにして欲しいと頼んでいる事を……。

『僕は、彼と違って何も無い、あるのは借金だけだ……君を幸せになんて出来ない……彼と幸せになってくれ……』

『無理よ! 貴方が教えてくれたんでしょ!? 幸せはお金じゃ買えない、好きな人と一緒にいられることが、幸せな事なんだって! 私は……貴方と一緒じゃないと幸せになれない!』

 人気になるだけはある、ラストになるにつれて、どんどん面白くなって行く。
 高志は次の展開にわくわくしながら、スクリーンに目を向けていた。
 結局、ラストはハッピーエンドだった。
 男性とヒロインが結婚して終わり、そういう最後で、容易に想像出来そうな展開だったのだが、結婚までの道のりが感動的だった。
 一年という時間を掛け、男性は必死に莫大な借金を完済し、更に一年後、生活を安定させた男性はヒロインとの思い出の場所で、自分からプロポーズをするというものだった。

「面白かったわね」

「あぁ、中々良かった、女優の演技も良かったし、話題になるだけはあるよね」

「でも、あのイケメンが嫌みなキャラじゃ無いのはどうかと思ったわ……」

「え? なんで? ヒロインに本当の事を伝えて、自分から手を引いた良い人だったのに」

「そこは、嫌みなライバルとヒロインの取り合いとかが良かったわね、そこで貧乏人が金持ちに勝つことで、もっと世の中お金じゃないって言うコンセプトに合わせられると思ったのよ」

「随分深く考えてたんだな……」

 普通に面白かった、なんて言う高志の感想とは違い、随分と考えて映画を見ていた紗弥。
 高志はそんな紗弥を見て、やっぱり大人っぽいなと感じた。

『君と僕とじゃ……住む世界が違いすぎるんだ………』

 映画の台詞をふと思いだし、高志は紗弥と自分が本当に釣り合っていない事を感じる。
 映画館を出た高志と紗弥は、近くのカフェに入って映画の話しをしていた。

「ねぇ?」

「ん? どうかした?」

 注文を終え、向かいの席に座った紗弥は、テーブルに肘をおきながら高志に尋ねるえ。

「なんで映画の最中に私顔見たの?」

 ニヤニヤしながら、尋ねてく紗弥を見て、高志は「あ、またからかわれる」そう思いながら、高志は視線を反らして答える。

「……俺って、紗弥と釣り合ってるのかなって……不安になった……」

「そうだと思った。映画でも言ってたでしょ? 周りなんか放っておけばいいのよ」

「で、でも……やっぱりな……」

「私は、高志と一緒にいれば幸せだからそれで良いの」

 笑顔でそう言う紗弥を見て、高志はなんだかほっとした。
 彼女がそう言ってくれるのであれば、周りを気にする必要は無いのでは無いか。
 気がついてはいたはずだったが、紗弥からそう言われるまで、高志はなんだか安心出来ずにいた。
 
「変わってるな、紗弥って」

「そう?」

「あぁ、色々と……」

 二人はそんな雑談をしながら、昼食を取った。
 昼を食った後はどこに行こう、そんな話を高志がすると、紗弥が買い物に行きたいと言い出した。
 駅前には商店街の他にも、大型のショッピングモールもあるので、高志達は昼食を済ませてそちらに向かった。

「で、何を買うんだ?」

「下着って言ったら?」

「別行動になる」

 突然の紗弥の発言に、高志は驚く。
 しかし、まぁいつもの冗談だろうと思い、高志はそこまで狼狽えたりはしなかった。

「冗談だよ、でも……想像した?」

「……してない」

 正直に言うと、少し想像してしまった高志。 
 紗弥から視線をそらし、頬をわずかに赤くしながら答える。
 そんな高志を見た紗弥は、いつもの小悪魔のような笑顔で高志に問い詰める。

「今、なんか間があったけど? それはなにかなぁ?」

「こ、この話しはやめよう……ほ、本当はなにを買うんだ?」

「あ、話しを反らした。まぁ欲しいのはCDなんだけどね」

「へ、へ~、何聴くの?」

 強引ではあったが、なんとか話しを反らすことに成功する高志。
 二人は、好きなアーティストの事を話しながら、CDショップに向かう。

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