99回告白したけどダメでした

Joker0808

218話

「……迎えにって、私はどこに帰れば良いのよ……」

「家だろ、俺たちの家に帰れば良いんだよ」

「簡単に言わないでよ!」

 美奈穂は誠実に声を上げる。
 先程の話しを聞き、美奈穂は少し感情が高ぶっていた。
 
「アンタなんて、本当の兄妹でも無い癖に! 偉そうな事言わないでよ!!」

「美奈穂……」

「ずっと、知ってて……アンタ私をどんな目で見てたのよ! 血も繋がってないのに、兄妹ごっこを仕方なくやらされてた気分はどう?」

「俺はそんな事思ってない」

「嘘言わないでよ!! 随分生意気な妹でごめんね! でも安心しなさいよ……私は……アンタの妹なんかじゃ……無いんだから……」

 涙を流しながら、美奈穂は誠実にそう言う。 今までの思い出が、今までの気持ちが、美奈穂に取ってはまるで夢だったかのように感じられた。
 まるで自分一人だけ夢を見ていて、今その夢から覚めたような感じだ。

「美奈穂……」

 誠実は美奈穂の頭に手を乗せ、静かに話し始めた。

「俺は……お前が本当の妹じゃないって聞かされた時……嘘かと思ったよ……」

「それが……どうしたのよ」

「親父が俺にその話をした日が悪くてさ……丁度エイプリルフールだったんだ……」

 美奈穂は誠実の話しを静かに聞いていた。

「最初はどんな嘘だよって思ったけど……親父とお袋の目が嘘じゃ無いって言っててさ……なんか……それを聞いた瞬間、俺は納得しちまってさ……」

「……そうでしょうね……似てないし……」

「あぁ……全然似てない……お前は俺なんかより成績が良くて、可愛くて……運動なんかも出来て……しかもモデルだ。どう考えてもあの二人からそんなハイスペックな子供出来るわけないだろ。だからかな……真実を知ったとき……俺はお前に嫉妬したよ」

「……どうしてよ」

「決まってるだろ? 親の期待に見事に答えるお前と、出来損ないのダメ息子……ダメな息子は、お袋も親父も優秀な妹だけを可愛がっていると勘違いする」

 美奈穂と話しをしなくなったのは、丁度両親から話しを聞いた時だった。
 誠実は勝手に美奈穂が冷たくなったと勘違いしていたが、事実は違う。
 優秀な妹に嫉妬し、本人も気がつかないうちに避けるようになっていたのだ。

「本当の息子は俺なのに……なんて考えた時期もあった……でも、分かったんだよ……親父もお袋も別にどっちかをひいきなんてしてない……お前も俺も親父とお袋にとって、大事な子供って事に変わりは無いんだよ」

「違うわよ……私は……あの二人の子供なんかじゃ……」

「何言ってんだ、口うるせーところなんかお袋そっくりじゃねーかよ」

「ど、どう言う意味よ」

「怒りっぽいところもな」

「う、うるさいわね!!」

 怒り始める美奈穂を誠実は優しく抱きしめる。
 
「大丈夫だ……誰がなんて言おうと、お前は俺の妹で、お袋と親父の娘だ」

「………うっ……うっ……本当?」

「あぁ、血なんか関係無い。お前は俺の妹だ」

「……うっ……お兄ちゃん……」

 ハッキリそう言われるのは何年ぶりの事だろうかと考えながら、誠実は美奈穂を抱きしめる。
 いつの間に生意気になって、どんどん大人っぽくなっていく美奈穂。
 しかし、中身はまだ子供のままだ。
 自分が守ってやらなければと、兄である誠実は強く思った。

「お前、今日誕生日だろ? 早く帰ろうぜ」

「……うん」

 誠実はそう言うと、美奈穂の手を取って家に向かって歩き始める。

「おにぃ……」

「ん? どうした?」

 話し掛けてくる美奈穂に誠実は笑顔で答える。
 今日くらいは少しわがままを聞いても良いかもしれない。
 そんな事を誠実は考えていた。

「私達ってさ……義理の兄妹ってことになるの?」

「え? あ、あぁ……世間的にはそうだな」

「ん……そっか……」

 美奈穂の質問に誠実は首を傾げる。
 なんでそんな事を聞くのだろうか?
 なんて事を誠実が思っていると、美奈穂の手を握る力が少し強くなった。

「そっか……じゃあおにぃと結婚出来るんだ」

「ん? まぁ確かにそうなるな……」

「そっか………」

 美奈穂はそう言い終えると、誠実の手を握り直す。
 誠実は質問の意味がよく分からず、困惑していた。

「さっきから変な質問ばっかりだな……一体どうした?」

「ん? 何でもないわよ……おにぃはまだ知らなくて良いの……」

「なんだよそれ……」

 誠実はニコッと笑いながらそう言う美奈穂に笑って返答した。
 例え血のつながりなんて無くても、美奈穂は大事な妹なんだと誠実はこのとき再確認していた。
 しかし、今の誠実は気がついて居なかった。 この事実が後に、自分の首を絞める結果になることに……。





「美奈穂!! 美奈穂ぉぉ!!」

 誠実が美奈穂を発見した頃、忠志と叶は必死になって美奈穂を探していた。
 大事な娘が居なくなり、二人は必死に町中を探していた。

「一体どこに行ってしまったんだ……」

「美奈穂……私達のせいよね……」

「叶さんのせいじゃない……いつまでも真実を打ち明けなかった俺の責任だ……」

 ベンチに座りながら、忠志と叶はそんな話しをしていた。
 美奈穂のあの表情を見た時から、二人は考えていた。
 なんでもっと早くにこの事実を美奈穂に伝え無かったのだろうかと……。
 自分自身を責める忠志と叶。
 そんな二人の前に黒塗りの高級車が止まる。
「忠志じゃないか」

「ん? 勤……」

 黒塗りの高級車から下りてきたのは、栞の父親であり大会社の社長でもある蓬清勤だった。

「叶さんもご一緒でしたか、この間は楽しかったです。妻も良い友人が出来たとよろこんでいて……」

「え、えぇ……私も……楽しかったわ」

 そう答える叶に違和感を感じた勤、何かあったのかと思い、心配そうな表情で忠志と叶に尋ねる。

「どうかしたのかい? いつもの元気がまるでないけど……」

「……勤……実はな……」

 忠志は勤に先程家であった話しを一通り勤にした。
 今は一刻も早く美奈穂を見つけたい忠志。
 理由を話して、なんとか勤にも手伝ってもらえないか協力を頼むつもりだったからだ。

「そうだったのか……」

「あぁ……全然見つからないんだ……」

「もちろん協力させてもらうさ、君」

「はい、旦那様」

 勤は執事に美奈穂を探すように指示をした。 勤はずっと忠志に恩返しをしたいと考えていた。
 このまま働いて死ぬだけの人生だと思っていた自分に、楽しみをくれた人物、それが忠志だった。
 だから、こういう時は出来るだけ力になりたいと、勤は思っていた。

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