99回告白したけどダメでした

Joker0808

197話

*

 健が綾清と口論になっている間、誠実は恵理に連れ回され、ショッピングモール内を駆け回っていた。

「え、恵理さん……」

「何? あ、コレどう?」

「い、良いんじゃないっすか……」

「もう、ちゃんと見てよ! お姉さん怒っちゃうよ!」

「じゃあ、怒っても良いので……休憩させて下さい……」

 誠実は恵理の買った買い物袋を持ちながら、背中を丸めてそう言う。
 あれから一時間、休み無く買い物に付き合わされ誠実はクタクタだった。

「もう! 男の子でしょ! 頑張って!」

「無理ですよ~、恵理さん自分の買い物になった時点でメッチャ元気なんですもん……」

「そ、それは……き、気のせいよ!」

「いやいや……」

 恵理は先ほどとは打って変わって生き生きしていた。
 まるで水を得た魚のように、ショッピングモール内を駆け回っていた。

「と、とにかく休憩させて下さい……暑いし、喉渇いたしで……」

「そ、それもそうね。じゃああそこで休憩しましょうか」

 恵理が指さしたのは、ショッピングモール内にあるカフェだった。
 夏限定のオープンらしく、アイスやかき氷などの冷たい商品を中心に扱っているようだった。
 店内に入った誠実と恵理はそれぞれレジで注文をし、席に座る。

「誠実君、飲み物だけで良いの?」

「はい、さっき昼食は済ませたんで。恵理さんはよく食べますね、マンゴーかき氷なんて」

「そ、そうかしら?」

 顔を赤くしながら答える恵理。
 誠実によく食べる女だと思われたのが、恥ずかしかったのか恵理はそのまま俯く。

「女性はデザートは別腹っていいますけど、アレって本当なんですね」

「そ、そうなのよ!」

 誠実の意見に同調し、恵理は大声を上げる。

「俺の妹もたらふく食った後にデザートでパフェなんて頼むんですよ」

「で、でしょう?! 普通なのよ! 女の子はデザートもいっぱい食べるのが普通なの!」

「は、はぁ……?」

 恵理の言葉の勢いに誠実はなんでこんなに必死なのだろうと疑問を浮かべながら、恵理の話しにうなずく。
 
「で、まだ回るんですか?」

「当たり前よ!」

「今日って俺の買い物に付き合って貰ってたはずじゃ……」

 肩をがっくりと落とし、誠実はふと窓の外を見る。

「ん?」

「あ?」

 窓の外の見慣れた人物と、誠実は目があった。
 そして窓の外のその人物と数秒間見つめ合い、同時に叫ぶ。

「「いやぁぁぁぁ!!」」

「ど、どうしたの誠実君?」

「あ、いや……見知った顔が……居まして……」

 誠実は手を震わせながら、恵理に答える。
 誠実の背中からは大量の汗が噴き出していた。
 窓の外に居たのは武司だった。
 思いがけない人物の登場と、恵理と一緒にいるところを見られた事で誠実は激しく動揺していた。
 別に武司に見られても困ることは無いのだが、なぜだか誠実は嫌な予感がして仕方なかった。

「だ、大丈夫? 凄い汗だよ」

「は、はい……さ、さっさと食べて行きましょう」





「び、びっくりしたぁ~」

「どうしたのよ、いきなり大声なんて上げて」

「いや、この店に誠実が居てつい……」

「あんたらの関係が時々わからなくなるわ……」

「そう言えばあいつも女と一緒だったような」

「はぁ? それホント?」

「嘘ついてどうすんだよ、なら見てみろよ」

「沙耶香というものがありながら、一体誰と何を……って、またあの人?」

 志保は喫茶店の窓から中を見る。
 そこには誠実と、美奈穂のモデルの先輩である恵理が向かいあってお茶をしていた。

「うわ、メッチャ美人! 誠実の野郎! 羨ましぃ!!」

「あの人、確かモデルさんよ」

「うわぁ……マジで誠実爆発しないかな……」

「ちょっと私話しを聞いて来るわ!」

「え?!」

 志保はそう言って、ずかずかと喫茶店の中に入って行く。
 
「お、おい! 待てよ!!」

 志保に続き武司も続いて喫茶店に入って行く。
 沙耶香の恋を応援している志保にとって、この状況は見過ごすことができなかった。
 恵理と誠実の関係をハッキリ聞く事にした。
 沙耶香から聞いた話では、二人は恋人同士では無いらしいが、怪しい関係らしい。
 誠実たちの席まで真っ直ぐ向かい、志保は誠実に声を掛ける。

「伊敷君」

「ぶっ! な、なんで古賀がここに……」

「ん? 誠実君のお友達?」

「おい待てって!」

「な! 武司まで!」

「よう、お楽しみのとこ悪いな」

「俺は違う、お前の方がお楽しみだろ?」

「勘弁してくれよ、古賀と一緒じゃなにも…ぐはっ!」

「アンタは黙ってなさい」

 武司は志保に腹を小突かれ、そのままうずくまる。

「お、お前……みぞおちに入れやがった……な……」

「ちょっと黙ってなさい!」

 武司と志保を見ながら、誠実は先ほどの言葉が間違いだった事に気がつく。
 顔を引きつらせながら武司を見ていると、眉間にシワを寄せて志保が誠実に話し掛けてくる。

「誠実君!」

「は、はい!」

「私もあんまりこんな事言いたく無いけど……この人って誠実君の彼女?」

「え? そんな訳ないじゃん」

「ホントに?」

「本当で……イッテ!! 何するんですか恵理さん!」

「別に……」

 恵理はつまらなそうな顔をしながら、誠実にそう言う。
 誠実はなぜ恵理がそんな事をしたのかがわからず、不思議そうに恵理を見る。

「じゃあ、この人とは何でもないの?」

「当たり前だろ? なんでそんな事聞くんだよ?」

「………海で沙耶香の事、振ったんでしょ?」

「……ま、まぁ……はい」

 振った相手の友人にそんな事を言われてしまうと、真っ直ぐに顔を見れなくなってしまう誠実。

「でも、まだ好きで良いか聞かれて、誠実君はそれを許可したと……」

「は、はい」

「振るなら振るでハッキリ振ってあげてよ……じゃないと、沙耶香も美沙も可愛そうだよ」

 志保の言葉はもっともだった。
 誠実の答えは、都合良く付き合う女性をストックしている最低男のようだ。
 二人の事を考えるなら、ハッキリと断って終わるべきだった。 

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