99回告白したけどダメでした

Joker0808

196話

「知らないわよ、そんなの」

「お前……本気で言ってるのか?」

「えぇ、本気よ。悪い? 私は嘘が嫌いなのよ」

「自分が何を言ってるのかわかってるのか? 自分のファンを裏切るような発言なんだぞ!」

「アイドルやめるんだもの、ファンなんてどうでも良いでしょ?」

 健は平然とそう言葉にする綾清に、健は激しい怒りを覚える。
 彼女と彼女の居るグループを健は追いかけて来た。
 そのおかげで友人が出来た。
 楽しかったライブの思い出も貰った。
 ステージで輝く彼女を少しでも応援しようと、みんなで頑張った。
 そのすべてを否定されたようで、健は怒りで拳を堅く握る。

「そうか……なら何にも言わねーよ……ただ、こんな性格ブスの最低野郎を応援してたなんて、死にたくなってきたよ」

「はぁ? 勝手に応援してただけでしょ?」

「何とでも言えよ、負け犬」

「なんですって?!」

「負け犬だろ? ちょっと嫌な事があったくらいで全部投げ出す。お前なんか何をやっても成功なんてしねーよ」

「随分と言ってくれるわね……」

「あぁ、俺はリアルの女には厳しいんだよ」

 健と綾清はお互いににらみ合いながら言葉を交わし続ける。

「俺の見る目も落ちたな……」

「言いたい放題だけど、アンタにアイドルの何がわかるの? ただの一ファンでしょ?」

 綾清の言葉は最もだった。
 健にアイドルの辛さや大変さなんてわからない。
 しかし、ファンにもファンの思いがあることを健は知っている。

「知るかよ、お前だってファンがどんな気持ち応援してるかも知らねーだろ」

「知るわけ無いでしょ」

「それと一緒だよ。だけど、俺はファンの気持ちがわかるから、アンタにこうやって文句を言うんだよ」

「じゃあ、私もファンだった貴方に文句を言うわ。こっちはね、あんたらが思っている以上に過酷な世界で生きてるのよ! 挫折なんて珍しくないんだから!」

 声を上げる綾清に健は目を細め、背中を向けて言葉を残して去って行く。

「誰だってそうだっつの……」

 健は知っている。
 誰もが挫折や失敗、辛いことを乗り越えて成長しているのだと。
 ただ違うのはその辛さや大変さの種類であって、度合いは同じ。
 有名になりたければ、有名になるためにそれ相応の努力をして、失敗を乗り越えて行かなければならない。
 中途半端な努力で成し遂げられる事はたかがしれている。
 だからみんな努力し、みんな頑張るのだと。
 そんな頑張り屋を健は知っている。
 だから、この言葉を最後に残し、綾清の元を離れた。

「偶にリアル女子に関わるとコレだ……」

 気分を悪くしたまま、健は歩いてショッピングモールに戻って行く。

「まぁ、戻っても何も変わらないだろうけど……」






「本当にゆきほちゃんは可愛いわね~」

 小学生の頃からだっただろうか、自分が他の女の子よりも容姿が優れている事を知ったのは……。

「ゆ、ゆきほちゃん! 僕と!!」

「ごめんなさい」

「はやっ!!」

 中学になると、私は良く男子に告白された。
 好きです。
 その言葉を何回も聞いた。
 でも、それは私の容姿が良いから。
 可愛いから好き。
 そんな薄っぺらいもの。
 可愛い私は皆から人気があった。
 いじめなんてもちろん無かった。
 私と一緒にいれば、女子はカッコイイ男の子と仲良くなれるチャンスがある。
 私と仲良くする男の子は、私の友達の可愛い女の子と仲良くなれる。
 類は友を呼ぶという言葉がぴったりだった。
 そんなある日だった、私は芸能事務所の人にスカウトされ、中学三年生の時に芸能界に入った。
 
「ゆきほちゃ~ん! かわいいよぉ~!!」

「ゆきほちゃーん!!」

 アイドル活動をしていても、私の評判は変わらない。
 しかし、他にも可愛い子が沢山居て、私程度の子はこの世界にはゴロゴロいることを知った。
 
「ありがとうございます!」

 営業スマイルで私はファンに愛想を振りまくった。
 そうすればお金が貰えた。
 だから、頑張った。
 言ってしまえば、お金が貰えればアルバイトでも良かった。
 しかし、中学生がお金を稼ぐ方法は限られる。
 だから、頑張った。
 お金の為だけなら、ただマネージャーの持ってきた仕事をこなしていれば良かった。
 でも、私は事務所の社長や周りから期待されていた。

「ゆきほちゃん、最近調子いいね~期待してるよー」

「はい!」

「ゆきほちゃん頑張ってね! 応援してるから!!」

「うん、頑張る!」

 表向きは笑顔でそんな事を言っていた。
 しかし、私は心の中で思っていた。

(うるさいなぁ……期待なんてしないでよ……面倒くさい)

(応援してる? じゃあ、一回ぐらいライブに来てから言ってよね)

 心から許せる友達も相談相手も居なかった。
 もちろん業界の中にも、同じグループのメンバーにもそんな相手は居なかった。
 むしろメンバーは、表向きは仲の良いメンバーだが、楽屋は空気が重たい。

「あ、人気投票の順位私が一番じゃん」

「どうせ一回だけよ。よかったわね、記念になって」

「アンタは順位下がり続けてるみたいね……大丈夫?」

「残念、私はCMが決まったのよ」

 こんな感じだから、一緒にショッピングとかご飯なんて考えた事も無い。
 それどころか……。

「ゆきほ、あんた大丈夫? この前まで一位独占だったのに、今じゃ最下位よ?」

「あんまり虐めちゃダメよ、同じメンバーでしょ……フフ」

 次第に私はなぜこんな事をしているのかわからなくなっていった。
 別にアイドルに執着も愛着も無かった。
 だから、私は今こうして駅のホームに立っていた。
 なのに……。

「なんなのよ……あいつ……」

 一人のファンの言葉で、私は元来た道を引き返し始めた。

「うっさいのよ! 元ファンのくせに!!」

 今まで怒られた事なんてなかった。
 あんな事を言われたのも始めただった。
 だから、悔しくなった。

「何も知らないくせに!!」

 言葉を荒げながら、今日出会ったばかりの男の顔を思い出しながら私はショッピングモールに戻る。

「私が負け犬? ふざけんじゃないわよ!」

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