99回告白したけどダメでした

Joker0808

170話

「なんか、老舗って感じの店だな……」

 店内は、畳みに座布団、木のタンスに古いラジオなども置かれ、なんだか昔の家のようだった。
 誠実達は、四人テーブルに座り商品が来るのを待つ。
 誠実達以外のお客さんも多く、何故かその中で男性客は複雑そうな表情でそばをすすっていた。

「なんか、女性客多くないか?」

「そう? 普通だと思うけど」

「誠実君、最近良く女の子見てるね、なんで?」

「恐い恐い、沙耶香さん、顔が恐いっす! いや、変な意味じゃなくて、なんかそんな感じがしたから言っただけで……」

 そんな話しをしていると、店員のおじいさんが商品を運んできた。

「はいよ! 板そばお待ち!!」

「あ、ほら来たわよ」

「わぁ、美味しそう!」

「……」

 運ばれて来たそばは確かに美味しそうだった。
 しかし、誠実は一つだけ大きな疑問を感じ、おじいさんに尋ねる。

「すいません、なんか俺のだけ少ないんですけど……」

 誠実に運ばれて来たそばは、他の二人と比べて明らかに少なかった。
 美沙や沙耶香のそばよりも、誠実のそばは半分以下しかなく、付け合わせの漬け物も美沙達の分はあるのに、誠実の分は無かった。

「気のせいじゃないですかね? それじゃ、これで……」

「いやいや、同じ物ですよね? おかしく無いっすか?!」

「男ならぐちぐち言わず、早く食って一人で帰れ! 全く最近の若い男は…」

「えぇ……俺が悪いの……」

「大体店の看板を見なかったのか、ほれ!」

 そう言って、おじいさんは壁に貼ってある張り紙を指差す。
 誠実は言われた通り、その張り紙を見ると、そこには驚くべき事が書かれていた。

「えっと……『当店は、女性客に対する接客は他店以上ですが、男性への接客は他店以下です』って……アホか! 接客云々の問題じゃ無いだろ!!」

「文句があるなら、食わずに帰れ若造が! わしは本当は女性だけが入れる店にしたかったのに……ばあさんが邪魔するから……」

「こ、このエロジジイ~……」

 だから女性客が多かったのかと、納得する誠実。
 店の中に居る、誠実を含めた少数の男性客が複雑そうな表情をしていたのは、そういう事かと納得し、誠実は仕方なくそばをすする。

「……美味いのが逆に腹立つ」

 味の方は予想以上に美味しく、文句の付けようが無いところが逆に腹立たしかった。
 不満を抱えつつも、食事を済ませ誠実達は店を後にする。

「あ、レビューに書いてあるね、女性には最適の店って」

「男には最悪の店だったよ……」

「まぁまぁ、美味しかったし良いじゃん」

 昼食を済ませた誠実達は、再びガイドブックを見ながら、何処に行くかを考え始める。

「そう言えば、お土産まだ買ってないね」

「あぁ、確かに! 土産物屋さん行こうか!」

「そうだな、俺も一応買っていかないと」

「ちなみに誰に?」

「ん? まぁ、家族とバイト先……後は先輩と恵理さんかな……って、沙耶香なんでそんな恐い顔!?」

「別に怒ってないよ? 早く行こっか」

「じゃあ、なんで背後に鬼神が見えるんだ……」

「アハハ、沙耶香は人一倍嫉妬深いからね~」

「そんな事無いよ? さ、美沙も行きましょ?」

 そう言った沙耶香の笑顔に、美沙と誠実は恐怖を感じた。
 土産物屋に来た三人は、それぞれ家族や友人への土産を選び始める。
 家族へのお土産は、適当にお菓子でも買っていけば良いだろうと、誠実は適当に美味しそうなお菓子を選ぶ。

「う~ん……バイト先には、山瀬さんと被らないようにしないとな……」

 誠実はそう思い、綺凜にメッセージを送る。

『バイト先へのお土産買いましたか?』

 すると、直ぐに返事が来た。

『まだです、伊敷君は何を買いますか?』

「無難にお菓子だろうな……みんなで休憩中に食えるし」

 誠実は、綺凜に返信し返事を待った。
 そして、またしても直ぐに返事が帰ってきた。

『じゃあ、私は灯台の近くのお店で買って行きます。店が別なら被ることも無いと思うので』

『了解です』

 誠実は返信をし終え、再びお土産を選び始める。

「何か良い物は……さ、沙耶香……」

「え? どうかした?」

「そ、その手に持ってる物は?」

「え? 包丁だけど?」

 誠実がお土産を物色していると、沙耶香が真剣な表情で包丁を見ている様子が目に入って来た。
 誠実は、なぜだか知らないが、身の危険を感じてしまった。

「さ、刺すなよ?」

「え、誰を?」

 思わずそんなそんな事を聞いていしまった誠実。
 沙耶香は困った感じで、誠実に聞き返す。
 そんな沙耶香の言葉に、誠実は自分の言った事のおかしさに気がつき、話しを変える。

「い、いや~それにしても包丁なんて売ってるんだな」

「うん、なんか包丁を作ってる職人さんがこの町に居るみたいだよ」

「そうなのか、やっぱり料理部の部長としては、道具もこだわってたりするのか?」

「まぁね、でも高くて買えないから、ちょっと見てたんだよ」

「なるほどな、確かに万なんて単位は、高校生にはなかなか出せないしな……」

 誠実も包丁の値段を見て納得する。
 
「沙耶香はお土産決まったか?」

「うん、家族にはこのお菓子で……おねえちゃんには、これ」

「……なんでわら人形?」

「なんか、買ってきててお願いされてね。お姉ちゃん、最近フラれちゃったらしいから」

「呪うのか……」

 そんな話しを聞くと、なんだか自分まで恐くなって来てしまう。
 
「てか、藁人形なんて売ってるのかよ……」

 そんな事を思いながら、藁人形が大量に積まれた棚を見る誠実。
 すると、少し離れたところで、いつにく真剣な表情の美沙が視界に入った。

「美沙は何を悩んでるんだ?」

「ん? あぁ、これどっちが良いかと思って」

「……それ何処の観光地によく売ってる、キーホルダーじゃん……」

 何を真剣に選んでいるかと思ったら、美沙は観光地のお土産物屋さんによく売っている、竜が巻き付いた剣のキーホルダーを選んでいた。

「昔、お土産で親戚のお兄ちゃんから貰ってから、地味に集めてるんだ~、そのうちコンプリートしちゃうかも!」

「いらねーだろ……」

 誠実が呆れた様子でそう言い、美沙の元を離れ、お土産を再び選び始めた。

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