99回告白したけどダメでした

Joker0808

156話

「何をやってんだか……」

 誠実は、言い争う武司と志保を見て笑みを浮かべる。
 そんな誠実の隣で、健はイヤホンを耳に付けて音楽を聞いていた。
 海に来てまでこいつは何をやっているんだ?
 そう思った誠実だったが、次の瞬間、誠実の声を代弁するかのように、鈴が健に近づきイヤホンを取り上げる。

「もぉー、ダメでしょ、海に来てまでイヤホンなんかして~」

「心配するな、防水だ」

「そう言う事じゃないよ! もぉ~、ほら行くよ!」

「やめろ! 手を掴むな! くっ……意外に力が……」

 健はそのまま鈴に海に連れて行かれた。

「あいつには、島崎くらい強引な奴が丁度良いのかもな……」

 健はそのまま海に入れられ、強制的に泳がされている。
 あの小さな体のどこにそんな力があるのか、鈴は健を逃がすまいと力尽くで健を押さえつける。

「あいつも……大変だな……」

 段々そんな事を考え始める誠実。
 すると、今度は綺凜が誠実の元にやってきた。
 腰にパレオを巻いた水着姿で、凄く似合って下り、誠実は目が離せなくなってしまった。

「隣座っても良い?」

「へ……あ、あぁ! こんなところでよろしければ……」

 誠実に了承を得て、綺凜は誠実の隣に座る。
 未だに言い争う美沙と沙耶香。
 そこから少し離れたところでは、武司が志保にボロクソに罵倒されており、その更に先の海の中では、健が鈴から必死に逃げ惑っていた。

「なんか、こうして皆を見てるだけでも面白いよね」

「騒がしい奴らばっかりだよ……なんだか回りからも注目されてるし……」

 気がつくと、誠実達の一団を海に居る他のお客さん達が、チラチラ見ていた。
 この大人数でこれだけ騒いで居れば、目立つのは当たり前だった。

「そう言えば……その……水着……似合ってるね」

「ありがと、初めてだったわ…友達と水着選ぶなんて……」

「中学の時に海とか行かなかったの?」

「うん……行く友達も……居なかったかな?」

「あ……いや、その……」

「気を遣わなくて大丈夫よ。それに……今は楽しいから」

 綺凜は笑顔で誠実にそう言った。
 楽しそうな表情を見て、誠実はなんだか安心した。
 もしかしたら、今も駿の一件を引きずっているのではないかと、心配だったのだが、ちゃんと旅行を楽しんでいる様子で安心した。

「「誠実君!」」

 そんな綺凜との和やかの雰囲気も、美沙と沙耶香の一声によって終わりを告げる。

「な、なんでしょうか?」

「「どっちが可愛い?!」」

「なんでそんな話しに……」

 急な質問に、誠実は戸惑いを隠せなかった。
 どちらか一方を可愛いと言うわけには行かないので、誠実は二人にこう言った。

「ふ、二人とも可愛いと思うぞ?」

「「だからどっちか!!」」

 お世辞抜きに本当に二人とも可愛いと思う誠実だが、美沙と沙耶香は、どっちか一方を選んでくれる事を望んでいた。

「えっと……俺は……」

 ジッと誠実を見つめて、答えを待つ美沙と沙耶香。
 誠実はなんと答えて良いかわからず、横に居る綺凜に助け船を出してもらおうと視線を向ける。
 すると、綺凜は納得した様子で、首を立てに振る。

「ごめん、私が居たんじゃ、言い憎いよね?」

 そう言って、綺凜は立ち上がり、志保の方に行ってしまった。

(いや、そう言う意味じゃなくてぇぇぇ!)

 心の中でそんな事を叫びながら、誠実の答えを待つ、美沙と沙耶香の方を向く。

「「どっち!?」」

「……俺ちょっとトイレ!」

「「あ! 逃げた!!」」

 誠実はその場からダッシュで逃げ出した。
 あの場でどちらか一方を選ぶなんてしたら、色々とまずい気がした。
 沙耶香と美沙は、ダッシュで逃げて行く誠実を見ながら、溜息を吐く。

「はぁ……誠実君は手強い……」

「まぁ、ちょっと今のはやり過ぎたかもね……冷静に考えて、あの質問は答えられないわ……」

「まぁ、そうだけど……やっぱり、よく見て欲しいし……」

「気持ちはわかるよ。でも、誠実君の事も考えてあげなきゃ、うるさい女って思われるのも嫌でしょ?」

「うぅ……まぁ、そうだけど……折角の海だし……」

 恋する乙女二人は、意中の相手をどうやったら落とす事が出来るかを模索していた。
 そんな中、美沙は一つだけ気がかりな事があった。
 この前の電話で、誠実が言っていた「その時返事をするから」というあの言葉を……。





「はぁ……なんか疲れた……」

 誠実は美沙と沙耶香から逃げ、岩部の方に来ていた。
 しばらく、あの二人が落ち着くまで、姿を隠していようと誠実は決め、岩部で海を眺めていた。

「あぁ……青いなぁ……」

 そんな辺り前の事を呟きながら、誠実はこれからの事を考えていた。
 うやむやになっていた、沙耶香と美沙の告白の件に終止符を打つ事。
 その意味は、告白の返事を二人にする事だった。

「……やっぱり……恋って難しいな」

 昔を思い出しながら、誠実は海を見ながら呟く。
 まさか自分が、こんな選択をしなければならない時が来るなんて、誠実は考えてもいなかった。

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