99回告白したけどダメでした

Joker0808

52話

 誠実達は雑貨店に入り、店内を見回していた。
 変わった置物やオシャレなマグカップなど、様々な物が店内にあった。

「雑貨屋? こんなとこに来たかったの?」

「あ、あぁ…ちょっと何か小物が欲しくてな!」

「小物って何よ」

「うっ! そ、それは……」

 別に小物が欲しくてこの店に入ったわけでは無い、ただ美沙と会わないようにするために、適当に入っただけの店だった。
 誠実は美奈穂にそう言われ、何か良い物は無いかと探す。

「こ、こういうのが欲しくてな!」

「え……そんなの欲しいの?」

「ん? ……あ!」

 誠実が咄嗟に美奈穂に見せた商品は、全裸の男性の置物。
 芸術的な物なのだろうとは思うが、高校生がそんなものを欲しがる意味が美奈穂も手に取った誠実にもわからない。

「……まさかと思うけど、振られてそっちの趣味に目覚めたんじゃ……」

「ち、ちげーよバカ! ほ、ほら! こういうのって部屋に置いてるだけで、なんか雰囲気が変わるだろ?」

「そのままおにぃの性癖が変わらなきゃ良いけどね……」

 完全に選択を間違ったと誠実は心の中で後悔する。
 そんな誠実の横で、美奈穂は店内を物色し始める。

「あ、これ可愛い」

 美奈穂が商品に夢中になっている間、誠実は店の外の様子を伺う。
 美沙が居ないかを確かめていた。
 外の通りに美沙の姿は無く、誠実は安心し、ホッと胸を撫でおろす。

「はぁ~、良かった…」

「何が良かったの?」

「いや、なんか笹原が……って笹原ぁぁ!?」

 ホッ胸を撫でおろしたのもつかの間、いつの間にか美沙が誠実の隣に来ており、声をかけて来た。
 誠実は驚いたのと同時に、美奈穂に見られていないかを気にする。
 美奈穂は店内を見るのに夢中で、誠実と美沙には気が付いていない様子だ。

「そんなに驚かなくても良いじゃん、何やってんの?」

「い、いや……か、買い物だよ」

「へ~、伊敷君ってこういうお店来るんだ」

「ま、まぁな……」

 誠実は冷や汗をかきながら美沙の質問に応える。
 美奈穂に見つからないうちに、美沙をこの店から出さなければと誠実は考えるが、焦りすぎて考えがまとまらない。

「そ、そういう笹原は何してんだ?」

「私も買い物、友達誰も捕まんなくてさ~、一人で寂しかったけど、逆にラッキーだったかもね」

「そう言いながら、俺の腕に抱き着くのやめてくれない?」

「まぁまぁ、良いじゃない、どうせ一人でしょ? 私と一緒に買い物しようよ」

「なぜ、俺が一人だという過程で話をする! 連れが居るんだよ!」

「伊敷君、スマホの中の女の子は彼女とは言わないよ?」

「二次元じゃねーよ!!」

 残念な人を見るような目で誠実を見る美沙。
 一体自分をどんな人間だと思っているのか、誠実は美沙の言葉に呆れながら、ため息を吐く。

「そう言う訳だから、お前はさっさと……」

「おにぃ、何やって……るの?」

 誠実が美沙に別れを告げ、その場を後にしようとした瞬間、誠実の後ろから、美奈穂がマグカップをもって近づいてきた。
 美奈穂は直ぐに美沙に気が付いた様子で、表情を曇らせる。
 美沙は美沙で、まさか本当に女の子と一緒だとは思わず、驚いた表情だった。

「おにぃ……この人誰?」

「み、美奈穂……」

「あ、伊敷君の妹さん? 初めまして、伊敷君の友達の笹原美沙です」

「……伊敷美奈穂です。兄がお世話になっています」

 笑顔で挨拶をする美沙と対照的に、美奈穂は不機嫌そうに言う。
 誠実はそんな2人を見ながら、一人焦っていた。
 このままでは間違いなく面倒な事になる。
 誠実は何とか美奈穂と美沙を引き離そうとし始める。

「さ、笹原! そう言う訳だから、悪いが俺達はこの辺で……」

「あの、失礼ですが兄とはどのようなご関係で?」

 誠実の言葉を無視し、美奈穂は笑顔で美沙に尋ね始める。

「私? う~ん、友達……以上かな?」

「以上?」

「うん。あ! でも恋人未満かな?」

「恋人未満……へ~」

 笑顔で誠実の方を向き直る美奈穂。
 そんな美奈穂の後ろに、またしても鬼が見え始める誠実。
 なぜそんなに怒るのか、誠実には全く分からなかったが、今はただ美奈穂が怖かった。

(妹よ……お前ってそんなに怖かったのか……)

 今までとは違う、美奈穂の怒りのオーラを感じ、誠実は心の中でそう思う。
 美沙はそんな美奈穂の怒りには気が付いていない様子で、続けて話始める。

「やっぱり妹さん可愛いね~、本当に兄妹?」

「あ、あぁ…そうだぜ……」

 ニヤニヤしながら、美沙は美奈穂を凝視する。
 そんな美沙に、美奈穂は若干怯えた感じだったが、笑顔は崩さなかった。

「あ、あの……失礼ですけど、先ほどの言葉の意味はどういう……」

「ん? あぁ、そうだよね、気になっちゃうよね? 伊敷君、この間の事、言っちゃっても良い?」

「駄目」

 きっと告白もどきの事を言っているのだろうと、誠実は直ぐに気が付いた。
 だからこそ、間髪入れずに却下した。
 しかし、美奈穂は誠実の方を再びゆっくりと向き笑顔で言う。

「おにぃ、隠し事なんて、兄妹の間には必要ないよね?」

「いや、俺にもプライベートが……」

「無いよね?」

「はい……」

 誠実は美奈穂の言葉に押され、美沙との関係について、話すことになってしまった。

「じゃあ、話すけど……本当に大丈夫?」

「……もう、諦めた」

 誠実はすべてを諦め、美沙にこの前の誠実とのやり取りを美奈穂に話す事を了承した。
 この後、美奈穂に色々と言われるんだろうと、誠実は覚悟した。
 誠実はなぜ最近か最近、自分の女性関係を気にしてくる美奈穂の事が、不思議で仕方無かった。
 怒られるのも理不尽に感じて仕方無かったが、美奈穂に口喧嘩で勝てる気がしないので、何も言わない。

「……と、こんな感じで、アピール中なんだよ~」

「……そうなんですか、それにしてもほんとに兄で良いんですか?」

 美沙が美奈穂にこの間の事を話し終えると、美奈穂は笑顔のまま美沙に尋ねる。
 顔は笑っているのに、目が全く笑っていない美奈穂に、誠実は再び恐怖を感じる。
 
「良いも何も、妹ちゃんも伊敷君の事好きだから、こうして一緒に買い物してるんだよね?」

「な……ななな!! 何を!!」

 美沙の言葉に、美奈穂は急に顔を真っ赤にし、狼狽え始める。
 誠実は美沙の言葉をよく聞いておらず、急な美奈穂の様子の変化を不思議に思う。

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