99回告白したけどダメでした

Joker0808

17話

 食事を終えた誠実と美奈穂は、お会計を済ませ、帰路についていた。
 会計の時、店員が誠実ではなく、美奈穂が金を出したため、若干誠実を見て笑っていた。
 そんなことがあり、誠実の今日の精神的ダメージは大きく、もう限界に近かった。

「なんだよあの店員……まぁ、確かに男の俺が払わないのは情けないけど……」

「もう、良いでしょ? 気にするだけ無駄よ、早く帰ってお風呂入んなきゃ…」

「そうだな…俺も今日は色々あったから、ゆっくりしたい……」

 そんなことを話しながら、帰り道を並んで歩く誠実と美奈穂。

(今日はびっくりする事とか、面倒な事とか、嫌なこととか、色々あったけど……まぁ、良いか)

 誠実がそう考えるのは、最後にこうして美奈穂と、前のように普通に会話できているからだ。
 言ってしまえば誠実の勝手な勘違いだったのだが、勘違いと分かったことが、誠実にとってはうれしかった。

「ねぇ……おにぃってさ……」

「ん?」

「彼女って……居た事あるの?」

「はぁ? んなもんあるわけねーだろ。今日も振られたし……」

「だ、だよね~、おにぃってモテなさそうだし~」

「うっせぇ!」

(こいつ……また俺をからかって遊んでやがる……)

 そんな事思いながら、誠実は何とか反撃出来ないものかと考える。

「お前はどうなんだ? 好きな奴とか居ないのか?」

「は、はぁ?! い、居るわけ無いでしょ……」

(お! 動揺したぞ!! これはもしや…)

 怪しい反応をする美奈穂に誠実は、さらに追い打ちをかける。

「怪しぃなぁ~、もしかして俺の知ってるやつかぁ~?」

「うっさい! バカ! ストーカー負け犬男!」

「ぐはっ!! お、お前……言ってはならない……事を……」

 誠実は追い打ちをかけるどころか、美奈穂からカウンターを受け、精神的に大きなダメージを負った。
 もう美奈穂をからかうのはやめよう、誠実はそう思いながら、再び自宅までの道を歩き始めた。







 夜の九時過ぎ、私はいつものように部屋で読書をしていた。
 私はこの静かな時間が好きだった。
 誰からも何も言われず、一人で落ち着いていられる、この時間が……。

「はぁ……終わっちゃった……」

 本を読み終え、私は背中を伸ばして立ち上がる。
 ふと窓の外を見ると、星がきれいで、なんだか穏やかな気分になれた。

「今日の告白は……なんだかいつもと違ったわね……」

 私はいつものように、伊敷君からの告白を受けた。
 しかし、今日は事情が少し違った。

「まさか……あんな現場を見ちゃうなんて……」
 
 伊敷君は家庭科室で、とある女子生徒から告白まがいの事を言われていた。
 そんな現場に私は居合わせ、二人きりになったときは、思わずなんと言って良いやら、分からなくなってしまった。

「はぁ……ほんと、なんで私なんかを……」

 私は訳あって、男性とお付き合いができない。
 そのため彼の告白もすべて断って来た。
 前から良く告白されることはあったが、99回同じ人からの告白というのは、初めてだった。

「まぁ、普通に考えて異常よね……」

 しかし、私は99回の告白を受け続けることで、多少なりとも彼の性格を知っていた。
 彼の告白に付き合った理由の一部は、そこにあった。
 彼は決して怒ったり、振られたからと言って、私の悪評を広めたりなどの事をしなかった。
 中学時代は、そのせいで嘘の噂が流れてしまい、ほんのちょっと面倒だった。
 彼は、確かにしつこかった、しかし、同時に優しかった。

「気がついて……ないよね……」

 私が彼の告白を断り続ける大きな理由は、他にある。

「伊敷君がこれを知ったら……怒るんだろうな……」

 私は飲み物を取りに行こうと部屋を出て、キッチンに向かう。
 この家は、私以外には誰も住んではいない。
 両親とは離れて暮らしており、今はこの無駄に広いマンションに一人で暮らしている。
 ハッキリ言って私の家は、結構裕福だ。
 娘一人のために、最新のオートロック機能が付いた、高級マンションを借り、そこから学校に通わせてくれる。
 母は早くに他界し、今は父親だけ。
 その父も別に厳しい人ではなく、温厚で優しい人だ。

「はぁ……明日の彼は、どんな風に告白してくるのかしら……」

 私はそんなことを考えながら、冷蔵庫から出した麦茶を飲み干す。

「きっと……諦めなんて、ついてないわよね……」

 これまでの彼の行動を考え、自然とそんな結論に至る。
 そろそろ彼に本気で私の事を諦めてもらわないといけない。
 そうしなければ、彼は折角の高校生活を無駄に消費してしまう。

「やっぱり……キッツイこと言わなきゃダメかしら?」

 私は麦茶をしまい、部屋に戻って行く。
 部屋に戻ると、私は机の上に充電中だったスマホを手に取り、操作し始める。

「……はぁ~」

 メッセージが来ていないかや、SNSを確認し私は直ぐにスマホを机に戻す。

「伊敷君って……モテるのかしら?」

 自分で振っておいて、何を不思議がっているのだろう?
 まぁ、確かに99回も告白をしてきた相手だ。
 正直気にならない訳が無い。
 しかし、そこに恋愛的な感情があるわけではない、ただ知っている人だから、という理由でのただの興味だ。

「まぁ、私には関係ないか……そういえば、お礼……言えなかったな……」

 本当なら、この前助けたくれたお礼を今日言うはずだったのだが、色々あって結局言えていない。

「明日にでも言おう……」

 私は明日になれば、また言う機会があるだろうと思い、そうつぶやく。
 そんな時、机の上のスマホが音を立てて震え始めた。
 私はスマホを手に取り画面を見る、そこには父の名前があった。

「もしもし、お父さん?」

 お父さんからの電話だった。
 私が襲われた事を伝えたら、心配して電話をかけてきた様子だった。

「うん……多分……え、大丈夫だよ、私は一人で……うん……」

 電話越しに、父からの心配そうな声が聞こえてくる。
 心配をかけてしまったと思いながら、私はお父さんとの会話を続ける。

「え? うん……その話はまた帰ってからしよ……大丈夫だよ。彼氏なんて居ないよ……」

 私はそう言いながら、なぜか彼の顔を思い出してしまった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品