3話

　言われた健と武司はどう応えるべきか考える。
　ここで自分たちが、上手く誠実をフォローすれば綺凛の誠実に対する印象が変わるのではないか？
　二人はそう考え、誠実の為に綺凛に話始める。

「俺らも良くは知らないけど……なんか運命的なものを感じたって言ってたな……」

「そういや、言ってたな、あいつ山瀬さんの為に色々やってたんだぜ？」

「そうなんですか？」

　綺凛に聞かれ、健と武司はこれまでの誠実の告白前の下準備や噂を鵜呑みにして、綺凛とつき合うために何をしてきたかを話して聞かせた。

「……そうだったんですか」

「あぁ、強い男が好きって聞いた時に、真っ先に柔道部に行って仮入部して、部長を倒して一週間で戻ってきたときは、なんでこの力を他に使わないのか、本気で疑問だったな……」

「あんなときはヤバかったよな。柔道部の部長が泣いて、顧問が誠実を勧誘してきて」

　綺凛は正直聞くべきでは無かったと後悔した。
　こんな事を聞いてしまっては、告白を断る際に申し訳なくなってしまう。
　質問した自分が悪いのだが、正直聞くべきでは無かったと後悔した。

「逆に聞きたいんだが、なんであんたはあそこまでの告白の回数をすべて丁寧に断ってんだ？」

「それは、彼が本気なのがわかるから、申し訳なくて……」

　綺凛にとってそれは紛れもない本心だった。
　しかし、今日美沙と話して、その優しさが、逆に彼に希望を持たせてしまっている事に気が付き、最初からちゃんと諦められるように断っておけばよかったと後悔していた。

「あぁ、そこは伝わってんだ…」

「なぁ、この際だから言っていいんじゃね？」

「何をだ？」

「明日の事、この様子じゃ、山瀬さんに誠実の気持ちは伝わってるっぽいし、それでもその気が無いって事は、明日の結果もわかったようなもんだろ？」

「まぁ……確かに、それはそうだが、俺達がそれを言うのは卑怯だろ？」

　健は武司の提案を否定する。
　自分たちが、明日の誠実最後の告白の事をここで言ってしまえば、自分たちが「付き合ってやってくれ」と言ってるような感じになってしまう。

「う～む、難しいなぁ……」

「ここは余計な事は言わず、俺らはただ山瀬さんを送っていくことだけを考えよう」

　コソコソと話を続ける二人。
　綺凛は一体何を話しているのであろうかと気になったが、自分に聞かれたくないのだからコソコソしているのであろうと思い、何も聞かなかった。

「それにしても山瀬さん大変だったよな、襲われそうになったんだろ？」

「はい、急に腕を掴まれて……ビックリしました」

「ここら辺にも変な奴は要るもんだな……」

　健と武司は、あまりコソコソするのも良くないであろうと思い、綺凛に話を振る。
　他愛もない雑談をしながら、綺凛の家に向かって歩みを進める。
　ほぼ初対面でありながらも、綺凛は人見知りすることなく、会話に入って行く。

「てかさ、山瀬さん敬語じゃなくてもいいよ～、どうせ同い年じゃん」

「あぁ、ならお言葉に甘えて……二人は、あの……彼、伊敷君とは仲良いの？」

「まぁ、もう長い付き合いだしな……」

「基本は俺ら三人で居るからな、それが当たり前みたいになっちまった」

　綺凛の問いに、二人は笑って答える。
　もう三人は、5年以上の長い付き合いになり、それなりに互いの事を知っていた。

「良いね……そう言うの…」

「まぁ、悪い気はしねーな。こいつらがうるさいから、毎日飽きないし」

「武司、それはお前と誠実だろ？　俺は特に騒いでないのに、お前ら二人のせいで、俺までそう言う勘違いを受けるんだ」

「おいおい、一人だけクール振りやがって！　お前だってアイドルの追っかけの為なら何でもやるじゃねーか！」

「え、意外だね……」

　健の外見からは全く想像の出来ない趣味に、綺凛はただただ驚いていた。

「アホか、俺はただ純粋に彼女たちを応援しているだけだ。誰にも迷惑などかけていない」

「よく言うぜ、一人一個までしか買えないグッズ買うのに、俺と誠実を三時間も付き合わせやがって」

「どうせ暇だったろ？」

「うるせぇよ！！」

　綺凛はそんな二人の様子を見て、思わず笑ってしまった。
　本当に仲が良くなくては、そんな事には付き合わないし、こんな事は言えない。

「ほら、笑われてるぞ」

「笑われてんのはお前だ！」

「ごめんなさい、おかしくって」

　どうやら悪い人たちではない、そう思い始めていた綺凛は段々と二人と話しやすくなって行った。

「ここまでで大丈夫。私の家、このマンションだから」

「マジか……」

「デッカイな……」

　綺凛が自分の家だと言ったマンションは、いわゆる高級マンションで、建物も大きく、駐車場には高級車がズラリと並んでいた。

「二人とも、今日はありがとう。彼にもそう伝えておいてもらえる？　本当に助かったって……」

「それは山瀬さんが直接言ってやってくれないか？　そのほうがあいつは喜ぶ」

「そうそう、どうせ明日も話すだろうし」

　二人の言葉に、綺凛は複雑な思いだった。
　彼にもっと早くハッキリ言っていれば、こんな気持ちにはならずに済んだかもしれない。そう思いながら、綺凛は笑顔で二人に応える。

「分かりました。お礼は直接言います。助けられた事と、告白は別ですから」

「そうか、じゃあ行こうぜ武司。後一時間で歌番組が始まる」

「へいへい、じゃあね、山瀬さん」

　そう言って二人は、もと来た道を引き返して行く。
　綺凛はそんな二人の背中を見ながら、ため息を吐く。

「はぁ……断りづらくなっちゃったな……」

　変に誠実の事を知ってしまい、しかも助けられてしまった。
　情が湧いてこない方がおかしい。
　しかし、綺凛は同時に、だからこそしっかり断らなくてはいけないと思った。
　綺凛には絶対に誠実と付き合え無い理由があるからだ。