最恐魔王の手さぐり建国ライフ!!〜政治に農業、時々戦争!?〜

ノベルバユーザー219564

第12話 マジカル・パンデミック

「陰陽師……!?」 

「そう、名前くらいは知ってるでしょ?」 

 もちろんそれくらいは知ってる。 
 と言っても俺のイメージは、着物を着たおっさんぐらいのイメージしかない。 
 とても目の前のスーツ姿のお姉さんとは重ならないぞ。 

「あんたがイメージしてるのは平安時代の陰陽師よ。時代の移ろいで着るものなんていくらでも変わるわ」 

 この人は陰陽師ではなくエスパーなのではないか? 
 これ以上心を読まれるのも怖いし、今度はこっちから質問してみるか。   

「それにしてもここはどこなんですか?何で俺は魔法が使えるんですか?何で陰陽師に助けられたんですか?」 
「話すより見た方が早いわ。着いてきて」 
  
 彼女は俺が返事するのも待たずに部屋を出て行ってしまった。 

 仕方ないから追いかけるか……。  

「おいおいどこまで行くんだ?」 
「ここよ」 

 彼女に促されて外に出ると、そこは……。  

「う、嘘だろ……どうなってるんだ!」  

 目の前に広がる光景はおぞましいものだった。 
 赤く腐った色をした空、醜く隆起し焼け爛れた地面、鼻につく腐臭、辺り一面に散らばる人工物の残骸。 

   
 一言で例えるなら『地獄』だ。 


 ご丁寧に角の生えた化け物までいやがる。 

「なんなんだよここは!! 地獄か!?ゲームの中か!?それとも別の世界か!?」  

「ひとつ言っておくわ、この世界はあんたの思ってるような世界ではない」 
  

 彼女は俺の正面に立ち、俺の瞳を見据えて話す。 

  
「ここはれっきとした現実世界よ」 

  
 そんな馬鹿なことがあるか。 
 しかしそこら中にある廃墟と化した建造物は確かに見覚えのあるものもあった。 
  
「今から三日前」 
「え?」 

「海上で大規模な魔力反応が確認された。その余波は地球全土に広がり、全人類のおよそ一割に魔力が宿った。巷《ちまた》ではこれを魔力大規模感染《マジカル・パンデミック》と呼んでるらしいわ」 
  
「一割……」 

 確か地球の人口は70億人だったはず……ということは……!? 

「7億人が魔法使いに……!?」 

「そう、当然世界は大パニック。魔力の宿った人「魔人」とそうでない人は世界各地で戦闘を始め、既にいくつもの国や民族は滅んだみたいね」 

「そんなことって……」 
  
 人は思想や肌色の違いだけで簡単に殺しあう生き物だ。 
 魔法を使える人なんて許容できるはずもないか……。 

「礼堂院さんは魔力大規模感染《マジカル・パンデミック》以前から魔法がつかえたんですか?」 

 彼女は国家陰陽師と名乗っていた。 
 三日間でそんな組織が出来るとは思えない。 

「そうよ、存在は隠匿されていたけど魔法は元々この世界に存在していた。といっても世界中合わせて数千人程度しかいなかったわ」 
  
 なるほど。この異常事態に落ち着いて対処できているのは魔法と長い付き合いだからか。 

「日本にも国家陰陽師という形で私を含め100人近くの魔法使いがいた。しかし日本中で起こる紛争を止める為にたくさんの仲間が犠牲になったわ……」   

 そう語る彼女の目には確かに悲しみの色が浮かんでいた。 
 犠牲になった人たちの中には親しい人も多かったのだろう、彼女の悲しみは俺には計り知れない。   

「礼堂院さ……」 
「舞衣でいいわ」 
「え?」  

 思わず彼女に声をかけようとしたらそう呼び止められた。
  
「あなたから感じる魔力はとても特殊。悪いけどしばらく一緒に行動してもらうわ。共に行動するのに堅苦しい呼び方はやめましょう?」 
「は、はい!えーと舞衣……さん」 

 まだちょっと気恥ずかしい。男はいつまでも男子なのだ。 
  
「ふふっ、それでいいわ。そろそろあなたの名前も教えてもらえるかしら?」   
「そ、そうだ!忘れてたけど名前が思い出せないんです!他のことは覚えているのに! 」

「記憶喪失かしら……頭を打ったショック、はたまた魔力の覚醒による脳の負荷が原因?あなた何か身分証みたいのは持ってないの?」 

「あ!」 

 確か財布の中に免許証が入っていたはずだ! 
 俺は懐をまさぐり財布を取り出す。   

「えーと、どれどれ……あった!」 

 あまりポイントカードの類を作らない俺はすぐにお目当ての物を見つける。   

「さてさて俺の名前は、っと…………え!?」 

 あまりの衝撃に脳がフリーズする。 
 嘘だろ!?いったいどうなってるんだ!!   

「そんな馬鹿な!」 

 俺は財布をひっくり返して保険証やクレジットカードを取り出し、名前を確認する。 

 しかしそこに書かれてる内容は全て同じだった。 

「いったいどうしたの!?」 

  

 俺の異様な反応を心配した舞衣さんが俺の肩をつかむ。 

「な、名前が……」 


「名前がどうしたの?」 

  

  

  

  

「全てのカードから名前が消えているんです」 

  

 俺という人間がいた痕跡は、この世から消え失せていた。 

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