シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
48話 「酒は飲んでも飲まれるな」
俺は酒に酔って意識もハッキリせぬまま胡蝶と夢見鳥ちゃんに連れられてお風呂に行く。
「大我こっちだ」
「うふふ大我お兄ちゃんいこっ!」
二人が俺を急かす。
「ちょ、ちょっと待て……おっと」
足がふらついて倒れそうになる。
「おい、気をつけろ……うふふ」
胡蝶が俺を支えてくれた。
その時ちょうど抱きつく形になり俺は心臓が飛び上がりそうになった。
うわ、胡蝶からすげえ良い匂いがする、しかも柔らかい……人形だけど女なんだよな。
俺は改めて胡蝶を異性として認識した。
「もう、大我お兄ちゃん! いつまでボタンお姉様……じゃなくて、胡蝶お姉ちゃんに抱きついてるの!?」
夢見鳥ちゃんが怒るので慌てて離れる。
あっぶねぇ、いつもの胡蝶だったらぶん殴られるところだった……あれ、そういえばさっき夢見鳥ちゃんがボタンとか言ってたような?
「ふふふ、大我背中越しにわかるくらいに心臓の高鳴りが伝わって来たぞ」
胡蝶が後ろをチラリと見て言う。
「え、そうか?」
「ああ、くくく……風呂に行くのにそんなにモタモタしてたらいつまでもつかないな」
胡蝶はクスクスと口に手をあて笑う。
「そうは言っても俺けっこう酔ってるから歩くのも大変なんだよ」
「そうか、だったら少しは酔いが覚めるくらいのものを見せてやろう」
そう言うと胡蝶は俺から少し離れて突然着物の帯をほどき始めた。その瞬間、俺は一瞬何が起きたのか分からなかった。そんな俺に構いもせず胡蝶は夢見鳥ちゃんのもとへ行く。
「お、お姉様いったい何を? きゃ!」
胡蝶は慣れた手際で今度は夢見鳥ちゃんの着物の帯をほどく。
シュル、パサッ。
そんな擬音が聞こえそうなくらい鮮やかな手際だった。そうして夢見鳥ちゃんは着物の前を開いた状態にさせられ俺に下着をさらけだした。
夢見鳥ちゃんのは白色レースの下着を履いていた。
「いや!」
夢見鳥ちゃんは慌てて体を隠す。
「うふふふ、これで少しは覚めたでしょ?」
胡蝶は挑発するように自分の下着を見せつける。
胡蝶は夢見鳥ちゃんと同じ種類の黒色の下着だった。
俺はそれを見て黙ってコクコクとうなずく。そんな俺を胡蝶はクスクスと笑い質問する。
「私達とお風呂に入りたい?」
コクコク。
「私達の裸を見たい?」
コクコクコク。
「ならちゃんと私達に着いて来て」
コクコクコクコク。
胡蝶は夢見鳥ちゃんの手を引っ張り急いで歩き始める。
「うをおおお、たまんねぇ!」
俺は二人の後を追いかける。本当は酔いはまだ覚めていないので今でも足下がふらつく。それでも俺は頑張って二人に着いて行こうとした。
畜生、おれをエロい下着で挑発しやがって……ぜ、絶対に後悔させてやる。
どうやって何を後悔させるか分からないが俺はただそのその事だけを考えた。
「大我様こっちよ」
胡蝶が先に扉の前で待っていた。
お、ここが古家家の浴室か、いったいどんなお風呂なんだ?
「ううう、お姉様ぁ……ボソッ」
「はいはい、わかったわ」
夢見鳥ちゃんが恥ずかしそうに胡蝶に何かを呟く。
「大我様、バラが……じゃなくて夢見鳥が着物を脱いで裸になるところを見られるのが恥ずかしいみたいなので私が良いと言うまでここで待ってもらえますか?」
は? 着物の前をはだけさせてる癖に今さら何言ってんだ? ……いやいやここは冷静になれ少し待っておけば女の子と風呂に入れるんだ。
俺は頭の中でゲスな損得勘定をして結局胡蝶の言うことを聞くことにした。しかし後でこのとき本当に冷静になって物事を考えておけばよかったと後悔する。
……。
「大我様入っていいですよ」
中から胡蝶の声が聞こえたので浴室に入る。脱衣所は広く脱いだ服を置ける棚が何個もあった。
そのうちの一つに胡蝶達の着ていた着物が置いてありそれを見た俺はごくりと息を飲んだ。
胡蝶と一回だけ旅館の風呂に入ったことがあったな、てかまんまここがあの時のお風呂と造りが似てる。
「大我様、早く入って来てください、それともそこで私達の下着を使って変なことでもしてるんですか?」
「バッ、バカ! そんなことしねぇよ、今から入るよ!」
俺はドキドキしながら胡蝶達が待っているお風呂の扉を開けた。
ふひひひ、美少女達の裸を見れるぞ!……あれぇ?
俺は立ち止まった。
「どうしたの? 早くこっちへ来たら?……(もしかしてバレたかしら)」
胡蝶が俺を見て不思議そうに言う。
「いや、裸は?」
「……え?」
「何でタオル巻いてんの? 裸見せてくれるって言った」
俺は胡蝶達が体にタオルを巻きつけて隠していることにガックリした。
「ううう、大我様すみません、でもバラは恥ずかしくて耐えられませんわぁ!」
「ちょ、バラじゃなくて夢見鳥! 何言ってるの私達の計画が大我様にバレるでしょ!? ……あ」
胡蝶が慌てて俺に振り返る。
「あははは、夢見鳥ちゃんそんなに恥ずかしがらなくて良いよ、取り合えずタオルはそのままでいいからお兄ちゃんと洗いっこしよう!」
俺は朦朧として二人が何を言ってるか分からなかったが夢見鳥ちゃんが恥ずかしがっているのだけは分かった。
「キモッ! じゃなくて大我様どうやらまだ気づいてないみたいね、バカで良かったわ」
何やら胡蝶に失礼なことを言われた気がする。
「大我様、お体を洗いますからそこへ座ってくれますか?」
俺は胡蝶の言う通り椅子に座る。
「失礼しますわ(バラ、大我様を洗い終わったら一緒にお湯に浸かるわよ、そのときに大我様と一つになるの)」
ゴシゴシ。
「(わ、分かりましたわボタンお姉様……けどそのバラは一つになるのが怖く感じますわ)」
ゴシゴシ。
「(安心しなさいバラ、最初は大我様も激しくなさるかもしれないけど私が先にして落ち着かせるからあなたは後で優しくしてもらいなさい)」
ゴシゴシ。
「(……はい、ボタンお姉様)」
先程から胡蝶達が左右から俺の腕を一生懸命洗ってくれている。
あぁ、他人に洗ってもらうのって何でこんなに気持ちいいだろう、俺が胡蝶を洗ってやったときもこんな感じだったのかな?
俺は胡蝶を見つめる。すると胡蝶が体を密着させて俺の胸の辺りを洗い始めた。
うわ、なんだこれちょーエロい。
俺は未知の体験に興奮した。
「あら? 大我様鎖骨の部分に大きな傷痕がありますがいったいこれは?」
「傷痕? ああそれか、昔自衛隊にいたときに俺が訓練中にドジッちゃって転倒したとき出来た傷だよ」
「自衛隊? 訓練中?」
「そうだよ、あの時は痛くて死ぬかと思ったよ、けどもう治ったから気にしなくて良いよ胡蝶」
懐かしい、本当にあの時は大変だった。
自衛隊時代を思い出す。
怪我したときに班長や同期達が必死に俺を救助してくれたな……あの時の同期達は元気にしてるだろうか。
「……またあいつらと飲みにいきてぇな」
「えーと、何か言いました?」
「何でもない只の独り言だよ」
そうだ、あの時俺の退院祝いで同期達と外に飲みに行ったんだ。そこで今みたいに酔っぱらって店員さんをナンパして絡んだりトイレに閉じ籠ったりして迷惑をかけたんだ。
段々昔の記憶が蘇って来た。
それで最後はみんなに担がれて駐屯地に戻ったけど門限に間に合わなくて班長が激怒して夜に屋上でみんなと反省したんだ。
…………
……
キュウジュウハチ!  キュウジュウキュウ! ヒャクウゥ!
「オラオラおめぇら後回数百回残ってんだよさっさとやれぇ!」
俺達は門限を守らなかったので屋上で班長に指導で腕立て伏せをして反省するように命令された。
「おい久我ぁ、おめえが原因で同期達に迷惑かけたんだしっかり反省しろ」
班長が腕立て伏せをしている俺の前に来て言った。
「はぁはぁ、……くぁ、ハイぃ!」
俺は腕が限界に来て震えて返事をするのもやっとだ。
そんな俺を班長は見て呆れながら言った。
「いいか久我ぁ、俺は酒を飲んで酔っぱらうなとは言わない、ただ限度ってものがある」
「……ううっ」
「返事ぃ!」
「ハイッ!」
「『酒は飲んでも飲まれるな』昔から言われてきた言葉だ、適度に飲まないと身を滅ぼすことになるぞ」
「ハイッ!」
「久我ぁおめえは酒に弱ぇんだから気をつけろよ、分かったらさっさと後百回腕立て伏せしろぉっ!」
「ハイッ!」
ヒャクイチィ! ヒャクニィ! ……オエエエェ!
うわぁ! 久我が吐きやがったぁ!
…………
……
『酒は飲んでも飲まれるな』
昔班長が言った言葉を思い出した。
「え、大我様何か言いました?」
そう聞かれたので胡蝶を改めて見る。
……何で俺は胡蝶と風呂に居るんだ?
徐々に酔いが覚めてくる。
……そうだ! 今の俺は酒に飲まれてるんじゃないか?
「大我様?」
誰だこいつ、胡蝶は大我様なんて言わない……いったいいつから胡蝶と刷り変わったんだ? いやもしかして最初から胡蝶じゃなかったのか?
俺は頭がこんがらがった。
気がついて左右を見るといつのまにか胡蝶と夢見鳥ちゃんと同じ姿をした人形に俺は体を洗われていた。
おい、マジで誰だよヒマワリとツキミソウか? ……違う、もしかしていつも古家さんに抱きついてた姉妹か? それともおさげの真面目な姉妹か?
どれも違う気がして最終的に最悪な選択が思い浮かんだ。
あ、妖艶組のボタンとバラか。
胡蝶以外にこの二人じゃないと俺と風呂に入らないと確信した。
あーあ、まいったねこれは。
「ごめん」
「え、大我様?」
「突然どうしましたの?」
俺は二人に謝るとさっさと体についた泡を流して風呂から出ようとした。
ドタドタドタドタ! バーン!!
外から誰か廊下を走ってきた音が聞こえると思ったらすぐに風呂場の扉が勢いよく開いた。
やって来たのは正しく俺の人形であり彼女でもある胡蝶だった。
胡蝶は鬼の形相で俺を見た。
敵襲ぅー!! ターン、ターン、バーン! ドカーン!
俺の心の中で敵の襲撃を受けた場面を思い浮かべた。
胡蝶は俺に瞬時に詰め寄ると強烈な突きを俺の顔面にぶつけた。
ザバーン。
俺はなすすべもなくダメージを受けてそのまま仰向けに湯船に倒れて気を失った。
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