シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
38話 「彼女の父と不安の種」
古家さん達との夕食も一段落した。
俺はビールを少しずつ飲みながら古家さんに胡蝶に関する疑問をいつ聞こうかタイミングを伺った。
ドタドタ。
廊下から足音が聞こえて来る。すると俺達のいる部屋の襖が開き誰かが入ってきた。
「……お父さん」
「……来た」
部屋にやってきたのはガマズミちゃんとキンセンカちゃんだ。
二人は古家さん側に行くとギュッと抱きついた。
「こら、お前達まだ食事の途中だぞ、離れなさい」
二人は古家さんの言葉を無視してイヤイヤをしながら古家さんに顔を擦り着ける。
「……お父さん今日は私達にあまりかまってくれない」
「……とても寂しい」
古家さんは困った顔をして俺と繭さんを見る。
「すまないね久我君、繭さん、この子達は言い出すと満足するまで離れないんだ」
「……古家さん羨ましいな」
抱きつかれている古家さんを見ると俺もいつものように胡蝶に甘えてきて欲しくなった。
「……夢見鳥に厳しく言い過ぎたかしら」
繭さんも夢見鳥ちゃんのことを思い出したようだ。まぁ夢見鳥ちゃんが繭さんの下着を盗んだのが悪いんだけど。
「もう、お姉様方はいつもこうなんだから!」
「けどちょっと羨ましいかも」
怒るヒガンバナちゃんと羨ましがるスイカズラちゃん。普段厳しく真面目な姉妹でも少し性格が違うようだ。
「たっだいまー!」
「お父さん今帰ったよー!」
玄関の方からヒマワリとツキミソウの声がした。そのまま二人はドタドタと廊下を響かせて食卓へきた。
「あなた達帰るのが遅いわよ、今何時だと思ってるのよ!」
「しかも汚れた体で食事場まで来ちゃダメでしょ!」
ヒガンバナ達が怒るがヒマワリ達が気にしている様子はない。
「寄り道してたら遅くなっちゃったよ」
「兄ちゃん明日も私達と遊ばない?」
二人してケラケラ笑って言う。
こいつら疲れってものを知らないのかな?
「お前達汚れてるじゃないか……はぁ、お風呂に入って綺麗にしてきなさい」
古家さんは頭を抱えて疲れたように言う。
え、確か球体関節シリーズは入浴できないんじゃなかったっけ……っていうかこいつら普通に川に入って泳いでたよな!?
俺はヒマワリとツキミソウの体に異常がないか不安になった。
「え、良いの? やったー!」
「じゃあ準備してくるね」
ヒマワリとツキミソウはハイタッチをして入浴の準備に行った。
「古家さん、球体関節シリーズは入浴できない使用でしたよね、良いんですか?」
「心配しなくても大丈夫だよ久我君、お風呂から上がったら僕がちゃんと彼女達のパーツを外して手入れするから」
あ、そういえば俺は当初胡蝶のメンテナンス方法が知りたくてここまできたんだった。
「お父様お疲れじゃないんですか?」
「あまり無理しない方が……」
「大丈夫だよ、心春にも手入れを手伝ってもらうから、この際だから今日は姉妹全員でお風呂に入って来なさい」
心配するヒガンバナちゃん達に古家さんは優しく話しかける。
「……お父さんも一緒に入る?」
ガマズミちゃんが可愛く首をかしげながら聞く。
「ぶほっ! ……僕は一緒に入れないよ」
「……何で?」
「何でってその、お前達は大きいから色々とまずいんだよ」
キンセンカちゃんの問いかけに古家さんは言葉をにごした。そうして困ったあと繭さんを見て言った。
「そうだ、繭さんも良ければ娘達とお風呂に入って来たらどうかね?」
「え、私がですか?」
「まぁ、女性同士だから気が要らないと思ったんだが無理にとは言わないよ」
「いえ、大丈夫ですけどその、全員が入る事って出来るんですか?」
「ふふふ、心配しなくてもいいよきっとびっくりするから……お前達、繭さんを案内しなさい」
ヒガンバナちゃん達がカマズミちゃん達と繭さんをつれて出ていった。
部屋は俺と古家さんの二人だけになった。古家さんのコップが空になっていたのでビールを注いだ。
「お、久我君すまないね……どうだねせっかくだから僕と男同士込み入った話しでもしないかい?」
そう言うと古家さんは俺のコップにビールを注いでくれた。
「……ありがとうございます、そうですね俺も古家さんと話がしたかったのでお願いします」
お互いに乾杯して飲む。
「……まずは僕から君に聞くけど、君は心春の事が好きなのかい?」
う、いきなりその話か……どう言えば良いだろう。
「いや、その心春さんとは別にそんな関係じゃないんですけど」
「……そんな関係じゃない? 君は心春とあんなことをしときながらそんなことを言うのかね?」
やば、言葉をミスったか?
古家さんの表情がみるみる険しいものになっていく。
「古家さん聞いて下さい! 誤解なんです、実は心春さんは寂しがってまして」
「心春が寂しがってる? ……それはいったいどういうことだい?」
俺は心春のことを古家さんに正直に話すことにした。
「心春さんは自分が長女であり古家さんの跡を継ぐと言ってしっかりしています。でも本当は古家さんに甘えたいみたいです」
「心春がそんなことを言っていたのかね!?」
古家さんはとても驚いた表情をした。
「さらに続けると古家さんはいつも球体関節シリーズの人形と一緒にいますよね? それが心春さんには辛いそうです」
「……はぁ、そうか僕は心春に悪いことをしたね、心春は責任感が強いから僕に言い出すことができなかったんだね」
「古家さん、それで俺は心春さんのお兄ちゃん的存在になれば心春さんが甘えることができて寂しくなくなると思ったんです」
「なるほど、だから心春は久我君をお兄様と呼んでいたんだね」
「はい、それで心春さんに甘えられて体が密着したんです、そのときに着いた匂いを胡蝶が気づいてその……心春さんと俺が寝たんじゃないかって喧嘩になっちゃて」
「そうだったんだね……」
俺は心春さんに告白されたことまでは言わなかった。それ以上は心春さんのプライバシーに関わると思ったからだ。
……。
話が終わるとじばらく沈黙が続いた。
胡蝶は今部屋で何をしてるだろう?
胡蝶に心春さんとの関係を問われたとき俺は否定できなかった。何故かと言うと、自分でその気があった訳ではないが誰がどうみても心春さんと浮気した形になったからだ。
俺は最低のくずだな。
「久我君と心春のことはわかった……はぁ、僕は娘達のことを何も知らないようだね」
古家さんはそう言うとビールを一気に飲み干した。
「それはどういうことですか? 古家さんは胡蝶達の制作者だから何でも知ってると思ってましたけど」
俺は古家さんの空になったコップにビールを注いだ。
「確かにそうだけど……実は最近になって球体関節シリーズの娘達がお互いを僕の知らない名前で呼びあっているのを知ったんだ、僕にはなぜ彼女達がそうしているのか分からないんだ」
「古家さんがそれぞれ名前を着けたんじゃないんですか?」
「違うよ、僕は胡蝶と夢見鳥という名前しか考えていない、だから玄関であの子達……あの髪飾りを着けた娘達がボタンとバラって言ってだけど始めは何のことかわからなかった、それに他の娘達も僕に何かを隠しているみたいなんだ」
そうか、だからあのとき古家さんは自分の娘なのに誰かなんて呟いたんだ。
「そういえば久我君、君がつれてきてくれた胡蝶だが、そのあれだ君があの男勝りな性格にしたのかい?」
え、どういうことだ?
「古家さん言ってる意味がよくわからないんですが?」
「……久我君、胡蝶だけど僕の所にいたときと性格が全く違うんだ、昔の胡蝶はどちらかと言うと妹思いで気が弱い性格だったんだ、だから君と暮らして胡蝶が変わったと思ったんだが違うのかい?」
そんなことは初耳だ、あの乱暴な胡蝶が気が弱いだって? ……ないない。
「胡蝶は俺の所に来たときからあの性格でした、それと俺の胡蝶は人形ですけど味覚があります、もしかして特別使用か何かですか?」
「何だって!? 久我君、胡蝶はもしかして食事するのかい?」
古家さんは驚き目を見開いている。
「いえ、そこまではしてないですけどこの前試しにジュースを飲んでみるように薦めたら甘いと言って飲んでましたよ……まぁそのあとは首の繋ぎ目から漏れてましたけど」
俺がそう言うと古家さんは深刻な顔をした。
「……おかしい僕は彼女をそんな風に造っていない、久我君ちょっと胡蝶を調べさせてもらってもいいかい?」
そう言われて俺は胡蝶に何か異変があるんじゃないかと不安になった。
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