シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
36話 「夢見鳥ちゃんアウトー」
――ああっ! 早く家に着いてくれぇ!
俺は心の中で叫びを上げた。現在、修羅場真っ只中にいる。
――というのも俺は今古家さんの家に帰る車の中で運転席の後ろに座っているのだが横に胡蝶がいてさらにその横に繭さんがいる。この配置がまずい。
胡蝶はさっきから俺と顔を合わせないが、俺の手を握り締めていた。そんな俺達を繭さんがチラチラと伺う。そして、それに気がついた胡蝶が繭さんを冷ややかな目で見る。
『なんだ? 私の男に何か用が有るみたいだな、だがあいにく大我はお前に用はないみたいだから黙って前を向いてろ』
胡蝶は繭さんを睨みつけて、きっと心の中でそんな風に思っている。そして、繭さんはと言うと……。
『私に心春さんとエッチしてないって言った癖に、私と抱きあった癖に』
きっと繭さんも胡蝶に敵対心を抱いてそんな風に思っているに違いない。
車内ではそんな空気が流れていた。
――止めて二人とも、僕の為に争わないで! ……ってバカヤロウふざけてる場合か? どうすんだよこの状況……。
心の中で自分にツッコミを入れながら解決策を考える。
「皆さん、家へつきましたよぉ」
心春さんが車を停めて言う。
やっと着いたな、降りるか。
「……えーと、胡蝶?」
「……ふん」
胡蝶は家へ着いたのに俺の手を離してくれない。
「胡蝶、着いたよ?」
「……知ってる、行くか」
胡蝶はそう言うと俺の手を離してくれた。
ヤバイ、めちゃくちゃ恐い。
俺は車から降りるときに繭さんと心春さんを見ないようにした。
今この二人を見てしまうと二人に気をとられて胡蝶に気持ちを集中することができなくなると思ったからだ。
「久我君、あとで僕とじっくり話しをしよう……それと今日君が警察に補導されたことは気にしていないから安心しなさい」
車の横で立っていると古家さんは最初の怒りに満ちた表情ではなく、元の人の良さそうな表情で俺に話しかけてきた。
「古家さん、本当にすみません」
俺がそう言うと古家さんは黙って頷いて家へ入って行く。俺はその後に続いた。
家の扉の前に着くとドタバタと騒がしい音がきこえた。古家さんは怪訝な表情になって扉を開ける。
扉を開けて玄関を見ると胡蝶の姉妹のボタンとバラ、そして夢見鳥ちゃんがいた。
ボタンは手に何か白い布のようなものを持って腕を上げてそれをヒラヒラさせている。そして夢見鳥ちゃんはバラに羽交い締めされていた。
「あーん、かえして! かえしてよお!」
「あははは、返して欲しければ私に跪きなさい」
おい、まさかボタンがヒラヒラさせている布は……。
「あ、それ私の下着……ふわぁぁぁ」
後から玄関に来た繭さんがそう言って顔を真っ赤にして体がふらついた。
「うわ、大丈夫ですか?」
俺は繭さんを支えてやる。
「おい、繭しっかりしろ!」
胡蝶が繭さんを心配して支える。俺はそれを見て感心した。
胡蝶は普段繭さんに嫉妬して嫌っているが緊急時にはこうして心配して助けている。
やっぱり胡蝶は根は優しい良い子なんだな。
「お前達玄関で何やってるんだ!」
古家さんが怒鳴る。
「あら、お父様お帰りなさい、ちょうど今夢見鳥をお仕置きしていたところですの」
俺達が帰って来たことに気がついたボタンが当然の事のように言う。
「お仕置き? いったい夢見鳥が何をしたというんだね?」
古家さんは疑問に思っているようだが俺は察しが着いた。
「お父様、私達が夢見鳥の部屋に遊びに行ったときこの子は女の子なのに女性の下着の匂いを嗅いで丸くなって下半身をモゾモゾしてました」
そう言うとボタンは手に持った下着をパシパシと羽交い締めされている夢見鳥ちゃんの顔に打ち付ける。
「この子ったら私達に気がつくと急いでこの下着を持って外に逃げようとしたのよ、さあ夢見鳥自分の口から何をしてたのか言いなさい! さあ早く! クスクス」
ボタンは凶悪な笑みを浮かべている。
何だ、何だ!? これはなんかヤラシイぞ?
「うわーん、違うのー! 夢見鳥はただ繭の下着がちゃんとお洗濯されているか匂いを嗅いで確認してただけなの! それとモゾモゾしてたのはその……そう! お股の近くを蚊に刺されて痒かったから掻いてたの、信じてぇ!」
夢見鳥ちゃんその言い訳は無理がありすぎるだろ、それに君は人形だから蚊に刺されることはないよ。
先程から夢見鳥ちゃんを羽交い締めしているバラが言い訳を聞いてみるみる不機嫌になりついには夢見鳥ちゃんに跪カックンをする。
「きゃ!」
夢見鳥ちゃんが軽く悲鳴を上げてバランスを崩しうつぶせに倒れるとその上にバラが跨がった。
「変な言い訳してるんじゃないわよ! だいたい同じ顔なんだからあなたが変態行為をするとボタンお姉様にバラまで変態と思われるじゃない、この、この!」
そう言って夢見鳥ちゃんのお尻をバシバシと叩く。
「いたい、いたい! ごめんなさーい!」
夢見鳥ちゃんはお尻を叩かれ暴れているのでだんだんスカートが捲れ上がり最後は下着が丸見えになった。
「ボタンお姉様? バラ? 誰のことだい?」
古家さんが呟く。
「な、何でもありませんわお父様!」
ん? 何で古家さんは自分の娘の名前なのに誰なんて聞くんだ? それにボタンも何で自分達の名前なのに古家さんに隠そうとするんだ?
「こら、あなた達、何で夢見鳥をいじめてるの!? 止めなさい!」
「あ、お父様お帰りなさい……ほらあなた達早くどきなさい!」
奥からメガネの姉妹がやってきた。ヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんだ。
ボタンは素直にこの二人に従って玄関をどけたがバラだけは従わなかった。
「お姉様方まだお仕置きが足りませんわ!」
バラがそう言うとスイカズラちゃんがニッコリと笑いバラに顔を近づける。
「お姉様! あとで私からきつく言っておきますから!」
何故かボタンが慌てて言う。そんなボタンに何か尋常じゃないものを感じたのかバラは夢見鳥ちゃんからどけた。
「お父様お騒がせしてすみません……あ、父様達食事と入浴どちらにされます?」
スイカズラちゃんが何事もなかったかのように古家さんに尋ねる。
「あ、あぁ……それなら僕は食事にするよ久我君と繭さんはどうするかね?」
古家さんは苦笑いをしている。
「じゃあ俺も食事で」
「私もお食事でお願いします」
俺達がそう言うとヒガンバナとスイカズラが準備してくると言って奥に向かった。
「内の娘達がすまない」
古家さんはそう言ってヒガンバナ達に着いて行った。
「おい大我、絶対にあいつらを怒らせるなよ」
胡蝶が真剣な表情をしている。
「あいつらってヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんか?」
「そうだ、あの二人は何かヤバイものを秘めているように見える……けど怒らせなければ問題ない」
胡蝶と話してとき車を駐車場に停めに行った心春さんが帰ってきた。
「ただいま帰りましたわぁ、ってあら? 何か有りましたぁ?」
「何でもねえよ心春」
胡蝶が心春さんに少し冷たく言う。それで心春さんは悲しそうに俯いた。どうやら胡蝶はまだ怒ってるみたいだ。
どうしよう、全部俺のせいだ。
俺が頭を悩ませていると玄関にボタンとバラがまだいることに気がついた。
「何だ姉貴達、まだ居たのか?」
胡蝶が喧嘩腰に言う。
「ええそうよ、居て悪いかしら?」
それに対しボタンは余裕そうに答える。二人の間に火花が散っているのが見える。
「ボタンお姉様アレを」
バラがボタンに何かを呟く。
「ああ、そうだったわね……繭お姉様」
「え、私ですか? でも何でお姉様なんて呼ぶんですか?」
「だってあなた私達より年上でしょ? だから繭お姉様よ」
成る程、一応二人なりにお姉様と呼ぶことで敬意を表しているようだ。
「そうですか、えっと私に何か?」
「ええ、これをお返ししますわ」
そう言ってボタンは繭さんの手に何か渡す。
ん、何を渡したんだ?
見てみると繭さんの手には可愛らしい小さな飾りのリボンが着いた純白のパンツがあった。
繭さんは赤くなる。
「繭! これは違うの、えっと繭のおパンツはちゃんとお洗濯されてて良い匂いだったよ、良かったね!」
夢見鳥ちゃんが笑ってごまかそうとする。そんな夢見鳥ちゃんに対し繭さんは顔を俯けて言う。
「……夢見鳥、あとでお仕置きね」
「繭!?」
夢見鳥ちゃんは驚いている。ボタンとバラはその光景をみてクスクスと笑っていた。
「あ、そうだわ、繭お姉様女性としてアドバイスしますわ」
「アドバイスですか?」
ボタンが繭さんに何かアドバイスするらしい。
「繭お姉様も年齢的に成人女性に近いですからお子さまみたい下着ではなくこういったものを着けてみては?」
そう言うとボタンが着物の裾を捲り始めた。そして履いている下着を俺達に見せた。
「どうですか? 黒で透けたレースが入っていて綺麗じゃないですか? クスクス」
「まぁ、ボタンお姉様大胆ですわぁ、バラにはまだ無理です!」
バラがきゃあきゃあと騒いでいる。俺と繭さんは顔を赤くして呆然としてしまった。
「あ、あなた達やめなさぁーい!」
心春さんが叫ぶ。
「あははは、何でですか? 心春お姉様もこうして大我様を誘ったんでしょう?」
ボタンは笑いながら着物の裾を元にもどした。
「な、そんなことやってません!」
心春さん顔を赤くして否定する。
「おいボタンそこまでにしろ、それ以上言うと私はお前を壊す」
見かねたのか胡蝶が前に出て言う。
「あら、何であなたが庇うのかしら? 心春お姉様はあなたの大切な人を奪ったのに」
「……どうやら壊されたいみたいだな」
まずい。
「おい胡蝶やめろ」
「ボタンお姉様その辺にしといたほうが……」
俺は胡蝶を止めるのと、同時にバラがさすがにまずいと思ったのかボタンを止める。
「……ふん、行くわよバラ」
「はい、ボタンお姉様」
二人は奥へ去って行った。俺達はしばらく玄関で立ち尽くした。
どうやらまだ俺の修羅場はまだ続きそうだ。
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