シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

32話 「彼を追って その2」


 「はぁ、はぁ」
 
 私は今息を切らしながら周りを田んぼと用水路に囲まれた道を歩いている。
 
 「はぁ、大我さんどこに行ったんだろ……」
 
 額に着いた汗を拭う。
 
 私は大我さんにどうしても尋ねたいことがあった。だから古家さんの家を出て行く大我さんを見たとき慌てて身だしなみを整えて走って追いかけた。しかし私が家を出たときにはもう遅く大我さんの姿は見えなかった。
 
 ピンポンパンポーン
 
 『〇〇町役場より連絡します本日この地域で不審者が現れたとの情報が入りました。付近の皆さまは子供達を見守ると共に充分に警戒してください』
 
 ピンポンパンポーン
 
 突然この町に設置されているスピーカーから不審者に警戒するように放送が流れた。
 
 「不審者か、気をつけなきゃ……もし私が不審者に出会ったら大我さんはまた私を助けてくれるのかな?」
 
 そんなことを考えいたらあることに気がついた。
 
 「あっ! やだ私ったらこんなに汗びっしょりで……恥ずかしいな」
 
 着ている水色のワンピースが汗で紺色になっている。しかも汗で肌とぴったりくっついて下着の線が少し浮き出ていた。
 
 「こんなことなら身だしなみなんか整えずにそのまま追いかけたら良かった」
 
 そう独り言を呟きながらどこか涼む場所がないか探して歩く。
 
 ……。
 
 しばらく歩いただろうか目の前に駄菓子屋さんが見えた。
 
 「ふぅ、喉か乾いちゃった、ちょっとここで休憩でもしようかな……大我さんがここにいるといいんだけど」
 
 私はそんな偶然あるわけないよねと自嘲しつつ駄菓子屋さんに入る。
 
 「すみませーん誰かいますか?」
 「……はーい今行くからねぇ……はぁ、いらっしゃい」
 
 私が呼びかけると奥から店主のお婆さんが出てきた。
 
 「すみません飲み物がほしいんですけど」
 「いいよいいよ、好きなの取って来なさい」
 
 私はお金を支払うと店の冷蔵庫から炭酸飲料を取りだし飲んだ。
 
 はぁ生き返るぅ……。
 
 「あんたえらい可愛い子だねぇ、どこから来たの?」
 「え、……私は〇〇から来ました」
 「はぁ、そうねぇ、そういえばあんたの他に他所からきたお兄さんが居たけどあんたの知り合いかね?」
 
 え、それってもしかして……。
 
 お婆さんが気になることを言ったので尋ねてみる。
 
 「あのお婆さんもしかしてその人けっこう体が大きな人でしたか?」
 「あぁ、そうだよ、たしか古家さんとこのお嬢さん二人が一緒に居たよ、それとこの近所の子供の龍太郎と楓も一緒に居たねぇ」
 
 間違いない大我さんだ、それに一緒にいた二人はヒマワリちゃんとツキミソウちゃんだ。
 
 私は胸がズキリと痛むのを感じた。
 
 「あのその人達はどこに行ったんですか?」
 「川に行ったよ、それよりあんたあの男のコレかね?」
 
 お婆さんが手をグーにして小指を突き立てる。
 
 「なっ!? ち、違います私はそんなんじゃないです!」
 「いい、いい、隠さなくてもいいよ……全くこんな可愛い子にまで手を出してたなんてあの男はロクなもんじゃないよ!」
 
 大我さん、こんな初対面のお婆さんに悪く言われるなんていったい何をしたの?
 
 「だいたいあんたもあんただよ!」
 「え、私ですか?」
 「そうだよ、あんな男に騙されるんじゃないよ! もっと男を見る目を養いな!」
 「……はい」
 
 私はこのお婆さんに逆らっちゃいけない気がした。
 
 「いいかい昔の女はねぇ…………」
 「……はい、……はい」
 
 しばらく私はお婆さんから説教された。
 
 ⎯⎯⎯
 
 俺達は川に架かっている橋までやって来た。
 
 橋はコンクリートでできていて手すりは鉄で赤く錆びている。そして橋の下約三メートルに薄い緑がかったきれいでそれなりに大きな川が流れていた。
 
 「うわぁきれいな川だな」
 「ここには良く俺達は遊びにくるんだぜ」
 
 龍太郎が俺に説明してくれる。
 
 「へぇそうなのか、まぁ取りあえず川に降りてみるか」
 
 俺は川に降りられる道はないか探していたそのときだった。
 
 「せーの、それえぇぇ!」
 「きゃああぁ!!」
 
 突然ヒマワリとツキミソウが走り出したかと思うとそのままジャンプして手すりに足を着き、さらにそれを踏み台ににしてさらに高くジャンプして川に飛び込んだ。
 
 ザバン、ザバーン。
 
 川に水しぶきが上がる音が二つした。
 
 「おい、大丈夫か!」
 
 慌てて手すりから身を出して川を見た。
 
 「あはははは! ちょーたのしー!」
 「おーい兄ちゃんも早く来なよ!」
 
 ヒマワリとツキミソウは何事もなかったかのように立ち泳ぎをして顔を出している。どうやら川の水深は深いようで飛び込んでも大丈夫なようだ。
 
 あいつら人形なのに水に入っても大丈夫なのか? てゆーか泳げたんだ……。
 
 ますます古家さんが造った人形がどういったものか分からない。
 
 「あいつらこんな高い所から躊躇なく飛び込むなんてcrazy だぜ」
 
 思わず流暢な英語が出るほどに俺は二人に圧倒された。
 
 タンッ。
 
 手すりに何か当たる音がした。
 
 隣を見ると龍太郎がティーシャツを脱いで上半身裸になり手すりに立っていた。
 
 「おいマセガキ止めとけケガするぞ!」 
 
 俺は龍太郎を止めた。
 
 「うるせえ! あんたは黙ってろ!」
 
 龍太郎は俺の言葉に反発はしているが足は震えていた。
 
 「龍ちゃん止めて!」
 
 意気込む龍太郎を楓ちゃんが悲痛な面持ちで止める。
 
 「ヒマ姉とツキ姉が行ったんだ……コレでいかなきゃ俺は男じゃねえ!」
 
 俺が龍太郎を下ろそうとしたとき、龍太郎は勢い良く飛んで川に落ちた。
 
 「うわああぁ!!」
 
 ザバーン。
 
 「…………ぷはぁ!」
 「おおっ! 龍太郎やるねぇ」
 「龍太郎みなおしたよ」
 
 ヒマワリとツキミソウが浮き出てきた龍太郎の側に泳いで近づき誉める。
 
 「次は兄ちゃんが飛び込んでよ」
 
 ヒマワリが俺に言う。
 
 ここから飛び込むだと? 冗談じゃねえ。
 
 「さあ楓ちゃんあのバカ達はほっといて俺達は安全な所からいこうか」
 
 そう言って楓ちゃんを連れていこうとしたときだった。
 
 「おいあんた逃げんのかよ! ダッセエ大人!!」
 
 龍太郎が大きな声でそう叫んでいるのが聞こえた。
 
 俺がダッセエ大人だと? いや待てこれはただのガキの挑発だ相手にするな。
 
 ちらりと川を見た。
 
 龍太郎が俺に勝ち誇った表情を向けていた。
 
 「……楓ちゃんごめん、一人で安全な場所から来てくれ」
 「そんなお兄さんダメだよ危ないよ!」
 「楓ちゃん男にはダメだと分かっていてもいかなきゃ行けないときがあるんだ!」
 「お兄さん!」
 
 俺は川に飛び込むことにした。
 
 「……あ、兄ちゃん飛び込むみたいだよ」
 「本当だ……ぷ、あははははは! 兄ちゃんの格好笑える」
 
 俺は下着一枚で手すりに立った。手すりに立つと今度は背中を川へ向けた。楓ちゃんは手で目を隠して居るが指のあいだから俺を見ていた。
 
 「行くぜ! おらあああ!」
 
 俺はただ飛び込むだけじゃ面白くないと思いバク転をして飛び込もうと思った。しかし普段やらないことができる訳もなく俺はただ背中から川へ落ちた。
 
 落ちるとき青空と橋がゆっくりと見えた。
 
 バチャーン。
 
 「…………ぐわあああぁ! ちょー痛てえええぇ!」
 
 背中を水におもいきり叩き付けられあまりの痛さに水の中でもがいた。先にいた三人はそれを見て笑っていた。
 
 「……」
 
 楓ちゃんが無言で俺達を眺めていた。
 
 「楓ちゃーん、あっちの方から降りれそうだからそこから来な!」
 
 痛みから回復した俺は楓ちゃんにそう呼び掛けると楓ちゃんが橋から移動した。

 ……。
 
 「……え、おい楓お前何やってんだよ!」
 
 龍太郎が叫んだ。
 
 見ると橋の手すりの上にポーチを外し裸足になった楓ちゃんが立っていた。
 
 「楓ちゃん止めろ!」
 
 俺が叫ぶのと同時に楓ちゃんが目を瞑り川へ落ちた。
 
 ザバーン。
 
 慌てて泳いで行き楓ちゃんを水中から引き上げた。
 
 「けほけほけほ、」
 
 楓ちゃんは水を飲んだのか咳き込んだ。
 
 「楓ちゃん何で飛び込んだんだ!」
 
 俺は楓ちゃんに怒鳴った。
 
 「けほ……龍ちゃんがヒマ姉ちゃんとツキ姉ちゃんにばかりかまってて……それで私が勇気を出して飛び込んだら龍ちゃんが私のことみてくれるかなって思って……ごめんなさい」
 「楓ちゃん……」
 
 それほど龍太郎の事がすきなんだ。
 
 ふと、胡蝶の事を思い出す。
 
 俺はこの子ほど誰かを好きになることができるのか?
 
 「かえでー!」
 
 龍太郎が泳いで俺達の所へやって来た。
 
 「龍ちゃん……」
 「楓、お前すげえな見直したぜ!」
 「うん!」
 
 楓ちゃんは龍太郎の言葉に嬉しそうに頷いた。
 
 「兄ちゃん大丈夫か?」 
 「楓ちゃんケガない?」
 
 ヒマワリとツキミソウも泳いで来た。
 
 「よーしお前ら全員来たな、これから泳ぐぞ! あんまし深い所に行くなよ!」
 「何であんたが仕切るんだよ」
 「うるせえマセガキ、てめえも深い所に行くなよ」
 
 俺達は川でひとしきり泳いで遊んだ。
 
 ……。
 
 「はぁ、暖けえ」
 
 俺達は泳いだあと川原で寝転び冷えた体を温めた。

 チラリとヒマワリとツキミソウの方を見る。
 
 ……。
 
 「……おいマセガキてめえにはまだ早い」
 「……あんたも見んなよ変態」
 「なんだと?」
 「ヒマ姉達に言うぞ」
 「……なあマセガキ一先ず休戦だ」
 「……わかった」
 
 俺と龍太郎は協定を結んだ。そうして得たものはヒマワリとツキミソウの水で濡れた服が張り付いて胸が浮き出ている光景だ。
 
 「……兄ちゃん本当にすごい体してるね」
 「お父さんの体と全然違う、ねぇ触って見てもいい?」
 「え、別に良いけど」
 
 しばらく光景を楽しんでいると突然ヒマワリとツキミソウがそう言って来たので了承した。
 
 「うわ、なにこれ、カチカチかと思ったら柔らかい」 
 「お腹もボコボコしてる」
 
 二人は俺の体を興味津々で触って見てくる。
 
 なんだか恥ずかしい。
 
 「ヒマ姉俺の体も見てよ!」
 
 龍太郎がなぜかブリーフ一枚で体に力を入れている。
 
 「龍ちゃんズボンはいて!」
 
 楓ちゃんが顔を真っ赤にしては龍太郎の頭をはたく。
 
 あ、そういえば俺もズボンはかなきゃ。
 
 ズボンを取りに行こうとしたときだった。
 
 「大我さーん!」
 
 突然誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。
 
 ⎯⎯⎯
 
 私はお婆さんの説教が終わると急いで川まで来た。
 
 大我さんまだいるかな……。
 
 大我さんが居ることを願いつつ川をみる。
 
 ……居た。
 
 「大我さーん!」
 
 私はどうしても彼に尋ねたい、尋ねてこの心のモヤモヤをすっきりさせたい!
 
 ⎯⎯⎯
 
 「繭さん?」
 
 繭さんが川に来て俺を呼んでいた。
 
 何故、もしかして俺を追って来たのか?
 
 「おーい繭さー「はいそこの男性川から上がってちょっとこっちに来てくれませんか?」ん」
 
 俺が繭さんを呼ぶと同時にメガホンで呼ぶ声が被った。
 
 え、男性ってもしかして俺?
 
 メガホンで呼ばれた方を見るとパトカーが止まっていた。
 
 あ、なんかイヤな予感。
 
 俺は下着一枚のままパトカーの位置まで行った。するとパトカーから警察が出てきた。
 
 「君下着一枚で何してんの?」
 「えーと、川手泳いでました」
 「へぇー少女二人とあとは小学生の男の子と女の子とか?」
 「……あの、何か?」
 
 俺は心臓が激しく鼓動して生きた心地がしない。
 
 「いやぁ今日の十五時ぐらいにね自転車に乗った少女達を追いかけている不審者の通報があったんだよ」
 
 あああああ! 俺だあああああ!
 
 警察が話を続ける。
 
 「でねちょっと君と特徴が似てるから交番まで来て欲しいんだ……いいよね」
 
 終わった……何も反論できねえ、だって俺なんだもん、ましてや今は下着一枚、完全にアウトだよ!
 
 「ちょっと待って下さい!」
 「繭さん!?」
 
 繭さんが警察に呼び止める。
 
 「ん? なんだい君は?」
 
 警察が繭さんに邪魔するなと目で訴えている。
 
 まずいこのままだと繭さんまで巻き込んでしまう。
 
 「繭さん! いいんです! 俺慣れてますから」
 「そんな、大我さん!」
 「俺、必ず帰って来ますから心配しないで下さい」 
 「……そんなの、そんなのダメです!」 
 
 俺と繭さんは見つめ合った。
 
 「はいはい、恋愛ドラマは他所でやってね、取りあえずこの人連れて行くよ」
 
 警察がうっとおしそうにして俺をパトカーに乗せようとする。
 
 「そんな、待って下さい……私大我さんに聞きたいことがあるんです!」
 「何ですか繭さん!」
 「大我さんはその……心春さんのタイツを脱がせて……したんですか?」
 「繭さん聞こえないよ!」
 
 俺は警察にパトカーに乗せられている途中で聞こえなかった。
 
 「だから……心春さんとエッチしたんですか!!」
 
 みんな黙りこんだ。
 
 繭さんは自分が言ったことを改めて思い出し顔を真っ赤にさせてあたふたしだした。
 
 「……繭さん」
 「ひゃ、ひゃい」 
 「俺は今でも童貞です」
 「……」
 
 俺は今度こそ問答無用でパトカーに押し込められて連れていかれた。
 
 ⎯⎯⎯
 
 「俺は今でも童貞です」
 
 私は大我さんのその言葉を聞いたとき頭が真っ白になった。
 
 童貞、童貞、童貞、童貞?
 
 何度も頭の中でその言葉を繰返しやっと意味を理解する。
 
 「あ……」
 
 気がつけば目から涙が溢れていた。
 
 童貞、大我さんは童貞。
 
 その事を思い浮かべる度何故か安心する。
 
 「よかった……大我さんが童貞でよかった」
 
 私は何故か嬉しくて泣いてその場にへたりこんだ。
 
 「兄ちゃん連れてかれちゃった」
 「どうしようか?」
 
 ヒマワリちゃんとツキミソウちゃんが私の近くに来ていた。
 
 「なあ楓、『童貞』ってなんだ?」
 「……わかんない」 
 
 男の子と女の子の会話が聞こえた。
 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品