シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

25話 「古家家は複雑」


 「わたくしお兄様のことが好きになりましたわぁ」
 
 心春さんが俺の胸に顔をスリスリさせながら言う。
 
 ――どうしてこうなった、まずいまずいマズイ! 
 
 「心春さん一旦離れてください、それに俺には胡蝶がいるんで」
 「えぇー嫌ですぅ! お兄様がわたくしに甘えろといったじゃないですかぁ」
 
 確かに俺は心春さんを慰めようとしてそう言った。だがここまでベタベタされるとは思わなかった。
 
 俺に愚痴を言ったりここにいる間に何か手伝いとかで頼ってください、という意味で甘えろと言ったんだけどな。
 
 心春さんは可愛らしく頬を膨らませて下から俺を見上げるようにして睨んでくる。
 
 ――う……かわいい。
 
 「心春さん」
 「何ですかお兄様ぁ」
 「……」
 
 心春さんは外見は年上のお姉さんだ、それなのにお兄様と俺を呼ぶ、なんだか変な気分だ。
 
 「えーと心春さん? 俺のことを好きになったとか言ってましたけど友達としてですよね?」
 「……もうお兄様ぁ、わたくしにそれを言わせるんですかぁ? いぢわるぅ」
 
 そう言うと心春さんは俺の膝の上に頭を乗せた。これじゃあ俺が心春さんを膝枕することになる。その間、心春さんは照れ隠しなのか床に指でのの字を描く。
 
 「……男性として好きですよ?」
 
 ズキューン!
 
 そう擬音が聞こえそうなくらい心春さんの一言は俺に響いた。
 
 ――な、ななななんなんだこの可愛い人形は仕草といい可愛いすぎだろ!
 
 「こ、心春さん俺達今日会ったばかりですよ! それなのに好きだなんて早すぎませんか!?」
 「そうですねぇ、でもわたくしお兄様に始めて合ったときちょっと好みの男性だなぁって思ったんですよぉ?」
 「え、心春さん俺みたいなのがタイプですか?」
 
 心春さんは今度は体を俺の方へ向け腰にしがみついてきた。
 
 ――ちょ、心春さんこの体勢はまずいです。
 
 「……すみませんお兄様、わたくしお兄様と父の会話を聞いてました」
 「別にそれくらい俺は気にしませんよ」
 「ありがとうございます……お兄様は胡蝶ちゃんと一緒にいると言いましたよね? いいんですか人形ですよぉ? 気味が悪いとか思わないですかぁ?」
 「心春さん、俺は胡蝶が人形でも好きだし気味が悪いとは思わないですよ」
 
 俺は少し興奮気味の心春さんを落ち着かせようと思い頭を撫でる。

 「あぁやっぱりお兄様はわたくしの思ったとおりの懐の深い男性ですぅ、それにわたくしを慰めてくれました……こんな男性に惚れてしまわないわけないじゃないですかぁ!」
 
 心春さんはさらに強く俺の腰へしがみつく。

 俺はただ心春さんの頭を撫でることしかできなかった。
 
 「わたくしは本物の女性と変わらない人形ですぅ、しかしこんなわたくしにもどこか違和感があるらしくて他の人達から気味わるがられてますぅ」
 
 心春さんは仰向けになり頭を撫でていた俺の手を自分の頬へ持ってきて愛しそうにしている。
 
 「ねぇお兄様ぁわたくしはラブドールで特殊な人形ですぅ、こんなわたくしでも胡蝶ちゃんのように受け入れてくれませんかぁ?」
 
 心春さんは悲しそうにそう言う。
 
 「……心春さん、俺は」
 「待ってください!」
 
 俺が答を言おうとすると心春さんは起き上がり俺の正面に座る。
 
 「大我様、醜態をさらしてしまいすみません、それと慰めて下さりありがとうございます、わたくしはもう大丈夫ですからぁ」
 
 心春さんと顔が近い
 
 「心春さん!」
 
 俺が何か言おうとすると心春さんにキスされた……頬に。
 
 「大我様、わたくし勝手な女ですみません、そこから先は言わないでください分かってますからぁ」
 
 心春さんは元気そうに振る舞うが僅かに震えている。
 
 「俺は……」
 
 心春さんがビクッとなり眼をギュっと瞑る。
 
 「心春さんのことを妹だと思います、ですからいつでも頼ってください」
 
 心春さんはハッ、として俺を見る。
 
 「はい、お兄様ぁ!」
 
 心春さんは笑顔になった。
 
 そういえば胡蝶達はどうしているんだろう――。
 
 ――古谷家、広間。
  
 私と夢見鳥の目の前に正座をした物静かな姉妹の人形がいる。
 
 「……とりあえずおかえりなさい胡蝶ちゃん」
 「……そんなに怖がらないで夢見鳥ちゃん」
 
 姉妹はどこか感情がないように話しかけてくる。
 
 確かこいつらは親父にベタベタと引っ付いていた二人だな。
 
 「……お姉ちゃん」
 
 隣にいる夢見鳥が不安そうにわたしの腕を掴んでくる。
 
 「おい何びびってんだ夢見鳥、さっさと離れろよ」
 「そんなぁ……お姉ちゃんひどいよ」
 
 わたしは夢見鳥がうっとおしかったので離れるように言った。
 
 ――はぁ、夢見鳥がびびるのもわかるな、わたしと同じ姿形のやつに囲まれると気味が悪いな。
 
 今この部屋にはわたしと夢見鳥の他に八人の姉妹がいてみんなで半円を描くように正座をしている。

 私と夢見鳥はその円の中央で同じく正座をしている。
 
 「胡蝶ちゃんそんな汚い言葉を使っちゃダメでしょ!」
 「そうよわたし達は淑女なんだからそんな男勝りな口調はダメよ!」
 「お、おう……」
 「分かりましたお姉さまでしょ!」
 「わ、分かりました……お姉さま」
 
 メガネの姉妹に怒られた。
 
 いつもなら反抗するわたしが何故かこの二人には逆らえなかった。
 
 「あーあ、私達怖がられてるんだー」
 「悲しいねーお姉ちゃん」
 
 髪を一つに纏めた活発な姉妹が夢見鳥にわざとらしく絡んでくる。
 
 「あ、あのね、そのごめんなさいお姉ちゃん達」
 「えー、どうしようかなー」
 「私達を怖がる妹には意地悪しちゃおうかなー」
 「……うわぁぁん! お姉ちゃん達が夢見鳥をいじめるー!」
 
 夢見鳥が泣き出した。
 
 あー隣でうるせー。
 
 「お姉さま方妹達を苛めるのはその辺にしておいては?」
 
 髪飾りを着けた妖艶な雰囲気の姉妹が活発な姉妹をたしなめる。
 
 「気の強い妹と気の弱い妹……苛めたくなる気持ち分かりますわぁ!」
 「こら、やめなさい」
 「ごめんなさいお姉さま余りにも二人が可愛いものだからつい、クスクス」
 
 この姉妹は性格が悪そうだ。
 
 確かこいつらは、大我のことが気になるとか言ってたな。
 
 私はこの二人は絶対に大我に近づけないようにしようと誓う。
 
 あれ、そういえばさっきからこいつら私のこと……。
 
 気になることがあったので尋ねてみる。
 
 「なあ、何でお前らは私達のことを妹と呼ぶんだ? みんな同じ時に親父に造られたんだろ?」
 
 そう言った途端に部屋が静まりかえった。
 
 「……胡蝶ちゃん覚えてないの?」
 「……わたし達は同じ外見だけどお父さんに造られた順番で姉妹を決めている」
 
 目の前の姉妹は相変わらず無表情で感情のこもっていないしゃべり方で話してくる。
 
 「造られた順番? じゃあわたしは最後に造られたってことか?」
 「……そうよ、ちなみに私達が一番始めにお父さんに造られた人形の『胡蝶』」
 「……わたしが一番始めの『夢見鳥』、けれどこの名前は他の姉妹……妹達ができた時にあげた」
 
 最後にわたしが造られたから妹か、それにしても名前をあげただと? どういうことだ?
 
 「わたし達は姿形が一緒でしょ? だから他の妹ができた時に名前を譲って自分で自分の名前をつけたの」
 「そうして区別することによってわたし達は個性を持とうと思ったの」
 
 そう言ってメガネの姉妹が詳しく説明してくれる。
 
 「因みにお父さん私達の名前を知らないよ」
 「なんて言うか私達が勝手に名前をつけあったことを知られたくないんだよね」
 
 活発な姉達が話す。 
 
 「何で姉貴達は親父に名前を教えたくないんだ?」
 
 ……。
 
 他の姉妹達が黙る。
 
 「……私達の元の名前『胡蝶』と『夢見鳥』はお父さんが考えてつけてくれた名前」
 「……それなのに私達は個性を持ちたい為にお父さんが考えてくれた名前を捨ててしまった……申し訳ない」
 
 沈黙の中始めに口を開いたのは無表情な姉達だ。
 
 成る程そういうことか……確かにそれは申し訳ないと思う。

 そういえば親父はなんで私に『胡蝶』って名前をつけたんだろう? 今度聞いてみるか。
 
 「それにしても胡蝶、あなたも頭に髪飾りをつけてるのね、それはあの男からプレゼントされたの? だとしたら随分と愛されてるみたいね」 
 
 髪飾りをつけた姉が私が頭につけている大我からもらった蝶の髪飾りに反応した。

 「確か大我様だったかしら、私もあの方に愛されたいわぁ……クスクス」
 
 もう一人の髪飾りをつけた姉が嫌らしく笑いながら私に向かって言う。

 その瞬間私は一気に怒りが沸いた。

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