シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

18話 「私のもの」


 「おい、さっさと私の大我から離れろよ!」
 
 胡蝶は倒れて抱き合っている俺と繭さんに向かって言う。
 
 今俺の胸に繭さんが倒れてこんでいる状態だ。お互いの密着した状態なので体温を強く感じる。
 
 まだ夕方なので気温は高く部屋も帰って来たばかりでクーラも効いていないので俺と繭さんは汗をかいてしまう。
 
 そのせいでが何やら繭さんと愛し合っているようなイメージが浮かんでしまい俺はムラムラしてしまった。
 
 ――ヤバイ! 俺には胡蝶がいるんだ、浮気はダメだ、それに繭さんは俺のことを好きじゃないはずだ。
 
 繭さんをやさしくどかして起き上がる。お互いに恥ずかしかったので顔を合わせることができなかった。
 
 「大我氏の胡蝶たんまで動いてます! ということはワタクシの梨々香たんも……」
 
 そう言って黒田さんは梨々香ちゃんを抱き上げるが当然梨々香ちゃんは全く反応しない。
 
 黒田さんはガックリしていた。
 
 俺は胡蝶の前で正座をして出来るだけ真剣な表情を作り弁解する。
 
 「あのな胡蝶、これは事故なんブゴオ!!」
 
 突然胡蝶の強烈な回し蹴りが俺の頭に飛んで来て、防御も出来ずまともにくらって吹っ飛んでしまう。
 
 「貴様ぁ! 何が事故だこの裏切り者!」
 
 胡蝶はそう言って衝撃でうつ伏せに倒れている俺の背中に足で更に打撃を加える。
 
 こ、こいつ容赦ねえ! あぁ……今日は殴らればかりだな、それにこんなにボコボコにされたのはあのときの『訓練』以来だな。
 
 俺は蹴られた衝撃に耐え切れずに意識を手放した――。
 
 ――クソっ! 大我のやろう気絶しやがってまだ言ってやりたいこともあるのに。
 
 大我は私の蹴りで吹っ飛んで気絶してしまった。
 
 ちょっとやり過ぎてしまった気もするが大我をどうしても許せない。
 
 大我、お前は私のことだけが好きじゃなかったのか? なんでその女を気にかけるんだ?
 
 ……胸が痛い、痛いよ大我。
 
 「た、大我さん大丈夫ですか!? しっかりしてください」
 
 「大我氏ー! 息してますか?」
 
 繭と黒田が大我を心配して駆け寄る。
 
 「大我さん起きてください!」
 
 繭が大我を抱き起こそうとしている。だけど大我は重いから繭は苦労してるみたいだ。
 
 この女あれだけ言ったのにまた私の大我に触りやがった。
 
 「おい繭、誰の許可を得て大我に触れてるんだ? その男は私のものだ勝手なことは許さねえぞ」
 
 繭を威嚇するように言う。私は繭も許せなかった。

 偶然起きたことだと理性では分かっている。だがこの女の存在が大我の心を揺らしている。その事実があるので感情が爆発してしまう。
 
 「胡蝶ちゃん! あなた今の状況を分かってるの? 大我さんはあなたが乱暴をしたせいでこうなってるのよ!」
 
 繭は強い口調で歯向かってきた。
 
 「うるせえ! 繭、お前が邪魔だ! 大我はお前に心を動かされている……大我は私のものなのにいぃ!」
 
 ヒステリックぎみに言ってしまいハッとする。これでは大我が繭に気があることがバレてしまう。
 
 「大我さんが……心を動かされてる?」
 
 繭は私の言葉を聞くと顔を真っ赤にしてそう呟いた。
 
 「おいてめぇ何赤くなってんだ、大我を好きになるなぁ!」
 「きゃ!」
 
 繭の胸ぐらを掴み叫ぶと繭は怯えて悲鳴を出した。
 
 やめろ……やめてくれよ繭、お前が大我を好きにならないでくれ、なんだかとても嫌な感じがするんだ。
 
 「繭をいじめちゃダメー! なんでお姉ちゃんは怒ってるの? 仲良くしてよ!」
 
 私と繭の間に夢見鳥が割り込んできた。
 
 そういえばこいつもいたな、今まで動かなかったから只の人形だと思っていたが夢見鳥は私と同じ生きてる人形だ。
 
 「なんで怒ってるかだと?」
 
 繭の胸ぐらから手を離すと今度は夢見鳥を壁まで詰める。
 
 「あうぅ、お姉ちゃんなんか怖いよ?」
 
 怯える夢見鳥をじっと睨み付け観察する。
 
 夢見鳥は白髪に白い肌で目は少したれ目で瞳は灰色ださらに泣き黒子が左にありそのせいで余計に気弱に見える。
 
 こいつが私の妹だと? ふん、全く私と正反対じゃねえか。
 
 夢見鳥が不安そうに私の事をお姉ちゃんと呼ぶ。そんな夢見鳥に溜め息をついて言ってやった。
 
 「はぁ……なんで私が怒ってるかなんてお子ちゃまのお前にはわかんねえよ、あと私のことを姉と呼ぶな」
 「え、どうして? 夢見鳥はお姉ちゃんと同じで動いて喋ってるよ? 置物じゃないよ?」
 
 夢見鳥は私が昨日言った言葉を覚えているようだ。
 
 「いいか? 私は女の下着を嗅ぐような変態な妹は要らねえんだよ、気持ち悪い」
 「そ、そんなぁ……う、うぅ、うわああぁん! まゆー!」
 
 夢見鳥はその場に崩れて泣き崩れた。
 
 これに関しては正論だろ?
 
 「そこまでだよ胡蝶たん!」
 
 突然気持ち悪い裏声が聞こえて来て振り替えると黒田が私の前に風船梨々香を差し出しながら喋っていた。
 
 「あぁ? なんだよ風船梨々香
 
 黒田が裏声のまま風船を操りながら私に言う。
 
 「胡蝶たんここは一旦冷静になって周りを見て」
 
 そう言われて周りを見る、部屋の中は散らかっている、これは私がやったわけではない。それ以外に空気が重くシーンと静まり帰っている。
 
 とても楽しそうな雰囲気じゃねえな。
 
 「……私のせいか」
 「胡蝶たんだけが原因じゃないよ、まぁそれはおいといて……梨々香は胡蝶のたんの気持ちわかるよ」
 「なんだと?」
 「梨々香もね人形なの、他にもネットとかでは空気嫁とか言われてるけどね……梨々香もこんなのだから不安なの黒田のお兄ちゃんが人間の女性に取られちゃうんじゃないかって」
 「風船梨々香……」
 「でもね不安だからってこんなに乱暴に暴れたらきっと大我氏は悲しむし胡蝶たんのこと嫌いになっちゃうかもよ?」
 
 そう言われて冷静になった、せっかくの楽しい雰囲気を私が壊してしまった。
 
 そうだった始めは大我に友達が出来て欲しいと思っていたんだ、それなのにを私が嫉妬してチャンスを壊してしまっている。
 
 「おい梨々香……ありがとう冷静になれた」
 「分かってくれて良かった」
 
 梨々香もとい黒田はそう裏声で締めると梨々香を抱き締め叫んだ。
 
 「うをおおお! 梨々香たーん! ワタクシは梨々香たんを愛してますぞ」
 
 そんな黒田をほっておいて繭と夢見鳥に向かって言う。
 
 「悪かった、つい感情的になりすぎた……許してくれ」
 
 頭を下げて繭に謝る。すると夢見鳥が不安そうに私に尋ねる。
 
 「もう夢見鳥達に意地悪しない?」
 「しねえよ」
 「……お姉ちゃんって呼んでいい?」
 「……もう繭の下着の匂いを嗅がなければな」
 
 夢見鳥は嬉しそうに微笑んだ。
 
 「胡蝶ちゃん……」
 「繭、今は何も言わないで欲しい、私が悪かった、只それだけだ」
 「胡蝶ちゃんわかったわ、とりあえず大我さんを一緒に手当しましょう」
 
 私は大我の頭を膝に置いて膝枕する、繭は濡らして冷やしたタオルを持って来てくれた。私はそれを大我のおでこに乗せてやさしく顔をなでた――。
 
 「………うーん」
 
 俺は気づいたら布団で寝ていた。
 
 俺の隣で胡蝶が寝ていてその胡蝶にくっついて夢見鳥ちゃんが寝ていた。
 
 俺は二人を起こさないようにして居間に向かった。
 
 「黒田さん繭さん俺どのくらい気を失ってました?」 
 
 居間に行くと黒田さんと繭さんさんがいたので聞いてみた。二人は浴衣に着替えていた。
 
 「おはようございます大我氏、いやあ二時間ほどですかね、それよりもすごい修羅場でしたよ」
 
 黒田さんの言葉に驚いた。
 
 まさか胡蝶のやつ繭さんに乱暴したのか!?
 
 「もう、黒田さん茶化さないでください、それと大我さん私は大丈夫ですからどうか胡蝶ちゃんを叱らないでください」
 
 俺は繭さんに頷いた。
 
 「ふふふ、それにしても大我さんは胡蝶ちゃんにいっぱい好かれてますね……私ちょっと妬けちゃいました」
 「えぇーそうですか? あいつ俺が寝てる間に何したんだ? それより、今繭さん最後に何がいいました?」
 「あっ! な、何でも無いです!」
 
 繭とが何でもないと言ったらそうなんだろう、俺は繭さんとまだこうして自然に話せることに今は喜んだ。
 
 「それよりも大我氏と繭氏のお二人ワタクシに胡蝶たんと夢見鳥たんのことを教えてくださいよ」
 
 黒田さんに言われて気が付いた。
 
 俺達の持ってる人形『胡蝶』と『夢見鳥』ちゃんは普通の人形じゃない、命が宿った人形だ。
 
 俺は黒田さんに胡蝶と今まであったことと、この旅行のついでにが胡蝶の製造元である『幻想的人形工業』に行き謎を確かめることを伝えた。
 
 俺は黒田さんに一緒に行くか尋ねてみた。
 
 「それは興味深いですねワタクシもできればいきたいのですが仕事がありますので」
 
 黒田さんは残念そうだ、何か分かればメールで連絡します。
 
 「あ、あの、私も行っていいですか? 私も夢見鳥のことが気になるんです」
 「え、繭さんそれはいいですけど大学は大丈夫ですか?」
 「ええ、まだ夏休みですから時間は充分あります」
 「そうですか、じゃあ行きましょう!」
 
 繭さんとまだしばらく一緒にいることができるようだ。
 
 それにしても夏休みか、いいなあ、けど今の俺も毎日が夏休みみたいなもんだしな、仕事どうしよう。
 
 俺は現実を思い出し少し憂鬱な気分になるがすぐに気持ちを入れ換える。
 
 明日は『幻想的人形工業』へ行って胡蝶の謎を解き明かす、俺はそれが楽しみで夜はなかなか寝付けなかった。
 

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