シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

15話 「海での危機と心友」


 ――まだ季節は夏真っ盛りで日射しが強い。その為砂浜はとても熱くやけどしそうだ。
 
 俺は水着がないのでそのままズボンをはいたまま海に入った。しかしこの暑さですぐに乾いてしまうだろう――。
 
 ――俺達三人海で泳ぎ終わると一端休憩する為に、パラソルの影に入って休んだ。
 
 「あぁー楽しかった! 友達と海に来たの始めてです!」
 
 繭さんは心の底から楽しそうに言う。今は普段かけているメガネをはずして、少し繭さんの雰囲気は違って見えた。
 
 なんかメガネかけてないときも可愛いな。
 
 「ううっ、ワタクシもう疲れました、やはりインドア派には日射しはきついですねぇ」
 
 黒田さんは空気人形の梨々香ちゃんを枕にして寝転んでいる。
 
 こうして誰かと一緒に騒いだのはいつぶりだろう、前まで誰かといて騒ぐのが当たり前だった気がする。
 
 海水浴場はいつのまにか人でいっぱいになっていた。
 
 「黒田さん、繭さん、俺皆の飲み物を買って来るんでゆっくり休んでいてください」 
 「えっ、そんな大我さんこそ休んでください!」
 「大丈夫ですよ俺いつも鍛えてますから平気ですよ! それじゃ行ってくるんで」
 
 俺は繭さんにこれ以上気を使わせないために早々にその場を立ち去った。
 
 「大我さん!」
 
 繭さんが呼び止めるのが聞こえた――。
 
 「――大我さん行っちゃった……」
 
 私は茫然と大我さんが行った方向を見つめる。
 
 「はははは、全く大我氏は元気ですねぇ」
 
 黒田さんは大袈裟に笑って私に話かける。
 
 「えぇ、そうですね……正直羨ましいです、私もあんな風になりたいです」
 
 私は大我さんに憧れると同時にあんなに積極的になれることに嫉妬した。
 
 ――私ったらあんなに親切にしてくれる大我さんに嫉妬してしまうなんて、なんて最低な子なんだろう。
 
 膝を抱えて座り顔を埋め込んだ。
 
 「繭氏は大我氏のように下着一枚で人前に出ることに憧れてるんですか?」
 「もう違いますよ黒田さん! 私はそんな変なことしません!」
 「ほほほ、繭氏冗談ですよ、それにしても変なことですか、大我氏傷つくだろうなぁ、むふふふ!」
 「もう黒田さん、からかわないでください!」
 
 黒田さんに詰めよって抗議した。
 
 「まぁまぁ繭氏落ち着いてください、ワタクシが悪かったですから」
 
 そう言って黒田さんは梨々香ちゃんを使ってガードする。
 
 「黒田さん梨々香ちゃんを使うなんて卑怯ですよ!」
 
 黒田さんは笑って受け流した。
 
 「……繭氏は余り人と関わらないですか?」
 
 突然黒田さんが私にドキリとする質問する。
 
 「はい……そうですけどそれが?」
 「そうですか、実はワタクシも余り他人とかかわらないので……友人がいないのです」
 
 まさかっ! 黒田さんにも友達がいないなんて。
 
 「あの黒田さん……もしかして昨日の夜のこと聞いてました?」
 
 黒田さんはコクリと頷いた。私はそれで急に顔が熱くなるのを感じた。
 
 「あああああの! わ、わわ私は」
 「繭氏落ち着いてください、別にからかいませんから」 
 「……はい」
 「ワタクシあのとき偶然目覚めて盗み聞きしてしまいました、申し訳ないです……しかしあのとき大我氏は繭氏のことを真剣に考えているのがわかりました」
 
 黒田さんは話を続ける。
 
 「そのときワタクシは思いました、大我氏なら繭氏だけでなくワタクシの友人、いや親友になってくれるのではないのかと」
 
 黒田さんはそれだけですと言って梨々香ちゃんを抱き横になった。
 
 「本当に大我さんは不思議な人です……最初に会ったときびっくりしちゃいました、あの大きな体格で胡蝶ちゃんを背負ってましたから、ふふふ」
 
 私はそのときのことを思い出して笑った。
 
 「わかりますよその気持ち、大我氏の身体はムキムキですからね、そんな人が人形といるなんてギャップがありますから……ぷっくく」
 
 ……けど。
 
 「「何故かお似合いですよね」」
 
 私と黒田さんは同時に言った。それがおかしくて二人でまた笑った。
 
 「あれれぇ? お兄さんこんな可愛い子二人連れて羨ましいねぇ」
 「ほんとほんと、ちょっとボクちん達も仲間に入れて遊んでよー! あははは」
 
 突然若い二人の男が私達に話しかけてきた。一人は大我さんみたいな体格の人でもう一人の男は長髪の少し軽薄そうな人だ。
 
 この人達が何かよくないことを考えてるような気がして恐怖を感じた。
 
 「あの、何かワタクシ達に用ですか?」
 
 黒田さんが堂々とした態度で対応する。
 
 「いやぁー俺ら今は暇なんでちょっとその辺の女の子と遊びたいなと思いまして」
 
 長髪の人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
 
 「おーいワンピースの子も黙ってないで俺らと話そうよ」
 
 そういうと長髪の人は胡蝶ちゃんを覗きこむ。
 
 「……えっ……ええええ! 卓巳さんこれ人形ですよ!」
 「やめてください!」
 
 長髪の人を押し退けて胡蝶ちゃんを守ろうとして抱き締めた。
 
 「ねえねえ君ぃ、なにも突き飛ばさなくてもいいじゃない?」
 
 長髪の人怖い顔をして私に詰めよってきた。その瞬間私は昔いじめられてたときのことがフラッシュバックした。
 
 「あ、……あああぁ」
 
 恐怖を感じ体がガクガクと震える。
 
 「繭氏!」
 
 黒田さんが私の前に出て庇ってくれる。
 
 「く、黒田さぁん、」
 
 私は黒田さんの後ろで胡蝶ちゃんを抱き締めながら震えることしかできない。
 
 「翼、その辺にしとけ彼女が怖がってるだろ」
 
 長髪の男はガタイの良い男から翼と呼ばれて、私達から引き下がった。私はこの瞬間が速く過ぎ去ってほしいと強く願った。
 
 「お兄さん彼氏さん? 俺達はちょっと話がしたかったの、なのに翼を彼女さんが突き飛ばしたんだよ、彼氏だったらちょっと責任取ってもらえる?」
 
 卓巳と呼ばれる人が黒田さんに詰めよる。
 
 「何の責任ですか! それよりもう帰ってくださいこの通り彼女が怯えてますから!」
 
 黒田さんは見かけに反して勇気がある人で震える私とは違いこの状況でも堂々と相手に拒絶の意思を伝えた。
 
 「あははは、彼氏さん威勢がいいね、こんなお人形さん連れてるのに、だいたいこれとか笑えるぜ」
 
 そういうと卓巳と呼ばれる男のひとは置いてある梨々香ちゃんを取上げる。
 
 「萌え萌えーぎゅー!」
 
 そう言って梨々香ちゃんを思いっきり締め上げた。
 
 「梨々香ああぁ!!」
 
 黒田さんは雄叫びを上げた。梨々香ちゃんは締め上げられて膨らみ今にも破裂しそうだった。
 
 「あはははは! 卓巳さん最高っす、そのまま破裂させてください!」
 
 私は居てもたってもいられなくなり卓巳に体当たりした。
 
 もう臆病でいたくない、もう嫌だ、もうどうにでもなれ!
 
 「おっと、彼女は俺の方が良いみたいだよ彼氏さん」
 
 非力な私の体当たりなどこの男にはびくともしないようでなすすべもなく抱き寄せられた。
 
 「ああぁ……あああ……あああ……いや」
 「こいつ良く見ると可愛いな……ちょっといじめたくなるな、よし今日は俺達と遊ぼうか、くくく」
 「卓巳さんあざーす!」
 
 私は絶望した。
 
 「おめぇーらぁ! 二人に何やってんだー!」
 
 身体にビリビリと響くように怒鳴り声が聞こえてきて思わず私と男二人組もビクッとした。
 
 「大我氏ー!」
 
 黒田さんが叫ぶ。私はホッとしたがすぐに不安になった。

 何故ならいくら大我さんが鍛えているとはいえ男の人二人を相手にするのは無茶だと思ったからだ。
 
 「何々お兄さん正義の味方気取り? ……まぁちょっとは鍛えてるみたいだね」
 
 私を抱く卓巳の腕に力が入る。
 
 「二人が何をやったのか知らないが明らかにやり過ぎだ、取り敢えず繭さんを離せ」
 
 大我さんは先程と変わって静かに言う。
 
 「あれあれぇ? お兄さんもこの子と知り合い? だとしたらうわぁ、卓巳さんこの女の子ビ○チかも知れないですよ!」
 「その口を閉じろク○ガキ」
 「――うっ」
 
 翼は大我さんの言葉に怯えて黙る。
 
 あの優しかっ大我さんがここまで変わるなんて……。
 
 大我さんの豹変ぶりに私は混乱して涙が溢れた。
 
 「繭さんを泣かせたな?」
 
 大我さんは卓巳を睨みつける。
 
 「おうおう、威勢がいいねえ、声がでけぇからびっくりしちまったけど……」
 
 そういうと卓巳は私と梨々香ちゃんを離して大我さんにちかづきそして……。
 
 ――何かぶつかって鈍い音がした。
 
 卓巳は大我さんのお腹に拳をめり込ませていた。
 
 「大我さん、いやぁー!」
 
 私は思わず大我さんの名前を叫んだ。
 
 何で誰も助けてくれないの何で?
 
 周りの人達は異変に気づいているのに助けてくれない。その間、大我さんは大きく息を吸って吐いてを繰り返し顔は苦痛に歪んでいた。
 
 「喧嘩なれしてねえだろお兄さん」
 「卓巳さんかっけー!」
 
 卓巳と翼はニヤニヤと笑っていた。私はこの二人が憎くて仕方なかった。そして何もできない自分を情けなく思った。
 
 「……大変さぁん……ぐすっ」
 「……っ」
 
 大我さんは私の呼び掛けに反応せず無言でいた。もうダメだと思ったが、よく見ると大我さんの表情はいつもと違った。なんだか眠たそうな目をしている。
 
 その後、突然動き出した大我さんは、卓巳の腕を掴むともう片方の手であごを持ち上げ足を引っ掻けて倒した。
 
 「なっ! 卓巳さん! てめぇーこのやろう離せ卓巳さんが死んじまう!」
 
 翼が必死になって大我さんを殴りつけるがびくともしないようだ。良く見ると大我さんは倒した卓巳の腕を押さえてそのまま片方の手で首を締めていた。
 
 「大我氏! 駄目です離してください!」
 
 黒田さんも加わり大我さんを離そうと必死だ。
 
 「――御願い大我さんやめて!」
 
 私が叫ぶと大我さんはスッと手を離し、そして静かに私に顔を向けた。
 
 「あっ……」
 
 その瞬間私はへたりこんで下半身に温かいものを感じた。大我さんが私を見る目は感情がなくまるで人形のようだ。
 
 「卓巳さんこいつヤバいやつですよ!」
 「あ、ああ……ごほごほ、いくぞ翼!」
 
 この騒ぎを起こした男達は誤りもせずに去って行った。
 
 「黒田さんご迷惑をかけてすみません……それと繭さん、大丈夫ですか?」
 
 大我さんはいつもの優しい顔に戻り心配そうに私に近づいてくる。
 
 「いや……来ないでください!」
 
 私はお漏らしをしてしまったので恥ずかしくて大我さんを近づけたくなかった。
 
 「あ……すみません繭さん俺、頭を冷やしてきます」
 
 そう言って大我さんはどこかへ行ってしまいまった。
 
 「違うんです! あの私……」
 
 もう私の声は大我さんに届かない。
 
 「繭氏、これを」
 
 黒田さんはそう言って大きめのタオルを渡してくれる。
 
 「黒田さん、ありがとうございます……けど私大我さんを傷つけてしまいました、最低です」
 「仕方ないですよ、ちょっとタイミングが悪かっただけです、すぐに仲直りできますよ、今は着替えましょう」
 
 黒田さんはお見通しのようだ。着替え終わると黒田さんと大我さんを探しに行く。しかしすぐに大我さんは見つかった。大我さんは人気のない砂浜で海を眺めて座っていた。
 
 「大我さーん!」
 「大我氏ー!」
 
 私と黒田さんが叫ぶと大我さんは気付いてくれた。急いで大我さんに駆け寄った。
 
 「大我さん助けてくださりありがとうざいます!」
 「ワタクシもお礼を言わせて頂きます、お陰で梨々香たんも無事でした!」
 
 私と黒田さんの感謝の言葉に大我さんは戸惑っているようだ。
 
 「そんな……俺朝から迷惑かけてばかりですし……それに繭さんも俺が怖いでしょ、無理しなくていいんですよ?」
 「そ、それは違うんです!」
 
 大我さんは勘違いして傷ついている、ここは誤解を解かないと……でも恥ずかしいよぉ。
 
 私が黙っていると大我さんはやっぱりと言って顔を背ける。私は覚悟を決めた。
 
 「確かに大我さんは怖かったです……けどあのとき拒絶したのはお漏らしした私を大我さんに見られたくなかったからです!」
 「ええええ! お漏らしぃ!?」
 
 大我さんは驚いた。

 「大我さん恥ずかしいので言わないでください!」
 「繭氏先程録音させてもらいました」
 「もう黒田さん空気を読んでください!」
 
 ――その後、大我さんの誤解は解けた。しかしどうにも私と大我さんの間にで気不味い空気が流れる。
 
 ――ああ大我さんにお漏らしするみっともない女の子だと思われる。
 
 「まぁ大我氏、要するに気にしていないってことですよ、それに梨々香たんも言いたいことがあるみたいで……今日助けてくれたお礼に私と一緒に寝ても良いよ、きゃっ梨々香恥ずかしい!」
 
 黒田さんが大我さんに裏声を出しながら梨々香ちゃんを差し出した。
 
 「黒田さん……結構です」
 
 大我さんは当然断りました。
 
 お礼? そうだ大我さんにお礼しなきゃ、何がいいかな……私と寝ること? って私のバカ!
 
 昨日の夜のことを思い出して私は恥ずかしくて大我さんを見れなかった。けれど、これだけは言わなくちゃと思い気を取り直し大我さんを真っ直ぐ見て言う。
 
 「大我さん!……私何があっても大我さんの友達です!」
 「繭さん……」
 
  黒田さんも真面目な顔をして言う。
 
 「大我氏、ワタクシも大我氏の味方です、友人になってくれませんか?」
 
 その瞬間大我さんは泣き崩れた。私は男の人が本気で泣くところをはじめて見た。

 あぁ、大我さんにもこうして弱いところがあるんだ。
 
 私は大我さんに親近感を感じた。
 
 「繭さん……黒田さん、俺嬉しいです……よろしくお願いします……ううう」
 
 私達は大我さんを受け入れ大我さんも私達を受け入れてくれた。
 
 この日私はじめて心の底から友達と呼べる人が出来た。

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