シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

12話 「過去と新たな友達」


 「――何にでも言えますが本当に好きなら世間など気にせず真っ直ぐ突き進むべきだとワタクシは思うのです」

 俺は風呂から上がり浴衣に着替えている途中で黒田さんの言葉を何度も思い返していた。

 「好きなら世間を気にせず真っ直ぐか……」

 流石に少しは世間を気にしなければならないと思うが俺は『好きなものなら真っ直ぐ』という言葉に反応してしまう。

 その言葉で胡蝶との今後の付き合い方を思い浮かべる。しかし、それと同じくらいに俺の過去、自衛隊時代を思い浮かべる。

 俺はあのとき――。

 そう、俺は男だらけの自衛隊に嫌気がさしたと思っていたが本当はそうじゃない。

 そうじゃないんだ!

 気が付けば皆が待ってる部屋に来ていた。

 「お待ちしてましたぞ大我氏見てくださいこの夕食!」
 「うわっ! すげえ海鮮料理じゃないですか!」

 黒田さんが手招きをしながら俺を呼ぶ。目の前にはサザエや鯛の刺身等がある。

 あぁ、一周間この日のためにバイトで稼いでよかったぁ。

 俺が黒田さんの正面の席に着くと黒田さんがビールを注いでくれる。俺も黒田さんにビールを注いだ。

 ふと俺の隣の席に繭さんがいることに気付いた。風呂上がりだからか繭さんからとても良い香りがする。繭さんははこういった宴会の席に慣れてないのかあたふたしている。

 繭さんにグラスを持つように言って飲み物を注いであげる、未成年なのでジュースだ。

 「繭さん、乾杯しよう」
 「は、はい!」

 繭さんは両手でグラスを持っている。その姿が小動物のように見えて可笑しかった。

 「では我々人形好き同志三人の旅行を記念してかんぱーい!」

 黒田さんが乾杯の音頭を取り乾杯した。久々のビールの味に思わずくぅーと声を出す。繭さんはそんな俺を見てジュースを飲んで恥ずかしそうにくぅーと言う。

 いや繭さん真似しなくて良いんですよ、けど可愛い。

 「あれ? 胡蝶は?」
 「胡蝶タンでしたらあちらで三人仲良く寄り添ってますぞ」

 黒田さんが指を向ける方向をむくと胡蝶は浴衣姿で同じく浴衣姿の夢見鳥ちゃんに寄り添われて、膝には梨々香ちゃんを乗せていた。

 胡蝶は鬱陶しそうな顔をしているように見える。

 「あの……胡蝶ちゃんを浴衣に着替えさせたの私ですけど良かったですか?」

 「はい、良いですよ、むしろ着替えさせてくれてありがとうごさいます」

 繭さんが困り顔で正座に前屈みぎみで尋ねてくる。その際胸が強調されるので思わず目が行ってしまった。繭さんはそんな俺の視線に気づかない。

 「あれ? でも大我さん胡蝶ちゃんと何かしてたような……たしか舐めるとか」
 「おっとそれ以上はいけないよ、そんなことよりもう一杯飲もうよ繭さん」

 俺は繭さんの空いたグラスに無理やりジュースを注ぐ。繭さんは戸惑いながらも俺の注いだジュースを飲んだ。

 何とかごまかせたか?

 その後は何事もなかったかのように夕食の海鮮料理に箸を伸ばした。

 ――しばらくすると黒田さんは酔っ払ってしまったようで梨々香ちゃんを連れて布団に入る。 

 俺はもうちょっとビールを飲んでから寝ようと思ってグラスを持つと繭さんがビールを注いでくれた。

 「繭さんありがとう」
 「いえいえ……私宴会とか始めてで……その、うまくできたでしょうか?」
 「ははは、確かにビールの注ぎ方はぎこちないなかったけど宴会は皆で楽しむものだからうまくやるとかそんなのはないよ」

 繭さんを見ていると昔の自分を思い出す。

 あのときは宴会で先輩に怒られながら色々教わったな……そうだ! 学生の繭さんにはまだ早いかもしれないがここは社会人として少しレクチャーしてあげるか。
 「繭さん、ビールはラベルを上にしてこうやって注いであげるんだよ、って言っても繭さんはお酒飲めないからジュースのビンでやるね」

 俺はビールを注ぐように繭さんのグラスにジュースを注いだ。

 「わわっ! ありがとう……ございます」

 繭さんは一口飲んだ。

 「へぇー、ビールの注ぎ方にもマナーがあるんですね……私始めて知りました」
 「他にも細かいことがあるけど少なくともこれだけ覚えてたら役にたつよ」
 「ふふふ、大我さんって物知りなんですね」

 繭さんは手で口を隠しながらふふふと笑う。

 うわぁなんて上品な笑い方なんだ、それに引き換え内の胡蝶は……。

 チラリと横目で胡蝶を見ると不機嫌そうに俺を睨んでいた。

 そういえば胡蝶をどうしようか……まぁ、明日で良いか

 久しぶりに他人と飲めるのと、後輩に接しているような感じがして俺は舞い上がった。

 「繭さん、突然ですけど俺は繭さんに感謝してます、繭さんが教えてくれたおかげで胡蝶に会えました」
 「いえ、……そんな私なんかが……」

 繭さんは自信がなさそうに顔を背ける。

 「そういえば繭さんは友達とこうした旅行に来ないんですか?」
 「……」
 
 急に繭さんが黙った。

 「……あの、大我さん笑わないでくださいね」

 震える声で繭さんが話始めた。

 「実は私……友達が一人もいないんです」

 えっ!

 「私は中学校からいじめられてて、とても辛かったです、それでも何とかやってこれました」 

 ……そんな過去が。

 「そんな私が大学にあがっても友達などできる訳もなく毎日……寂しかった」

 繭さんの目から涙が溢れ出る。気持ちが押さえきれないのだろう。

 「そんなときに夢見鳥をネットで見つけました……グスっ……夢見鳥は人形です、ですが私の何もかもを受け止めてくれて」

 繭さんは俺の方を向いて身をのりだし訴えてくる。

 「私には!……私には夢見鳥しかいないんです! けど、けど私……友達が欲しくて、うわぁぁん!」

 俺は泣き出した繭さんを優しく抱き締めて背中を撫でる。

 「繭さん、辛かったんだね、寂しかったんだね……今回の旅行も夢見鳥ちゃん以外に友達がほしいと思って勇気を出して来たんだね……よく頑張ったね」
 「……グスっ……はい」

 俺は繭さんの気持ちがよくわかった。俺も寂しかったから胡蝶を求めた。しかしたまには人形以外の人とも一緒にいたいと思うのだ。

 胡蝶を確認すると不安そうな顔で俺を見ている。

 頼むよ胡蝶、今だけは繭さんを慰めさせてくれ。

 しばらくそのままでいると繭さんはもう大丈夫ですと顔を上げた。

 「大我さん、ありがとうごさいます、だいぶスッキリしました」

 そういう繭さんの目にまだうっすらと涙が残っている。

 「繭さん俺は、いや俺と黒田さんも繭さんのことを友達だと思ってる、だからもう友達がいないとか寂しいことを言わないでくれ」
 「……大我さん、はい!」

 繭さんは飛びっきりの笑顔で返事をしてくれた。

 さて、今頃不機嫌になってるであろう胡蝶をどうするかな。

 そう考えながら布団に行こうと立ち上がると俺は酒が回っていたせいで足元がふらつき、あろうことか繭さんを押し倒す。

 「うわっ!」
 「えっ? きゃっ!」

 俺は咄嗟に繭さんが頭をぶつけないように片腕で守り、もう片方の腕で床をつく。

 「あの……た、大我さん?」
 「あの……すみません、俺酒が回って」

 繭さんの顔を見るとメガネがずれていた。しかしそれに気づかない程動揺しているのか繭さんはじっと俺を見つめる。

 暫くそんな状態が続くと繭さんはぎゅっと目を瞑り両手を祈るようにした。

 いや、繭さん何してるんだ? って俺が何してんだ速く起きないと!

 俺は直ぐ起き上がり繭さんを起こす。とても気まずい空気になった。

 「あ、あの! 大我さん私気にしてないですから……ちょっと酔って私を押し倒しただけですから!」
 「はい……本当にすみません」

 顔を真っ赤にしながら俺をフォローする繭さんを見て俺は落ち込む。

 何やってんだよ、繭さんはまだ学生なのに……俺って最低だな。

 胡蝶は憤怒の表情を浮かべていた。

 おい、繭さんにばれるだろ! 表情を元に戻せ、わざとじゃねえから許してくれ!

 その後旅館の人が食器を下げに来てお開きにする事にした。

 俺は布団の中で自分の行いを思い出して自己嫌悪した。

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