シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

7話 「旅行に行くのは色々きつい!」


 早朝、目覚めた俺はいつものように準備をしてランニングに行こうとした。
 
 「早く帰ってこいよ……」
 
 外に出る間際にそう声がしたので振り返ると胡蝶がベットから起きていた。本来なら胡蝶はいつもこの時間は寝ている。
 
 珍しいことがあるものだと思いつつ早く帰ると宣言して走りに向かった。その後、河川敷に来て走りながらこの日までに有ったことを思い出す。
 
 雨の日に胡蝶に父親がいるという衝撃の事実を知り何とかその父親会う約束ができた。それから会いに行くついでに旅行に行く計画を立てた。あれから一週間経っていた。俺は朝の胡蝶の態度を思い出す。
 
 あいつさては今日からの旅行が楽しみで早く起きたな。
 
 そう、今日は旅行に出掛ける日なのだ。俺はランニングを早く切り上げて家へ帰ることにした。家に帰ると胡蝶がテレビを見ていた。
 
 「お帰り、早かったな」
 「誰かさんが寂しくしてると思って帰ってきた」
 
  俺は胡蝶の出迎えの言葉に少しふざけて返した。すると胡蝶はうるせぇと呟いてそっぽを向いた。しかし時折俺の方をチラチラと見てくる。
 
 全く素直じゃねえな、本当は寂しいくせに。
 
 俺はこの一週間旅行の資金を稼ぐため短期のバイトをしていた。そのため胡蝶にあまり構うことができなかった。胡蝶はその間は何も言わなかったがおそらく寂しい思いをしていただろう。
 
 今日から胡蝶と旅行に行く、その間はいっぱい可愛がってやろう。

 そう心に決めて胡蝶の頭を撫でたが胡蝶は黙って俺の成すがままにされた。

 
 ――朝食とシャワーを済ませて等を済ませて出掛ける準備をした。
 
 胡蝶は玄関でこの前着た白のワンピースと買ってきたばかりの白のサンダルを履いて俺を待っていた。
 
 「大我、早くしろ」
 「ちょっと待て」
 
 俺はパンパンに膨らんだ旅行鞄とスーツケースを部屋の奥から玄関に運んだ。
 
 「なんだ大我、まだ何か持っていくのか?」
 「ああそうだよ」
 
 玄関でスーツケースを開けた。中身は空だ。胡蝶はそれを不思議そうに眺めている。
 
 「中身が入ってねえじゃねえか」
 「中身が無いのは当たり前だろ? 胡蝶がこの中に入るんだから」
 「はぁっ!?」
 
 俺は当然のように答えると胡蝶はみるみる機嫌が悪くなった。
 
 「おい大我、てめえふざけてんのか? 私は歩けるぞ!」
 
 そう言って怒る胡蝶に俺は土下座した。
 
 「胡蝶頼む! 狭いけど移動中はこの中にいてくれ、お願いだ!」
 「なんでだよ!?」
 「周りの人がびっくりするだろ? それにこの前みたいに俺がお巡りさんに捕まる」
 「私が追い払ってやるよ!」
 「やめてくれー!」
 
 その後入る入らないと言い合っていると隣のおっさんにうるせーと怒鳴られた。
 
 おっさん、いつもすまない。
 
 ――で、結局こうなるのか。
 
 俺は今旅行カバンを前に下げ胡蝶を背中に背負っている。かなりきつい姿勢だ。スーツケースは置いてきた。
 
 「ははは! 最初から私の言うことを聞いとけばいいんだ」
 
 俺の背中で胡蝶がはしゃいでいる。
 
 ――正直この状態で行きたくねー! けど言い出したのは俺だからなぁ、まったくなんでこいつは目立ちたがるんだ?
 
 胡蝶がスーツケースに入りたがらないのでおんぶで妥協してもらった。流石に人形が自立して歩いているのを見られるのはまずい。もちろん今の状態もまずいが……。
 
 「ん、どうした大我? 浮かない顔して……まさか本当は私と行きたくねえのか?」
 「そっ、そんなことねえよ!」
 
 嘘です、本当は行きたくないです――とは言えず俺はごまかす。
 
 「俺がお前を連れて旅行に行くと言ったんだ、今はとても楽しみだよ」
 「……」
 
 胡蝶は黙り込んでしまった。
 
 胡蝶はあの日以来少し神経質になっている。恐らく俺がバイトで構ってあげられなかったのも大きいだろう。俺は胡蝶に元気になってもらおうと思って行動に出た。
 
 「よいしょっと」
 「きゃっ!」
 
 俺は背負い直すふりをして胡蝶の尻を揉んだ。
 
 「大我……貴様なぜ私の尻を揉んだ?」
 
 胡蝶の口調が代わり本気モードになった。そうして俺の首に腕を回してへし折る姿勢に入った。
 
 「いやー! 触りたかったと言うか尻を揉んだら胡蝶が元気になるかと思って、ははは」
 「なぜ私が尻を揉まれて元気になるんだ? 貴様死にたいのか?」
 
 ごもっともです。
 
 俺は胡蝶がいつもの調子に戻ったことを確認したのでこの状況を打開するために走り出した。
 
 「わっ!  急に走り出すな」
 
 胡蝶は驚いて首から腕を離し俺の肩を掴んだ。
 
 よしこのまま駅まで走って行くぞ!

 うまくその場を誤魔化せた。

 ――その後、数十メートル走って俺は力尽きた。
 
 「ゼェ……ハァ……タクシー……呼ぶぞ」
 
 「大我、大丈夫か?」
 
 さすがの胡蝶も心配したのか背中からおりて擦ってくれた。息を整えタクシーを呼ぶ。
 
 「胡蝶、これから言うことを守ってくれ、人がいる場所で動くな! しゃべるな! 分かったか?」
 
 俺は胡蝶にきつく頼む。
 
 「チッ……分かったよ」
 
 胡蝶が素直に聞いてくれてほっとしているとタクシーがやって来た。
 
 「お待たせしました、お客様どちら……まで?」
 
 タクシーの運転主が氷着いたかのように固まった。
 
 「〇〇駅までお願いします!」
 
 俺が急いで目的地を告げると運転手は我に返った。
 
 「お、お荷物をお持ちします……そちらのお人形は?」
 「自分で乗せるんで大丈夫です! ははは」
 
 俺は胡蝶を抱き抱えてタクシーにのせる。
 
 ――頼む運転手今の俺を見るな何も聞くな!
 
 俺の願いが通じたのか目的地までタクシーの運転手は何も話さなかった。
 
 ――畜生、こいつがスーツケースに入ってればこんな思いをしなくてすんだのに。
 
 因みに胡蝶はタクシーに乗っている間約束を守ってくれた。
 
 駅に到着すると俺はなるべく目立たないところへ荷物を置きその側に胡蝶を座らせて待たせて切符を買いに行く。この際周りの人達の俺に向ける視線が痛かった。
 
 急いで胡蝶の元に戻って連れて行こうとすると胡蝶が言った。
 
 「私の切符はどうした?」
 
 ――この女ぁ!
 
 俺は再び切符を買い改札で駅員さんに俺と胡蝶の分の切符を渡した。駅員さんは苦笑いをしている。
 
 ――なんだよ、ちゃんと二人分買ったんだから別にいいだろ!
 
 そう心の中で八つ当たりをして俺は急いで胡蝶を背負い駅のホームへ向かった。
 
 「……ふぅ何とか乗れた」
 
 電車の中は空いていたがそれでも人が何人かいた。周りの乗客は俺達をいないかのように振る舞っている。
 
 「ママ、おっきいにんぎょう」
 
 小さな男の子が俺に指を指して言う、母親は子どもを連れて別の車両に行った。
 
 ――ははは、ボクにはまだ早い大人のお人形だよ……。
 
 気を取り直して空いてる席に胡蝶と座った。
 
 しばらくして車内に女子高生の集団が乗って来た。
 
 「あはは…………えっ、何あれ?」
 
 集団の一人が俺に気付いた。
 
 「なになに? どうしたの……っ、なにあれ! ちょーきもい」
 
 他のもう一人がそう言った。その瞬間車内の均衡が崩れた。何故なら女子高生達の会話を聞いて他の乗客達が一斉に俺達に注目し始めたからだ。
 
 ――おいマジかよ!勘弁してくれ!
 
 俺の思いをよそに女子高生達は俺や周りに聞こえる声で話し続けた。
 
 「おもしろいから写真にとってSNSにアップしようよ、あはは!」
 
 うわー! 俺死んだー!
 
 そう思った時だった。
 
 「さっきからうるせーぞ〇ッチども! 早くその口閉じねーとてめえらのケ〇に指をぶちこむぞ!」
 
 とんでもなく汚い言葉が聞こえてきてその瞬間車内の乗客全員が氷着いた。汚い言葉を言ったのは胡蝶だったので俺は慌てて胡蝶の口を押さえた。
 
 「あはは、すみません自分は腹話術するんです……こら、そんな汚い言葉を言ったらダメじゃないか! ははは」
 
 俺は笑ってごまかした、乗客は静かになって誰も俺達に構う者はいなくなった。
 
 ある意味助かったか? けどこれだと俺が腹話術で女子高生達に悪口を言ったことになるよな……そうなると益々状況が悪くなるんじゃ。
 
 俺は心配したが周りの乗客はドン引きして俺達から離れて行ったので何も起こらなかった。
 
 「ふぅ……良かった……胡蝶、もっと丁寧な言葉を使えよ、けど助かった、おかげて女子高生達に写真を取られてネットに拡散されなくて済んだよ」
 
 胡蝶の頭をそっと撫でる。

 それにしてもなんで胡蝶を造った人はこんなに口調を悪くしたんだろう?
 
 考えているうちに目的地に到着した。駅を出てすぐに俺はある場所で人を待っていた。
 
 「あの、タイガーさんですか?」
 
 そう呼ばれて振り返るとメガネをかけた女性が立っていた。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く