ネカマな回復職の物語

春乃秋

9.幽霊


帰路につく途中に俺は目的の1つである
詰所に行くことを忘れていたのを思い出し、途中りんご飴らしきものを売っているおじさんに道を聞いて歩いて行く。

りんご飴は銅貨3枚、うん。
無駄遣いかも知れないけれど
やっぱりこの世界の食べ物はめちゃくちゃ美味しい。

甘い物を食べながらほくほく顔で歩いていると目的の警備詰所が見えてくる。

詰所には何時でも飛び出せる様に扉等はなく、簡易的な木の四足テーブル、背もたれのない椅子が3つとロッキングチェアが奥に1つあるだけだ。

軽く見渡してみるが、警備兵は1人もおらず違和感を覚える。
勇気を出し、少し震える声を頑張って悟られない様気をつけながら声を掛ける。

「あの〜…誰か居ませんか〜?」

うーん、現実じゃあ別にここまで怖がりでも無いし、女の子みたいにめそめそする事もなかったけど…やっぱりスーリアになって受け捉え方、感じ方が変わったのかな…。

俺は内心ビクビクしつつ少しずつ詰所内に入ってみる。

「誰だ。」
「ひっ」
「ああ、君か。」

聞き覚えのある透き通る声の方を見るとやはり見覚えのある長身の男が居た。

「…嫌な所で会うね。」
「嫌な所?」

…はて、詰所で会うのがそんなにダメなことなんだろうか。

「…まぁいいさ、今日は何故ここに?」
「ええと、貴方を探してたのです。」
「僕を?」
「はい、先日助けて頂いたお礼を言いに。」
「そうかい、礼には及ばないよ。」
「そう言って頂けると助かります。」
「さあ、そろそろ暗くなり始める頃だ。また暴漢に襲われる前に宿へ帰った方がいい。」
「ええ、そうします。1つよろしいですか?」
「何かな?」
「私の恩人のお名前を教えてくださいませんか?」

よし、これは結構ゲームでも効果的だった必殺技ネカマ奥義

貴方が助けてくれたんですよ私の騎士様、だ。

「あ、ああ。そうだったね、僕の名前はシュルツ。」
「ありがとうございます。シュルツさん私の名前はスーリアと申します。」
「よろしく。スーリア、僕の事もシュルツと呼び捨てで構わない。年齢もそんなに変わらないだろう。」

そう言いながら少し照れくさそうに笑って名前を教えてくれた。
うん、イケメン爆ぜろ。

「さあ、スーリア暗くなる前に帰るんだ。」
「ええ、では失礼しますね。」

俺はいつもの様に女神の加護をーと言おうかと思ったがシュルツには全く言い出す気配が見られない為止めておく。

「おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」

そう告げて俺はようやく1日全ての用事を済ませ、明日出会うであろう貴族をどうやって懐柔するか考えつつ母なる鳥亭へ向かった。






ああ。なんて美しいのだろうか。
人形の様に透き通る肌。
細い艶のある髪と同じ銀の色味をした大きな瞳。
触れば傷をつけてしまいそうな程美しい指先。

ああ。この手で切り裂いた時、どんなに気持ちが良いだろう。

昔切り裂いた南の集落の娘も美しかったが彼女は段違いに美しい。
神が直接作ったと言われても信じたくなるほどに。

刀を手に持つ男は先程別れた女性に邪な感情を渦巻かせる。

そうこうしていると男の背後の空間が折れ曲がる様に歪み始めるが、男は気にも止めず、切り裂くのであれば何時がいいか。
どういう場所が良いか等と思いを馳せる。
しばらく経つと空間の歪みからピエロの様な格好をした性別も分からない白塗りの人間が出てくる。

「ばぁ」
「今は気分がいい。要件だけをさっさと話せば切らないでおいてやる。」
「連れないねぇ〜シュルツくんは硬いよ〜かたい!」

ピエロは癇に障る甲高い声でおどけてみせる。

「…要件を言え。」
「ん〜御方がねぇ〜シュルツくんにあの娘との接触を禁じる、だぁってさぁ〜。残念でしたぁ〜」
「ウズガルド。殺すぞ。」
「おお〜、怖い怖い。」

並の人間なら到底立っていられなくなりそうな程の殺気と怒気を噴き出しながらも底冷えする様な声で男はピエロに告げるが、ピエロの方は手馴れた様子でおどけている。

「でもさぁ〜、シュルツくんじゃあ僕は殺せないでしょぉ〜?」
「…どうかな?試すか?」
「それは、御方の意思に対して刃を向けるって事かい?」

それまでおどけてみせたピエロが急に真剣な表情へと変わる。

「…僕の目的を阻むのであれば。」
「あ〜あ、僕はシュルツくん面白くて好きだったのになぁ〜」

とピエロが発すると同時に切り込むが蜃気楼の様にピエロは消え、僕の剣は空を切る。

「危ないなぁ〜、やる気満々って感じだねぇ〜」
「ッ!相変わらずのらりくらりと、逃げる事だけは上手いんだな。」
「そんな事ばっかり言って〜、結局最後に立ってた奴が偉いんだよねぇ〜」
「お前は癇に障るがそこだけは同意見だなッ!!」

再度鞘に収めた剣を抜き放ち何も見えない背後に切り込む。

キィンと鉄同士の強くぶつかり合う音が響き、ピエロの姿が現れる。

「おっとと、油断してると切られちゃいそうだよぉ〜」
「さっさと死ね。」

鍔迫り合いの形になるも再びピエロが距離を取ると姿が消える。

「酷いなぁ〜今度はこっちも殺らせて貰うよ〜」

と部屋全体へ声が響く。
それと同時に十手のような三叉のナイフが僕へと四方から飛んでくる。
全てを払う形で回転斬りを行いナイフをたたき落とす事に成功するが背後からピエロが頭目掛けて縦に切りかかってくる。

僕は身を捩り無理矢理仰け反り頭への攻撃を躱すも胴へと擦る。

「惜しいなぁ〜、ちゃんと当たってくれなきゃダメだよォ〜」
「くっ!ちまちまと!!」

進展しない劣勢状況にイラつきながら再び切りかかるがそれと同時にピエロは消え背後へと現れ切られる。

不味いな。

致命傷こそ受けないものの、僕は度重なる攻撃で確実に疲労とダメージが溜まっている。
対してちまちまとした攻撃をしては逃げているピエロは無傷だ。

「んん〜?シュルツくん弱くなぁい?僕こんなのと同列だったのぉ〜?」
「ほざけ。お前なぞその奇妙なスキルさえ無ければただのかかしに過ぎない。」
「あはは、シュルツくん面白いねぇ〜まだ勝つつもりなんだぁ〜シュルツくん面白いから…じわじわ殺しちゃうよ」

とは言ったものの。
奴のスキルが全く分からないな。
どうしたものか。

必ず背後に現れるという事は何かしらの綻びがあるということ。
幽霊じゃあるまいし、必ず実態はあるはずだ。

「ほらほら〜どうしたの〜?」
「チッ!隠れてないで出てきたらどうだ。」

牽制しつつ考えを再びまとめるが実際結構ジリ貧だ。
攻撃を避けているハズだが何故か当たってしまう。

「あはは、血塗れだねぇ〜いつもの姿より僕よっぽど好きだけどねぇ〜」
「ほざいてろ。」
「残念、結構本気だったんだけど!ねッ!」

何も無かった空間から再びナイフが飛び出し、僕の肩を切りつける。

「やった〜大当たり〜派手に切れたねぇ〜」
「くそっ…あれは…!」
「…ウズガルド。取引をしないか。」
「取引ぃ〜?」
「そうだ。僕は今から剣を置く。そして御方へ再びの忠誠を誓い娘には近づかない。だから見逃してくれないか。」
「ん〜信用出来ないねぇ〜。」
「なら先に剣を置こう。」

そう言って僕は足元へ剣を置く。

それと同時にピエロが目の前に現れ肩を竦めておどけてみせる。

「ふーん。本気なんだねぇ、つまんないけど、いいよ。」
「それは助かる!なッ!」

僕は足元の剣を掴むと同時に背後へと切り込む。

「うぐぅッ」
「やはりな、お前のスキルはもうわかった。」

僕の剣は今度は空を切ることはなく不意打ちだったのもありピエロの肩を切り裂いた。

「どうして…僕のスキルは無敵なはずだよぉ〜!!」
「何が無敵なのかは知らないが、お前のスキルはタネさえ分かれば対したことは無い。やはり二流だな。」
「僕を馬鹿にするなぁぁぁ!!」

僕の挑発と切られた事によるパニックからか再び姿を消すと今まで以上のナイフを投げてくる。
だが見切った俺には当たらない。

「どうして…どうして当たらない!」
「簡単だ。お前のスキルは鏡だな。」

そう、ウズガルドのスキルは鏡を生み出し光を屈折させあたかも消えたり瞬間移動している様に見せかけているだけに過ぎないスキルだ。
ナイフが正面から来ているように見えるならそれは後ろから、下からに見えるなら上からという単純なものだった。

「何故わかった…?」
「…先程の肩の傷を受けた時の血だよ。お前が先程前に現れた時に確信したよ。僕の返り血が逆向きについていたからな。」
「そんな単純な事で…!」
「さあ、ここからはやられた分を返させて貰おうか。」
「……」

一気に詰め寄ると何が飛び出すか分からない為慎重に無言のピエロへと距離を詰めて行く。

「ごめんねぇ〜もう少し遊んであげたいんだけど〜」
「なに?!」

突然目の前のピエロが消え、肩に傷を負ったピエロは僕の真後ろへ現れると耳元で呟き最初と同じ様に折れ曲がる空間へと消え去る所だった。

「逃げる気か!!」
「だぁからぁ、もう少し遊びたかったけどって言ったでしょお〜?」
「巫山戯るな!!」
「…御方への不忠は死を持って償って貰うよ、それと僕の肩の傷のお返しもね。」

僕は回数制限の為温存していたスキル
神斬神速の斬撃を発動し切りつけるが、間に合わずピエロは消えた。

「…くそっ!!」
「まぁいい。これからは飼い犬じゃなく、野良犬にならせて貰うさ。必ず目的は達成する。」

対象を失い手持ち無沙汰になった僕は剣を仕舞い、来る時を待ちわびながら闇へと消えた。





いかがでしたでしょうか
今回は自身でも初の戦闘シーンを書いてみたのですがとても言い回しや表現が難しく、正直魅力ある戦闘シーンの書ける作家様を本気で尊敬しました。
これから先予定している戦闘シーンに早速胃が痛くなりそうな予感がします…。
次回の更新は来週のどこかでしたいと思います。

応援メッセージや感想、評価頂けますと励みとなりますのでよろしくお願い致します。

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