ネカマな回復職の物語

春乃秋

7.鑑定士との出会い


「登録をしたいのですが。」
「ではこちらに名前、役割ポジションと年齢、性別など必要項目を記入してください。」

しまった。こっちの文字は書けないぞ・・・。

「必要であれば銅貨3枚で代筆もう承りますが。」
「では、代筆でお願いします。」
「へぇ、君貴族のお嬢さんか何かかと思ってたよ。」
「畏まりました。」

うるさいな、こっちにきてまだ二日目なんだよ。俺は心の中で舌打ちをしながらギルドのお姉さんの話に耳を傾ける。

「ではまず年齢と名前、職業をお願いします。」
「あ、はい。名前はスーリア。職業は回復職クレリックです。」

俺がそう答えると先程と変わって辺りからは「おおー」という声が聞こえる。

「回復職ですか。」
「?なにか?」
「あ、いえ教会に所属はされていませんか?」
「はい。何も。」
「そうですか、では問題ありませんね。」
「あの、教会に所属していると不味いのですか?」
「ええ、1部の特例を除き回復職は教会に所属している場合ギルドへの登録が認められません。これは教会が回復魔法や解毒魔法、解呪といった行為に対し寄付を募る為ですね。その為殆どの回復職が教会に所属しているので冒険者はとってもレアなんですよ。」

なるほど。
回復職は貴重ってことか、厄介事にならなきゃいいけど。

「そうなんですね。」
「はい、同様に教会に入る事は出来なくもないですがギルドを脱退して頂かなくてはいけません。注意事項として。脱退する際には銀貨5枚を頂きます。」

銀貨5枚か、露天を覗いた感じだと結構高いのかな

「わかりました。」
「ではプレートへの登録を行いますのでこちらに手をかざしてください。」


お姉さんはそう言いながら石版の様な物をこちらに差し出してくる。
俺が恐る恐る手をかざしてみると石版が淡く青い光を発する。

「はい。これで登録は完了しました。貴方がクエスト等で死亡した場合プレートは失効。プレートは身分証明書としても原則的に使用できます。それから最初はどのような技量の方でも一律ブロンズからスタートして頂き、クエストの難易度、及びギルドへの貢献度を数値化しポイントをプレートへ加算します。一定のポイントが貯まればギルドランクを上げることが可能ですがその際に各ランクに合わせてプレートの交換手数料を頂きます。」
「また、ギルドでは何らかの形で命を落とした場合に備えて貯金する事もできますので、覚えておいてください。」

と、スラスラとお姉さんが事務的に規則を教えてくれる。

なるほど、基本はよくあるシステムと同じって事か。

「以上で何か質問はありますか?」
「あ、1ついいですか?ランクはブロンズからとの事でしたがどのくらいあるのでしょうか。」
「はい、ランクは下から順に
ブロンズ、カッパー、アイアン、シルバー、ダマスカス、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト。そしてヒヒイロカネとなっております。」
「ありがとうございます。」

ふーむ。中々ランクがあるみたいだ。
ヒヒイロカネクラスだとカンストクラスって事なのかな。

「他にはございませんか?」
「はい、特にありません。」
「では、これにて登録を終わります。」
「ありがとうございました。」

俺はスカートのポケットから取り出す様に見せかけお姉さんに銀貨5枚を支払い、プレートを受け取る。

「ようこそ、冒険者の卵ちゃん。これからよろしくね」

そうだった、コイツの事を忘れてた。

「君回復職なんだよね、僕とパーティ組まないかい?」
「すみません、お断りします。」
「おおっと、手厳しいね。」
「これから私、行くところがありますので。」
「んー、残念だけど仕方ないね。一応考えといてよ。」
「…では。」

回復職がレアなのは間違いないらしく、俺がキザ男(吹っ飛ばされてた男)と別れてギルドから出るまでの間何人からかパーティへの誘いがあった。

もちろん全て断ったが。
俺はこの世界の事をまだまだ知らないし
素性の知れない奴に命を預けられない。

さて、ハルブルグさんの所へ行くか。

ギルドを出て再び歩く。
程なく歩くとどうやら商業街へ入ったらしい。
あちこちから威勢のいい声が聞こえてくる。

「らっしゃいらっしゃい〜」
「おっちゃんこのポーション高いよ!」
「バカいうんじゃねぇ!このポーションは中級だぞ!」
「銀貨3枚で!」
「ダメだな銀貨4枚と銅貨5枚だ」
「銀貨4枚」
「仕方ねぇな!ほらよ!」

なるほど、値切るのも技術か。
おっ、あの髪留め可愛いな。
ちょっと露天見てくか。

「お、綺麗なお嬢ちゃんだねぇ!」
「ありがとうございます。」

俺が露天に並べられた商品を眺めていると、アクセサリーをお前が売るのかよ!ってぐらい厳つい顔したおっちゃんに声をかけられる。

「これ、いくらですか?」
「お嬢ちゃん目がいいねぇ。コイツは金1枚だ。」

俺が選んだのは最初から目が止まった髪留めだ。
全体的に控えめな赤い花のバレッタ式の物だ。
ううむ。高いのか、安いのか。
中身が男の俺にはさっぱりわからん。

「コイツはスヴェドから西にずっといっとこの職人が作った1品ものでな、補助の魔法までかかってるって1級品だ。」

俺が悩んでいるとすかさず店の親父がセールストークを始める。

補助魔法か。
こっちの装備にも興味あるし買うか。
金1枚なら大丈夫だろう。

「決めました。これください」
「あいよ。お嬢ちゃん綺麗だしオマケだ。銀貨9枚でいいぜ」
「わ、ありがとうございます!」

やりぃ!美人ってお得。
俺は思わぬオマケに喜びつつお金を払う。

にしても補助魔法かー、何がかかってるんだろうな。
とりあえずハルブルグさんにお礼言ったあと鑑定してもらえないか聞いてみよう。
きっと鑑定スキル持ちくらいいるだろう。

えーっと、確かこの辺りに…
わかんないな。
とりあえずここの店に聞いてみよう。
そう思い雑貨屋らしき店に入る。

「いらっしゃいませー!」
「あ、いえ、すいません少し道を尋ねたいのですが」

俺が申し訳なさそうな顔をすると、店員さんは笑って「いいよいいよ、その代わり今度はよろしくね」と優しく場所を教えてくれた。

教えられた場所へポツポツと歩いていると横から「よう。」と声がする。

なんだ筋肉ダルマ…じゃなかった。
ギースか。

「こんにちは」
「ああ」

2人に静寂が訪れる。

ヤバい、間が持たん。

「あの」
「ん?」
「これからハルブルグさんの所へ行こうかと思ってまして」
「そうか、ハルブルグも喜ぶだろう。」
「ギースさんもこれからハルブルグさんの所へ?」
「まぁな。俺の仕事の殆どはハルブルグの護衛みたいなもんだ。」
「そうなんですね、そう言えば私も冒険者登録しましたよ」
「そうか。冒険者は命懸けの仕事が多い。荒くれ者も多い職業だ。お前も気をつけろ。」
「はい!」

そうこうしているうちにハルブルグさんの店へとたどり着いた。

ギースってぶっきらぼうだけど基本的に良い奴なんだよなぁ。
ハルブルグさんが指名し続けるのも納得できるよ。

「来たぞ。」
「お邪魔します」
「おお、ギース。それにスーリアさんも!よく来てくれたね。」

そう言って出迎えてくれたハルブルグさんは作業でもしていたのだろうか、額に汗が滲んでいる。

「お見苦しい物をお見せしたね」
「いえ、大丈夫ですよお気になさらないでください」
「立ち話もなんだし、少し私も休憩しようと思っていた所だ座れる所へ移動しよう。」

そう言ってハルブルグさんに連れられ奥の応接室らしき所へ移動する。

なんというか校長室みたいだな。

「妻が外出していてお茶も出せないが済まないね」
「いえ!とんでもないです」
「それで、今日は何の用かな?」
「宿と馬車のお礼をしたくて」
「なんだ、そんな事だったのかい気にしないでくれあれは助けてもらったお礼だよ。」
「いえ、それではやはり私の気が済みませんし足りないかも知れませんが…」

そこで俺は再びポケットからお金を出す。

値段は…高そうな宿だし1週間もあるから20枚くらいか?

「どうぞ」
「20枚は多いね、15枚が正式な値段だよ。5枚は返そう。」

そう言ってハルブルグさんは適正金額しか受け取ろうとしない。

ふむ。15枚程度で1週間も泊まれるのか。
ならこの5枚は有効活用しよう。

「いえ、その5枚は感謝の気持ちです」
「いや、しかし5枚は多いと…」

ここでネカマ奥義だ!

「ハルブルグさんは私の感謝の気持ちを受け取ってくださらないのですね…」

俺は少し涙目にしつつチラチラと伺う様な姿勢で訴えかける。

「い、いや、受け取るよ、受け取るから泣かないでおくれ」

とハルブルグさんは目に見えてうろたえだす。

よし!この世界でも奥義は使えるぜ!

「ありがとうございます!」
「しかしポケットからとは、スーリアさんは何も持っていなかったからてっきりインベントリのスキルを持っていると思っていたのだけどね。」

?!
あるのかインベントリ!!
知らなかった…しかし俺のインベントリと余りにもかけ離れていると大問題になりそうだ。
とりあえずまずは聞いてみよう。幸い記憶喪失なんみためがいいんだから。


「インベントリのスキルとはどんな魔法なのですか?」
「インベントリかい?」
「記憶を戻すきっかけになるかも知れませんから…。」
「そうだね。インベントリスキルはゼロ級つまり生活魔法等よりも下の魔力がある生き物ならごく自然に使用方法がわかって使えるんだ。」

なるほど、これなら俺のインベントリをそのままスキルとか言って使えるな。

「ただし、インベントリスキルで仕舞って置ける量は魔力量によるからね。つまり、魔力量が多い人間はそれだけ商人に目をつけられるのさ」

危ねぇ!!
知らずに使ったら疑われる所だったじゃんか!
ん?でも超級が使えるからおかしくもない…?

等と眉を寄せて混乱してると優しくハルブルグさんが声をかけてくる。

「どうかな?何か役にたてたかい?」
「あ、はい。少し思い出せました!」
「そうかい!そりゃよかったよ」
「それでどのくらい…」
「ああ!えっとハルブルグさんに依頼したいことがありまして!!」

話を逸らすためにわざと今思い出した風に声をあげる。

一応これもVRMMOならではのネカマ奥義なんだぞ。

「ん?なんだい?私に依頼?」
「はい!ハルブルグさんは鑑定スキルをお持ちのお知り合いはいらっしゃいませんか?」
「おや、何か鑑定したいものがあるのかな?」
「ええ、先程補助スキルがついた髪飾りを買いまして」
「何の補助か調べたいって事か…」
「はい。駄目でしょうか?」
「いや、うちの従業員の一人に鑑定士が居るよ。見てもらおう。」
「ありがとうございます!」

いやー、いざとなったら鑑定スクロール使う予定だったけど鑑定スクロールだってカンスト数持ってるとはいえ無限じゃないし助かった!

「じゃあ早速行こうか」
「ええ、お願いします。」

そう言いつつ商会の建物の別の部屋へ通される。

入るとそこは少し空気が乾燥した香りと共に少し暖かい空気が頬を撫でる。
2階への階段があり横向きになった作業机
奥は倉庫や仕入れてきたアイテム等をそのまま入れられるようになっておりそこそこの広さとなっている。

「ハルブルグさーん、酷いですよぉ…」
「ひっ」
「うわっ」

今にも呪いそうな声のした方を見ると
そこには髪はボサボサ、無精髭が所々あり目の下にクマがあるまず最初にコウモリの様な男がにゅっと現れた。
女の悲鳴が小さく聞こえたが俺ではない。
決して俺ではない。


「…誰ですか?」
「汝光の使者なりこの世の全てに蔓延る全ての不浄の者に光射す道を記せされば汝の威光を全ての者に知ら示さん」
「スーリアさんストップストップ!」
「…人間だから…退魔術止めて…!!」

ハルブルグさんと男が必死の形相で止めてくる。

「…凄い詠唱だったな」
「…そんなことありませんよ?」
「…まぁいいが、俺の敵として護衛させないでくれよ。」

とギースに釘をしっかりとさされ
ハルブルグさん達による必死の交渉ネゴシエーションによりなんとか怖さが薄れてきた俺は幾分か落ち着いてきた。

うむ。気まずい。

「と、とりあえず自己紹介をしよう」
「そ、そうですね」
「彼がうちの鑑定士のハーヴイルだ」
「…ハーヴイルですどうも…」
「ハーヴイル、こちらが昨日話したスーリアさんだよ」
「スーリアと申します。改めて宜しくお願いします。」

ボソッ何かを呟く上にとにかく音量が小さく、遠目で見るとコウモリというよりゾンビに見えそうな行動の遅さというかゆっくり加減というか…
ちなみに詠唱はエヴォルでも行っていたがスキル名のみの発動に比べてMP消費が1/4カットされる。
ただし、隙が出てきたり発動迄に時間がかかるということ、なにより一番問題なのは
邪気眼厨二病患者扱いを受けかねない事がデメリットだ。
ちなみに詠唱はそれっぽい言葉を指定された文字数以上並べる事で認識される為全員バラバラな上に詠唱からなんとなくの属性程度しか把握出来ないようにする事もできる。


「それでハーヴイルくん、こちらのスーリアさんが鑑定をして欲しいとの事なんだが今大丈夫かい?」
「…大丈夫というか酷いですよぉ…ハルブルグさん、そろそろ鑑定疲れましたよぉ…」
「済まないね、昨日の持ち帰り分終わればしばらく休んで構わないから頼むよ」
「…約束ですよぉ…」

ハーヴイルは社蓄ゾンビっと。
俺は心の中のメモ帳にそっとニックネームを付ける。
うむ。最近ニックネームを付けるのが割と楽しくなってきたぞ。
ちなみにハルブルグさんはトル〇コだ。

「…それでー、何を鑑定するんですかぁ…?」
「あ、えーとこの髪留めです!」

俺はそう言いつつもう隠す必要も無いかとインベントリから髪留めを取り出す。

「…失礼しますねー…」

ひょいとハーヴイルに髪留めを手のひらから奪われ色んな角度から眺めている。

「…んー、B等級の装飾かなぁ…」
「B等級?」
「…はい〜…物自体はC等級のそこそこ品ですけど、物理ダメージ1%軽減の付与がされていますのでー…」
「なるほど…」

えええ、この世界のアイテムのランク低すぎだろ!!
1%付与だけでBとか!
俺の本気のメイン装備とかこいつ卒倒するんじゃないか…?
いかん、少し興味が湧いてきた。
一番レア度の低いアイテム位なら大丈夫かな、見せてみるか。

「あの、もう一ついいですか?」
「…鑑定ですか〜…?」
「はい、少し見ていただきたくて。」

そう言って俺はエヴォルで何となく捨てられなかった思い出のC等級のアイテム。
星屑のピアスを取り出す。
この装備はMPを5%上昇させるだけの所謂初心者アイテムに近い。
だが、最初にクリアしたボスのドロップ品だった事もあり見た目も宇宙の様な石が綺麗だしインベントリもほぼ無限の為なんとなく捨てられなかったのだ。

「…失礼しますね〜…」
「お、ピアスですか、なかなか美しい色味ですな」

ハルブルグさんも聞いていなかった鑑定品に興味を示したのかしげしげと眺めている。

ひとしきりハーヴイルが眺めた後鑑定結果がわかったのか

「……これはヤバいですよぉ…」

ハーヴイルはそう言い残し案の定気絶した。




更新遅くなりました…。
ちまちま書いてたのですが、体調を崩しており中々書き終わらず…
来週はまた水曜日当たりには投稿できるかな…。

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