ネカマな回復職の物語

春乃秋

5.スヴェドの街


さて、ハルブルグさんへの感謝はこれくらいにして行動しますかー。

街もそろそろ昼の活気から夜の淫靡な雰囲気へと変わろうとしている。

「私たちはこれから店に戻って荷降ろし等で手が離せないからこれを渡そう」
「これ、なんですか?」
「私の紹介状だよ。この先を進んだ大通りを少し西へ向かうと母なる鳥亭という宿がある。そこに泊まれるよう書いてあるからね」
「そんな、ここまで乗せて頂いた上にそこまでして頂けません!」


貰いすぎると後で返すのも大変だし、恩を微妙にでも返さないと大変な事になるんだよな…ネカマやりたての頃を思い出すぜ…。


「いやいや、これはギースの解毒をしてくれた報酬だと思ってくれ。協会だと金貨1枚はするからね」

と少しウインクをしながらハルブルグさんが言ってくれる。
見た目がふっくらして無ければ凄い様になっているんだが、チャーミングなおっさんにしか見えん。

「本当にいいんでしょうか…?」

俺はすかさずここで少し上目遣い気味に話す。

「構わないとも、その代わり1番良い部屋とは言えないけどね。」
「では有難く頂きます。」
「じゃあ私は行くけど」
「はい!何から何までありがとうございました!」
「なに、困った時はお互い様々だよ。今度会う時はお客様として会える事を願っているよ、ハルブルグ商会をどうぞよろしく。」

いつも言っているのだろうと予測出来るほど様になった綺麗なお辞儀をして立ち去ろうとするハルブルグさんが思い出したかの様に振り返る

「そうだ、母なる鳥亭より先の西区へは1人で絶対に立ち寄ってはいけないよ。」

ハルブルグさんにしては珍しくかなり真剣な面持ちで告げてくる。

「はい、心しておきます。」
「じゃあ、また。スーリアに女神アレースの御加護を。」
「ハルブルグさんにも御加護があります様に。」

そう言ってハルブルグさんを見送る。

女神アレースとはこの大陸ではごく一般的な宗教らしくほとんどの例外を除いてほぼ一神教と言っても良いくらい女神アレースを信仰しているらしい。
この挨拶は馬車で習ったものだ、別れ際には互いの健康等を祈って加護を告げるらしい。

中々ロマンチックな習慣だな、と思いつつ俺は母なる鳥亭へ向かう。

大通りを程なく進むと中には日が暮れてきて店仕舞いをしている人や家に帰るであろう親子やこれから商売を始めるであろうセクシーなお姉さん方が路地近くで客引きを始めている。

「確かこの辺りですよね」

ん?なんだ?

「いいじゃねぇか、ちょっとくらい相手してくれよ」
「そうそう、俺達だっていい男だろ?」
「やめてください、本当にお願いします!」

男と女の言い争う声が聞こえてくる。

「いいからこっち来いよ!」
「いや!やめて!」
「コイツ!引っ掻きやがった!」
「ちくしょう!馬鹿にしやがって!舐めてんのか!」
「誰か!助けて!」

その声はだんだんと怒気を含んできている。

女はあまり好きじゃないけど、聞いてしまった以上無視という訳にもいかないか。

とりあえず様子を伺う為に少し路地を覗いた所で女と争っていたであろう男Aと目が完全に合ってしまう。


「あ」
「・・・・・」


男Aは女の腕を持ち男Bが女の足を持ち上げまさに連れ去る瞬間を目撃してしまったのだ、間違いなく不味い状況だ。

「捕まえろ!!」
「っ!」

俺はすかさず身を翻して逃げようとするが少し走った所で髪を掴まれ捕まってしまう。


「痛いっ!離してください!」
「うるせぇ!大人しくしてろ!」

そのままの状態でズルズルと引きずられる。

やばい、人生で初めて髪を掴まれたがめちゃくちゃ痛い。

元の路地まで連れ込まれた俺はやっと解放されたが先程までいたはずの女が居ない。

どさくさに紛れて逃げ出した様だ。
これだから女はズルくて嫌いなんだよ。

「チッ一人逃したか・・・」
「まぁいいじゃねえかこんな美人が転がり込んで来てくれたんだからよぉ」
「ま、ちげぇねぇな」

状況はさらに悪化しているようだ。
ついて早々ここまでトラブルに巻き込まれるなんて変なパッシブスキルでも発動してるんじゃないのか?

「おい、女」
「運がなかったと思って諦めな。」
「そうそう、もう誰もきやしねぇよ」
「しかし作りもんみてぇに綺麗な顔してんな」

そういいながら酒の匂いとタバコの匂いを漂わせた男の顔が近づいてくる。

気持ち悪い、ゲームじゃ気にもならなかったが同性に言い寄られるとここまで気持ち悪いものなのか。

「そう嫌な顔すんなって。」
「これからいいとこに連れてってやるからよぉ!」

そういいながら男が俺の肩を抱き寄せる。

やばい、そろそろ限界だ
確か殺傷能力の低い攻撃魔法あったよな。
この世界じゃ殺人がどういう扱いになるかもわからんし正当防衛で済む程度の魔法・・・

ファイアでいいか。
俺は抵抗すべくスキルを口にする。


「ふぁい・・・!」
「おおっと危ねぇ危ねぇ」
「コイツ、キャスターだった」
「間一髪だな」
「んー!!」

スキルを発動しようとした瞬間男に口を塞がれてしまいバタバタとするが全く男の腕を離せる気配がない。

くそ、筋力もう少し振っておけばよかったか。

「おいおい、この嬢ちゃん一生懸命抵抗してるぜ」
「ベットの上でもそれくらい抵抗してくれよ〜」

と男Bが下卑た笑いを見せる。

「んんー!!」


悔しい。素直に怖い。


どうして自分よりもレベルが低い男にここまで良いようにされるのか。

これは今までネカマプレイをして男で遊んできた報いかもしれないと諦めかけた時

路地の奥から鈴のような透き通った声が聞こえる。

「それくらいにしたらどうかな」
「誰だあ?」

影から長身のすらっとした体躯の男が顔を見せる。
男はその長身に見合う日本刀の様な剣を右手に持ち肩甲骨まである赤い髪をオールバックにして、目は青色とどこか冷たい印象を受ける。

「貴様らのような下衆に名乗る義理も無いが」
「んだと、舐めた口聞きやがって!!」
「さて、舐めているのはどっちだろうね。」

怒気を孕んだ野盗のような男たちの声をもろともせず澄ました顔をしている。
相当な使い手なのだろうか。

「絶対ぶっ殺してやる!」

暴漢の一人が耐えきれず男に向かっていく刹那長身の男の剣が動いたように見えた。

「っっが?」

という声と共に男の腕が吹き飛ぶ。

「俺の腕がぁぁぁぁ!!」
「うああああああああ」

男の絶叫に動揺したのか俺を拘束している男の力が緩んだ。
俺はすかさず離れスキルを発動する。

「ファイア!!」
「熱っ!!」

手のひらサイズの火の玉が男の足へと命中し服を焦がす。

「動くな。」

いつのまにか長身の男が1人を気絶させた後火に炙られていた男の首筋に剣を当てている。

「わかった!わかったから、命だけは助けてくれ!!」

暴漢は子供のように泣き喚いている。

「それを決めるのは僕じゃ無いな。頼む相手を間違えているぞ。」

静かにそう言い放つとさらに首筋に当てた剣を押し込み始める

「おん、おじょうさんすまなかった、頼むたすけてくれ!な?な?」

先ほどまでの勢いはとうに消え失せ、怒る気も失せるほど打って変わって懇願してくる。

「・・・・わかりました」
「いいのかい?」

先程の冷徹な表情から打って変わって驚いた顔を見せる。

「はい、罪を憎んでもその人間まで憎むなと昔祖母に教えられましたから」
「君は…面白いね。気に入ったよ。」
「さて、お前の事に戻るが。彼女は寛大だ許してくれるらしいが、罪は償ってもらう。どうせ今までも色々やってきているだろう。」
「だ、旦那そりゃあねぇですよ…」
「僕はこう見えて気が短いんだ。その頭と胴体が泣き別れないだけ温情だと思え。」


おずおずと切り出す暴漢の言葉をぴしゃりと切り捨てる。
コイツ悪党には容赦ないな…。


「ところで君はこれからどうするんだい?」
「あ、えっと私はこれから母なる鳥亭へ向かいます。」
「そうかい。送ってあげたい所ではあるけど僕はこれからコイツを詰所まで連れてかなきゃいけないから気をつけて。」
「時間を稼ごうとしたって無駄だよ、さっさと歩け!」

そう言いながら長身の男は持っていた近くの樽の上にあったロープを使い男の手を縛りあげ連行し始める。


なんか初めて逮捕っていうか捕縛っていうか目撃したけど、凄い体験したな…。
なんか疲れてきた…。とりあえず宿に向かおう。

あ、名前聞き忘れた。

まぁ見た目もイケメンだったし詰所ってのに明日行けばわかるか。
アイツが使ったスキルっぽいの、聞かなきゃな。

情報が少なすぎるしなどと考えながら5分程歩いただろうか目当ての母なる鳥亭が見える。

「こんなに近くだったのか…」

辺りはすっかり夜になり宿の中では呑兵衛達が行儀よく飲んだくれている姿が見える。

「眺めてても仕方ない、入ろ。」

カラカラというドアベルの音と共に俺が宿に入ると辺りが一瞬で静まりかえる。


「…?」

やっべえ俺なんかしたか?!なんか変な行動でもとったのか?!


「………」


無言こええよ!なんか反応してくれよ!!
俺の心の声が女将に届いた様に女将が声を発する。

「はいはい!呑兵衛ども!見とれてないでなんか頼みな!」

女将の一声でハッとした後ワイワイと俺を見ながらまた飲み始めた。

「あの、私何か御無礼を?」
「そんなんじゃ無いんだよ。ごめんね、泊りかい?」

と女将は笑いながら接客をしてくれる。

「お気になさらないでください、泊まりです。」
「部屋は一人部屋…だね、大部屋もあるけどお嬢ちゃんはやめときな。」


焦ったぁぁぁ!なんだよ!なんかやらかしたのかと思ったよ!


「聞いてるかい?」
「あ、ええと!ごめんなさい。これをハルブルグさんから預かっていて…」

と女将の声で引き戻された俺はハルブルグさんから渡された手紙を手渡す。

「あんたハルブルグの知り合いかい?全くアイツはどこでこんな美人のお嬢さんと知り合うんだか…」とブツブツと言いながら女将が手紙を読み始める。

「まぁ、大体わかったよ。とりあえず部屋は1週間、代金はいらないよ。これが鍵ね。」

そう言って鍵を渡される。

「ありがとうございます。」
「しかし大変だねぇ。」
「何がでしょう?」
「手紙に書いてあったけど、あんた記憶喪失なんだろ?」
「…そうですね。」
「あんたくらい美人だったらちょっとは知ってる人間が居てもいいと思うんだけどねぇ…。」

可哀想に、という目で女将がこっちを見てくる。

なんだろう、何か凄い罪悪感が。
とりあえず部屋へ逃げよう。

「あの、それで何号室でしょうか?」
「あぁ、すまないね。部屋は三階の1番奥だよ。朝食は食べるんだったら8時、昼はないから自分で何とかしておくれ。」
「8時ですね、わかりました。ありがとうございます。」

そう言って俺はお辞儀をして部屋へと向かった。

「失礼しまーす…。」

誰も居ないと分かってはいるが何となく声をかけながら入ってしまう。

「はぁ…疲れた…。」

部屋に入るなりベッドに倒れ込み俺は口をこぼしてしまう。

「今日大変だったな…。」

1日を思い返しつぶやく。

「でもハルブルグさんいい人だったし。」

まぁ、その後場合によってはトラウマになりかねないトラブルに巻き込まれた訳だが。

「髪の毛無くなるかと思ったし…」

あれは痛かった。
こっちの世界に来て初めて本気でびっくりしたかもしれん。

「はぁ…もう考えるの疲れた…とりあえず寝よう。」

扉と窓をきっちりと締めて枕元にあるランプを消してベッドに潜り込んだ俺の疲れていたのだろうか。

数分もしないうちに深い眠りについた。



沢山のプレビューありがとうございます!
人と少し違った作品を書こうと思って書いてるハズなのに何故かテンプレ展開に発展してしまう…。これが運命力か…!

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@harunoaki1

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