ネカマな回復職の物語

春乃秋

4.はじまりの旅


「狭くて窮屈だろう?申し訳ないね」
「いいえ、そんな事は!乗せて貰えるだけありがたいです」
「はは、そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ」

しばらく話してみてわかったがこの人は純粋に良い人の様だ。

「そう言えば自己紹介がまだだったね私の名前はハルブルグ、外の護衛はギースと言うよ。私は見ての通り行商人をしている、お嬢さんのお名前は?」
「私の名前はスーリアと申します。」
「よろしくスーリア」
「こちらこそよろしくお願いします」

日本人らしくぺこりと俺が頭を下げると

「なかなかに礼儀正しい教育を受けている所を見ると貴族かも知らないね。」

と言って少し驚いた表情をしていたがこっちからすると普通の事だったのに貴族とかまたややこしいワードが出てきて少し困った顔をしてしまう。

「話は変わるがこれから戻る街はアルガルド国のスヴェドという街だよ聞き覚えは無いかい?」
「いいえ」

はい!もちろん聞いたことありません。

俺がふるふると首を振るとハルブルグさんは

「困ったな」と言い視線を前へ戻した。

それから2、3時間程ハルブルグさんから俺はしばらくこの世界の常識について質問されつつ教えて貰っていたが驚く事ばかりだった。


まずこの世界はやはりエヴォルブレイバーオンラインでは無いこと。
そして通貨の名称や模様も違う事
ただし金や銀には違いない為重量を測って交換したりする事で使えるということ。


「待て。」

俺が教えて貰ったことについて復習していると馬車の外からギースの声がする。

「どうしたんだい?」
「モンスターだな。」
「近いのか?」
「ああ、それなりの距離だ」
「困ったな、迂回路もない1本道だし…」

どうやらモンスターがいるらしい
ハルブルグさんが弱ったなとこぼしている

「何とかなりそうか?」
「この辺りだと恐らくオークとゴブリンの集団だろう。数にもよるが大丈夫だ。」
「流石だなギース、頼りにしてるよ。」

MAPもなくよく分かるなと感心しつつ2人の会話を聞き流す。
ダメだやはりフレンド欄は全て消えている上に他のシステムもいくつか使えなくなってるな。
当然ながらログアウトも出来ない…か。
この世界から戻る方法を見つけないとな。
中々骨が折れそうだが。

「見えたぞ」

ギースの声を聞いて前を見るとオークとゴブリンの混成集団がいる。

数は大体12体くらいかな、まぁモンスターのレベルも30程度で低いし迂闊に目立ちたく無いしここは様子見だな。

「2人はここで待っていろ。」

ギースはそう言うと剣に手をかけ向かって行く。

おーかっこいい。
俺が女で自分より強かったら惚れてたね。
まあ絶対に有り得ないが。

「裂斬剣!」

ギースがそう叫びながらゴブリンに剣を振ると4方向からゴブリンは「ぐぎゃぅ」と言う断末魔と共に臓物をぶちまけながら細切れになる。

「うっ」

ゲームには無い初めて見る中々にグロテスクな光景を目にして酸っぱい物が口に込み上げてくる。

「大丈夫かい?気持ち悪いだろうから少し目を背けているといい」

そう言いながらハルブルグさんが水を差し出してくれる

「ありがとうございます」

水に口をつけるとハーブが入っているのかすっとしてだいぶ気持ち悪いのが緩和される

「大体片付いたな。」

ギースは血糊の付いた剣を払いながらこちらに戻ってくる

「ギースさん大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。」

ま、そりゃそうかモンスターとのレベル差も10位はありそうだしな

「危ない!矢だ!」

突然ギースが叫びながらハルブルグさんと矢の進行方向へと飛び出す。

「ぐっ」

飛んできた矢の内の1本がギースへと刺さり苦悶の表情を浮かべる

「大丈夫か?」

ハルブルグさんは心底心配そうにギースへと尋ねる

「このくらいなら、と言いたい所だが毒矢だな…動けそうにない。」
「毒矢だって?!大丈夫なのか!」
「恐らく麻痺毒だろう体が痺れて重たい。1度立て直すべきだろういざとなれば俺は見捨ててくれて構わない。」
「何を言うんだギース!今まで何度も助けてくれたお前を捨てて行けるわけが無いだろう!!」

少し興奮しながらハルブルグさんがギースを荷台へと乗せる。

マジかよ、低レベルゴブリンが麻痺毒使って来るなんてゲームじゃ無かった仕様だぞ
怖すぎるだろ。っていうかゲームじゃ死につながるようなスキル効果じゃないはずなんだが・・・

やはりゲームとは違うんだな、リアルだ。
んー、目立ちたくなかったんだけどこのままだと色々不味そうだし後味悪そうだしな
仕方ないとりあえず恩を売るついでに魔法の実験と思って最低ランクの解毒魔法でも使うか…


「あ、あの…私多分解毒魔法使えます…」
「本当かい?頼む!ギースへかけてやってくれないか!」
「一応効くか分かりませんがやってみます。」
「リジェネレーション!」

俺がスキルを宣言するとゲームと同じエフェクトが発生しスキルが発動する。

このスキルは状態異常を回復するスキルでゲーム内では一応最低限初期から覚えてるスキルの1つだ。

クリスタル状の光がギースを包み癒していく。

「おお!体が軽い!それに体力・・も傷も治ってきている!」


体力?このスキルにHP回復効果はないはずだが、、ゲームとは少しスキルが違うのか?
だとすればどうして同じエフェクト、発動条件で発動するのか・・・
これはもう少し実験する必要がありそうだな。


「これで、もう一度戦える!」

そう言うとギースは飛び出し森に潜むゴブリンの討伐へ向かった。

「本当にありがとう、ギースは私にとって数少ないパートナーなんだ、心からお礼を言うよ。」

そう言ってハルブルグさんは頭を下げてくる。

「いえ、大したことではありませんから」

ま、実際実験がてらだったし、謙遜しとくと高感度UPも狙えるってのはネカマの常識だしな。


「8級魔法まで使えると言うことは貴族というより冒険者だったのかもしれないね」


まてまて、8級魔法だと?!俺は確かに10級魔法初期スキルを使ったはずだが。

「あの、8級魔法ってなんですか?」
「おっとすまない、そこの説明をしようか」
「まず、この世界には10級から1級魔法まで存在するとされている。されているっていうのは何故かというと、5級魔法以上は実際に使える魔法使いがいないんだ。昔からあるおとぎ話なんかにはそれこそ1級魔法使いもたくさんいて、中には1級を越える超級魔法を使える人もいたらしい。まぁ、あくまでもおとぎ話さ。」

そういうハルブルグさんの目は少年のように輝いていた。

「ところで他に使える魔法はあるのかい?」

んー、その多分超級ってのは覚醒スキルだよなぁ。
級位の説明もほぼ知っている通りだし。

これは素直に答えると面倒そうだ、無難に初期の次に解放されるヒーリングって答えとくか。

「ヒーリングくらい、ですね」

と言いつつ俺はハルブルグさんの顔色を伺う

「まぁそりゃそうか」

なんだかがっかりされてしまったようだ。
素直に超級使えますって言ったらどんな反応をするんだろうか。

「なんだかがっかりさせてしまったようで、ごめんなさい。」

俺はそう言いつつ頭を下げるそぶりを見せると慌ててハルブルグさんが手で制してくる

「いやいや!スーリアさんは我々の恩人です!頭を下げるのはこちらの方です!ありがとう。」
とぺこりと頭を下げてくる。

いやいや、頭下げるのはこっちだよ!
この人本当にいい人だな

「頭を上げてください!馬車のお礼という事で本当にお気になさらないでください」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
と言ってハルブルグさんはにっこりと笑う

「戻った。」

ぶっきらぼうな声と共にギースが戻ってくる手には少し血の滲んだ麻袋を持っており、鉄の臭いが少し辺りに立ち込める。

「これか?」
「これをギルドに提出するとこれと引き換えに少し報酬を出してくれるんだ。所謂フリークエストだな。」

俺が珍しそうに眺めていたのに気が付いたのかギースが説明をしてくれる。

「ゴブリンの部位ですか?」
「ああ、ゴブリンの場合は耳だな。」

なるほど。モンスターによって部位も違うんだな。

「さて、ここに留まっているとまたモンスターが集まるだろう、手早く街へ向かおう。」

そう言い残してギースは馬へハルブルグさんは業者台向かう。
その後は特にこれと言って問題もなく街へ辿り着いた。
関所ではハルブルグさんが上手く取り成してくれたおかげで入れたが、本来は身分の証明が出来るものか、紹介状が必要らしい。

何から何までありがとうハルブルグさん。
これから待ち受けるトラブルを知らずにスヴェドの街並みに感銘を受けつつ心の中でハルブルグさんを拝む俺だった。



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